十二指腸潰瘍

空腹時や真夜中に、みぞおちがキリキリと痛むことはありませんか?その不快な症状は、胃酸が十二指腸の壁を深く傷つける「十二指腸潰瘍」のサインかもしれません。

原因はピロリ菌だけだと思っていませんか?実は最新の研究で、ピロリ菌の有無にかかわらず、腸内細菌全体のバランスの乱れ(ディスバイオシス)が発症に深く関わっていることが明らかになってきました。

この記事では、意外と知られていない本当の原因から、放置すると危険な黒い便といったサイン、そしてあなたに合った治療法までを詳しく解説します。ご自身の体を守るための正しい知識を、ここで手に入れてください。

十二指腸潰瘍の概要

十二指腸潰瘍とは、胃と小腸をつなぐ十二指腸の壁が、胃酸によって深く傷つけられてしまう病気です。

私たちの体の中では、攻撃と守りの絶妙なバランスが保たれています。

  • 攻撃する力
  • 食べ物を消化するための、とても強い酸である「胃酸」です。
  • 守る力
  • 胃酸から壁を守る「ネバネバした粘液のバリア」です。

普段、十二指腸はこの粘液のバリアで守られています。しかし、このバランスが崩れて攻撃する力が強くなると、壁が傷つき、潰瘍ができてしまうのです。

これまで、主な原因はピロリ菌の感染や薬の副作用と考えられてきました。しかし最近の研究で、原因はそれだけではないことがわかってきています。

ピロリ菌だけでなく、お腹の中にいる様々な細菌たちのバランスが崩れること(ディスバイオシス)も、潰瘍の発生に深く関わっているのです。ピロリ菌がいてもいなくても、腸内細菌全体のバランスが乱れることが、胃や十二指腸の病気につながる可能性が指摘されています。

十二指腸潰瘍の種類

十二指腸潰瘍は、いくつかの種類に分けられます。 「なぜ潰瘍ができたのか」という原因による分け方と、「潰瘍がどれだけ悪化しているか」という危険な状態(合併症)による分け方があります。

原因による分け方

潰瘍ができた原因によって、主に3つの種類に分けられます。

種類

特徴

ピロリ菌による潰瘍

十二指腸潰瘍で最も多い原因です。ピロリ菌が胃の中で悪さをすることで、十二指腸の壁を守るバリアを壊してしまいます。最近の研究では、ピロリ菌だけでなくお腹全体の細菌バランスが崩れること(ディスバイオシス)も潰瘍の原因になるとわかってきました。

お薬による潰瘍

痛み止めや熱冷まし(非ステロイド性抗炎症薬:NSAIDs)を長く使い続けると、十二指腸を守る力が弱まり、潰瘍ができてしまうことがあります。特に、一部の心の病気のお薬(SSRI)と痛み止めを一緒に飲むと、出血の危険が高まることが報告されています。

ストレスによる潰瘍

ここで言うストレスは、精神的なものだけではありません。大きな手術やケガ、やけどなどで体に強い負担がかかることです。体の血の巡りが悪くなり、十二指腸の壁が弱って潰瘍ができます。

危険な状態(合併症)による分け方

潰瘍を放っておくと、命に関わる危険な状態になることがあります。 これを合併症(がっぺいしょう)と呼びます。

  • 出血(しゅっけつ) 潰瘍が深くなって血管を傷つけ、血が出てしまう状態です。 血が胃酸に触れると黒くなるため、便が真っ黒(タール便)になるのがサインです。
  • 穿孔(せんこう) さらに潰瘍が深くなり、十二指腸の壁に穴が開いてしまう状態です。 お腹の中に胃酸などが漏れ出し、激しい痛みが起こります。 緊急手術が必要になる、とても危険な状態です。

十二指腸潰瘍の原因

十二指腸の壁は、胃酸という強い酸から身を守る力を持っています。 しかし、この「攻撃」と「防御」のバランスが崩れると壁が傷つき、潰瘍ができてしまいます。 その原因は一つだけではなく、いくつかの要因が重なって起こることが多いのです。

ピロリ菌とお腹の細菌バランスの乱れ

十二指腸潰瘍の最も多い原因は、ピロリ菌という細菌の感染です。 しかし最近の研究では、ピロリ菌だけが悪さをしているわけではないとわかってきました。

私たちの腸内には、たくさんの種類の細菌が暮らしています。 ピロリ菌がいてもいなくても、この細菌全体のバランスが崩れること(ディスバイオシス)が、潰瘍の発生に深く関わっているのです。 お腹の細菌バランスが乱れると、十二指腸の防御力が弱まってしまいます。

お薬の副作用

痛み止めや熱冷ましとしてよく使われるお薬も、原因の一つです。 これらの薬(非ステロイド性抗炎症薬:NSAIDs)は、十二指腸の壁を守る粘液のバリアを作る働きを弱めてしまうことがあります。 長期間、お薬を飲み続ける場合は特に注意が必要です。

生活習慣やストレスも関係

以下の要因も、胃酸の攻撃力を強めたり、防御力を弱めたりします。

  • ストレス
  • 精神的な悩みだけでなく、大きな手術やケガによる体への負担も含まれます。
  • 喫煙
  • タバコは十二指腸の血の流れを悪くし、壁の防御力を下げてしまいます。
  • 過度のアルコール摂取
  • アルコールは直接、十二指腸の粘膜を傷つける可能性があります。

ちなみに、歯周病が「胃潰瘍」のリスクを高める可能性は指摘されています。 しかし、現在の研究では歯周病と「十二指腸潰瘍」の直接的な関係は確認されていません。 このように、様々な原因が複雑に絡み合って十二指腸潰瘍は発症します。

十二指腸潰瘍の症状

十二指腸潰瘍で最も特徴的なサインは、みぞおちの痛みです。 特に、お腹がすいている時や夜中に痛むことが多くあります。 食事をすると胃酸が薄まるため、一時的に痛みが和らぐのも特徴です。

その他にも、次のような症状がないかチェックしてみましょう。 ご自身の体調を振り返り、当てはまるものがないか確認してください。

  • 胸やけ・呑酸(どんさん)
  • 胸が焼けるような感じや、酸っぱいものが上がってくる感じがします。
  • お腹の張り
  • ガスが溜まっているような、お腹がパンパンに張る感覚です。
  • 吐き気・嘔吐(おうと)
  • むかむかしたり、実際に吐いてしまったりすることがあります。
  • 食欲の低下
  • 食べたいという気持ちが起こりにくくなります。

潰瘍が深くなると、血管を傷つけて出血することがあります。 出血すると、便がイカ墨のように真っ黒になる(タール便)ことがあります。 これは、血液が胃酸と混ざることで黒く変化するためです。

また、貧血になってめまいや立ちくらみが起きることもあります。 まれに、潰瘍で壁に穴が開いて(穿孔:せんこう)、突然の激痛に襲われることもあり、これは命に関わる危険な状態です。

特に、以下に当てはまる方は出血のリスクが高まるため注意が必要です。

  • 糖尿病や腎臓の病気がある方
  • 血液をサラサラにする薬(アスピリンやワルファリンなど)を飲んでいる方
  • 痛み止め(NSAIDs)と、一部の心の病気の薬(SSRI)を一緒に飲んでいる方

最近の研究では、痛み止めと一部の心の病気の薬の併用は、消化管出血の危険性を高めることがわかっています。 このような症状に気づいたら、すぐに医療機関を受診しましょう。

十二指腸潰瘍の検査・診断

みぞおちの痛みなどの症状で病院を受診すると、まず詳しいお話を聞く「問診」から始まり、必要に応じて精密検査へと進みます。 診断は、お話の内容と検査結果を総合的に判断して行います。

問診(お話を聞くこと)

まず、症状について詳しくお話を伺います。 いつから、どんな痛みがあるか、食事との関係などを確認します。 また、診断や治療方針を決めるために、以下の情報がとても重要です。

  • 服用中のお薬
  • お薬手帳があれば、ぜひお持ちください。
  • 痛み止めや熱冷まし、血液をサラサラにする薬は、潰瘍や出血のリスクを高めることがあります。
  • 最近の研究では、一部の心の病気のお薬(SSRI)と痛み止めを一緒に飲むと、消化管出血の危険性が高まることがわかっています。
  • 持病の有無
  • 糖尿病や腎臓の病気なども、出血のリスクに関係することがあります。
  • 治療中の病気があれば、必ず医師に伝えてください。
  • 生活習慣
  • 喫煙や飲酒の習慣、ストレスの状況なども診断の助けになります。

精密検査(くわしく調べる検査)

問診で十二指腸潰瘍が疑われる場合、次のような検査で詳しく調べます。 どの検査を行うかは、患者さんの状態に合わせて医師が判断します。

検査の種類

検査内容

上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)

口や鼻から細いカメラを入れ、食道・胃・十二指腸の壁を直接観察します。潰瘍の場所や大きさ、出血の有無などを正確に把握できる最も確実な診断方法です。必要に応じて、組織を少しだけ採取し(生検)、ピロリ菌や他の病気の可能性を調べます。

ピロリ菌検査

十二指腸潰瘍の大きな原因であるピロリ菌の感染を調べる検査です。胃カメラを使わずに、息・血液・便で調べる方法と、胃カメラの際に組織を採取して調べる方法があります。

X線検査(バリウム検査)

バリウムという白い液体を飲んで、レントゲン撮影をします。潰瘍による壁のへこみなどを確認しますが、小さな変化は見つけにくいため、現在は胃カメラでの検査が主流です。

これらの検査結果をもとに、十二指腸潰瘍の診断を確定させ、一人ひとりの原因に合った治療計画を立てていきます。

十二指腸潰瘍の治療

十二指腸潰瘍の治療は、2つの目標を同時に目指します。 一つは「潰瘍ができた原因を取りのぞくこと」です。 もう一つは「できてしまった傷を優しく治すこと」です。 ほとんどの場合、お薬を飲む治療で良くなります。

治療の基本は、胃酸の攻撃力を弱めることです。 胃酸が減れば、傷ついた十二指腸の壁も回復しやすくなります。 原因や症状に合わせて、主に以下のお薬を使います。

お薬の種類

主な働き

胃酸を抑えるお薬

胃酸が作られるのを強力にブロックします。多くの研究で、潰瘍の治療や再発を防ぐ効果が高いと報告されている、とても信頼できるお薬です。プロトンポンプ阻害薬(PPI)などがこの仲間です。

ばい菌をやっつけるお薬

原因がピロリ菌の場合に使います。2種類の抗生物質と胃酸を抑えるお薬をセットで1週間飲み、ピロリ菌を退治します。

壁を守るお薬

十二指腸の壁の表面にバリアを張り、胃酸の攻撃から守ります。傷が早く治るのを手助けしてくれるお薬です。

痛み止めのお薬が原因の場合は、そのお薬をやめたりします。 または、胃への負担が少ない種類に変えることもあります。 これらは必ずお医者さんと相談して決めましょう。

ごくまれに、潰瘍からたくさん血が出たり、壁に穴が開いたり(穿孔)することがあります。 その場合は、胃カメラを使った治療や手術が必要です。 手術後には、早く回復するための工夫も進んでいます。 「ファストトラックリカバリー」という特別なプログラムです。 この方法は、合併症のリスクを減らし、入院期間を短くできることが研究でわかっています。