十二指腸憩室症

健康診断の胃カメラなどで「十二指腸憩室(けいしつ)」を指摘されたことはありませんか?これは十二指腸の壁が外側へぽこっと袋のように飛び出す状態で、決して珍しいものではなく、人口の2~7%に見られると言われています。特に高齢の女性に多く、その割合は男性の約2倍ともされています。

その9割以上は生涯無症状で、治療の必要もありません。しかし、ごく一部(約1%)の方では、憩室が原因で大量出血や強い炎症といった、命に関わる合併症を引き起こす危険性もゼロではないのです。中年以降で原因がはっきりしない胃腸の出血がある場合、この病気が隠れている可能性も考えられます。

この記事では、多くは心配いらない十二指腸憩室症について、その原因や症状、そして注意すべき危険なサインについて詳しく解説します。ご自身の状態と照らし合わせ、正しい知識を身につけましょう。

十二指腸憩室症の概要

十二指腸は、胃と小腸をつなぐ消化管の一部です。 この十二指腸の壁が、風船のように外側へぽこっと飛び出した状態を「十二指腸憩室(けいしつ)」と呼びます。

決して珍しいものではなく、人口の2~7%程度の方に見られるといわれています。 特にご高齢の方や女性に多く、男性の約2倍ともされています。

十二指腸憩室症の主な特徴

  • ほとんどは無症状 9割以上の方は特に症状がなく、健康診断の胃カメラなどで偶然発見されることがほとんどです。
  • 治療が必要なのはごく一部 症状がなければ、基本的に治療は必要ありません。 治療が必要になるのは、憩室を持つ方のうち約1%とごくわずかです。
  • まれに合併症を起こすことがある 憩室から出血したり、炎症を起こしたりすることがあります。 特に憩室からの出血は、頻度は非常にまれですが、ときに大量出血につながる危険性があります。

そのため、中年以降の方で原因がはっきりしない胃腸からの出血がある場合、この病気の可能性も考えて検査を進めることが重要です。 多くは心配いりませんが、もし症状が出た際にはすみやかな対応が必要となる病気です。

十二指腸憩室症の種類

十二指腸憩室は、できる場所によって種類が分けられます。 特に重要なのが、胆汁や膵液という消化液の出口である、「十二指腸乳頭(にゅうとう)」の近くにできるかどうかです。

膵胆管乳頭周囲憩室(PAD)

十二指腸憩室の多くは、この十二指腸乳頭の周りにできます。 これを「膵胆管乳頭周囲憩室(すいたんかんにゅうとうしゅういけいしつ)」と呼び、さらに2つのタイプに分類されます。

種類

特徴

憩室内乳頭(IDP)

消化液の出口である十二指腸乳頭が、

憩室という袋の内側に存在するタイプです。

憩室近傍乳頭(non-IDP)

十二指腸乳頭が、憩室の**外側(すぐ近く)**に

存在するタイプです。

この分類は、将来的に治療が必要になった際に重要です。 例えば、総胆管結石の治療などで行う内視鏡検査(ERCP)では、憩室のタイプによって処置の難しさや合併症のリスクが変わります。

近年の研究では、乳頭が憩室の中にあるIDPタイプは、内視鏡での処置が難しくなる可能性があると報告されています。 また、膵胆管乳頭周囲憩室がある方は、ない方と比べて、内視鏡検査後の膵炎や出血のリスクがわずかに高くなるというデータもあります。

そのため、憩室が見つかった際は、どのタイプなのかを医師が正確に把握しておくことが、将来の安全な治療につながるのです。

十二指腸憩室症の原因

十二指腸憩室ができる明確な原因は、まだ完全には解明されていません。 しかし、そのほとんどは生まれた後の生活などが関わる「後天性」のものです。 ごく一部に、生まれつきの「先天性」が原因となる場合もあります。

後天性の原因

ほとんどの十二指腸憩室は、後天的な原因で作られると考えられています。 これは、主に以下の2つの要因が重なることで起こります。

  • 加齢による腸の壁の弱まり
    年齢とともに体の筋肉が衰えるように、十二指腸の壁も少しずつ弱くなります。 壁を支える筋肉の層が薄くなり、弾力が失われてしまうためです。
  • 腸の中の圧力の上昇
    腸は、食べ物を先へ送るために常に動いています。 この腸の動きによって、内部の圧力が高まることがあります。

この2つの条件がそろうと、弱くなった腸の壁が圧力に耐えきれなくなります。 その結果、壁の一部が外側へぽこっと飛び出してしまい、憩室が形成されるのです。

先天性の原因

一方で、数は非常に少ないですが、生まれつきの憩室もあります。 お母さんのお腹の中で腸が作られる過程で、壁の一部が弱い状態で生まれてくることが原因です。 生まれつき存在する憩室の代表的なものに「メッケル憩室」があります。

また、体の構造的な問題が憩室の原因となることもあります。 例えば、「上腸間膜動脈症候群(SMAS)」という稀な病気が挙げられます。 これは、太い血管が十二指腸を強く圧迫してしまう状態のことです。 血管に押さえつけられることで十二指腸に常に負担がかかり、憩室ができる一因になると考えられています。 新生児でこの病気が見つかることも、ごくまれに報告されています。

十二指腸憩室症の症状

十二指腸憩室を持つ方の多くは、生涯にわたって無症状で過ごします。 症状が現れるのは10%未満といわれ、ほとんどは無症状です。

しかし、まれに以下のような症状や合併症を引きおこすことがあります。

【主な症状】 憩室という袋の中に食べ物がたまることで、お腹の不快感が出ます。

  • お腹の張り(腹部膨満感) 食べ物が憩室に滞留することで、お腹が張ったように感じます。
  • みぞおちの痛み 憩室が刺激されることで、みぞおちのあたりに痛みが出ます。
  • 吐き気・嘔吐 食べ物の消化がスムーズに進まず、吐き気を感じることがあります。

【注意が必要な合併症のサイン】 ごく一部の方ですが、憩室が原因で重い合併症を発症することがあります。 以下のような症状は、すぐに医療機関を受診してください。

  • 憩室からの出血 憩室の壁から出血し、黒い便(タール便)や吐血がみられます。 中年以降の方で原因不明の胃腸出血がある場合、この病気を疑います。 非常にまれですが、ときに命に関わる大量出血を起こす危険性があります。
  • 憩室の炎症や穿孔(せんこう) 憩室に細菌が感染すると、強い腹痛や発熱を伴います。 まれに憩室の壁に穴があく「穿孔」という状態になることもあります。
  • 他の臓器への影響 胆管などを圧迫して胆管炎や膵炎を起こすことがあります。 また、炎症が腸に及び「瘻孔(ろうこう)」というトンネルを作ることもあります。 この場合、腹痛や体重減少のほか、便のようなものを吐く症状も報告されています。

十二指腸憩室症の検査・診断

十二指腸憩室は、ほとんど症状が出ないことが特徴です。 そのため、健康診断や他の病気の検査の際に偶然見つかることが大半です。 診断のためには、お腹の中を詳しく調べる以下のような検査が行われます。

【主な検査方法】

検査の種類

どんな検査?

この検査でわかること

上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)

口や鼻から細いカメラを入れて、

食道や胃、十二指腸を直接見ます。

憩室の有無や場所、大きさ、

炎症を起こしていないかを

正確に確認できます。

腹部CT検査

X線を使って、体の断面図を

撮影する検査です。

憩室の場所だけでなく、周りの臓器との

位置関係や炎症の広がり具合まで

詳しく評価できます。

上部消化管造影検査

バリウムを飲んでから

レントゲン撮影を行います。

憩室の正確な形や大きさを

影絵のように映し出して

調べることができます。

これらの検査で十二指腸に憩室が見つかると、十二指腸憩室症と診断されます。

また、憩室が胆管や膵管という消化液の通り道の近くにある場合は、より詳しい検査が必要になることがあります。 胆石などの治療で行う「内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)」という精密検査がその一つです。

このタイプの憩室は、検査の難易度に影響することがあります。 特に、消化液の出口が憩室の中にあるタイプ(IDP)は、検査で使う細い管が入りにくくなることが報告されています。

しかし、最近の研究では内視鏡の技術が進歩したことがわかっています。 2015年以降は、憩室があってもERCPの成功率は以前ほど下がらなくなりました。 医師は憩室のタイプを把握し、より安全な方法で検査を進めます。

ただ、憩室がある方は、ない方に比べて検査後の合併症に注意が必要です。 膵炎や出血といった合併症が起こる可能性が少し高くなるというデータもあります。 そのため、検査後は体調の変化に気を配ることが大切です。

十二指腸憩室症の治療

十二指腸憩室は、ほとんどの場合で症状が出ません。 そのため、特別な治療は必要なく、経過観察となることが一般的です。

しかし、憩室が原因で何らかの症状や合併症があらわれた際には、治療が必要になります。 治療法は、その症状や合併症の種類によって大きく異なります。

出血が起きた場合の治療

中年以降の方で原因がはっきりしない胃腸からの出血がある場合、十二指腸憩室が原因の可能性があります。 憩室からの出血は、頻度は非常にまれですが、ときに命に関わるほどの大量出血につながる危険性があります。 そのため、迅速な対応がとても重要になります。

出血を止めるための治療法には、主に以下の2つがあります。

  • 内視鏡(胃カメラ)による止血 口や鼻から入れたカメラで出血している場所を直接見て、特殊な器具を使って血を止めます。
  • カテーテル治療 足の付け根などから細い管(カテーテル)を血管の中に入れ、出血の原因となっている血管を内側から詰めて血を止めます。

どちらの治療法を選ぶかは、患者さんの全身の状態を慎重に評価し、より安全で効果的な方法を医師が判断します。

炎症や穿孔(せんこう)が起きた場合の治療

憩室に細菌が感染して炎症を起こした場合(憩室炎)は、まず抗生物質を使って治療します。

しかし、まれに炎症がひどくなり、重い合併症が起きることがあります。 例えば、憩室の壁に穴があく「穿孔」や、他の臓器とトンネルでつながってしまう「瘻孔(ろうこう)」です。 瘻孔ができた場合、便のようなものを吐いてしまうといった症状が報告されています。 このような重い合併症が起きた際には、手術による治療が必要になることがあります。