胃軸捻転症

胃がまるで縄跳びのように180度以上もねじれてしまう「胃軸捻転症」。食べ物の通り道がふさがり、突然の激しい腹痛や吐き気に襲われる、命にも関わる病気です。

この病気は特に子どもに多く、レントゲン検査での発見率は大人の0.17%に対し、子どもは3.4%にものぼります。急性の場合、治療が遅れると命を落とす危険性があり、近年の研究では手術後の30日以内の死亡率が5.7%に達するという厳しい現実も報告されています。

「ただの胃痛」と見過ごしてはいけない危険なサインとは何か。この記事では、胃軸捻転症の原因から症状、そしていざという時に命を救うための治療法までを詳しく解説します。ご自身やご家族に潜むリスクを知り、万が一に備えましょう。

胃軸捻転症の概要

胃軸捻転症(いじくねんてんしょう)とは、胃がねじれてしまう病気です。 まるで縄跳びの縄のように、胃が180度以上くるっと回転します。 これにより食べ物の通り道がふさがり、食事がとれなくなります。

この病気は大人よりも子どもに多く見られます。 胃のレントゲン検査で偶然見つかる確率は、成人が0.17%です。 これに対し、子どもの場合は3.4%と報告されています。 しかし、軽いねじれは自然に戻るため、正確な数はわかっていません。

胃軸捻転症は、命に関わることもあるため注意が必要です。 近年の研究では、手術や治療が進歩しても、決して安心はできません。 手術後の合併症は32.0%、30日以内の死亡率は5.7%と報告されています。 そのため、できるだけ早く発見し、すぐに治療を始めることが大切です。

胃軸捻転症の種類

胃軸捻転症は、いくつかの視点から種類分けができます。 主に「発症のしかた」「ねじれる方向」「原因の有無」で分類します。 これらを理解することで、病気の状態を正しく知ることができます。

分類の視点

種類

かんたんな説明

発症のしかた

急性胃軸捻転症<br>慢性胃軸捻転症

突然おこるか、ゆっくりとおこるか

ねじれる方向

長軸性(臓器軸性)捻転<br>短軸性(腸管膜軸性)捻転<br>混合型捻転

胃がタテ方向にねじれるか、ヨコ方向にねじれるか

原因の有無

特発性胃軸捻転症<br>続発性胃軸捻転症

はっきりした原因がないか、他の病気が原因か

発症のしかたによる分類

  • 急性胃軸捻転症
  • 突然、みぞおちに激しい痛みや吐き気があらわれるタイプです。 胃への血液の流れが止まりやすく、命に関わることもある危険な状態です。 近年の研究報告によると、手術や治療が進歩しても油断はできません。 手術後に合併症が起こる割合は32.0%と報告されています。 また、残念ながら30日以内に亡くなる方が5.7%いるのも事実です。 そのため、いかに早く診断し、治療を始めるかが非常に重要になります。
  • 慢性胃軸捻転症
  • はっきりした症状がないまま、ゆっくりと進行するタイプです。 食後になんとなくお腹が張るなど、比較的軽い症状が続きます。 症状が出たり消えたりを繰り返すことも特徴の一つです。

原因の有無による分類

  • 続発性胃軸捻転症
  • 大人の胃軸捻転症の約7割がこのタイプにあたります。 横隔膜の病気や食道裂孔ヘルニアなど、他の病気が原因です。 これらの病気によって、胃がねじれやすくなり発症します。
  • 特発性胃軸捻転症
  • 原因となる病気がなく発症するタイプです。 胃を支える「靭帯(じんたい)」という組織が、生まれつき緩いことなどが関係していると考えられています。

胃軸捻転症の原因

胃軸捻転症がなぜ起こるのか、その原因は一つではありません。 生まれつきの体のつくりや、他の病気が引き金になることもあります。 特にお子さんと大人では、原因となることが異なる傾向にあります。

お子さんの場合

新生児や乳児は、胃を固定する靭帯(じんたい)が未発達です。 靭帯とは、胃を正しい位置に保つためのバンドのような組織です。 この靭帯が弱く伸びやすいため、胃が動き回ってねじれやすいのです。 また、横隔膜の病気など、生まれつきの体の構造も関係します。

大人の場合

大人の胃軸捻転症は、約7割が他の病気が原因で起こります。 これを「続発性(ぞくはつせい)胃軸捻転症」と呼びます。 主な原因には、以下のようなものがあります。

  • 横隔膜の病気 ご高齢の方に多い食道裂孔ヘルニアなどが原因です。 胃の一部が胸の方へはみ出し、胃がねじれやすくなります。 このタイプの胃軸捻転症は、手術をしても油断はできません。 近年の研究では、合併症が起こる割合も報告されています。
  • お腹の中の他の病気 腸を支える膜が硬くなる病気が原因で腸がねじれてしまい、 その影響で胃の捻転が起こることも、まれにあります。
  • 生活上のきっかけ 過食や、お腹に強い圧力がかかることもきっかけになります。 また、お子さんが磁石のおもちゃなどを誤って飲み込む事故も、 腸のねじれを引き起こし、胃の捻転につながる危険があります。

これらのように、はっきりとした原因が見つからない場合もあります。 原因不明のものを「特発性(とくはつせい)胃軸捻転症」と言います。

胃軸捻転症の症状

胃軸捻転症の症状は、突然あらわれる「急性」の場合と、 ゆっくりと続く「慢性」の場合で、その様子は大きく異なります。 それぞれの特徴を知っておくことが、早期発見につながります。

急性の胃軸捻転症

急性の場合は、突然おそってくる激しい痛みが特徴です。 特にお腹の上のほう(みぞおち)に、強い痛みを感じます。 同時に、ねじれた胃にガスや食べ物がたまってしまいます。 そのため、お腹がパンパンに張る感じ(膨満感)もあらわれます。

診断の目安として、特に注意したい3つのサインがあります。 ご自身やお子さんの状態を確認してみましょう。

  • チェックリスト:急性の胃軸捻転症の3つのサイン
  • 吐き気が強いのに、吐こうとしても何も出ない
  • お腹の上のほうが急に膨らんできた
  • 病院で鼻から胃へチューブを入れようとしても入らない

これらの症状は、胃が完全にねじれてしまったサインです。 食べ物の通り道がふさがり、命に関わることもある危険な状態です。 近年の研究では、手術や治療が進歩しても、決して安心はできません。 手術後に合併症が起こる割合は32.0%と報告されています。 また、残念ながら30日以内に亡くなる方が5.7%いるのも事実です。 激しい腹痛で救急搬送され、緊急手術が必要となることもあります。 診断や治療の遅れは、胃が機能しなくなることにもつながります。 そのため、できるだけ早く診断し、治療を始めることが重要です。

慢性の胃軸捻転症

慢性の場合は、急性と違ってはっきりした症状がないこともあります。 食後に胃がもたれる、お腹が張る、時々軽い腹痛があるなど、 比較的穏やかな症状が続いたり、出たり消えたりします。

お子さんの場合は、ミルクを繰り返し吐いてしまう、 体重がなかなか増えない、といったサインで気づかれることもあります。 症状が軽いため、他の病気と思われたり、 健康診断のバリウム検査などで偶然見つかることも少なくありません。

胃軸捻転症の検査・診断

胃軸捻転症の診断は、まさに時間との勝負です。 特に急性の場合は、診断や治療が遅れると命に関わることがあります。 近年の研究でも、早期発見と迅速な治療の重要性が強調されています。

診断のためには、まずお話を聞き、画像で詳しくお腹の中を調べます。

  • 問診 医師が患者さんやご家族に、症状について詳しくお聞きします。 「いつから痛いか」「吐き気はあるか」などを確認します。 特に「吐きたいのに何も出ない」という症状は重要なサインです。
  • 腹部単純X線検査(レントゲン検査) お腹の中の写真を撮る、基本的な検査です。 胃がねじれると、空気の通り道がふさがってしまいます。 風船のようにパンパンに膨らんだ胃の影が写ることがあります。
  • 腹部CT検査 体を輪切りにしたような画像で、お腹の中を詳しく調べます。 胃のねじれ具合や位置を正確に把握できる、とても重要な検査です。 胃に血液が流れているか、組織が傷んでいないかも確認します。 治療が遅れると、腸が機能しなくなる危険があるためです。 迅速な手術が必要かどうかを判断し、命を救うために欠かせません。
  • 胃X線造影検査(バリウム検査) バリウムという白い液体を飲んで、レントゲン撮影をします。 胃の形や、食べ物の通り道の様子をはっきりと確認できます。 ねじれて細くなった部分や、液体がうまく流れない様子を捉えます。

これらの検査結果を総合的にみて、診断を確定します。 診断がついたら、すぐに適切な治療を始めることが何よりも大切です。

胃軸捻転症の治療

胃軸捻転症の治療は、症状の出方によって大きく異なります。 急に激しい症状が出るか、ゆっくりとした症状が続くかで、 治療の方針が180度変わるといっても過言ではありません。

急な症状(急性)の場合:時間との勝負

突然の激しい腹痛など、急性の症状は命に関わるサインです。 胃がねじれることで血の流れが止まり、組織が死んでしまうためです。 一刻も早く、ねじれを元に戻すための治療が必要になります。

治療技術が進歩した現代でも、決して安心はできません。 近年の研究報告では、手術後の合併症は32.0%にのぼります。 また、残念ながら30日以内に亡くなる方が5.7%いるのも事実です。 このため、治療の基本は緊急手術となります。

手術では、ねじれた胃を元に戻し、再発しないように固定します。 早期に手術をすることが、命と胃そのものを救う鍵となります。 治療が遅れると、胃だけでなく腸も機能しなくなる危険があるのです。

症状が穏やかな(慢性)の場合:手術をしない治療から

症状が比較的軽く、ゆっくりと続く場合は手術以外の方法を試します。 これを「保存的治療」と呼び、以下のようなものがあります。

  • 体位の工夫 体の右側を下にして寝るなど、ねじれを直しやすくします。
  • 食事の工夫 一度にたくさん食べず、食事を少量ずつ何回かに分けます。
  • 胃の中の圧力を下げる 鼻から胃へ細い管を入れ、たまったガスや食べ物を抜きます。
  • 胃カメラで元に戻す 胃カメラを使い、お腹の中から直接ねじれを直す方法です。

これらの治療で良くならない場合や、捻転を繰り返すときは、 根本的な解決のために手術を考えることになります。 保存的治療の後、約3割の方が2年以内に再発するとの報告もあります。

赤ちゃんやご高齢者の場合

赤ちゃんの慢性的な胃軸捻転症は、体の成長とともに、 1歳ごろまでに自然に治ることが多いです。 しかし、体重が増えないなどの問題があれば手術も検討します。

ご高齢者の場合は、体の状態を考えて保存的治療が選ばれやすいです。 ただ、手術のタイミングが遅れると命に関わることもあるため、 医師と相談しながら、慎重に治療方針を決めることが大切です。