胃内異物

「そのうち便と一緒に出てくるだろう」――食べ物でないものを誤って飲み込んでしまった時、そう楽観視するのは非常に危険です。胃内異物の事例の約80%は子どもに起こる身近な事故ですが、飲み込んだ物の約20%は自然に排出されず、医療的な対応が必要になるといわれています。

特にボタン電池や複数の磁石は、短時間で胃や腸に穴を開けるなど、命に関わる事態を引き起こすことも。症状がないからと安心はできません。この記事では、危険な異物の見分け方から、いざという時の正しい対処法、そして内視鏡を中心とした治療法まで詳しく解説します。自己判断で後悔する前に、大切な知識を身につけましょう。

胃内異物の概要

胃内異物とは、食べ物ではないものを誤って飲み込んでしまい、胃の中に留まってしまった状態のことです。医療の現場ではこれを「誤飲(ごいん)」と呼びます。

この「誤飲」は、飲み込んだ物が食道や胃といった食べ物の通り道(消化管)に入ることです。息の通り道(気管や肺)に物が入ってしまう「誤嚥(ごえん)」とは区別されます。

胃内異物は、特に小さなお子さんでよく見られる緊急事態の一つです。ある研究では、胃内異物の事例の約80%が小児であったと報告されています。好奇心から、身の回りにあるおもちゃの部品や硬貨、ボタン電池などを口に入れてしまうためです。

また、ご高齢の方が入れ歯や、薬を包む包装シート(PTPシート)を気づかずに飲み込むこともあります。

飲み込んだ物の多くは、数日以内に便と一緒に自然と体の外に出ていきます。しかし、約20%は自然に排出されず、何らかの医療的な対応が必要になるといわれています。

胃の出口である「幽門(ゆうもん)」は狭いため、大きな物や鋭い物、有害な化学物質を出す物(ボタン電池など)は、胃を通り抜けられずに留まってしまいます。これらが胃の壁に穴を開けたり(穿孔)、化学的なやけどを起こしたりする危険があります。

胃内異物は誰にでも起こりうる身近な事故ですが、ときには危険な状態につながります。予防に努め、万が一飲み込んだ際は自己判断せず、速やかに医療機関へ相談することが非常に大切です。

胃内異物の種類

ひとくちに胃内異物といっても、その種類はさまざまです。 飲み込んだ物の形や大きさによって、危険性が大きく変わります。 何を飲み込んだかを知ることが、その後の対応を決める上で重要です。

飲み込んだ物の多くは自然に便と一緒に出ていきます。 しかし、ある研究では約20%が自然には排出されず、 何らかの医療処置が必要になると報告されています。

特に次のような物は、体に大きな害を及ぼす可能性があり、 緊急での対応が必要になることがあるため注意が必要です。

  • ボタン電池 胃の中に入ると胃酸に触れて電気が流れ始めます。 短時間で化学やけどを起こし、胃や腸に穴を開けることもあります。
  • 複数の磁石 腸の違う場所にある磁石同士が、壁をへだてて引き合います。 壁を強く挟み込んで血の流れを止め、組織を壊す危険があります。 特にネオジム磁石など強力なものは、命に関わることもあります。
  • 先の尖った物(鋭利な異物) 薬のPTPシート、針、画鋲、骨などは、食べ物の通り道を傷つけ、 突き破ってしまう(穿孔)可能性があります。
  • 大きな物・長い物 直径が2cm、または長さが5cmを超える物は、胃の出口や 腸の狭い部分で詰まってしまう(閉塞)ことがあります。

危険度

異物の例

なぜ危険か

特に高い

ボタン電池、複数の磁石、先の尖った物(針、画鋲、骨、PTPシート)

胃や腸に穴が開いたり(穿孔)、化学やけどを起こしたりする危険が非常に高いです。

注意が必要

大きな物(直径2cm以上)、長い物(長さ5cm以上)、硬貨

胃の出口や腸で詰まってしまう(閉塞)可能性があります。

比較的低い

小さくて丸い物、角がないプラスチック片

自然に便と一緒に出てくることが多いですが、経過の観察は必要です。

このように、飲み込んだ物によって危険性や対処法は全く異なります。 万が一、誤飲してしまった、あるいはその疑いがある場合は、 「そのうち出てくるだろう」と自己判断せず、速やかに医療機関に相談してください。

胃内異物の原因

胃内異物の原因は、食べ物ではないものを誤って飲み込むことです。 医療の現場ではこれを「誤飲(ごいん)」と呼びます。

ある研究報告によると、胃内異物の約80%は子どもに起きています。 しかし、大人やご高齢の方にも起こりうる、とても身近な事故です。 その原因は、年齢によって次のようなはっきりとした特徴があります。

【子ども(特に乳幼児)の場合】 小さなお子さまは、好奇心がとても旺盛です。 手にしたものを何でも口に入れて、それが何かを確かめようとします。 そのため、ご家族が少し目を離した隙に誤飲事故が起こりがちです。

  • 具体的な異物の例
  • 硬貨(コイン)
  • おもちゃの小さな部品
  • ボタン電池
  • 磁石
  • 水でふくらむボール

【大人の場合】 大人の場合は、食事中の不注意による誤飲が原因の多くを占めます。 特にお酒を飲んでいる時や、急いで食事をしている時に起こりやすいです。 ご高齢の方では、飲み込む機能や判断力の低下も関係します。

  • 具体的な異物の例
  • 魚や鶏の骨
  • 入れ歯(義歯)
  • 薬のPTP包装シート(薬を包む銀色のシート)
  • つまようじ

なかでもボタン電池や複数の磁石、薬の包装シートは特に危険です。 胃や腸の壁を傷つけ、体に穴を開ける可能性があるため注意が必要です。 原因を正しく知り、日頃から予防することが何よりも大切になります。

胃内異物の症状

胃の中に食べ物でないものが入っても、すぐに症状が出るとは限りません。 飲み込んだ物が小さく、とがっていなければ、何の症状もなく 数日後には便と一緒に出てくることもあります。

ある研究では、危険な磁石を飲み込んだ子どものうち、 半数近くは症状がなかったと報告されています。 しかし、症状がないからと安心するのは非常に危険です。

異物の種類や大きさ、場所によっては、次のようなサインが出ることがあります。

  • のどや胸の違和感、つかえ感 食べ物や飲み物が飲み込みにくくなります。
  • よだれが増える うまく飲み込めないため、よだれが増えます。
  • 吐き気や嘔吐(おうと) 胃が異物を外に出そうとして吐いてしまいます。
  • おなかの痛み(腹痛) 胃や腸が傷ついているサインかもしれません。
  • 元気がない、ぐったりしている 特に食後に元気がなくなることがあります。
  • (赤ちゃんの場合)理由なく泣く、ミルクを嫌がる 言葉で伝えられない赤ちゃんなりのサインです。

特に鋭利な物や特定の異物は、胃や腸の壁を傷つけ、 重い合併症を引きおこす危険があるため注意が必要です。

  • 先の尖った物(薬のシート、画びょうなど) 胃や腸の壁を直接傷つけ、出血させることがあります。 出血すると、黒くてドロドロした便(タール便)が出ることがあります。
  • ボタン電池 胃酸に触れると電気が流れ、化学やけどを起こします。 短い時間で胃に潰瘍ができ、穴が開く(穿孔)危険があります。
  • 複数の磁石 腸の違う場所にある磁石どうしが、壁を挟んで引き合います。 挟まれた部分は血が通わなくなり、壁に穴が開くことがあります。 激しい腹痛や嘔吐、発熱が見られ、緊急手術が必要になることもあります。

症状の現れ方は、飲み込んだ物によって全く異なります。 たとえ症状がなくても、体の中では危険なことが起きているかもしれません。 「飲み込んだかも」と思ったら、絶対に自己判断せず、すぐに医療機関に相談してください。

胃内異物の検査・診断

胃の中に異物があるか確かめるには、まず詳しいお話を聞くことが大切です。 何を、いつ、どのくらいの大きさの物を飲み込んだか。 この情報が、診断の最も重要な手がかりになります。

検査の進め方は、患者さんの状態や飲み込んだ物で変わります。 一般的には、以下の方法で診断を進めていきます。 画像診断は、安全な治療方針を決める上で欠かせません。

  • X線検査(レントゲン) 金属製の硬貨やボタン電池、磁石など、X線に写る異物の場所や数を確認します。 まず最初に行われることが多く、診断の第一歩となる検査です。 特に複数の磁石を飲み込んだ場合、その位置関係を正確に知ることが、 安全な治療につながるため非常に重要です。
  • CT検査 レントゲンには写りにくいプラスチック製の異物などを調べるのに有効です。 また、異物によって胃や腸の壁が傷ついていないかなど、 より詳しく調べる必要がある場合に行われます。
  • 内視鏡検査(胃カメラ) 口から細いカメラを入れて、食道や胃の中を直接観察する検査です。 異物の種類や大きさ、胃の状態を正確に確認できる、最も確実な診断方法です。 ある研究では、内視鏡による異物取り出しの成功率は95%以上と報告されています。 この検査の大きな利点は、診断と治療が同時にできることです。 異物を見つけたと同時に、マジックハンドのような道具(鉗子)や、 磁石を安全に取り出すための特別な道具を使って、その場で治療に移れます。

検査方法

特徴

問診(お話を聞く)

飲み込んだ物の種類や時間など、診断で一番大切な情報を集めます。

X線検査(レントゲン)

金属など硬い物の位置や数を確認します。最初に行うことが多い検査です。

CT検査

X線に写りにくい物や、胃や腸の傷など、より詳しく調べたい時に行います。

内視鏡検査(胃カメラ)

胃の中を直接見て確実に診断します。そのまま異物を取り出す治療もできます。

まれに、検査をしても異物が見つからないのに、のどの違和感が続くことがあります。 その場合は、異物ではなく、食道の動きの問題など、 別の原因が隠れていないかを調べることもあります。

胃内異物の治療

胃の中に入ってしまった異物をどう治療するかは、とても重要です。 飲み込んだ物の種類や大きさ、場所、症状の有無で方法が決まります。 主な治療法は、次の3つの選択肢から慎重に選ばれます。

  1. 自然に排出されるのを待つ(経過観察)
  2. 胃カメラ(内視鏡)を使って取り出す
  3. 手術で取り出す

自然に出てくるのを待つ(経過観察)

飲み込んだ物が小さく、角が丸いものであれば、多くは自然に便と一緒に出てきます。 しかし、ある研究では、約20%は自然には排出されず、 病院での何らかの処置が必要になると報告されています。 「そのうち出てくるだろう」と自己判断するのは非常に危険です。

胃カメラ(内視鏡)を使った治療

現在の胃内異物の治療では、胃カメラ(内視鏡)で取り出す方法が中心です。 これは治療の「ゴールドスタンダード(最も信頼される標準的な方法)」とされています。 口から細いカメラを入れ、胃の中を直接見ながら異物をつかみ出します。 この方法の成功率は95%以上と非常に高く、体への負担も少ないのが特徴です。

特に、次のような危険な物を飲み込んだ場合は、緊急で取り出すことが強く勧められます。 胃や腸に穴が開いたり、詰まったりする重い合併症を防ぐためです。

  • ボタン電池 胃の中ですぐに化学やけどを起こし、短時間で穴を開ける危険があります。
  • 複数の磁石 腸の壁をへだてて磁石どうしがくっつき、血の流れを止めます。 壁に穴が開くことがある非常に危険な状態で、外科的な緊急事態とされます。 ある研究では、磁石を飲み込んだ子どもの半数近くが無症状だったと報告されています。
  • 先の尖った物や長い物 薬のPTPシートや針、長さ5cm以上の物は、食道や胃を傷つけ、 突き破ってしまう(穿孔)危険性が高いです。

胃カメラで異物を取り出す際には、色々な道具を使い分けます。 マジックハンドのような道具(鉗子)や、物を捕まえる輪っか(スネア)、 かご(バスケット)など、異物の形に合わせて最適なものを選びます。

最近では、磁石を安全に取り出すための特別な磁石の道具(磁性体鉗子)も登場しました。 この新しい道具は、従来の方法よりも短い時間で、 より安全に治療できる可能性が示されています。

手術による治療

胃カメラで取り出すのが難しい場合や、すでに胃や腸に穴が開いてしまった時。 このような場合には、お腹の手術で異物を取り除きます。 特に、複数の磁石を飲み込んだ場合は、命に関わる状態になることもあり、 迅速な手術が必要になるケースが報告されています。 ただし、手術が必要になることは全体から見るとまれです。

どの治療法を選ぶかは、専門の医師が慎重に判断します。 異物を飲み込んだ、またはその可能性がある場合は、絶対に自分で判断しないでください。 すぐに医療機関へ相談することが、体を守るために最も重要です。