胃がん

日本人男性の10人に1人、女性の21人に1人が生涯でかかるとされる胃がん。これほど身近な病気でありながら、初期はほとんど症状がなく「沈黙の病気」とも呼ばれます。「いつもの胃もたれかな」と見過ごしているうちに、気づかぬまま進行してしまうケースも少なくありません。

しかし、過度に恐れる必要はありません。検査や治療の進歩により、胃がんによる死亡者数は減少傾向にあります。近年では、治療中のつらい副作用を和らげるための研究も進んでいます。この記事では、胃がんの原因から症状、最新の治療法までを詳しく解説します。ご自身と大切な人を守るための正しい知識を身につけましょう。

胃がんの概要

胃がんは、食べ物を消化する「胃」の壁から発生する病気です。 胃の壁は玉ねぎのように、5つの層が重なってできています。 がんがどの層まで達しているか、その深さで進行度が変わります。 深さによって治療法が大きく異なるため、この区別はとても重要です。

胃がんは、がんの深さによって大きく2つに分けられます。

  • 早期胃がん 胃の壁の浅い部分(粘膜・粘膜下層)にとどまるがんです。 この段階で見つかれば、体への負担が少ない治療で治る可能性が高いです。
  • 進行胃がん 胃の壁の深い部分(固有筋層より奥)まで達した状態です。 がん細胞がリンパや血液に乗り、他の臓器へ転移する危険があります。

日本では、男性の10人に1人、女性の21人に1人がかかるとされます。 今も多くの人がかかる病気ですが、死亡する人の数は減っています。 これは検査や治療が進歩しているからです。

例えば、がん治療ではお薬(化学療法)の副作用で食欲が落ちることがあります。 しかし、最近の研究では治療中の食欲を助けるお薬の有効性が示されました。 ある研究では、オランザピンというお薬を使った患者さんの60%で体重が増え、食欲も改善したと報告されています。 このように、つらい症状を和らげる治療も進歩しているのです。

胃がんの種類

胃がんと診断されたとき、それがどのような種類なのかを知ることは非常に重要です。 がんが胃の壁のどこまで深く進んでいるか(進行度)や、がんの見た目によって分類します。 この分類は、治療の方針を決めるための、とても大切な「ものさし」になります。

深さによる分類:「早期」と「進行」

胃がんは、がんが胃の壁にどれだけ深く達しているかによって、大きく2つに分けられます。

種類

がんが達している深さ

特徴

早期胃がん

胃の壁の浅い部分<br>(粘膜層・粘膜下層)

がんが表面近くにとどまっている状態です。<br>他の臓器へ転移している可能性は低く、<br>内視鏡治療で治る可能性も十分にあります。

進行胃がん

胃の壁の深い部分<br>(固有筋層より奥)

がんが筋肉の層や、さらに外側まで達した状態です。<br>リンパや血液に乗り、他の臓器へ転移する<br>リスクが高まります。

特殊なタイプ:スキルス胃がん

胃がんには、見た目や広がり方が特徴的なタイプもあります。 その代表が「スキルス胃がん」です。

  • 広がり方 通常のがんはキノコのように盛り上がることが多いです。 一方、スキルス胃がんは壁の中に染み込むように広がります。
  • 特徴 がんが広がると、胃の壁全体が厚く、硬くなります。 そのため、「硬い胃がん」という意味で「硬がん」とも呼ばれます。
  • 発見の難しさ はっきりとした塊を作らないため、内視鏡検査でも見つけにくいことがあります。 進行が速い傾向があり、注意が必要ながんです。

このように、ご自身の胃がんの種類を正確に把握することが、適切な治療への第一歩となります。

胃がんの原因

胃がんができる原因は一つではありません。 いくつかの危険因子が、パズルのピースのように組み合わさって発症します。 原因を知ることは、ご自身とご家族を守るための第一歩です。

最も大きな原因は「ヘリコバクター・ピロリ菌」という細菌の感染です。 ピロリ菌が胃の中に長く住みつくと、胃の粘膜で常に炎症が続きます。 この状態は、胃の中で小さな火事がずっと続いているようなものです。

この炎症が長期間続くと、胃の粘膜がやせて薄くなることがあります。 これを「萎縮性胃炎(いしゅくせいいえん)」と呼びます。 萎縮性胃炎は、がんが発生しやすい土壌となってしまうのです。

ピロリ菌の感染に加えて、日々の生活習慣も胃がんのリスクに関わります。

  • 喫煙 タバコの有害物質は血液に溶け込み、全身を巡ります。 そして胃の粘膜に到達し、細胞を傷つけてしまいます。
  • 塩分の多い食事 塩辛い食べ物は、胃の粘膜を守るバリア機能を弱めます。 バリアが弱ると、炎症が悪化しやすくなります。
  • 多量の飲酒 高濃度のアルコールは、胃の粘膜を直接傷つける原因になります。 胃に負担をかける飲酒習慣は見直しが大切です。

逆に、野菜や果物を多く摂る食生活は、胃がんのリスクを下げるといわれます。 リスクとなる要因を理解し、生活習慣を見直すことが予防につながります。

胃がんの症状

胃がんは、初期の段階では症状がほとんど出ないのが特徴です。 そのため「沈黙の病気」とも呼ばれ、気づかないうちに進行することがあります。 症状が出たとしても、胃炎や胃潰瘍のものとよく似ています。 そのため、ご自身で「いつもの胃もたれかな」と判断してしまうのは危険です。

以下のようなサインに心当たりがないか、一度確認してみましょう。 一つでも当てはまる場合は、注意が必要かもしれません。

【胃がんのサインかもしれない症状リスト】

  • みぞおちの痛み・不快感 食事の前後に関係なく、お腹の上が重い、しくしく痛むなどの感覚です。
  • 胸やけ・お腹の張り 食べたものがいつまでも残っているような、すっきりしない感じが続きます。
  • 吐き気・食欲の低下 以前より食べられなくなったり、好きだったものを受け付けなくなったりします。
  • 原因不明の体重減少 特にダイエットをしていないのに、体重が減ってきた場合は注意が必要です。
  • 黒い便(血便) がんから出血すると、血液が胃酸で黒く変わり、イカ墨のような便が出ます。
  • 貧血による症状 がんからの出血が続くと貧血になり、立ちくらみや息切れが起こりやすくなります。

これらの症状は、胃がんだけに現れるものではありません。 しかし、症状がないからといって安心はできないのです。 実際に、胃がんが見つかった方の半数以上は、症状がない状態で発見されます。 多くは健康診断や人間ドックの胃カメラ検査で見つかっているのです。

気になる症状が続く場合は、自己判断で様子を見ないことが重要です。 「おかしいな」と感じたら、消化器内科など専門の医療機関へご相談ください。

胃がんの検査・診断

胃がんの疑いや、健康診断で異常を指摘された場合、 いくつかの検査を組み合わせて、診断を確定させます。 がんを正確に知ることは、適切な治療への第一歩です。 検査は大きく2つのステップに分かれます。

ステップ1:がん細胞の有無を確認する検査 まず、胃の中に本当にがん細胞があるかを直接確かめます。

  • 胃内視鏡検査(胃カメラ) 口や鼻から細いカメラを入れ、胃の内部を直接観察します。 リアルタイムで粘膜の色や形を詳しく見ることができます。 そのため、ごく小さな初期のがんも見つけやすい検査です。 疑わしい部分が見つかると、その組織を少しだけ採取します。 これを「生検(せいけん)」と呼びます。 採取した組織を顕微鏡で調べ、がん細胞の有無を確定します。
  • 胃部X線検査(バリウム検査) バリウムという白い液体を飲み、レントゲン撮影をします。 バリウムが胃の壁に付着することで、胃の形が影になります。 胃全体の形や、がんによる壁のでこぼこを確認できます。

ステップ2:がんの広がりを調べる検査 胃がんと診断がついたら、次にがんの進行度を調べます。 治療方針を決めるための、とても重要な情報集めです。

検査の種類

主な目的

CT検査

X線を使い体の断面図を撮影します。<br>がんが胃の壁のどこまで深く進んでいるか、<br>周りのリンパ節や他の臓器への転移がないかを調べます。

血液検査(腫瘍マーカー)

がん細胞が作る特殊な物質(CEA、CA19-9など)を測定します。<br>この数値だけでがんの診断はできません。<br>治療の効果を見たり、再発の目安として参考にします。

これらの検査結果を総合的に評価し、診断を確定します。 そして、一人ひとりの状態に合わせた治療計画を立てていきます。

胃がんの治療

胃がんの治療法は、がんの状態と患者さん自身の体力を考えて決まります。 一人ひとりに合わせた「オーダーメイド治療」が基本です。 主に3つの治療法があり、これらを単独または組み合わせて行います。

  • 内視鏡治療 ごく初期のがんで、リンパ節への転移の可能性が極めて低い場合に行います。 口から入れた胃カメラで、胃の内側からがんを剥ぎ取るように切除します。 お腹を切らないので、体への負担が少なく、胃をそのまま残せるのが利点です。
  • 手術(外科治療) 内視鏡治療が難しい場合や、少し進んだがんの基本的な治療法です。 がんの場所や広がりに応じて、胃の一部または全部を切り取ります。 がんが転移しやすい周りのリンパ節も一緒に切除し、再発を防ぎます。
  • 薬物療法(化学療法) 手術が難しい場合や、手術後の再発予防を目的に行われる治療です。 抗がん剤というお薬を使い、全身のがん細胞の増殖を抑えます。 しかし、副作用で食欲が落ちることがあり、治療のつらさにつながります。

最近では、この食欲不振を和らげる治療も進歩しています。 ある研究では、化学療法を受ける胃がん患者さんなどに「オランザピン」というお薬を少量使用しました。 その結果、お薬を使った患者さんの60%で体重が増え、食欲も改善したと報告されています。 栄養状態を保つことは、治療を乗り切る体力を維持するために非常に重要です。 どの治療法が最適か、医師としっかり相談して決めていきましょう。