機能性ディスペプシア

「胃がもたれる」「みぞおちが痛む」といったつらい症状が続いているのに、胃カメラ検査では「異常なし」。そんな経験はありませんか。その不調は、決して珍しいものではなく、調査によっては日本人の10人に1人が悩んでいるとも言われる「機能性ディスペプシア」かもしれません。

この症状は「気のせい」ではなく、胃の動きやストレスに加え、最近の研究では腸内細菌の働きも関係している可能性が指摘されています。パンなどに含まれるグルテンを分解する力が、不調の原因になっている場合もあるのです。

この記事では、機能性ディスペプシアの詳しい原因や症状のタイプ、そしてあなたに合った治療法を見つけるためのヒントを解説します。つらい症状の正体を知り、改善への第一歩を踏み出しましょう。

機能性ディスペプシアの概要

「胃がもたれる」「みぞおちが痛む」といったつらい症状があるのに、胃カメラ検査で異常が見つからない。そんな経験はありませんか。

このように、胃潰瘍やがんなどの病気がないにもかかわらず、胃の不快な症状が慢性的に続く状態を「機能性ディスペプシア」と呼びます。

これは決して珍しい病気ではなく、調査によっては日本人の10人に1人が悩んでいるともいわれる、とても身近な不調の一つです。

原因は一つではありませんが、最近の研究では腸内細菌の働きが関係している可能性が指摘されています。私たちの腸には、食べ物の消化を助ける無数の細菌がいます。

パンやパスタに含まれる「グルテン」というタンパク質も、本来は腸内細菌が作る酵素によって分解されます。しかし、機能性ディスペプシアの方では、このグルテンを分解する酵素を作る能力が、健康な人と比べて変化している場合があることがわかってきました。

つまり、うまく消化されない食べ物が、胃のもたれなどの不快な症状を引き起こしている可能性があるのです。機能性ディスペプシアは「気のせい」ではなく、体の機能に何かが起きているサインです。まずは検査で他の病気がないか確認することが、治療への大切な第一歩となります。

機能性ディスペプシアの種類

機能性ディスペプシアは、現れる症状のパターンによって、主に2つのタイプに分けられます。

これは世界的な診断基準に基づく分類で、胃の動きの異常ではなく症状で判断するのが特徴です。

最近の研究では、機能性ディスペプシアは胃の運動機能障害で定義されるものではないとされています。しかし、一部の方では、胃の運動機能の低下が不調の根本的な原因である可能性も指摘されています。

タイプ

主な症状

食後愁訴(しょくごしゅうそ)症候群<br>(Postprandial Distress Syndrome: PDS)

・食べた後のつらい胃もたれ<br>・すぐに満腹になる感じ(早期飽満感)

心窩部痛(しんかぶつう)症候群<br>(Epigastric Pain Syndrome: EPS)

・みぞおちの痛み<br>・みぞおちが焼けるような感じ

**食後愁訴症候群(PDS)**は、主に食事の後に不快な症状が出るタイプです。 食べ物で胃が適切に広がらない、または食べた物を十二指腸へうまく送り出せない、といった胃の運動機能が関係していると考えられます。

**心窩部痛症候群(EPS)**は、食事の時間に関係なく、みぞおちの痛みが中心のタイプです。 胃酸など、わずかな刺激に胃が過敏に反応してしまう「内臓知覚過敏」が原因の一つとされます。

もちろん、両方のタイプの症状が重なって現れる「重複型」の方もいらっしゃいます。ご自身の症状がどのタイプに近いかを知ることは、治療への大切な一歩となります。

機能性ディスペプシアの原因

機能性ディスペプシアの原因は、一つではありません。 いくつかの要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。 胃だけの問題ではなく、体全体のつながりが大切です。

主な原因として、以下のものが考えられます。

  • 胃や十二指腸の動きの異常 食べたものを胃から十二指腸へ送る働きが弱まります。 また、食事の際に胃がうまくふくらむ機能が低下し、 すぐに満腹感が出てしまうことがあります。
  • 胃の知覚過敏 胃が刺激にとても敏感になっている状態です。 健康な人なら気にならない胃酸や食べ物の刺激を、 「痛み」や「不快感」として感じ取ってしまいます。
  • ストレスなどの心理的要因 不安や緊張などのストレスは自律神経の乱れにつながります。 この乱れが「脳腸相関」を通じて胃の働きに直接影響します。 脳の疲れが、そのまま胃の不調を引き起こすのです。
  • 腸内細菌バランスの変化 最近の研究では、腸内細菌の働きが注目されています。 パンなどに含まれるグルテンを分解する酵素を作る能力が、 機能性ディスペプシアの方では変化している場合があります。 うまく消化されない食べ物が不調の原因になるのです。
  • 他の病気との関連 ぜんそくとの関連も報告されています。 ぜんそくの方では「IL-33」という体内の物質が、 気道だけでなく胃腸の神経にも影響を与えることがあります。 この影響が、胃の動きを悪くする可能性も指摘されています。

このように、生活習慣や他の病気など、 さまざまな要因が胃の不調に関わっています。

機能性ディスペプシアの症状

胃カメラなどの検査で異常がないにもかかわらず、 みぞおち周りのつらい症状が長く続くのがこの病気の特徴です。

生活に影響が出るほどの不快な症状が、 少なくとも3か月以上続いている場合に診断を考え始めます。

症状の現れ方には個人差がありますが、 国際的な診断基準では、主に2つのタイプに分けられます。

症状のタイプ

主な症状

食後愁訴(しょくごしゅうそ)症候群(PDS)

・食後に感じるつらい胃もたれ<br>・すぐに満腹になり食べられない(早期飽満感)

心窩部痛(しんかぶつう)症候群(EPS)

・食事とは関係なく起こる、みぞおちの痛み<br>・みぞおちが焼けるような不快感

これらの代表的な症状以外にも、吐き気やげっぷ、 お腹の張り(膨満感)などが現れることもあります。

これは「胃不全麻痺」という、胃の動きが実際に低下する病気と 似た症状で、機能性ディスペプシアの方の一部では、 胃の運動機能の低下が関係している可能性が考えられます。

また、最近の研究では、胃の不調だけでなく、 しつこい咳との関連も報告されています。

ぜんそくをお持ちの方で機能性ディスペプシアを合併すると、 胃腸の不調が気道の神経に影響を与え、 咳が出やすくなる可能性があることがわかってきました。

もちろん、2つのタイプの症状が重なって現れる方も多く、 ご自身の症状を正しく理解することが治療の第一歩となります。

機能性ディスペプシアの検査・診断

胃のつらい症状の原因が、胃がんなどの重い病気でないかを確認することが何よりも大切です。そのため、症状だけで判断せず、まずは検査で他の病気がないことを確かめる「除外診断」を行います。

実際に、胃カメラ検査で「異常なし」とわかるだけで安心し、約3割の方で症状が軽くなったという報告もあります。不安を取り除くことが、治療の第一歩になるのです。

主な検査方法

以下の検査で、症状を引き起こす形としての異常がないかを調べます。

検査の種類

目的

内視鏡検査(胃カメラ)

胃や十二指腸の粘膜を直接見て、がんや潰瘍がないかを確認します。機能性ディスペプシアの診断で最も重要な検査です。

ピロリ菌検査

症状の原因がピロリ菌感染の可能性もあるため、菌がいるかどうかを調べます。

腹部超音波(エコー)検査

胃だけでなく、膵臓や胆嚢など、周りの臓器に異常がないかを確認します。

血液検査

貧血の有無や肝臓・膵臓の数値を調べ、全身の状態や他の病気の可能性を探ります。

これらの検査で異常が見つからず、かつ症状が診断のルールに当てはまる場合に、機能性ディスペプシアと診断されます。

なお、日常生活に支障が出るほど痛みが強い重症なケースでは、より専門的なアプローチも研究されています。例えば、小児の重症例では、内視鏡を用いた「セリアック神経叢ブロック」という治療が試みられています。

これは胃の近くにある神経の集まりに麻酔をかけ、痛みの信号を和らげる方法です。ある研究では、この治療で平均4.8週間ほど痛みが改善したと報告されています。このように、診断と治療の選択肢は進歩しています。

機能性ディスペプシアの治療

機能性ディスペプシアの治療は、一つの方法だけではありません。 生活習慣、お薬、原因へのアプローチを組み合わせ、 あなたに合った「オーダーメイド治療」を進めていきます。

治療の目標は、つらい症状を和らげ、 快適な毎日を取り戻すことです。

生活習慣の改善

まず基本となるのが、日々の生活を見直すことです。 これだけでも症状が軽くなる方は少なくありません。

  • 食事の工夫 消化の良いものを、腹八分目を心がけて食べましょう。 脂肪の多い食事や香辛料などの刺激物は、 胃に負担をかけるため、控えるのがおすすめです。
  • 十分な休養 睡眠不足や疲れは、自律神経の乱れにつながります。 脳の疲れが胃の不調として現れるため、 しっかりと体を休ませることが大切です。

お薬による治療

生活習慣を改善しても症状が続く場合は、お薬を使います。 症状のタイプに合わせて、お薬を使い分けます。

薬の種類

主なはたらき

胃酸を抑える薬

胃酸の分泌を抑え、刺激に敏感な胃を守ります。

消化管運動改善薬

胃の動きを助け、食べ物の消化と排出を促します。

漢方薬

胃腸の元気を取り戻し、体全体のバランスを整えます。

抗不安薬・抗うつ薬

脳に働きかけ、ストレスや不安が原因の症状を和らげます。

特に、不安やストレスが強く影響している場合は、 抗うつ薬が選択肢の一つになります。

最近の研究では、抗うつ薬が機能性ディスペプシアの 症状を改善する可能性が報告されました。 特に三環系抗うつ薬という種類で、良い結果が示されています。

ただし、この効果は西洋人での報告が中心です。 アジア人では同じような効果が確認されていないのが現状です。 副作用のリスクもあるため、医師とよく相談して慎重に治療を進めます。

ピロリ菌の除菌治療

検査でピロリ菌が見つかった場合は、除菌治療を行います。 お薬でピロリ菌を取り除くことで、症状が改善することがあります。

治療法は一人ひとりの原因や症状によって大きく異なります。 気になる症状があれば、まずは専門の医療機関に相談しましょう。