食事をした後に、食べ物が胸のあたりでつかえるような違和感を覚えたことはありませんか?その不快な症状、単なる食べ過ぎやストレスのせいだと思いがちですが、実は「食道アカラシア」という病気のサインかもしれません。
食道アカラシアは、食道の筋肉を動かす神経のトラブルにより、食べ物が胃へスムーズに流れなくなる病気です。約10万人に1人が罹患するといわれる比較的まれな疾患ですが、20代から40代を中心に、どの年代の方でも発症する可能性があります。
この記事では、食道アカラシアの詳しい原因や症状から、内視鏡やロボット支援手術といった最新の治療法までを分かりやすく解説します。気になる症状の正体を知り、適切な治療への第一歩を踏み出すためにお役立てください。
食道アカラシアの概要
食事をした後に、食べ物が胸のあたりでつかえる感じがしませんか。 食道アカラシアは、食べ物が食道から胃へうまく進まなくなる病気です。
健康な食道は、筋肉が波のように動いて食べ物を胃に運びます。 この動きを「蠕動(ぜんどう)運動」と呼びます。 そして食道と胃のつなぎ目には、門番のように働く筋肉があります。 この筋肉は、食べ物が来たときだけ扉を開けて胃へ通します。
食道アカラシアになると、この2つの働きに問題が起こります。 食道の筋肉を動かす神経のトラブルが原因と考えられています。 ぜん動運動が弱くなったり、なくなったりしてしまうのです。 さらに、胃の入り口の筋肉が硬くなり、うまく開かなくなります。
この病気のポイントを、以下にまとめました。
- どんな病気? 食べ物が食道から胃へスムーズに流れなくなる病気です。
- なぜ起こる? 食道の筋肉を調整する神経の障害が原因とされていますが、 はっきりとした理由はまだわかっていません。
- かかりやすい人は? 20代から40代の方に多いですが、どの年代でも起こりえます。
- 珍しい病気? 約10万人に1人がかかるといわれる、比較的まれな病気です。
治療には、お薬や内視鏡、手術などの選択肢があります。 手術では、硬くなった筋肉を切って食べ物の通り道を広げます。 近年では、ロボット支援手術という選択肢も増えています。 ある研究では、お腹に小さな穴を開ける腹腔鏡手術に比べ、 ロボット支援手術は合併症のリスクを減らす可能性が示されました。 具体的には、手術中に食道に穴が開く合併症(食道穿孔)です。 ただし、どちらの手術が優れているか結論は出ておらず、 現在も研究が続けられている段階です。
食道アカラシアの種類
食道アカラシアは、実はいくつかの種類に分けられます。 一人ひとり病気の状態が違うため、正しく分類することが大切です。 これは、その方に合った最適な治療法を見つけるためです。 分類は主に、食道の「形」と「筋肉の動き」の2つの視点で行います。
1. 食道の「形」による分類
バリウムを使ったレントゲン検査で、食道の形を評価します。 食道がどれくらい太くなっているか(拡張度)で分類します。
|
食道の太さ(拡張度)
|
横幅の目安
|
|
Ⅰ度
|
3.5cm未満
|
|
Ⅱ度
|
3.5cm以上 6.0cm未満
|
|
Ⅲ度
|
6.0cm以上
|
2. 食道の「筋肉の動き」による分類
食道内の圧力を測る専門的な検査で、筋肉の動き方を調べます。 この「シカゴ分類」では、主に3つのタイプに分けられます。
- タイプⅠ 食道の筋肉がまったく動かない、典型的なタイプです。
- タイプⅡ 食べ物を飲み込んだときに、食道全体の圧力が異常に高まります。
- タイプⅢ 食道の一部がけいれんするように、不規則に収縮するタイプです。
これらの分類は、治療法を選ぶ上で非常に重要な情報となります。 特に筋肉がけいれんするタイプⅢでは、治療を慎重に考える必要があります。 ある研究では、タイプⅢの治療では筋肉をより広く切る必要があると報告されています。 具体的には、他のタイプの平均約10cmに対し、タイプⅢでは平均約14cmの切開が行われます。 このように病状を正しく把握することが、適切な治療への第一歩なのです。
食道アカラシアの原因
食道アカラシアが起こる直接的な原因は、食道の筋肉を動かす「神経」の異常です。
私たちの食道の壁の中には、食べ物の動きを調整する司令塔のような神経の集まりがあります。 この神経が、食べ物が胃にスムーズに運ばれるように、とても細かく命令を出しているのです。
しかし、食道アカラシアでは、この大切な神経細胞が原因不明に壊れたり、数が減ったりします。 司令塔がうまく働かなくなると、次のような問題が起きてしまいます。
- 蠕動(ぜんどう)運動がなくなる 食べ物を胃へ運ぶための、波のような筋肉の動きが失われます。
- 胃の入り口がゆるまない 食事をしても胃の入り口が固く閉じたままになり、食べ物が通りにくくなります。
なぜ神経に異常が起こるのか、その根本的な原因はまだはっきりとわかっていません。 しかし、現在ではいくつかの説が有力と考えられています。
- ウイルス感染説 特定のウイルスに感染したことが、神経細胞が壊れる引き金になるのではないかという考え方です。
- 自己免疫説 本来は体を守るはずの免疫システムが、誤って自分の食道の神経を攻撃してしまうという考え方です。
このように、原因の解明に向けて現在も研究が進められています。 原因がはっきりしなくても、症状を和らげるための治療法は確立されていますのでご安心ください。
食道アカラシアの症状
食道アカラシアは、食べ物が胃へスムーズに進まなくなる病気です。 そのため、食事に関わるさまざまなサインがあらわれます。 初期の症状は軽いため、気づきにくいこともあります。 ご自身にあてはまるものがないか、一緒に確認してみましょう。
【主な症状のチェックリスト】
- 飲み込みにくさ(嚥下困難) 食事の際、食べ物が胸のあたりでつかえるように感じます。 お肉などの固形物だけでなく、水やお茶でも起こるのが特徴です。
- 胸の痛みや不快感 食事中や食後に、胸が締めつけられるような痛みを感じます。 この症状は患者さんの約半数にみられ、時には強い痛みとなります。
- 食べたものが戻ってくる(逆流・嘔吐) 胃に届かなかった食べ物が、口まで逆流することがあります。 胃液と混ざっていないため、食べたものがそのままの形で出てきます。
- 意図しない体重の減少 食事が十分に摂れなかったり、吐いてしまったりするため、 自然と体重が減ってしまうことがあります。
飲み込みにくさや胸の痛みは、この病気の代表的な症状です。 これらの症状は、治療がうまくいっているかを評価する指標にもなります。 そのため、手術の方法によって治療後の症状の出やすさに違いがあるか、 という比較研究も行われているほど重要なサインなのです。
その他にも、以下のような症状がみられることがあります。
- 胸やけ
- げっぷ
- 夜、咳き込んで目が覚める
- 食べ物が気管に入って起こる肺炎(誤嚥性肺炎)
これらの症状は、ストレスを感じたり、早食いをしたり、 冷たいものを食べたりしたときに悪化しやすい傾向があります。 気になる症状が続く場合は、消化器内科に相談しましょう。
食道アカラシアの検査・診断
食道アカラシアが疑われる場合、まず診断を確定させることが大切です。 また、食道がんなど似た症状の別の病気ではないかを確認します。 診断は、主に以下の検査を組み合わせて慎重に進められます。
- 食道造影検査(バリウム検査) バリウムという白い液体を飲んでレントゲン撮影をします。 食道の形や動き、食べ物の通り具合を観察します。 食道と胃のつなぎ目が、鳥のくちばしのように細くなるのが特徴です。
- 上部消化管内視鏡検査(胃カメラ) 口や鼻から細いカメラを入れて、食道の粘膜を直接見ます。 食道がんなど、他の病気がないかを確認する上で非常に重要です。 食道の中に食べ物がたまっていないかなども評価します。
- 食道内圧測定検査 診断を確定するための、より詳しい検査です。 鼻から細いチューブを入れ、食道の筋肉の圧力や動きを測ります。 この病気に特徴的な、筋肉の異常な動きをはっきりと捉えます。
|
検査の種類
|
主な目的
|
|
食道造影検査
|
食道の形や食べ物の流れ、広がり具合を見る
|
|
上部消化管内視鏡検査
|
食道がんなど、他の病気がないことを確認する
|
|
食道内圧測定検査
|
食道の筋肉の動きを測り、診断を確定する
|
これらの検査で病状を正確に把握し、タイプを分類します。 なぜなら、どのタイプかによって最適な治療法が変わるからです。 ある研究では、POEMという内視鏡治療の成功率が報告されています。 タイプⅠで86.1%、タイプⅡで87.9%と、タイプによる差が示されました。 適切な検査で正確に診断することが、良い治療への第一歩なのです。
食道アカラシアの治療
食道アカラシアの治療の目的は、とてもシンプルです。 硬くなってしまった食道と胃のつなぎ目を広げることです。 食べ物の通り道を良くして、スムーズな食事を取り戻します。
治療法はいくつかあり、体の状態や病気のタイプで選びます。 主に、お薬、内視鏡、手術という3つの選択肢があります。
|
治療法
|
特徴
|
|
薬物療法
|
カルシウム拮抗薬というお薬で、筋肉の緊張を緩めます。
効果は一時的で、根本的な解決にはなりにくいです。
|
|
内視鏡治療
(POEM)
|
口からのカメラで食道の筋肉を切ります。
体に傷が残らず、回復が早いのが利点です。
|
|
外科手術
(Heller筋層切開術)
|
お腹の小さな穴から、食道の筋肉を切ります。
胃酸の逆流を防ぐ手術を同時に行うことが多いです。
|
内視鏡治療(POEM:ポエム)
POEMは、口から入れた内視鏡で行う比較的新しい治療法です。 食道の壁の内側にもぐりこみ、筋肉だけを正確に切開します。 長期的な効果も期待でき、5年後でも約82%で良好な結果です。
一方で、治療後に胃酸が食道へ逆流しやすくなることがあります。 ある研究では、長期的に見ると約24%の方に逆流の症状が、 約17%の方に逆流性食道炎が見られたというデータがあります。
切開する筋肉の長さは、病状に合わせて調整します。 平均で約10.4cmですが、けいれんが強いタイプⅢでは、 より長く約14cm切る必要があると報告されています。 最近では、手術時間を短くするため切る長さを短くする研究も進んでいます。
外科手術(Heller筋層切開術)
お腹に数カ所の小さな穴を開けて、筋肉を切開する手術です。 近年では、ロボットの支援を受けて行うことも増えました。 ロボット支援手術は、手術中に食道に穴が開く合併症のリスクを、 減らす可能性があることが研究で示されています。
この手術では、胃酸の逆流を防ぐ処置を同時に行うのが一般的です。 しかし、この逆流防止の処置を追加しても、しなくても、 術後の逆流症状の発生率に大きな差はない、という報告もあります。
どの治療法にも長所と短所があります。 専門の医師とよく相談し、ご自身に合う治療法を選びましょう。