胃食道逆流症

食事の後に胸が焼けるように感じたり、酸っぱいものがこみ上げてきたりしませんか。その不快な症状は「胃食道逆流症」のサインかもしれません。日本では10人に1〜2人がこの病気にかかるといわれ、もはや誰にでも起こりうる身近な不調となっています。

さらに、近年の信頼性の高い研究では、胃の不調と心の不調が互いに影響しあうことがわかってきました。実は、うつ病になりやすい方は胃食道逆流症のリスクが約1.3倍も高まるという、驚きの事実が報告されているのです。

この記事では、胃食道逆流症の原因や種類、そして心との意外な関係性について詳しく解説します。ご自身の症状を正しく理解し、つらい毎日から抜け出すためのヒントを見つけてください。

胃食道逆流症の概要

食事の後に胸が焼けるように感じたり、酸っぱいものがこみ上げてきたりしませんか。 それは胃食道逆流症という病気のサインかもしれません。 胃の中の強い酸である胃酸が、食道へ逆流してしまうことで起こる病気です。

私たちの食道と胃のつなぎ目には、普段は胃の中身が戻らないようにフタの役目をする筋肉があります。 しかし、この筋肉がゆるむと胃酸が食道へ逆流しやすくなります。 食道の壁は胃と違って酸に弱いため、逆流した胃酸によって炎症が起きてしまうのです。

食生活の変化などにより、日本では10人に1〜2人がこの病気にかかるといわれています。 決して珍しい病気ではなく、誰にでも起こる可能性があるのです。

また、近年の研究では胃の不調と心の不調が互いに影響しあうことがわかってきました。 遺伝情報を用いた信頼性の高い研究によると、うつ病になりやすい方は胃食道逆流症のリスクが約1.3倍高くなります。 逆に、胃食道逆流症になりやすい方も、うつ病のリスクが約1.2倍高まるという双方向の因果関係が示されています。 胃の症状が心の負担になったり、ストレスが胃の症状を引き起こしたりするため、体と心の両面から見ていくことが大切です。

胃食道逆流症の種類

胃食道逆流症は、胃カメラで食道を見たときの状態で、大きく2つのタイプに分けられます。 食道の壁に、胃酸で荒れた「傷(びらん)」が目に見えるかどうかで判断します。

びらんとは、食道の粘膜の表面がただれて、赤く炎症を起こしている状態のことです。 どちらのタイプかによって、治療方針が少し変わるため、この分類はとても重要です。

1. 逆流性食道炎(びらん性胃食道逆流症)

胃カメラで食道をのぞいたとき、はっきりと傷やただれ(びらん)が見えるタイプです。 このタイプは、胃酸が食道の粘膜を直接傷つけている状態だといえます。

多くの医学研究では「びらん性食道炎(EE)」と呼ばれています。 治療では、この目に見える傷がしっかり治ることを目標の一つにします。

2. 非びらん性胃食道逆流症(NERD)

胸やけなどつらい症状があるのに、胃カメラで見ても食道がきれいなタイプです。 症状があるのに「異常なし」と言われるようで、不思議に思うかもしれません。

しかし、胃食道逆流症の患者さんの半数以上が、このタイプだといわれています。 目に見えないほどの小さな炎症や、食道の神経が過敏になっていることが原因と考えられています。

種類

逆流性食道炎(びらん性)

非びらん性胃食道逆流症(NERD)

胃カメラでの見た目

食道に傷やただれ(びらん)がある

はっきりとした傷やただれがない

症状

胸やけ、酸っぱいものがこみ上げるなど

見た目に異常はなくても、同じようなつらい症状がある

考えられる原因

胃酸による食道粘膜への直接的なダメージ

目に見えない微細な炎症や、食道の知覚過敏など

このように、同じような症状でも食道の状態は異なります。 どちらのタイプかを正しく見極め、一人ひとりに合った治療を選ぶことが大切です。

胃食道逆流症の原因

胃食道逆流症は、たった一つの原因で起こるわけではありません。 体の仕組みの変化、日々の生活習慣、そしてストレスなどが、 複雑に絡み合って発症することがほとんどです。 原因は、主に以下の3つのグループに分けられます。

1. 体の仕組みや変化による原因

体の構造的な問題や、年齢による変化が原因となるケースです。

  • 下部食道括約筋のゆるみ 胃の入り口には、胃酸が戻らないよう閉じる筋肉のフタがあります。 この筋肉は、加齢などによって力が弱まり、ゆるみやすくなります。
  • 食道裂孔ヘルニア 胃の一部が、おなかと胸を隔てる横隔膜から胸側へ飛び出す状態です。 胃のフタの位置がずれてしまい、胃酸の逆流が起こりやすくなります。
  • おなかの圧力(腹圧)の上昇 肥満や妊娠、猫背などの悪い姿勢は、おなかを内側から圧迫します。 胃が押し上げられることで、中の胃酸が食道へ逆流しやすくなります。

2. 生活習慣による原因

毎日の何気ない習慣が、胃に負担をかけていることがあります。

  • 食事の内容と習慣 脂肪分の多い食事や食べ過ぎは、胃酸の分泌を過剰にします。 また、食後すぐに横になる習慣は、胃酸の逆流を物理的に助長します。
  • 喫煙・飲酒 タバコやアルコールは胃酸の分泌を増やし、胃のフタもゆるめます。 逆流を起こしやすくする、二重の悪影響があるため注意が必要です。

3. ストレスなどその他の原因

心身の不調や、服用中の薬が影響することもあります。

  • ストレス 過度なストレスは自律神経のバランスを崩す原因になります。 その結果、胃や食道の正常な動きが妨げられることがあります。
  • 一部の薬の影響 血圧の薬や痛み止めなど、一部の薬は副作用で逆流を起こしやすくします。 服用中の薬で気になることがあれば、医師や薬剤師に相談しましょう。

胃食道逆流症の症状

胃食道逆流症のサインは「胸やけ」だけではありません。 胃酸が食道だけでなく、のどや口の中にまで影響を及ぼすことがあります。 自分では気づきにくい症状もあるため、ご自身の状態と比べてみましょう。

症状は、胃酸が直接刺激する「食道の症状」と、 それ以外の場所に起こる「食道以外の症状」に分けられます。

食道にあらわれる代表的な症状

胃酸が食道の粘膜を直接傷つけることで起こる、典型的な症状です。

  • 胸やけ 胸の真ん中あたりが、焼けるようにジリジリと熱く感じる症状です。 食後に最もよくみられます。
  • 呑酸(どんさん) 胃酸など胃の中身が、のどや口までこみ上げてくる感覚です。 酸っぱさや苦さを感じることが多いです。
  • 胸の痛み 胸がしめつけられるように痛むことがあります。 心臓の病気と間違われることもあるため、注意が必要です。
  • つかえ感 食べ物がうまく飲み込めなかったり、のどや胸で止まっているように感じます。

食道以外にあらわれる見逃しやすい症状

胃酸や、逆流した胃の内容物が気体となって、のどや気管を刺激します。 風邪やアレルギーと間違えられやすい、注意すべきサインです。

【胃食道逆流症のセルフチェック】

  • 理由のわからない咳が長く続いている
  • 声がかすれたり、出にくくなったりする
  • のどに違和感がある(イガイガ、ヒリヒリする)
  • ゲップが頻繁に出る
  • 口の中が苦い、または酸っぱく感じる
  • 胃がもたれる、おなかが張る感じがする

これらの症状は、特に食事の後や、体を横にしたときに強くなる傾向があります。 もし複数の項目に当てはまる場合は、一度専門の医療機関へご相談ください。

胃食道逆流症の検査・診断

胸やけなどの症状から胃食道逆流症が疑われる場合、まずは詳しい問診から診断を始めます。 しかし、症状だけでは食道の状態はわかりません。 そのため、体の内部を客観的に評価する検査が必要になります。

診断の目的は、治療方針を決めることだけではありません。 似た症状を起こす心臓の病気や、食道がんなどの重い病気を見逃さないためにも、検査はとても大切です。

1. 問診

医師が症状の種類や始まった時期、生活習慣などを詳しく伺います。 正確な診断には、患者さんからの情報が何より重要です。 ささいなことでも、診断の手がかりになる可能性があります。

2. 胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)

口や鼻から細いカメラを入れ、食道や胃の粘膜を直接観察します。 胃食道逆流症の診断において、中心的な役割を果たす検査です。 この検査で、食道炎の有無や程度を確かめ、治療計画を立てます。

3. その他の精密検査

胃カメラで明らかな異常が見つからない場合や、 診断が難しいケースでは、追加で以下の検査を行うことがあります。

  • 24時間食道pHモニタリング検査 細い管を鼻から食道に入れ、24時間、胃酸の逆流を記録します。 症状と実際の逆流の関連性を調べることができる検査です。
  • 食道内圧測定検査 食道の筋肉の動きや、胃の入り口の締まり具合を測定します。 食べ物の飲み込みにくさ(嚥下困難)の原因を調べる際に役立ちます。

これらの検査結果を総合的に見て、診断を確定します。

検査の種類

この検査でわかること

問診

・症状の強さや頻度、生活背景との関連性<br>・治療薬を選ぶ際の参考情報

胃カメラ

・食道粘膜の炎症(びらん)の有無や程度<br>・逆流の原因となる食道裂孔ヘルニアの有無<br>・バレット食道や食道がんなど、他の病気の発見

その他の精密検査

・胃カメラで異常がない場合の、逆流の証拠<br>・食道の運動機能の異常

胃食道逆流症の治療

胃食道逆流症の治療目標は、つらい症状をなくすことです。 そして、快適な毎日を取り戻し、再発を防ぐことを目指します。 治療は、まずご自身の生活を見直すことから始めます。 症状に合わせて、段階的に治療法を選んでいくのが一般的です。

治療の段階

治療法

主な内容

第一段階

生活習慣の改善

食事や姿勢の工夫、減量など、症状の原因となる毎日の習慣を改める。

第二段階

薬での治療<br>(薬物療法)

胃酸を抑えるお薬で、胸やけなどのつらい症状を和らげる。治療の中心となる方法。

第三段階

内視鏡治療・手術

お薬で効果が不十分な場合に、逆流の根本原因にアプローチする。

薬での治療(薬物療法)

治療の基本は、強力に胃酸の分泌を抑えるお薬を使うことです。 主に2種類のお薬が使われます。

  • プロトンポンプ阻害薬(PPI) 胃酸を作り出す「ポンプ」の働きをブロックするお薬です。 長年、治療の第一選択として使われてきました。
  • カリウム競合型アシッドブロッカー(P-CAB) より新しいタイプのお薬で、素早く効果を発揮するのが特徴です。 PPIとは違う仕組みで、胃酸の分泌を強力に抑えます。

最近の研究では、新しいP-CAB(フェキソプラザンなど)は、 これまでのPPI(エソメプラゾールなど)と同等の有効性と、 安全性が確認されています。 また、内視鏡手術後の傷の治りを比較した研究では、 P-CABの一種であるテゴプラザンは、4週間後の治癒率が、 PPIより高かったという報告もあります。 ただし、最終的な治療効果は同等とされています。

内視鏡治療・手術

お薬だけでは症状が良くならない場合や、 長期間お薬を飲み続けるのが難しい場合もあります。 その際には、内視鏡や手術による治療を検討します。 胃のフタのゆるみなど、逆流の根本原因に直接アプローチします。

近年の複数の研究をまとめた報告によると、 いくつかの内視鏡治療法の中でも特に、 「内視鏡的バンディング結紮術(EBL)」や、 「経口無切開噴門形成術(TIF)」という方法が高い効果を示しています。 これらの治療は、患者さんの生活の質を改善し、 お薬の量を減らす効果が高い可能性が示唆されています。

どの治療法が最適かは、お一人おひとりの状態によって異なります。 まずは専門の医師に相談し、ご自身に合った治療法を見つけましょう。