子宮付属器炎

「最近、下腹部が痛む」「生理でもないのに腰が重い」そんな症状を、いつものことだと軽視していませんか。その不調は、卵管や卵巣が細菌に感染して炎症を起こす「子宮付属器炎」という病気のサインかもしれません。

この病気の恐ろしさは、軽い症状の裏で静かに進行し、将来の不妊症や異所性妊娠(子宮外妊娠)の引き金になりうるところです。過去の骨盤内炎症は、異所性妊娠の治療を困難にさせるとの研究報告もあり、決して見過ごせません。

この記事では、子宮付属器炎の正しい知識と、ご自身の体を守るための治療法について詳しく解説します。気づかないうちに深刻化させないために、ぜひご自身の状態と照らし合わせてみてください。

子宮付属器炎の概要

子宮付属器炎(しきゅうふぞくきえん)とは、女性の骨盤の中にある大切な臓器が、細菌などが原因で炎症を起こす病気です。「子宮付属器」という言葉は少し難しいですが、これは子宮の左右にある部分をまとめた呼び名です。

  • 卵管(らんかん)
  • 卵子が通るための大切なくだです。
  • 卵巣(らんそう)
  • 卵子をつくり、女性ホルモンを出すところです。

卵管の炎症(卵管炎)と卵巣の炎症(卵巣炎)は、隣り合っているため同時に起こることが多く、あわせて「子宮付属器炎」と呼ばれます。

お腹の痛みなどで受診された際、原因が子宮付属器炎なのか、あるいは別の病気なのかを正確に見極めることは非常に重要です。なぜなら、正しい診断が、手術の方法や治療の進み方に大きく影響するためです。

診断の際には、まず超音波検査を行いますが、腫れが大きいとどこから病気が始まっているか分かりにくい場合があります。その際はMRI検査で、体の内部をより詳しく調べます。MRI検査では、臓器や血管の状態を細かく見ることで、炎症がどこで起きているのかを正確に特定するのに役立ちます。

もし治療が遅れてしまうと、炎症が長引いて慢性化し、将来の妊娠に影響を及ぼす可能性もあるため、早期発見・早期治療が何よりも大切です。

子宮付属器炎の種類

子宮付属器炎は、症状の進み方によって大きく2つの種類に分けられます。 これは、病気が急に始まったのか、それとも静かに続いているのかを知るためです。 この分類は、治療方針を決める上で非常に重要な手がかりとなります。

炎症の進み方によって、以下のように分けられます。

  • 急性子宮付属器炎
  • 突然、強い症状があらわれるタイプです。
  • 慢性子宮付属器炎
  • 症状が軽いか、ほとんどないまま静かに進行するタイプです。

それぞれの特徴を詳しく見ていきましょう。

種類

主な特徴

急性子宮付属器炎

・突然、強い下腹部痛や38度以上の高熱が出ます。

・吐き気や、膿(うみ)のような黄色いおりものが増えることもあります。

慢性子宮付属器炎

・はっきりした症状がなく、軽い下腹部痛や腰痛が続きます。

・症状が軽いため、気づかれにくいことがあります。

・炎症が原因で卵管が傷つき、不妊症や異所性妊娠につながる場合があります。

急性の場合は、症状がはっきりしているため医療機関を受診しやすいです。 しかし、問題は慢性のケースです。 自覚症状が乏しいため、気づかないうちに炎症が静かに広がり続けます。

その結果、卵管が傷ついたり、周囲の臓器とくっついたり(癒着)してしまいます。 これは将来の不妊症や、異所性妊娠(子宮外妊娠)の大きな原因となります。 実際に、骨盤内の炎症の経験は、異所性妊娠の治療を難しくする要因の一つであると研究でも指摘されています。

また、炎症が卵管や卵巣をこえて骨盤全体に広がってしまうと、「骨盤腹膜炎」という、より重い状態になることもあります。 軽い症状でも放置せず、早めに相談することがご自身の体を守るために大切です。

子宮付属器炎の原因

子宮付属器炎のほとんどは、細菌などが原因で起こる感染症です。 多くの場合、細菌は膣から子宮を通り、さらに奥へと進んでいきます。 卵管や卵巣まで坂道をのぼるように感染が広がるのが特徴です。 これを「上行性感染(じょうこうせいかんせん)」と呼びます。

原因となる細菌は、主に2つのグループに分けられます。

  • 性感染症を引き起こす菌
  • クラミジアや淋菌(りんきん)などが代表的です。
  • 性交渉によって感染し、炎症の原因となります。
  • 普段から体にいる菌
  • 大腸菌やブドウ球菌など、普段は体に害を与えない菌です。
  • 体の抵抗力が落ちた時に、異常に増えて炎症を起こします。

細菌が体の中で増えてしまうきっかけには、次のようなものがあります。

  • 性交渉
  • 出産や流産、人工妊娠中絶の手術の後
  • 避妊リング(IUD)など、子宮内に器具を入れる処置
  • ストレスや疲れによる免疫力の低下

特に注意したいのは、一度かかってしまうと将来に影響する点です。 過去に骨盤内の炎症を経験すると、異所性妊娠(子宮外妊娠)の治療が難しくなるという研究結果もあります。

もし原因が性感染症の場合は、再発を防ぐためにパートナーも一緒に検査や治療を受けることが非常に大切です。 ご自身の体を守るためにも、原因を正しく理解しておきましょう。

子宮付属器炎の症状

子宮付属器炎の症状は、病気の進み方によって大きく変わります。 突然強い症状が出る「急性期」と、静かに続く「慢性期」があります。 ご自身の状態を知るため、それぞれの特徴を確認してみましょう。

急性期:突然あらわれる強いサイン

急性期は、細菌の感染によって急激に炎症が広がる時期です。 我慢できないほどの強い症状が、突然あらわれるのが特徴です。

  • 強い下腹部痛
  • おへその下あたりが、片側もしくは両側、強く痛みます。
  • お腹を押して離した時に、響くような痛みを感じることもあります。
  • 38℃以上の高熱
  • 悪寒や震えを伴い、時には40℃近くまで上がることもあります。
  • 吐き気や嘔吐
  • 胃腸の不調を伴い、下痢などの消化器症状が出ることもあります。
  • おりものの異常
  • 普段とは違う、黄色くて膿(うみ)のようなおりものが増えます。
  • 不正出血
  • 生理の時期ではないのに、予期せぬ出血がみられる場合があります。

特にクラミジアが原因の場合、炎症はお腹の上の方にまで広がります。 肝臓の周りで炎症(肝周囲炎)を起こし、みぞおちの右側あたりに強い痛みが生じることもあります。

慢性期:静かに続く不調と将来への影響

急性期の激しい症状が落ち着いた後も、炎症が続くと慢性期に移ります。 はっきりした症状が出ないことも多く、気づきにくいのが問題です。

  • 鈍い痛み
  • 下腹部や腰に、重くて鈍い痛みがだらだらと続きます。
  • 関連する痛み
  • 生理痛が以前よりひどくなったり、排便や排尿の際に痛みを感じたりします。

慢性期で最も注意すべきは、症状が軽いからと見過ごしてしまうことです。 気づかないうちに卵管や卵巣が周りの臓器とくっついてしまう「癒着(ゆちゃく)」が進むことがあります。 この癒着は、卵管の通りを悪くし、将来の不妊症や異所性妊娠(子宮外妊娠)の直接的な原因となる可能性があります。 過去の骨盤内の炎症は、将来の妊娠に大きく影響するため、決して軽視できません。

【症状チェックリスト】 以下のサインがあれば、すぐに婦人科を受診しましょう。

  • 突然の強い下腹部痛と高熱がある
  • 吐き気や嘔吐を伴う腹痛がある
  • 黄色い膿のようなおりものや不正出血がある
  • 下腹部だけでなく、みぞおちの右側も痛む
  • 軽い下腹部痛や腰痛がずっと続いている

子宮付属器炎の検査・診断

子宮付属器炎が疑われる場合、原因や炎症の程度を正確に知るために、いくつかの検査を組み合わせて行います。 痛みの原因を正しく突き止めることは、適切な治療への第一歩です。

まず、医師が症状について詳しくお話を聞く「問診」を行います。 次に、お腹を優しく押したり、腟の中から診察する「内診」をします。 内診では、子宮の周りを押したときの強い痛み(圧痛:あっつう)や、子宮を動かしたときの痛み(移動痛:いどうつう)がないかを確認します。 これらは、お腹の中で炎症が起きていることを示す大切なサインです。

続いて、体の中の状態をより詳しく調べるために、以下の検査を行います。

  • 血液検査
  • 体の中でどのくらい炎症が起きているかを調べる検査です。
  • 白血球の数やCRPという炎症反応の数値を確認します。
  • CRPは、体内で炎症が起きると増えるタンパク質のことです。
  • おりもの検査
  • おりものを少しだけ採取して、原因菌を特定するための検査です。
  • 原因となる細菌の種類がわかれば、最も効果的な薬を選べます。
  • 超音波(エコー)検査
  • 腟から細い器具を入れ、子宮や卵巣の様子を直接観察します。
  • 卵巣や卵管が炎症で腫れたり、膿がたまったりしていないかを確認する基本的な検査です。

炎症の範囲が広かったり、腫れが大きかったりする場合には、より詳しい画像検査が必要です。 特に、子宮付属器炎と他の病気を見分けることは、手術の方法など治療方針に大きく影響するため非常に重要です。

  • CT・MRI検査
  • 超音波検査だけでは、どこから病気が始まったのか判断が難しい場合に、精密検査として行います。
  • 特にMRI検査は、体の断面を様々な角度から撮影できるため、腫れの位置や周りの臓器、血管の状態などを詳しく分析するのに役立ちます。
  • この詳細な情報によって、子宮付属器炎なのか、それとも似た症状の別の病気なのかを、より正確に見分けることができます。

これらの検査結果を総合的にみて、診断を確定し、一人ひとりに合った治療方針を決めていきます。

子宮付属器炎の治療

子宮付属器炎の治療は、原因である細菌をなくすことが基本です。 そのために「抗生物質」という、細菌をやっつける薬を使います。 症状の重さによって、治療の進め方が変わるのが特徴です。

症状の重さ

主な治療法

軽症の場合

学校や仕事を続けながら、通院で飲み薬(抗生物質)の治療をします。

重症の場合

入院して体をしっかり休め、点滴で強力に抗生物質を届けます。

症状が軽い場合は、毎日お家で飲み薬を続けて治療をします。 おりもの検査で原因の細菌がわかっていれば、その細菌に一番効く薬を選んで使います。

一方で、高熱や我慢できないほどの強い痛みがある重症の場合は、入院が必要です。 点滴で抗生物質を直接血管に入れることで、薬が素早く、そして確実に体の中の炎症に届きます。 こうして、体の中で暴れている細菌をしっかりと抑え込みます。

薬による治療だけでは良くならないことも、残念ながらあります。 卵管や卵巣に膿(うみ)がたまり、袋のようになってしまった場合(子宮付属器膿瘍)は、手術を考える必要があります。

この病気で最も大切なのは、治療を最後までやり遂げることです。 症状が楽になっても、菌が完全にいなくなったわけではありません。 自己判断で薬をやめると、病気は静かに「慢性化」してしまいます。

慢性化が怖いのは、将来の妊娠に大きく影響するためです。 最近の研究では、過去に子宮付属器炎のような骨盤内の炎症を経験した人は、将来「異所性妊娠」になった場合に薬の治療が効きにくくなることがわかっています。 異所性妊娠とは、赤ちゃんが本来いるべき子宮以外の場所で育ってしまう、とても危険な状態です。 薬が効きにくいと、お腹を切る手術が必要になる可能性も高まります。 今の治療をしっかり終えることが、未来のあなた自身を守ることにつながるのです。

もし原因がクラミジアなどの性感染症だった場合は、パートナーも一緒に検査と治療を受けることが不可欠です。 そうしないと、治ってもまたうつし合う「ピンポン感染」を繰り返してしまいます。 大切な人と一緒に、最後まで治療を続けるようにしてください。