胃に「できもの」が見つかったと聞くと、多くの人が深刻な病気を想像するかもしれません。2019年の統計では約13万人が新たに胃がんと診断されており、誰にとっても身近な病気です。しかし、胃腫瘍は初期症状がほとんどなく、「静かな病気」として気づかぬうちに進行してしまう怖さがあります。
その最大の原因とされるのがピロリ菌で、感染していると胃がんのリスクは5倍以上に跳ね上がるとも言われています。さらに、胃がんの手術を受けた後も、実は安心できないことをご存知でしょうか?現在、再発を防ぐための大規模な研究も進められています。
この記事では、良性のポリープから悪性の胃がんまで、胃腫瘍の種類や原因、NBIといった最新の検査、そして内視鏡治療の進歩について詳しく解説します。ご自身の体を守るための正しい知識を学びましょう。
胃腫瘍の概要
胃腫瘍(いしゅよう)とは、胃の壁にできる「できもの」の総称です。 これには、命にすぐに関わることの少ない「良性腫瘍」と、治療が必要になる「悪性腫瘍」の2種類があります。
- 胃ポリープ(胃底腺ポリープ、過形成性ポリープなど)
悪性腫瘍の中で最も多いのが「胃がん」です。 2019年の統計では、男性約9万人、女性約4万人が胃がんと診断されており、決してまれな病気ではありません。
胃がんの大きな原因の一つに、ピロリ菌の感染が知られています。 そして、胃がんの治療で胃の一部を切除する手術を受けた後も、注意が必要です。
実は、残った胃に新たな腫瘍ができてしまうことがあるのです。 そこで現在、「ピロリ菌を除菌すれば、新しい腫瘍の発生を防げるのではないか」という点を明らかにするための大規模な研究が進められています。
この研究では、胃がん手術後の患者さんを2つのグループに分けます。 片方のグループにはピロリ菌の除菌薬を、もう一方には薬とそっくりな偽物(プラセボ)を飲んでもらい、長期間にわたって経過を比較します。
このような信頼性の高い研究の結果は、今後の治療方針を決める上でとても重要なものとなります。 胃腫瘍には様々な種類がありますが、特に悪性腫瘍は早期に発見し、適切な治療につなげることが非常に大切です。
胃腫瘍の種類
「胃にできものができた」と聞くと、胃がんを想像するかもしれません。 しかし実際には、性質の異なる様々な種類の腫瘍があります。
大きく分けると、次の3つのタイプに分類できます。 おとなしいタイプ、将来悪さをする可能性のあるタイプ、そしてすぐに治療が必要な悪いタイプです。
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腫瘍の性質
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主な種類
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特徴(わかりやすく言うと…)
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良性腫瘍
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胃ポリープ
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・基本的にはおとなしい「できもの」<br>・大きくなったり、がんになったりすることは少ない
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境界悪性腫瘍
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腺腫(せんしゅ)
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・今は良性だが、将来がんに変わる可能性を持つ<br>・定期的な胃カメラでの観察が大切になる
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悪性腫瘍
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胃がん<br>GIST(ジスト)など
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・周りに広がり、他の場所に飛び火(転移)する<br>・命に関わるため、早期の発見と治療が重要
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これらの性質を正確に見分けるため、検査の技術も進んでいます。 例えば胃カメラでは、特殊な光を使う「狭帯域光観察(NBI)」という方法が使われます。
最近の研究では、新しい世代のNBIを使うと、通常の内視鏡よりも高い確率でごく小さな病変を見つけられることがわかってきました。
また、悪性腫瘍で最も多い胃がんは、内視鏡で取り除く治療(ESD)が行われることがあります。 この治療でできた傷(潰瘍)を早く治すための新しい薬の研究も進められています。 腫瘍の種類によって経過や治療は大きく変わるため、まずは専門医による正確な診断が何よりも大切です。
胃腫瘍の原因
胃に「できもの」ができる原因は一つではありません。 しかし、その中でも最も重要な原因とされているのが「ピロリ菌」への感染です。
ピロリ菌が長く胃の中にすみつくと、胃の壁が常に軽い炎症を起こし続けます。 この状態は、胃の壁が荒れてだんだんと薄くなってしまう「萎縮(いしゅく)」につながります。 この萎縮した胃は、胃がんが発生しやすい土壌のような状態なのです。
実際にピロリ菌に感染していると、胃がんになる危険性は5倍以上になるとも言われています。 ピロリ菌の除菌治療を受ければ、そのリスクを約4分の1にまで減らせる可能性があります。
また、胃がんの手術を受けた後でも、ピロリ菌の問題は残ることがあります。 手術で胃の一部を切除しても、残った胃にピロリ菌がいると、また新しい腫瘍ができる危険があるのです。
そこで現在、胃がん手術後のピロリ菌除菌が、新しい腫瘍の発生を本当に防げるのかを確かめるための大規模な研究が行われています。 この研究では、本物の薬と見た目がそっくりな偽物の薬を使い、その効果を科学的に比較します。 このような信頼性の高い研究の結果は、将来の治療方針を決める上で非常に重要です。
ピロリ菌のほかにも、胃腫瘍の発生には次のような要因が関係しています。
- タバコを吸う習慣や、塩分の多い食事を好んで食べること。
- 多くの人が感染するEBウイルスというウイルスも、原因の一つとされます。
- 血縁のあるご家族に、胃がんになった方がいる場合も注意が必要です。
このように、胃腫瘍の原因は様々ですが、特にピロリ菌は大きな危険因子です。 ご自身の感染の有無を知り、対策を考えることが大切になります。
胃腫瘍の症状
胃腫瘍は、初期の段階では自覚できる症状がほとんどありません。 「静かな病気」とも言え、気づかないうちに進行することがあります。 症状がないから大丈夫、と安心せず定期的な検診がとても大切です。
腫瘍が大きくなると、様々なサインが現れることがあります。 ご自身の体調と照らし合わせてみましょう。
【胃の不調を感じたら?セルフチェックリスト】
- 胃の不快感 食後の胃もたれや、スッキリしない感じが続く。
- 胸やけ・腹痛 胸が焼けるような感じや、みぞおちのあたりの痛み。
- 食欲の変化 以前より食欲がなくなったり、理由なく体重が減ったりする。
- 吐き気・嘔吐 吐き気を感じたり、実際に吐いてしまったりすることがある。
- 便の色の変化 便がイカ墨のように黒っぽくなる(タール便)。 これは腫瘍からの出血が、胃酸によって黒く変化するためです。
- 貧血のサイン 腫瘍から少しずつ出血が続くことで、貧血になり立ちくらみがする。
これらの症状は胃炎など他の病気でも見られるため、自己判断は禁物です。
また、過去に胃がんの手術で胃の一部を切除した方も注意が必要です。 残った胃に新しい腫瘍ができるのを防ぐため、ピロリ菌の除菌が有効かを確かめる大規模な研究も進められています。
胃腫瘍の治療として、内視鏡で腫瘍を取り除く方法(ESD)があります。 この治療の後は胃に一時的に傷(人工潰瘍)ができますが、回復を促すお薬も進歩しています。 胃酸を抑える新しいタイプのお薬が、従来の薬と同じように安全で、傷の回復を助けることが研究でわかってきました。
気になる症状や不安な点があれば、決して一人で悩まず、専門の医療機関へご相談ください。
胃腫瘍の検査・診断
胃の不調が続いたり、健康診断で異常が見つかったりした場合。 胃の中にできた「できもの」の正体を突き止める検査を行います。 正確な診断は、適切な治療への第一歩として非常に大切です。
検査の中心となるのは、「胃カメラ(内視鏡検査)」です。 口や鼻から細いカメラを入れ、医師が直接胃の中を観察します。
- 直接観察 モニターに映る胃の粘膜を隅々まで見て、できものの状態を確認します。
- 生検(組織検査) 疑わしい部分が見つかったら、その組織をほんの少しだけ採取します。 この組織を顕微聞で詳しく調べることで、良性か悪性かを確定します。
胃カメラの技術は常に進歩しています。 最近の胃カメラには、特殊な光で観察する機能がついています。 「狭帯域光観察(NBI)」と呼ばれる技術です。
ある研究では、新しい世代のNBIを使うことで、通常の内視鏡よりも高い確率でごく小さな病変を見つけられることがわかっています。 このような技術の進歩で、より早期の発見が可能になりつつあります。
胃カメラと合わせて、腫瘍の広がりを調べる検査も行います。
- CT検査・MRI検査 体の断面を撮影し、腫瘍が胃の壁の深くまで達しているか調べます。 また、周りのリンパ節や他の臓器へ転移していないかも確認します。
- 血液検査(腫瘍マーカー) がん細胞が作る特定の物質の値を測ります。 ただし、早期がんでは数値が上がらないことも多く、補助的な検査です。
これらの検査結果を総合的に判断し、診断を確定させます。 そして、一人ひとりの状態に合わせた治療方針を決めていきます。
胃腫瘍の治療
胃腫瘍の治療法は、腫瘍の種類や進行度などをみて決まります。 主に「内視鏡治療」「外科手術」「化学療法」の3つがあります。 一人ひとりの状態に合わせ、最適な方法を医師が提案します。
内視鏡治療
ごく早期の胃がんなどが対象となる、体への負担が少ない治療です。 口から胃カメラを入れ、お腹を切らずに腫瘍だけを取り除きます。
- 内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD) 胃の内側から病変を剥ぎ取るように切除する方法です。 お腹に傷がつかないため、入院期間も比較的短くなります。
ESDの治療後は、胃に一時的に傷(人工潰瘍)ができます。 この傷の回復を助けるため、胃酸を抑えるお薬が使われます。 最近の研究では、新しいタイプのお薬も従来のものと同等の効果と安全性が期待できると示されています。
また、治療後の出血を防ぐための研究も進んでいます。 ある研究では、医療用の接着剤(フィブリン糊)を使うことで、治療後すぐの出血を減らせる可能性が報告されました。
外科手術
内視鏡では取りきれない、より進行した腫瘍が対象です。 近年は、患者さんの体への負担を減らす手術が主流です。 お腹に小さな傷を数カ所開けて行う腹腔鏡手術などがあります。
手術で胃の一部を切除した後も、注意すべき点があります。 胃がんの主な原因であるピロリ菌がいると、残った胃に新たな腫瘍ができる可能性があるのです。 そのため、手術後のピロリ菌除菌が、新しい腫瘍の発生を防げるかを確かめる大規模な研究が進められています。
化学療法(抗がん剤治療)
がんが他の臓器に転移している場合などに行われる治療法です。 飲み薬や点滴を使い、がん細胞が増えるのを抑えます。 手術後の再発を防ぐ目的で、補助的に行うこともあります。
どの治療法を選択するかは、専門の医師が慎重に判断します。 ご自身の状態や治療の選択肢について、わからないことがあれば遠慮なく医師に相談しましょう。