骨盤内炎症性疾患

下腹部の痛みやおりものの変化といった、女性にとって身近な不調。「いつものことだから」と、つい見過ごしてはいませんか?その症状は、実は放置すると将来の不妊症や異所性妊娠につながる危険性もはらんでいます。

これは「骨盤内炎症性疾患(PID)」という、子宮や卵管などに細菌が感染して起こる病気のサインかもしれません。性感染症が主な原因ですが、近年ではPIDと診断された方の約10人に1人から見つかり、発症リスクを高める新たな原因菌も明らかになっています。

この記事では、骨盤内炎症性疾患の詳しい症状や原因、そしてあなたの未来を守るための治療法について解説します。気づかないうちに進行することもある病気だからこそ、正しい知識でご自身の体を守りましょう。

骨盤内炎症性疾患の概要

骨盤内炎症性疾患は、女性特有の臓器に起こる病気です。 英語の頭文字から「PID(ピーアイディー)」とも呼ばれます。 子宮や卵管など、赤ちゃんを育む大切な場所に細菌が感染し、炎症を起こす状態の総称です。

この病気には、炎症が起きる場所によって以下の種類があります。

  • 子宮内膜炎
  • 子宮の内側をおおう膜の炎症
  • 卵管炎
  • 卵子が通る管(卵管)の炎症
  • 卵巣炎
  • 卵子を作る卵巣の炎症
  • 骨盤腹膜炎
  • これらの臓器を包む膜にまで広がった炎症

多くは性交渉がきっかけで、腟から細菌が侵入します。 そして、子宮の入り口を通り抜け、奥へと広がっていきます。 原因はクラミジアや淋菌(りんきん)がよく知られています。

しかし、原因菌はそれだけではありません。 ある研究では「マイコプラズマ・ジェニタリウム」という菌も、この病気の重要な原因であることが示されています。 実際に、PIDと診断された方の約10人に1人からこの菌が見つかっており、感染するとPIDを発症するリスクが高まります。

この病気は、ただの腹痛や発熱で済むとは限りません。 治療が遅れると、将来の不妊症や異所性妊娠(子宮の外での妊娠)といった深刻な後遺症につながることもあります。 そのため、早期発見と適切な治療が非常に重要です。

骨盤内炎症性疾患の種類

骨盤内炎症性疾患(PID)は、1つの病気ではありません。 細菌の感染が体のどこまで広がったかによって、呼び名が変わります。 炎症が段階的に奥へと進行していくのが、この病気の特徴です。

炎症が起きる場所によって、主に以下の段階に分けられます。

  • 子宮内膜炎(しきゅうないまくえん) 子宮の内側を覆う膜に炎症が起きた状態で、 比較的、初期の段階にあたります。
  • 卵管炎(らんかんえん) 炎症が卵子の通り道である卵管にまで進んだ状態です。 この段階から、将来の不妊症のリスクが高まり始めます。
  • 卵管卵巣膿瘍(らんかんらんそうのうよう) 炎症がさらに悪化し、卵管や卵巣に膿(うみ)が溜まります。 膿の袋ができてしまう、より重症な状態を指します。
  • 骨盤腹膜炎(こつばんふくまくえん) 炎症が子宮や卵管を越えて、骨盤全体を覆う膜にまで拡大。 強い腹痛や高熱など、全身に症状が出ることがあります。

また、まれですが、炎症はお腹の右上まで達することがあります。 これは肝臓の周りにまで炎症が及んだ状態で、 「フィッツ・ヒュー・カーティス症候群」と呼ばれます。

このようにPIDは、放っておくと炎症の範囲が広がっていきます。 どの段階であっても、早期に治療を開始することが重要です。

骨盤内炎症性疾患の原因

骨盤内炎症性疾患は、多くの場合、性交渉がきっかけです。 腟から入った細菌が、子宮の奥へと進むことで起こります。 原因となる細菌は1種類だけでなく、複数の菌が関係することも珍しくありません。

特に、主な原因として知られているのは以下の細菌です。

  • クラミジア・トラコマティス
  • 淋菌(りんきん)

しかし近年、これらと同じくらい注意が必要な菌がいます。 それが「マイコプラズマ・ジェニタリウム」という細菌です。

信頼性の高い複数の研究をまとめた分析(メタアナリシス)では、この菌に感染すると骨盤内炎症性疾患になる危険性が約1.7倍に高まることが示されました。 実際に、この病気と診断された患者さんの、およそ10人に1人からこの菌が見つかっています。

その他にも、腟内の細菌バランスが崩れる「細菌性腟症」に関連する菌なども、原因となることがあります。

また、次のようなことがあると感染のリスクが高まるため注意が必要です。

  • 複数のセックスパートナーがいる 感染の機会が増えるため、リスクが高まります。
  • コンドームを使わない性行為 細菌の侵入を防ぐバリアがないため、直接感染しやすくなります。
  • 腟の洗いすぎ(腟洗浄) 腟内を守る良い菌まで洗い流してしまい、かえって悪い菌が増える原因になります。

これらの原因を知り、リスクとなる行動を避けることが予防の第一歩です。

骨盤内炎症性疾患の症状

骨盤内炎症性疾患の症状は、とても多彩なのが特徴です。 はっきりとしたサインが出ず、静かに病気が進むこともあります。 一方で、急に強い痛みや高熱で救急外来を受診する方もいます。

自分の体の小さな変化に気づくことが、早期発見の鍵となります。 最も多い症状は下腹部の痛みですが、他にも注意したいサインがあります。 以下のチェックリストで、当てはまるものがないか確認しましょう。

【骨盤内炎症性疾患の主な症状チェックリスト】

  • □ 下腹部の痛み お腹の奥が重い、ズキズキ痛むなど、痛みの種類は様々です。
  • □ おりものの変化 量が急に増えたり、色が黄色っぽくなったりします。 膿のような、普段と違うにおいがすることもあります。
  • □ 不正出血 生理の期間ではないのに、少量の出血が続くことがあります。 これは子宮内部の炎症が原因で起こります。
  • □ 38度以上の発熱 細菌と体が戦っているサインで、悪寒を伴うこともあります。
  • □ 吐き気やおう吐 炎症がお腹全体に広がると、胃腸の症状が出やすくなります。
  • □ 性行為のときの痛み 炎症が起きている子宮の周りに刺激が加わり、痛みを感じます。
  • □ おしっこのときの痛み 膀胱の近くまで炎症が及んでいる可能性があります。

これらの症状は、軽い場合や、はっきりしないことも多いです。 特に原因菌によっては、症状が出にくいことがあるので注意が必要です。 例えば、クラミジアやマイコプラズマ・ジェニタリウムという菌は、症状が穏やかな傾向にあります。

しかし、症状が軽いからといって、安心はできません。 ある複数の研究をまとめた信頼性の高い分析では、マイコプラズマ・ジェニタリウムに感染すると、骨盤内炎症性疾患になる危険性が約1.7倍に高まることが示されました。

治療が遅れると、炎症は肝臓の周りまで広がることがあります。 この場合、お腹の右上に痛みを感じるようになります。 少しでも「いつもと違う」と感じたら、早めに婦人科を受診してください。

骨盤内炎症性疾患の検査・診断

骨盤内炎症性疾患が疑われる場合、まず問診で症状を詳しく伺います。 その上で、いくつかの検査を組み合わせて診断を進めていきます。 適切な治療につなげるために、原因を正確に突き止めることが大切です。

診断の基本となるのが、婦人科で行う「内診」です。 医師がお腹を押したり、子宮を動かしたりしたときの痛みを確認します。 子宮の周りに炎症があると、少しの刺激で痛みを感じやすくなるのです。

診断を確定するために、主に以下の検査を行います。

  • 血液検査 体の中でどのくらいの炎症が起きているかを確認します。 白血球やCRPといった数値で、炎症の強さを客観的に評価します。
  • 細菌検査(おりもの・尿など) おりものや尿を採取し、原因菌を特定する非常に重要な検査です。 クラミジアや淋菌が有名ですが、近年注目されている菌も調べます。 それが「マイコプラズマ・ジェニタリウム」という細菌です。 複数の研究を分析した信頼性の高い報告によれば、この菌に感染すると骨盤内炎症性疾患になる危険性が約1.7倍に高まります。 実際に、この病気と診断された方の約10人に1人からこの菌が見つかっており、初回診断時の検査が推奨されています。
  • 画像検査 超音波(エコー)検査で、子宮や卵巣の状態を映像で確認します。 卵管が腫れていたり、膿(うみ)がたまっていないかなどを調べます。 より詳しく状態を把握するために、MRI検査を追加することもあります。
  • 妊娠検査 下腹部痛や不正出血は、異所性妊娠(子宮外妊娠)でも起こります。 この危険な状態ではないことを確認するために、必ず行われる検査です。

これらの検査結果を総合的に見て、診断を確定します。 もし原因菌が性感染症であった場合、再発を防ぐためにパートナーも一緒に検査と治療を受けることが不可欠です。

骨盤内炎症性疾患の治療

骨盤内炎症性疾患の治療は、原因の細菌を退治することが基本です。 抗菌薬(抗生物質)という薬を使い、炎症を根本から抑えます。 治療の目的は、今のつらい症状を和らげることだけではありません。 将来の不妊症や慢性的な痛みを防ぐ、未来の健康を守ることも大切です。

炎症の強さや症状に応じて、治療法は主に3つに分かれます。

  • 飲み薬での治療(外来治療) 症状が比較的軽い場合は、飲み薬で治療することができます。 原因菌は1種類とは限らないため、複数の菌に効く薬を処方します。
  • 点滴での治療(入院治療) 高熱や強い痛みがある、吐き気で薬が飲めない場合は入院が必要です。 腕の血管から直接薬を入れる点滴で、素早く効果を発揮させます。
  • 手術での治療 薬の治療だけでは治らず、卵管などに膿の袋ができた場合に行います。 この状態を「卵管卵巣膿瘍」と呼び、膿を外に出す手術が必要です。

治療を成功させる鍵は、原因菌を正確に特定することにあります。 近年、特に注意が必要なのが「マイコプラズマ・ジェニタリウム」です。 信頼性の高い複数の研究をまとめた分析では、この菌に感染すると骨盤内炎症性疾患になる危険性が約1.7倍に高まることが示されました。 実際に、この病気と診断された方の約10人に1人からこの菌が見つかっています。 だからこそ、最初の検査で原因を突き止め、その菌に合った薬を選ぶことが非常に重要です。

最後に、治療を受ける上で大切な2つの約束があります。 症状が良くなっても、菌が体内に隠れていることがあるため、処方された薬は必ず最後まで飲み切りましょう。 また、性感染症が原因の場合、再発を防ぐためにパートナーも一緒に検査と治療を受けてください。