食後のつらい腹痛や吐き気。「食べ過ぎただけ」と軽く考えていませんか?もしあなたが急激なダイエットを経験していたり、痩せ型であったりするなら、その不調は「上腸間膜動脈症候群」という珍しい病気のサインかもしれません。
これは、痩せたことでお腹の血管を支える脂肪のクッションがなくなり、食べ物の通り道である十二指腸が圧迫されてしまう病気です。人口の約0.013~0.3%にしか見られないまれな疾患ですが、特に10代から30代の若い世代に多いとされています。この記事では、その知られざる病気の原因から症状、最新の治療法までを詳しく解説していきます。
上腸間膜動脈症候群の概要
上腸間膜動脈症候群とは、お腹の血管が食べ物の通り道を圧迫する病気です。 私たちの体の背骨の前には、大動脈という太い血管が走っています。
そこから枝分かれした「上腸間膜動脈」との間にすき間があります。 食べ物を消化する十二指腸は、このすき間を通り抜けています。
健康な状態では、血管の周りに脂肪がクッションのように存在します。 この脂肪のおかげで、十二指腸が圧迫されることはありません。 しかし急激なダイエットなどで体重が減ると、この脂肪もなくなります。
クッションを失った十二指腸は、血管に直接圧迫されてしまいます。 その結果、食べ物の通りが悪くなり、お腹の不調を引き起こすのです。 この病気は、一般人口の約0.013~0.3%にみられるまれな疾患です。
特に10代から30代の、痩せている若い世代に多い傾向があります。 また、子どもの背骨が曲がる病気(脊柱側弯症)の手術がきっかけで発症することもあります。 ある研究によると、手術前から体重が少ない子どもは発症リスクが高まります。 身長と体重から計算する肥満度(BMI)が低い場合も同様です。 このため、手術を考える場合は、栄養状態を整えることが大切になります。
上腸間膜動脈症候群の種類
上腸間膜動脈症候群は、症状の現れ方や原因によって分けられます。 ご自身の状態がどれに近いかを知ることは、診断への大切な一歩です。 医師は主に、症状が出る速さと原因という2つの視点から分類します。
まず、症状が現れるスピードによって「急性型」と「慢性型」があります。
- 急性型 急にお腹の激しい痛みや吐き気といった症状が現れるタイプです。 急激な体重減少や、体の形が変わるような手術がきっかけで起こります。 例えば、背骨の曲がりをまっすぐにする手術の後などに発症します。
- 慢性型 長い期間にわたり、症状が出たり治まったりを繰り返すタイプです。 実は多くの方がこちらのタイプで、食後の腹痛などが断続的に続きます。 症状がゆっくり進むため、病気だと気づきにくいことも特徴の一つです。
また、原因によって「原発性」と「続発性」に分ける考え方もあります。
- 原発性 生まれつきの体の骨格や血管の付き方などが関係するタイプです。
- 続発性 何らかの出来事が引き金となり、後から発症するタイプを指します。 主なきっかけは、過度なダイエットや食欲不振による急な体重減少です。 その他、お腹の手術や長期間ベッドで安静にすることも原因になります。
実際には、これらの要因がいくつか重なって発症することも少なくありません。 いつから症状があるか、きっかけは何かを医師に伝えることが大切です。
上腸間膜動脈症候群の原因
この病気が起こる原因は、決して一つだけではありません。 いくつかの要因がパズルのように組み合わさって発症することが多いです。 主な原因を、一つひとつ見ていきましょう。
1. 急激な体重の減少
最も大きな原因は、短期間で体重が大きく減ってしまうことです。 血管の周りには、十二指腸を守るクッションの役目を持つ脂肪があります。 しかし、急激に痩せると、この大切な脂肪も一緒に失われてしまうのです。
- 過度なダイエット 美容目的などで無理な食事制限をすると、発症のきっかけになります。
- 大きな病気や手術のあと 体が弱って食事がとれず、栄養状態が悪化した場合も危険です。
特に、子どもの背骨の曲がりを治す手術(脊柱側弯症矯正術)の後は注意が必要です。 ある研究レビューでは、手術前から体重が少ないお子さんは発症リスクが高いと指摘されています。 手術に備えて、しっかり栄養を摂り、体力をつけておくことが予防につながります。
2. 生まれつきの体のつくり
もともとの骨格や血管の付き方が、発症に関係していることもあります。 背骨の前を走る太い血管と、そこから枝分かれする血管の角度が重要です。 この角度が25度よりも狭いと、十二指腸が圧迫されやすくなります。
痩せている若い女性に多いのは、こうした体のつくりも一因と考えられています。 もともと脂肪が少ないため、少しの体重減少でも症状が出やすいのです。
3. 長期間、体を動かさないこと
病気やケガが原因で、長い間ベッドの上で過ごすことも影響します。 特に仰向けの姿勢が続くと、重力によって腸が背中側に引っ張られます。 その結果、血管に挟まれやすくなり、食べ物の通りを妨げてしまうのです。
4. お腹の手術の影響
胃や腸の手術によって、お腹の中の臓器の位置が少し変わることもあります。 また、手術した部分がくっついてしまう「癒着(ゆちゃく)」も原因の一つです。 癒着によって腸が下に引っ張られ、血管のすき間が狭くなるのです。
上腸間膜動脈症候群の症状
この病気の症状は、主に食事のあとのお腹の不調として現れます。 症状が出たり治まったりを繰り返し、長く付き合うことになる場合も多いです。
主な消化器の症状
具体的には、次のような症状がみられるのが特徴です。
- 食後の上腹部の痛み 胃のあたりがキューっと痛むような感覚があります。
- お腹の張り(腹部膨満感) 食べ物がうまく流れず、お腹がパンパンに張って苦しくなります。
- 吐き気と嘔吐 ひどい時には、黄色くて苦い液体(胆汁)を吐くこともあります。
これらの症状は、血管に圧迫された十二指腸で食べ物の流れが滞るために起こります。
体の向きで変わる症状
体の向きを変えることで、症状の強さが変わるのも大きな特徴です。 ご自身の症状と比べて、当てはまるものがないか確認してみましょう。
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症状が楽になりやすい姿勢
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症状が強くなりやすい姿勢
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・うつ伏せ
・横向き
・四つん這い
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・仰向け
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仰向けになると重力で腸が背中側に引っ張られ、血管のすき間がさらに狭くなります。 うつ伏せになると圧迫が和らぐため、症状が少し楽に感じられるのです。
進行するとあらわれる全身の症状
症状が長く続くと、食事を摂るのが怖くなり、栄養不足に陥ることがあります。 その結果、体重がどんどん減ってしまうことも少なくありません。 ある研究では、手術が必要な患者さんで鉄分レベルの低下も報告されています。 これは、栄養をうまく吸収できずに貧血が進んでしまうためです。 深刻な栄養不良や飢餓状態につながる前に、早めに医師へ相談することが大切です。
上腸間膜動脈症候群の検査・診断
「食後にいつもお腹が痛くなる」といった症状の原因を特定するために、いくつかの検査を行います。 画像でお腹の中を詳しく観察し、診断を確定させることが検査の目的です。
1. 画像検査
体の内側を写真のように写し出して、本当に血管が十二指腸を圧迫しているのかを調べます。
- 上部消化管造影検査 バリウムという、食べ物の通り道を白く写す飲み物を飲んでレントゲン撮影をします。 この病気の場合、十二指腸でバリウムの流れがスパッと止まったり、行ったり来たりする様子が特徴的です。
- 腹部CT検査 体を輪切りにしたような画像で、血管と十二指腸の位置関係を詳しく見ます。 診断で特に重要なのは、背骨の前にある大動脈と上腸間膜動脈が作る角度です。 この角度が25度よりも狭いと、十二指腸が圧迫されている可能性が高くなります。
- 腹部超音波検査 お腹にゼリーを塗り、機械を当てるだけの体に負担が少ない検査です。 血管の中を流れる血液の様子などをリアルタイムで確認できます。
2. 血液検査
画像検査と同時に、採血で全身の状態もチェックします。 食事を十分に摂れていないと、貧血になったり体の栄養バランスが崩れたりすることがあります。 血液検査は、そうした栄養状態の悪化がないかを確認するために大切です。
これらの検査結果を総合的に判断し、診断を確定します。 腸の血流が悪くなる状態が続くと、腸が弱ってしまう「腸管虚血」という危険な状態になることもあります。 腸間膜の血管が関わる病気は、時に命に関わるため、早期診断と治療が非常に重要です。 症状があれば、ためらわずに医療機関を受診してください。
上腸間膜動- 症候群の治療
この病気の治療のゴールは、大きく分けて2つあります。 まず、血管による十二指腸の圧迫を和らげることです。 そして、しっかり栄養を摂れるようにして、元気な体を取り戻すことです。
治療は、体に負担の少ない方法から始めるのが基本です。 多くの場合、まずは手術をしない「保存的治療」を試します。
1. 手術をしない治療(保存的治療)
この治療の目的は、圧迫を軽くし、栄養状態を良くすることです。
- 食事の工夫 一度にたくさん食べると十二指腸が詰まりやすくなります。 そのため、食事を少量ずつ、何回かに分けて摂るようにします。
- 体の向きの工夫 食後にうつ伏せや、体の左側を下にして横になる姿勢をとります。 重力を利用して腸の位置をずらし、血管の圧迫を和らげるのです。
- 栄養の補給 食事が十分に摂れない場合は、点滴で栄養を補うことがあります。 また、鼻から細いチューブを入れて、腸に直接栄養を送ることもあります。
2. 手術による治療
保存的治療を続けても症状が良くならない場合に、手術を考えます。 近年では、お腹に小さな穴を開けて行う腹腔鏡手術が主流です。 体に優しい手術で、症状が大きく改善することが報告されています。
ある研究では、腹腔鏡手術を受けた患者さんの多くで症状が改善しました。 さらに、平均体重も手術前より増えたことがわかっています。 手術には、主に食べ物の新しい通り道(う回路)を作る方法があります。
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手術の方法
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内容
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十二指腸空腸吻合術
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食べ物が詰まっている十二指腸を迂回する、新しい道を作る手術です。
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十二指腸十二指腸吻合術
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詰まっている部分のすぐ手前と、その先を直接つなぎ合わせる手術です。
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内視鏡を使った手術
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体への負担がさらに少なく、手術が難しい方にも選択肢となる新しい方法です。
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特に十二指腸十二指腸吻合術は、有望な手術として注目されています。 この手術を受けた患者さんを3年間追跡した研究があります。 その結果、体重やBMI(肥満度)が明らかに増加したと報告されました。 また、栄養不足で減っていた鉄分の値も、正常に戻ることが示されています。
どの治療法が最適かは、一人ひとりの体の状態によって異なります。 担当の医師とよく相談し、ご自身に合った治療法を選びましょう。