慢性胃炎
胃のもたれや胸やけを「いつものこと」と放置していませんか。慢性胃炎は特有の症状が乏しく、自覚が難しい病気とされています。原因の大部分を占めるピロリ菌感染は、世界で最も一般的な慢性細菌感染症の一つです。
この記事では、慢性胃炎の仕組みや原因、検査方法を詳しく解説します。ピロリ菌感染だけでなく薬剤や生活習慣も原因となりうるため、症状を和らげる薬や根本治療の選択肢についても紹介します。
ご自身の不調の背景にある可能性がわかり、放置するリスクを理解できます。適切な対処法を知ることは、将来の胃がんのリスクを減らし、健康を守るための重要な一歩となります。
慢性胃炎の概要
慢性胃炎とは、胃の粘膜が長期間にわたる炎症によって徐々に薄く、弱ってしまう(萎縮する)病気です。炎症が続くと、胃酸などを分泌している「腺細胞」という組織が壊れて数が減少し、食べ物を消化する働きが弱まります。
慢性胃炎に特有の症状というものはなく、多くは胃のもたれや胸やけといったありふれた不調として現れます。そのためご自身で気づくのは難しいかもしれません。また、症状の強さと胃の粘膜の萎縮の進み具合は、必ずしも一致しないのも特徴です。
慢性胃炎は、慢性腎臓病(CKD)のような他の病気が背景にあるケースも少なくありません。ある研究では、透析を受けていない慢性腎臓病の患者さんでは、ピロリ菌の感染率が低いにもかかわらず、特定の種類の胃炎(幽門部胃炎や紅斑性胃炎など)が起こりやすいことがわかっています。※
これは、体内に蓄積した老廃物(尿毒素)や血流の悪化などが、胃の粘膜に直接ダメージを与えているためと考えられています。※ このように、胃の不調は体からの重要なサインであり、胃潰瘍や胃がんといった他の病気の可能性も考えられるため、自己判断で放置しないことが大切です。
慢性胃炎の種類
慢性胃炎は、胃の粘膜がどのような状態にあるかによって、主に以下の3つのタイプに分けられます。
・出血とびらんのある胃炎
胃の粘膜の表面が傷つき、「びらん」と呼ばれる浅い粘膜の欠損(ただれ)や出血が見られるタイプです。ストレスや非ステロイド性消炎鎮痛剤(NSAIDs)、アルコールの過剰摂取などが原因となることがあります。
・びらんのない胃炎
一般的に「慢性胃炎」というと、このタイプを指す場合がほとんどです。ピロリ菌の長期感染などによって炎症が続き、胃の粘膜が徐々に薄くなってしまう「萎縮(いしゅく)」が進んだ状態をいいます。萎縮が進行すると、胃酸を分泌する機能も低下していきます。
・特殊型胃炎
発症は非常にまれですが、特定の病気や遺伝的な要因が背景にある胃炎です。代表的なものをいくつか紹介します。
・膠原性胃炎(こうげんせいいえん):胃の粘膜の下にコラーゲンという線維組織が異常に厚くたまってしまう病気です。内視鏡で観察すると、胃の粘膜がゴツゴツとした石畳のように見える特徴的な所見がみられます。※
・若年性ポリープ症候群に伴う胃炎:遺伝性の病気である「若年性ポリープ症候群」が背景となり、慢性胃炎が起こるケースです。胃の入り口(噴門部)から始まった炎症が、生涯にわたって胃全体へと進行していく可能性があります。※
・その他:クローン病のような消化管の病気や、ウイルス・真菌(カビ)などの感染が原因となることもあります。
ひとくちに「慢性胃炎」といっても、その原因や状態はさまざまです。原因によって治療方針も変わってくるため、内視鏡検査(胃カメラ)で胃の粘膜の状態を直接観察し、正確に診断することが治療の第一歩となります。
慢性胃炎の原因
慢性胃炎の最大の原因はヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)の感染ですが、その他にも薬剤や生活習慣、ウイルス感染など、さまざまな要因が複雑に関与しています。
中でも、原因の大部分を占めるのがピロリ菌の感染です。ピロリ菌は世界で最も一般的な慢性細菌感染症の一つであり、感染すると慢性胃炎だけでなく、消化性潰瘍や胃がんのリスクを高めるため、すべての感染者は治療を受けることが望ましいとされています。※
ピロリ菌は、胃の粘膜にすみ着くと「CagA(キャグエー)」や「VacA(バクエー)」といった毒素を産生します。これらの毒素が胃の細胞を傷つけ、持続的な炎症を引き起こすことで、胃を守る機能が徐々に低下していくのです。さらに、ピロリ菌は人の免疫システムから巧みに逃れながら、発がんにつながる信号を増強させる働きがあることもわかっています。※
ピロリ菌の感染がなくても、以下のような要因で慢性胃炎が起こることがあります。
・薬剤:痛み止め(非ステロイド性消炎鎮痛剤:NSAIDs)の長期服用
・生活習慣:アルコールの過剰摂取、喫煙
・ストレス:精神的な負担による自律神経の乱れからくる胃酸分泌の異常
・その他:自己免疫の異常など
また、ピロリ菌と、口唇ヘルペスなどの原因となるエプスタイン・バーウイルス(EBV)が同時に感染する「混合感染」も、胃炎を悪化させる要因として注目されています。これらの病原体が胃の中で互いに影響し合うと、炎症を引き起こす信号がさらに増幅され、将来的に腫瘍(がん)が発生しやすい土壌を作り出してしまう可能性が指摘されているのです。※
このように、慢性胃炎の原因は一つとは限りません。胃の不調が続く背景には複数の要因が隠れている可能性もあるため、自己判断せず専門医に相談し、原因を正確に突き止めることが治療の第一歩となります。
慢性胃炎の症状
慢性胃炎には「これがあれば確実」という特有の症状はなく、胃の粘膜がどれだけ弱っているか(萎縮の程度)と、症状の強さが必ずしも一致しないという特徴があります。胃の状態が悪化していても全く症状がない方もいれば、比較的軽い炎症でも強い不快感を訴える方もいるのです。
代表的な症状として、次のようなものが挙げられます。
・胃のもたれ、むかつき
・食後の膨満感(お腹が張る感じ)
・みぞおちの痛み(上腹部痛)
・吐き気、嘔吐
・食欲不振
・胸やけ
これらの不調は、食事の前後や空腹時、夜間など、人によってさまざまなタイミングで現れます。
特に、慢性腎臓病(CKD)を抱えている方の場合、吐き気や食欲不振といった消化器症状がよりはっきりと現れる傾向があることがわかっています。※
また、膠原性胃炎(こうげんせいいえん)のような非常にまれなタイプの胃炎では、吐き気やお腹の張り、みぞおちの痛みが長期間にわたって続くことも報告されています。※
ここで挙げた症状は、胃潰瘍や胃がんといった他の重大な病気のサインである可能性も否定できません。「いつもの胃もたれだから」と自己判断で放置せず、気になる症状があれば早めに医療機関を受診することが大切です。
慢性胃炎の検査・診断
慢性胃炎の診断は、胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)で胃の粘膜を直接観察し、必要に応じて組織の一部を採取して詳しく調べる「病理組織検査(生検)」を組み合わせて確定します。
胃カメラでは、胃の粘膜がどの程度うすく弱ってしまっているか(萎縮)、そして炎症がどこまで広がっているかを詳細に観察します。
内視鏡で観察する主なポイントは以下のとおりです。
・萎縮の程度と範囲:萎縮が軽い粘膜は赤っぽく(発赤)、進行すると粘膜が薄くなり、その下にある血管が透けて見えるようになります。
・炎症の所見:赤みだけでなく、びらん(ただれ)や出血がないかを確認します。
・特殊な所見:ごくまれな膠原性胃炎では、胃の表面がゴツゴツとした石畳のように見える特徴的な所見がみられることもあり、正確な診断には内視鏡での丁寧な観察が欠かせません。※
また、慢性腎臓病(CKD)の患者さんでは、ピロリ菌の感染率が低いにもかかわらず、胃の出口付近に起こる「幽門部胃炎」や赤みが強く出る「紅斑性胃炎」といった、特徴的な胃炎がみられやすいことも報告されています。※
胃カメラで疑わしい部分が見つかった場合、その組織の一部をつまみ取り、顕微鏡で詳しく調べる病理組織検査(生検)を行います。これにより、見た目だけではわからない炎症の具体的な種類や程度、そして何よりもがん細胞の有無を確定できます。
胃の不調といっても、その背景にはピロリ菌感染だけでなく、持病やまれな病気が隠れている可能性も考えられます。正確な診断が適切な治療への第一歩となるため、自己判断せずに専門医による検査を受けるようにしましょう。
慢性胃炎の治療
慢性胃炎の治療は、原因や症状に合わせて薬を使い分ける薬物療法が中心となります。治療の目的は、つらい症状を和らげる「対症療法」と、根本原因を取り除く「原因療法」の2つの柱で進められます。
まず、胃もたれや胸やけといった不快な症状を軽くするため、主に以下のような薬が用いられます。
・胃酸の分泌を抑える薬
過剰な胃酸は、弱った胃粘膜を攻撃し、胸やけや痛みの原因となります。この胃酸の分泌を抑えることで、胃への負担を軽減します。
・胃の粘膜を保護・修復する薬
胃の粘膜を直接コーティングしたり、粘膜の血流を良くしたりして、胃が本来持つ防御機能を高め、傷ついた組織の修復を促します。
・胃の運動機能を改善する薬
胃の動きが悪いと、食べ物がいつまでも胃に残り、胃もたれや膨満感の原因になります。胃のぜん動運動を活発にすることで、消化を助けます。
そして、治療の核となるのが、根本原因へのアプローチです。慢性胃炎の最大の原因であるピロリ菌の感染が確認された場合、胃がんのリスクを減らすためにも、除菌治療が強く推奨されます。ピロリ菌は世界中で見られる慢性的な細菌感染症であり、すべての感染者は治療を受けることが望ましいとされています。※
ただし、これまでの除菌治療にはいくつかの課題がありました。抗生物質の効果を十分に発揮させるには、胃酸を強力に抑える必要がありますが、従来の薬では酸の抑制が不十分なケースや、薬が効きにくい耐性菌の存在が除菌の成功を阻む一因となっていたのです。※
しかし、近年、従来よりも強力に胃酸分泌を抑える新しい薬(ボノプラザンなど)が登場したことで、治療の選択肢が大きく広がりました。この薬は、より確実に胃酸をコントロールできるため、抗生物質が効きやすい環境を作り出し、除菌の成功率を高めることが期待されています。※
治療方針は、内視鏡検査で確認した胃の粘膜の状態やピロリ菌感染の有無、患者さん一人ひとりの症状を総合的に評価して決定します。胃の不調は放置せず、原因を正確に突き止めて適切な治療につなげることが、将来の健康を守る鍵となります。










