産褥感染症
出産という大仕事を終え、喜びと共に訪れる体の変化。もし、38度以上の熱が続いたり、下腹部に痛みを感じたりしたら、「産後の疲れかな?」と見過ごしていませんか?その症状、実は「産褥感染症」のサインかもしれません。
産褥感染症は、出産したお母さんの約100人に6人が経験するといわれる、決して珍しくない病気です。しかし、海外の調査では母体死亡原因の6.7%を占めるという報告もあり、決して軽視はできません。
この記事では、産褥感染症の種類や見分け方、そしていざという時の正しい対処法を詳しく解説します。大切なご自身の体を守るために、ぜひ知識を深めていきましょう。
産褥感染症の概要
産褥感染症(さんじょくかんせんしょう)とは、出産を終えたお母さんの体に起こる感染症です。 出産後の体は、赤ちゃんが通ってきた道や、胎盤がはがれた子宮の内側に傷ができています。 この傷から細菌が入り込み、炎症が起きてしまうのです。
出産したお母さんのうち、およそ100人に6人が経験するといわれています。 分娩の方法によっても少し差があり、帝王切開では約7.4%、経腟分娩では約5.5%で起こるという報告もあります。
決して珍しい病気ではありませんが、軽く考えてはいけません。 海外の調査では、お母さんが亡くなる原因の6.7%を産褥感染症が占めていたという報告もあり、注意が必要です。
産褥感染症の代表的なサインに「産褥熱(さんじょくねつ)」があります。 これは、出産後10日以内に38度以上の熱が2日以上続く状態のことです。
出産という大仕事を終えた体は、体力や免疫力が低下し、とてもデリケートな状態です。 誰にでも起こりうるからこそ、正しい知識を持って自分の体を守りましょう。
産褥感染症の種類
「産褥感染症」とひと口に言っても、実はいくつかの種類があります。 細菌が感染した場所によって、病気の名前や重症度が変わるのです。 炎症がどこで起きているか、という視点で見ていきましょう。
- 子宮内膜炎(しきゅうないまくえん) 産褥感染症の中で、最もよくみられるのがこのタイプです。 出産で胎盤がはがれた後の子宮の内側は、いわば大きな「すり傷」の状態です。 この傷から細菌が入り込み、炎症を起こしたものを指します。
- 子宮付属器炎(しきゅうふぞくきえん)・骨盤腹膜炎(こつばんふくまくえん) 子宮内膜炎の炎症が、さらに奥へと広がった状態です。 子宮の隣にある卵管や卵巣、骨盤全体にまで炎症が及ぶと、より重症になります。 お腹の痛みが強くなるなど、症状も悪化する傾向があります。
- 敗血症(はいけつしょう) 最も注意が必要な、重い状態です。 細菌が血液の中に入り込み、血流に乗って全身に広がってしまいます。 命に関わることもあり、緊急の治療が必要となります。
- 乳腺炎(にゅうせんえん) これまでの感染とは少し違い、おっぱい(乳房)で起こる感染症です。 母乳が乳腺に詰まってしまうことがきっかけで、細菌が繁殖し炎症が起こります。
パナマの研究では、お母さんが亡くなる原因の約6.7%を産褥感染症が占めていたという報告もあります。 これは決して他人事ではありません。 気になる症状があれば、自己判断せず、すぐに医療機関に相談しましょう。
産褥感染症の原因
お産を終えたお母さんの体は、大きな仕事を終え、見えない変化が起きています。 普段は体を守ってくれる身近な菌が、なぜ感染症を起こすのでしょうか。 その理由は、出産後の体がとてもデリケートな状態にあるからです。
産褥感染症は、いくつかの原因が重なって起こることが多いです。 主な原因をみていきましょう。
- 子宮の中にできた「大きな傷」 赤ちゃんや胎盤が出ていった後の子宮の内側は、いわば大きな「すり傷」の状態です。 また、子宮の出口もまだ開いているため、外から細菌が入りやすくなっています。
- 体のガードマン(免疫力)の低下 出産という大仕事で体力を使うため、体を守る免疫力が一時的に下がります。 そのため、普段なら問題にならないような弱い菌にも負けやすくなります。
- 悪露(おろ)が細菌のエサになる 産後に出る悪露という出血は、細菌にとって格好の栄養源です。 悪露がたまりやすい場所で菌が増えると、感染のリスクが高まります。
- 母乳のつまり(うっ滞) 母乳がうまく出せずに乳腺につまると、そこをすみかにして菌が増殖します。 これが乳腺炎の原因になることがあります。
産褥感染症を引き起こすのは、大腸菌やブドウ球菌といった身近な菌がほとんどです。 特に、以下のような方は感染のリスクが少し高まるため注意が必要です。
- 帝王切開で出産した
- 破水してから生まれるまで時間がかかった
- 妊娠中に貧血や糖尿病などがあった
- お産のときに何度も内診を受けた
パナマの研究では、お母さんが亡くなる原因の6.7%を産褥感染症が占めていたとの報告もあります。 出産後の体調変化には十分に気をつけ、無理せず過ごすことが何より大切です。
産褥感染症の症状
出産という大仕事を終えた体は、普段とは違うサインを出すことがあります。 産褥感染症は、感染が起きた場所によって症状が異なります。 疲れのせいだと見過ごさず、ご自身の体調をチェックしてみましょう。
【主な症状のチェックリスト】
- 子宮まわりの感染(子宮内膜炎など) 出産で傷ついた子宮は、細菌が入りやすい場所です。 – 38℃以上の熱が2日以上続く(産褥熱) – 悪寒や体の震えを伴うことがある – 後陣痛とは違う、ズキズキとした下腹部の痛み – 悪露(産後の出血)から生臭いような嫌なにおいがする
- 尿路の感染(膀胱炎・腎盂腎炎) 出産後は尿道口の周りも細菌が増えやすくなります。 – トイレが近くなる、排尿時に痛みがある – 尿を出し切った感じがしない(残尿感) – 悪化すると、腰の痛みや高熱が出ることがあります。
- おっぱいの感染(乳腺炎) 母乳が詰まることで、細菌が繁殖して起こります。 – おっぱいが赤く腫れて、熱っぽくなる – 触ると痛いしこりができる – 筋肉痛のような、だるさを感じることもあります。
これらの症状は、産後の疲れと間違えやすいのが特徴です。 しかし、産褥感染症は決して軽く考えてはいけない病気です。 海外の研究では、お母さんが亡くなる原因の6.7%が産褥感染症だったという報告もあります。
「いつもと違うな」と感じたら、我慢は禁物です。 すぐに、出産した病院やかかりつけ医に相談してください。
産褥感染症の検査・診断
産褥感染症が疑われる場合、自己判断はとても危険です。 出産後の疲れだと思って見過ごすと、重症化することもあります。 海外の研究では、お母さんが亡くなる原因の約7%が産褥感染症でした。 気になる症状があれば、必ず専門家による検査と診断を受けましょう。
診断は、感染が起きていると考えられる場所に合わせて、いくつかの検査を組み合わせて行います。
【子宮まわりの感染が疑われるとき】 産褥感染症で最も多い、子宮の炎症を調べる検査です。
- 内診 医師が直接、子宮の大きさや硬さ、痛む場所を確かめます。 産後の子宮が順調に回復しているかを確認する大切な診察です。
- 超音波(エコー)検査 お腹のテレビのようなもので、子宮の中を画像で見ていきます。 胎盤の一部などが残っていないか、膿がたまっていないかを確認します。
- 血液検査 体の中で炎症が起きているかを示す数値(白血球やCRP値)を調べます。 この数値が高いと、体が細菌と戦っているサインになります。
- 細菌培養検査 悪露(おりもの)を少し採って、原因となっている菌の種類を特定します。 どの薬が効くかを知るための、とても重要な検査です。
【尿の通り道の感染が疑われるとき】 排尿時の痛みや、トイレが近いなどの症状がある場合に行います。
- 尿検査 尿の中に、細菌や炎症を示す白血球が混じっていないかを調べます。
- 身体診察 背中を軽く叩いて痛みがあるかを確認し、腎臓まで炎症が広がっていないかを見ます。
【おっぱい(乳房)の感染が疑われるとき】 乳腺炎は、ほとんどの場合、医師の診察だけで診断がつきます。
- 身体診察 乳房の赤みや腫れ、熱っぽさ、しこりの有無を直接見て、触って確認します。
これらの検査結果をパズルのように組み合わせ、総合的に診断を確定します。 そして、原因に合わせた適切な治療をすぐに始めていきます。
産褥感染症の治療
産褥感染症の治療は、時間との勝負です。 原因となる細菌を退治するため、抗菌薬(こうきんやく)を使います。 治療が遅れると、重症化するおそれがあるため注意が必要です。
パナマの研究では、お母さんが亡くなる原因の6.7%が産褥感染症でした。 これは、早期に適切な治療を受ければ防げる可能性が高い数字です。 気になる症状があれば、決して我慢せず、すぐに治療を始めましょう。
治療の基本は、原因菌に合わせた抗菌薬の投与です。 症状や感染場所によって、飲み薬と点滴を使い分けます。
- 飲み薬 症状が比較的軽い、膀胱炎などの場合に用いられます。
- 点滴 症状が重い場合や、薬が届きにくい子宮内の感染で使います。 血液に直接薬を入れるため、素早く効果を発揮させたいときに選びます。
感染が起きている場所によって、抗菌薬とあわせて他の治療も行います。
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感染した場所 |
主な治療法 |
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子宮 |
・抗菌薬の点滴 ・子宮の回復を助け、悪露を外に出す薬の使用 |
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尿の通り道 |
・抗菌薬の服用 ・水分を多く摂り、尿と一緒に菌を洗い流す |
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おっぱい(乳腺炎) |
・マッサージで詰まった母乳を出す ・症状が強ければ抗菌薬や、膿を出す処置 |
特に乳腺炎では、まずマッサージで母乳のつまりを取り除くことが大切です。 しかし、自己判断でマッサージを続けるのは危険です。 症状が改善しない場合は、必ず医師や助産師に相談してください。










