胃もたれや食欲不振など、つい見過ごしがちなその不調、実は「静かながん」と呼ばれるスキルス胃がんのサインかもしれません。このがんは一般的な胃がんとは異なり、胃の壁に染み込むように広がるため、胃カメラ検査でも初期には発見が難しいという恐ろしい特徴を持っています。
胃がん全体の約10%を占めるに過ぎませんが、進行が非常に速く、発見された時点で約60%の方に転移が見られるというデータもあります。この記事では、そんなスキルス胃がんの正体から原因、見逃さないための症状、最新の治療法までを詳しく解説します。あなたと大切な人の未来を守るため、まずは正しい知識を身につけましょう。
スキルス胃がんの概要
スキルス胃がんは、胃がんの中でも少し特殊な性質を持っています。 一般的にイメージされる「がん」とは異なり、見つけにくいのが特徴です。 胃の壁の中にがん細胞が染み込むように広がっていきます。 このため、医学的には「びまん浸潤型」とも呼ばれています。
胃がん全体の約10%を占め、進行が非常に速いとされています。 発見された時点で約60%の方に転移が見られるという報告もあります。
スキルス胃がんには、主に以下のような特徴があります。
- 広がり方 通常の胃がんはキノコのような塊を作りますが、スキルス胃がんは違います。 胃の壁の内部に、がん細胞が散らばるように染み込んで広がります。 その結果、胃の壁は厚く硬くなり、食べ物が入っても広がりにくくなります。
- 発見の難しさ がんが胃の壁の内部で広がるため、胃の表面はきれいに見えることがあります。 胃カメラ(内視鏡)で観察しても、初期の段階では異常に気づきにくいのです。 これを医学的には「粘膜が温存される」と表現します。
- 他の病気との関連 胃の壁が厚く硬くなる変化は、他の病気が原因でも起こります。 例えば、乳がんなどが胃に転移した場合にも、似た状態になることがあります。 そのため、スキルス胃がんの診断は慎重に行う必要があります。
このように、発見が難しく進行も速いことから注意が必要ながんです。
スキルス胃がんの種類
スキルス胃がんは、がんの見た目や性質によって分類される胃がんの一種です。 専門的には、胃がんの見た目による分類で「4型」に分類されます。 これは「びまん浸潤(しんじゅん)型」とも呼ばれるタイプです。 特定の場所に塊を作らず、胃の壁の中に染み込むように広がります。
また、がん細胞の性質(組織型)では多くが「低分化腺がん」です。 これは、がん細胞の形が不揃いな、性質の悪いタイプであることを示します。
遺伝が関わる特殊なスキルス胃がん
スキルス胃がんの中には、遺伝的な要因が関わる特殊な種類もあります。 これを「遺伝性びまん性胃がん(HDGC)」と呼びます。
- 原因となる遺伝子 主にCDH1という遺伝子にもともと変異があることが原因です。
- 特徴 生涯のうちにスキルス胃がんを発症するリスクが非常に高くなります。 そのリスクは最大で70%にのぼると報告されています。 また女性の場合、小葉性乳がんという乳がんのリスクも高まります。
以前は、この遺伝子変異がある方には予防的に胃を切除する手術が勧められていました。 しかし最近の研究では、ごく早期のがんは必ずしも急速に進行しない可能性がわかってきました。 そのため、専門医による慎重な胃カメラでの経過観察も選択肢として検討されています。
スキルス胃がんの原因
スキルス胃がんがなぜできるのか、その詳しい仕組みはまだ解明されていません。 しかし、いくつかの要因が重なることで発症しやすくなると考えられています。
主な原因として、以下の3つが重要です。
- ヘリコバクター・ピロリ菌への感染
- 遺伝的な要因
- 生活習慣
ヘリコバクター・ピロリ菌への感染
一般的な胃がんと同様に、ピロリ菌の感染が大きな原因の一つです。 ピロリ菌が胃の中に長く住み着くと、胃の粘膜で常に炎症が起こります。 この慢性的な炎症が、胃の細胞をがん化させるきっかけになると考えられています。
遺伝的な要因
ごく一部ですが、生まれつきの遺伝子が関わる特殊なケースもあります。 特に「CDH1」という遺伝子に変化がある場合が知られています。 これを「遺伝性びまん性胃がん(HDGC)」と呼びます。
- CDH1遺伝子の役割 この遺伝子は、細胞同士をしっかりつなぎとめる「接着剤」の設計図です。 遺伝子に変化があると、この接着剤がうまく機能しなくなります。 その結果、がん細胞がまとまりを失い、バラバラと胃の壁に広がってしまうのです。
- 発症のリスク この遺伝子の変化を持つ方は、生涯で胃がんを発症する確率が最大70%にのぼると報告されています。 また女性の場合、小葉性乳がんという種類の乳がんのリスクも高まります。
ご家族や血縁者にスキルス胃がんや若くして乳がんになった方がいる場合は、専門医への相談を検討することも大切です。
生活習慣
塩分の多い食事や喫煙、過度な飲酒などもリスクを高める可能性があります。 これらの習慣は胃の粘膜に継続的な負担をかけ、がんが発生しやすい環境を作ります。
スキルス胃がんの症状
スキルス胃がんは、初期の段階ではっきりとした症状がほとんどありません。 症状が出たとしても、胃もたれなど日常的な胃の不調と見分けがつきにくいのが特徴です。 そのため「静かながん」とも呼ばれ、気づかないうちに進行するケースが少なくありません。
初期にあらわれやすい症状
初期の症状は、胃炎や胃潰瘍などでも起こる一般的な胃の不調と似ています。 以下のようなサインが続く場合は、注意が必要です。
- 食欲がなくなる 好きだったものが食べたくないなど、食欲の低下がみられます。
- 胃もたれや胸やけ 食べた後に胃が重く感じたり、胸やけがしたりします。
- 食事量は変わらないのに体重が減る 特にダイエットをしていないのに、体重が落ちていきます。
進行するとあらわれる症状
がんが進行すると、胃の壁が厚く硬くなるという性質が原因で、よりはっきりした症状が出ます。
- すぐにお腹がいっぱいになる 胃が硬くなり膨らみにくくなるため、少量で満腹感を感じます。
- 食べ物がつかえる感じ 胃の動きが悪くなり、食べたものが通りにくい感じがします。
- 吐き気や嘔吐、胃の痛み みぞおちの痛みや、吐き気などの症状がはっきりしてきます。
- 吐血や黒い便(タール便) がんから出血することで、血を吐いたり、便が黒くなったりします。
スキルス胃がんは胃の表面ではなく壁の中で広がるため、胃カメラ検査でも初期には見つかりにくいことがあります。 気になる症状が続く場合は、自己判断せずに消化器専門の医療機関を受診することが大切です。
スキルス胃がんの検査・診断
スキルス胃がんは胃の壁の中に染み込むように広がるため、発見が難しいがんです。 そのため、いくつかの検査を組み合わせて総合的に診断することが非常に重要です。
主な検査方法には、以下のようなものがあります。
- 上部消化管内視鏡検査(胃カメラ) 胃の中をカメラで直接見る、基本となる検査です。 胃のヒダが厚くなっていたり、空気で胃が膨らみにくかったりする所見が特徴です。 しかし、がんが壁の奥深くにあるため、胃の表面はきれいに見えることがあります。 これを「粘膜が温存される」と言い、発見を難しくする原因の一つです。 表面の組織を採る生検では、がんが見つからないこと(偽陰性)もあります。
- X線検査(バリウム検査) バリウムを飲んでレントゲン撮影を行います。 胃全体の形や、硬くなって広がりにくくなっていないかを確認します。
- CT検査や超音波検査 体の断面図を見て、胃の壁の厚さや周囲への広がりを調べます。 リンパ節や他の臓器への転移、お腹に水が溜まっていないか(腹水)も確認します。
- 審査腹腔鏡(しんさふくくうきょう) お腹に小さな穴を開け、カメラで直接お腹の中を観察する検査です。 画像検査では見つけにくい、がん細胞がお腹の中に散らばる「腹膜播種」を確認します。
最終的には、胃の組織を顕微鏡で調べる「生検」で診断を確定します。 一度の検査で診断がつかない場合でも、疑わしい所見があれば繰り返し検査を行うことが大切です。 また、乳がんなどが胃に転移した場合も似た状態になることがあり、慎重な判断が求められます。
スキルス胃がんの治療
スキルス胃がんの治療は、がんの進み具合や体の状態を考えて慎重に決められます。 発見された時点で進行していることが多いため、いくつかの治療を組み合わせることが基本です。
現在、スキルス胃がんだけを狙い撃ちするような特別な治療法は、まだ確立されていません。 そのため、一般的な胃がんの治療を基本として、最適な計画を立てていきます。 主な治療法は、以下の3つが中心となります。
- 手術でがんを取り除く がんが胃やその周りのリンパ節だけにとどまっている場合に、まず考えられる治療です。 しかし、お腹の中にがん細胞が散らばる「腹膜播種」を起こしていると、手術は難しくなります。
- お薬でがんをたたく(化学療法) 手術が難しい場合や、手術後にがんが再び現れるのを防ぐ目的で行われます。 抗がん剤というお薬を使い、全身に広がったがん細胞の増殖を抑えます。
- 放射線でがんを狙う がんが原因で起こる痛みや出血、食事が通りにくいといった症状を和らげる目的で行われることがあります。
これらの治療法に加えて、新しい治療法の研究も世界中で進められています。 最近では、がん細胞が持つ遺伝子の特徴(分子異常)を詳しく調べて、その特徴に合った薬を選ぶ治療法の開発が期待されています。 将来的には、一人ひとりの「がんの個性」に合わせた治療が主流になるかもしれません。 ご自身の状況に合った治療法について、担当の医師と十分に話し合うことが大切です。