過少月経

月経の出血量が少なく「楽だ」と感じる一方で、このままで大丈夫だろうかと不安になっていませんか。過少月経は、ホルモンバランスの乱れだけでなく、将来の妊娠に影響する病気のサインや、無月経の前触れである可能性も指摘されています。

この記事では、過少月経が起こる原因や種類、具体的な症状、そして検査から治療までの流れを解説します。例えば、近年の分析ではCOVID-19ワクチン接種後に5.5%の人が過少月経を経験したとの報告もあり、その背景はさまざまです。

ご自身の状態と照らし合わせながら読み進めることで、放置して良いのか、あるいは受診すべきなのかがわかります。体からのサインを正しく理解し、健康を守るための次の一歩を踏み出すきっかけになります。

過少月経の概要

過少月経とは、月経(生理)の出血量が20ml未満と、極端に少なくなる状態を指します。

正常な月経では1周期あたり20〜140mlの出血量があるため、これを大きく下回る状態です。ナプキンをほとんど交換する必要がない、あるいは出血が2日以内に終わってしまう「過短月経」を伴うことも珍しくありません。

「経血が少なくて楽」と感じるかもしれませんが、必ずしも治療の必要がないとは限りません。

過少月経は、ホルモンバランスの乱れや、将来の妊娠に影響をおよぼす病気が隠れているサインの可能性があります。また、月経が来なくなる「無月経」の前触れとして現れることもあります。

実際に、月経周期の状態が身体に与える影響はさまざまな研究で指摘されています。例えば、日本の女子アスリートを対象とした近年の研究では、過少月経や無月経の人は、正常な月経周期の人と比べてスポーツによる怪我の発生率が低い傾向にあると報告されました※。

これは、月経をコントロールするホルモンの変化が、身体のコンディションにまで影響を与えている一例です。

このように、経血量が少ない状態は身体からの重要なサインです。放置せずに、その背景にある原因を知ることが、ご自身の健康を守る第一歩となります。

過少月経の種類

過少月経は、原因によって「器質性」と「機能性」の2種類に大別されます。

・器質性過少月経: 子宮などの臓器に物理的な問題がある状態

・機能性過少月経: 臓器に異常はないものの、ホルモンバランスの乱れなど機能的な問題がある状態

それぞれの原因と、経血が少なくなる仕組みを下表に整理します。

分類 | 主な原因 | なぜ経血が減るのか?

器質性 | ・子宮腔癒着(アシャーマン症候群) ・子宮内膜の炎症 ・子宮の発育不全 | ・子宮内腔が物理的に狭くなることで、剥がれ落ちる内膜の面積が減るため ・炎症によって子宮内膜が正常に厚くならないため

機能性 | ・無排卵周期、黄体機能不全 ・ストレス、過度なダイエット ・甲状腺機能の異常 | ・子宮内膜を厚くしたり維持したりするホルモンの分泌が不十分になるため ・ホルモン分泌を司令する脳の機能が乱れるため

機能性過少月経のなかでも、激しい運動は原因の一つとして知られています。

興味深いことに、日本の女子アスリートを対象とした研究では、過少月経や無月経の状態にある選手は、正常な月経周期の選手と比較して、スポーツによる怪我の発生率が低いという結果が報告されました※。

これは、正常な月経周期でみられる女性ホルモンの急激な変動が、靭帯の硬さなどに影響を与え、怪我のリスクを高める可能性があるためと考えられています。ホルモン分泌が抑制されている過少月経の状態では、この変動が少ないために、結果として怪我のリスクが低下しているのかもしれません。

ただし、これはあくまで怪我のリスクという一面です。長期的な女性ホルモンの不足は骨密度の低下など、将来の健康に影響をおよぼすため、決して放置して良いサインではないことを理解しておく必要があります。

また、低用量ピルの服用中に経血量が減ることもあります。これは薬の作用で子宮内膜が厚くなるのを抑えているためで、病的なものではなく、治療が必要な過少月経とは区別して考えます。

過少月経の原因

過少月経が起こる背景には、ホルモンバランスの乱れといった「機能的な問題」から、子宮そのものに原因がある「器質的な問題」、さらには特定の薬剤の使用まで、さまざまな要因が考えられます。

ご自身の状況がどれに近いかを知るために、主な原因をみていきましょう。

1. 機能的な原因:ホルモンバランスの乱れ

臓器に異常はないものの、月経をコントロールするホルモンの分泌が乱れることで起こります。女性ホルモンの分泌が減ると、子宮内膜が十分に厚くならないため、剥がれ落ちる経血の量が減ってしまいます。

その引き金となるのは、主に以下のようなものです。

・精神的なストレス、睡眠不足

・過度なダイエットによる急激な体重減少

・アスリートレベルの激しい運動

これらはすべて、ホルモン分泌の司令塔である脳(視床下部や下垂体)に大きな負担をかけ、正常な指令が出せなくなる原因となります。

また、以下のようなホルモン分泌の異常が隠れていることもあります。

・甲状腺機能の異常:甲状腺ホルモンは、女性ホルモンの働きを調整する役割も担っており、そのバランスが崩れると月経に影響が出ます。

・高プロラクチン血症:母乳を出すホルモン「プロラクチン」が過剰に分泌されると、排卵が抑制され、経血量が減少したり無月経になったりします。

2. 器質的な原因:子宮や卵巣の問題

子宮や卵巣に物理的な異常があるケースです。代表的なものとして、以下の疾患が挙げられます。

・子宮腔の癒着(アシャーマン症候群)

流産や中絶の手術などで子宮内膜が傷つき、子宮の内壁同士がくっついてしまう状態です。これにより剥がれ落ちるはずの内膜の面積が物理的に狭くなり、経血量が減ります。

・子宮の発育不全

生まれつき子宮が小さい場合、子宮内膜の面積も小さいため、経血量は少なくなる傾向にあります。

・子宮頸管の癒着・狭窄

子宮頸がんの治療で行われる円錐切除術などの影響で、子宮の出口(頸管)が狭くなったり塞がったりする状態です。経血がスムーズに排出されず、少量しか出てこない原因となります。

3. その他の原因

病気ではありませんが、特定の薬剤などが原因で経血量が減ることもあります。

・経口避妊薬(ピル)の服用

ピルには子宮内膜が厚くなるのを抑える作用があるため、副作用として経血量が減ることがよくあります。これは薬の効果によるもので、治療が必要な過少月経とは区別されます。

・ワクチン接種後の変化

近年、COVID-19ワクチン接種後に一時的な月経不順を経験する人がいることが知られています。複数の研究報告をまとめた分析によると、接種後に過少月経を経験した人の割合は5.5%であったとされています※。ただし、現時点ではワクチンが直接的な原因であるという明確な因果関係は確立されていません。

このように、経血量が少ないというサインの裏には、さまざまな体の変化が隠されている可能性があります。

過少月経の症状

過少月経のサインは、経血量が極端に少なくなることだけではありません。ホルモンバランスの乱れが引き起こす心身の不調や、将来の妊娠に関わる問題など、さまざまな形で体に現れます。

ご自身の状態と照らし合わせられるよう、具体的な症状をみていきましょう。

経血量・期間の変化

まず、最もわかりやすい症状として、経血そのものの変化が挙げられます。

・経血量の極端な減少

・ナプキンを替える回数が1日に1〜2回で済む

・おりものシートで対応できる

・経血の色が茶色っぽく、少量で終わる

・月経期間の短縮

・出血が1〜2日で終わってしまう(過短月経)

「経血が少なくて楽」と感じるかもしれませんが、これは子宮内膜が十分に厚くなっていないサインであり、注意が必要です。

ホルモンバランスの乱れによる全身症状

過少月経の背景には、女性ホルモン(特にエストロゲン)の分泌低下が隠れていることが少なくありません。このホルモン不足は、月経だけでなく全身に影響をおよぼします。

・肌や髪のトラブル:肌の乾燥、ニキビ、髪のパサつき

・精神的な不調:イライラ、気分の落ち込み、意欲の低下

・身体的な不調:疲労感、倦怠感、性欲の低下

・骨への影響:長期的なエストロゲン不足は骨密度を低下させ、将来の骨粗しょう症のリスクを高める可能性があります。

不妊や月経痛との関連

見過ごされがちですが、以下のような症状も過少月経と関連している場合があります。

・不妊

そもそも排卵が起きていない「無排卵周期」であったり、子宮内膜が薄すぎて受精卵が着床しにくい状態であったりすると、不妊の原因となります。

・月経痛

経血量が少ないにもかかわらず、強い下腹部痛がある場合、子宮内の癒着などが原因で経血がスムーズに排出されていない可能性も考えられます。

ちなみに、日本の女子アスリートを対象とした研究では、過少月経や無月経の選手は、正常な月経周期の選手と比べてスポーツによる怪我の発生率が低い傾向にあると報告されています※。

これは、怪我のリスクが高まる排卵期のホルモン変動がないためと考えられますが、決して健康な状態というわけではありません。長期的なホルモン不足は、前述した骨密度の低下など、アスリートの競技生命や将来の健康に深刻な影響を与えかねないためです。

これらのサインに気づいたら、「いつものこと」と放置せず、一度婦人科で相談することをおすすめします。

過少月経の検査・診断

過少月経の診断は、まず丁寧な問診から始め、その背景にある原因を探るために超音波検査や血液検査などを組み合わせて行います。

診断の第一歩となるのが、患者さんご自身の状態を正確に把握するための問診です。月経の状態はもちろん、生活習慣や過去の病歴なども重要な手がかりとなります。

【問診で確認する主な内容】

・いつから経血量が減ったか、周期や日数の変化

・過去の妊娠、出産、流産、人工妊娠中絶の経験

・子宮内の手術(子宮内容除去術など)の経験

・服用しているお薬(低用量ピルなど)

・生活習慣(食事、睡眠、ストレスの有無)

・急激な体重の変化や過度なダイエットの経験

・運動習慣やその強度

特にアスリートレベルの激しい運動は、ホルモンバランスに影響を与え、機能性の過少月経を引き起こすことがあります。

興味深いことに、日本の女子アスリートを対象とした研究では、1,000アスリート日あたりの怪我の発生率が、正常な月経周期の選手(3.10)に比べて、過少月経や無月経の選手(2.11)の方が低いという結果が報告されました※。

これは、怪我のリスクが高まる排卵期前後のホルモン変動が少ないためと考えられますが、決して健康なサインではありません。背景にある長期的なホルモン不足は骨密度の低下などを招くため、問診で正確な状態を把握することが重要です。

問診や内診で得られた情報をもとに、原因を特定するために必要な検査を進めていきます。主な検査は以下のとおりです。

検査の種類 | この検査でわかること・目的

超音波検査 | ・超音波をあてて、子宮や卵巣の大きさ・形を観察する ・子宮内膜がきちんと厚くなっているかを確認する ・子宮の発育不全や物理的な異常がないかを調べる

血液検査 | ・女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)の値を測定する ・ホルモン分泌を指令する脳のホルモン(LH、FSH)を調べる ・甲状腺ホルモンやプロラクチン(乳汁分泌ホルモン)の異常がないかを確認する

子宮鏡検査 | ・子宮内に細いカメラを挿入し、子宮の中を直接観察する ・子宮内の癒着(アシャーマン症候群)の有無や程度を正確に診断する

これらの検査結果を総合的に読み解き、過少月経の根本原因を突き止めます。その診断に基づいて、一人ひとりの状態に合わせた最適な治療方針を組み立てていきます。

過少月経の治療

過少月経の治療は、その原因を特定し、一人ひとりの状況に合わせてアプローチを決めることが基本です。

子宮に物理的な原因があるのか、ホルモンバランスの乱れによる機能的な問題なのかを見極め、将来の妊娠希望の有無なども考慮しながら、最適な治療法を選択します。

主な治療の選択肢は、以下のとおりです。

原因の種類 | 主な治療法 | 治療の目的・ポイント

器質的な原因 (子宮の癒着など) | ・子宮鏡下手術 ・再癒着防止処置 | ・子宮内の癒着を物理的に剥がし、経血が作られる内膜の面積を正常に戻す ・手術後、バルーンや子宮内器具(IUD)を留置し、再び癒着するのを防ぐことがある

機能的な原因 (ホルモンバランスの乱れ) | ・ホルモン療法(カウフマン療法など) ・生活習慣の改善 | ・ホルモン剤で人工的に月経周期を整え、子宮内膜が正常に厚くなるよう促す ・ストレス管理、適切な栄養摂取、運動量の調整で、ホルモン分泌の司令塔である脳の負担を減らす

原因疾患へのアプローチ

子宮腔の癒着(アシャーマン症候群)など、子宮に物理的な原因が明らかな場合は、その病気に対する治療が最優先されます。

子宮鏡という細いカメラを子宮内に挿入し、癒着している部分を直接見ながら剥がす手術(癒着剥離術)を行うのが一般的です。

この手術により、剥がれ落ちるはずの子宮内膜の面積を確保し、経血量を正常な状態に近づけることを目指します。

ホルモンバランスを整える治療

ホルモン分泌の乱れが原因の場合、ホルモン剤を用いて月経周期をコントロールする「ホルモン療法」が中心となります。

代表的な治療法に「カウフマン療法」があります。これは女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)を周期的に補充することで、脳を休ませながら正常な月経のリズムを取り戻すことを目的とした治療です。

生活習慣の見直し

ストレスや過度なダイエット、激しい運動が引き金となっているケースでは、薬による治療と並行して生活習慣の改善が欠かせません。

特に、アスリートレベルの運動はホルモンバランスに影響を与えやすいことで知られています。

興味深いことに、日本の女子アスリートを対象とした研究では、過少月経や無月経の選手は、正常な月経周期の選手に比べてスポーツによる怪我の発生率が低い傾向にあると報告されました※。

しかし、これは怪我のリスクが高まる排卵期前後のホルモン変動がないためと考えられ、決して健康な状態というわけではありません。長期的なホルモン不足は骨密度の低下を招き、将来の疲労骨折などのリスクを高めるため、適切な栄養摂取と休養を取り入れることが重要です。

治療が不要なケースや経過観察

すべての過少月経が、すぐに治療対象になるわけではありません。

例えば、COVID-19ワクチン接種後に一時的な月経不順を経験する人がいることが知られており、接種後に過少月経を経験した人の割合は5.5%であったとする分析報告もあります※。こうした変化の多くは自然に回復することが多いと考えられています。

また、子宮に器質的な異常がなく、将来的に妊娠を希望していない場合などは、特に気になる症状がなければ治療を行わず、定期的に状態を確認する「経過観察」となることもあります。