急性胃腸炎

吐き気や激しい下痢。「おなかの風邪」や「食あたり」だと軽く考えていませんか?子どもから大人まで誰もが経験する急性胃腸炎ですが、その原因はウイルスや細菌、ストレスなど多岐にわたります。

実は、ただの一時的な不調では済まないケースも。ある信頼性の高い研究では、急性胃腸炎にかかった人は、その後「過敏性腸症候群(IBS)」という慢性的な不調に悩まされるリスクが4倍以上も高くなると報告されています。

この記事では、意外と知らない急性胃腸炎の本当の原因と、後悔しないための正しい対処法を詳しく解説します。あなたと大切な家族の健康を守る知識を、ぜひ手に入れてください。

急性胃腸炎の概要

「おなかの風邪」や「食あたり」という言葉を、 一度は聞いたことがあるかもしれません。 これらは、急性胃腸炎の一般的な呼び方です。

胃や腸の内側をおおっている壁(粘膜)が、 何かの原因で急に荒れてしまう病気です。 子どもからお年寄りまで、誰でもかかる身近な病気と言えます。

主な原因は、目に見えないほど小さなウイルスや細菌です。

  • ウイルスが原因のもの
  • ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルスなど
  • 細菌が原因のもの
  • サルモネラ菌、カンピロバクター、病原性大腸菌など

特に5歳未満の小さなお子さんでは、ウイルスが原因となることが多いです。 アフリカの国々で行われた多くの研究をまとめた、 信頼性の高い調査(メタアナリシス)があります。 この調査によると、お子さんの急性胃腸炎の原因は次の通りでした。

  • ロタウイルス: 約31%(およそ3人に1人)
  • ノロウイルス: 約15%
  • アデノウイルス: 約10%

この結果からも、ロタウイルスがお子さんの胃腸炎の 主な原因であることが世界的に確認されています。 原因によって症状の重さも変わるため、正しく知ることが大切です。

急性胃腸炎の種類

急性胃腸炎は原因によって、大きく2つのタイプに分けられます。 他の人にうつる「感染性」と、うつらない「非感染性」です。 それぞれの特徴を知っておくことが、予防や対策の第一歩になります。

感染性胃腸炎

ウイルスや細菌が体の中に入って起こる、うつるタイプの胃腸炎です。 原因によって、さらに2つに分けられます。

  • ウイルス性胃腸炎 お腹の風邪の多くが、このウイルス性胃腸炎です。 特にノロウイルスやロタウイルスなどが有名です。 同じウイルスでも、実は少しずつ顔つきが違うタイプがいます。 これを専門的には「遺伝子型」と呼びます。 海外の研究では、ノロウイルスの中でも特に流行しやすい顔つきのタイプ (ジェノグループII、GII.4)が確認されています。 そのため、一度かかっても違うタイプのウイルスにまた感染することがあります。
  • 細菌性胃腸炎 いわゆる「食中毒」と呼ばれるもので、細菌が原因です。 暑くてジメジメした夏に増える傾向があります。 例えば、次のような菌が原因になります。
  • サルモネラ菌 生の卵や、あまり火が通っていないお肉にひそんでいます。
  • カンピロバクター 十分に加熱されていない鶏肉などが原因になりやすいです。

非感染性(その他)の胃腸炎

ウイルスや細菌の感染以外でも、胃腸炎は起こります。 こちらは人にはうつりません。

  • ストレス
  • お薬の副作用
  • アレルギー
  • 食べすぎや飲みすぎ

種類

主な原因

流行しやすい季節

ウイルス性

ノロウイルス、ロタウイルスなど

冬〜春

細菌性

サルモネラ菌、カンピロバクターなど

夏

その他

ストレス、お薬、アレルギーなど

一年中

急性胃腸炎の原因

急性胃腸炎のほとんどは、目に見えない病原体が原因です。 ウイルスや細菌が、口から体の中に入ることで起こります。 これを「経口感染」と呼び、原因の大部分を占めています。

ウイルスが原因の場合

ウイルスは、急性胃腸炎の最も一般的な原因です。 感染した人の便や吐いたものに触れた手で口に触れたり、 ウイルスに汚染された食べ物を食べたりして感染します。

  • ノロウイルス 冬に流行しやすく、非常に強い感染力を持ちます。 ウイルスは少しずつ姿を変えるため、何度もかかります。 アフリカの研究でも、流行するノロウイルスのうち 約8割が特定の顔つき(GII.4)だったと報告されています。
  • ロタウイルス 5歳までのお子さんに多く見られるウイルスです。
  • アデノウイルス 一年を通して感染する可能性があります。

細菌が原因の場合

細菌による胃腸炎は「食中毒」とも呼ばれます。 菌が付着した食べ物を食べることで感染します。 特に、暖かく湿った夏は菌が増えやすいため注意が必要です。

  • サルモネラ菌 生の卵や、火の通りが不十分なお肉に潜んでいます。
  • カンピロバクター 加熱が不十分な鶏肉などが原因になりやすいです。
  • 腸炎ビブリオ 生の魚介類についていることがあります。

その他の原因

まれに、感染症以外が原因で胃腸炎になることもあります。 これらは他の人にうつることはありません。

  • 強い精神的なストレス
  • お薬の副作用(痛み止めや抗生物質など)

急性胃腸炎の症状

急性胃腸炎になると、お腹の不調を中心に、 突然さまざまな症状があらわれます。 主な症状は次の通りです。

  • 吐き気や嘔吐
  • 水のような下痢
  • お腹の痛み(キリキリ、ギューッとしぼるような痛み)
  • 発熱
  • 食欲がなくなる

原因によって症状の出方に少し違いが見られます。 アフリカの5歳未満のお子さんを調べた複数の研究では、 ロタウイルスが原因の約3割を占めていました。

  • ロタウイルスが原因の場合 米のとぎ汁のような、白っぽい水のような便が出ます。 特に小さなお子さんでよく見られる症状です。
  • ノロウイルスが原因の場合 とても強い吐き気や嘔吐から始まることが多いです。
  • 細菌が原因の場合 ウイルス性よりも症状が重くなる傾向があります。 38度以上の高熱や、血が混じった便が出ることもあります。

下痢は数日間続くことが一般的です。 最近の研究で、特定の善玉菌(プロバイオティクス)を飲むと、 お子さんの下痢が続く期間が約1日短くなったと報告されました。 ただし、まだ研究が進められている段階です。

特に注意したい「脱水症状」のサイン

嘔吐や下痢が続くと、体の水分が急激に失われます。 特に小さなお子さんやご高齢の方は注意が必要です。 次のようなサインが見られたら、すぐに病院を受診しましょう。

【脱水症状のチェックリスト】

  • 口の中や唇がカサカサに乾いている
  • おしっこの回数や量がいつもより少ない
  • 泣いても涙が出ない
  • 目が落ちくぼんで見える
  • 皮膚に張りがなく、つまんでも元に戻りにくい
  • ぐったりしていて、呼びかけへの反応がにぶい

急性胃腸炎の検査・診断

お腹のつらい症状の原因を突き止めるために、 まずはお話を聞くこと(問診)から始めます。 いつからどんな症状があるか、などを詳しくお聞きします。

次に、お体を直接みて調べる「診察」を行います。 お腹の音を聞いたり、優しく押して痛む場所を確認します。 多くの場合、これらの情報から急性胃腸炎だと診断できます。

診断のために聞くこと(問診)

  • 症状について いつから、どんな症状(吐き気、下痢など)がありますか?
  • 食事について 何か思い当たる食べ物や飲み物はありますか?
  • 周りの状況について ご家族など、周りに同じような症状の方はいませんか?

これらの質問は、原因がウイルスなのか細菌なのか、 それとも他のことなのかを探るための大切なヒントになります。

追加で行うことのある検査

症状が重い場合や、原因をはっきりさせる必要があるときは、 次のような検査を追加で行うことがあります。

  • 血液検査 体の中で炎症が起きていないか、脱水になっていないか、 血液の状態から詳しく調べます。
  • 便検査 便の中にいるウイルスや細菌の種類を特定します。 ノロウイルスなどは専用のキットですぐに調べられます。

診断がなぜ重要なのか

急性胃腸炎の診断は、その後の生活にとっても重要です。 胃腸炎が治った後も、お腹の不調が続いてしまう、 「過敏性腸症候群(IBS)」という状態になることがあります。

信頼性の高い複数の研究をまとめた報告があります。 それによると、急性胃腸炎になった人は、ならなかった人と比べ、 IBSになる可能性が4倍以上も高くなることがわかっています。

最初の段階で正しく診断し、きちんと治しておくことが、 将来のお腹の健康を守ることにもつながるのです。

急性胃腸炎の治療

急性胃腸炎の治療で最も大切なのは、体をしっかり休ませることです。 特にウイルスが原因の場合、ウイルスを直接やっつける薬はありません。 自分の体が持つ力でウイルスと戦うのを、応援することが治療になります。

治療の基本は、つらい症状を和らげ、体を回復させることです。 体力を消耗しないよう安静にし、脱水症状を防ぐことが何より大切です。

体を助けるための基本ケア

お家でできるケアが、回復への一番の近道になります。 特に「水分補給」と「食事」に気をつけましょう。

ケアのポイント

具体的な方法と理由

水分補給

・スポーツドリンクや経口補水液を少しずつ飲む<br>・体から失われた水分と塩分(電解質)を補うためです<br>・一度に飲むと吐き気を誘うため、こまめに飲むのがコツです

食事

・おかゆやすりおろしりんごなど、消化しやすいものから<br>・弱った胃や腸に負担をかけないようにするためです<br>・脂っこいものや冷たいものは、回復を遅らせるので避けましょう

お薬によるサポート治療

お薬は、つらい症状を和らげるための「サポーター」として使います。 クリニックでは、症状に合わせて以下のようなお薬を出すことがあります。

  • 整腸剤 乱れてしまった腸の中の環境を整え、お腹の調子を助けます。
  • 吐き気止め 吐き気が強いと水分がとれないため、それを和らげるために使います。
  • 解熱剤 高い熱でぐったりして眠れないなど、つらい時に使います。

最近の研究では、整腸剤にも含まれる「善玉菌」の働きが注目されています。 日本で使われる善玉菌の効果を調べた、信頼性の高い研究があります。 その報告では、お子さんが善玉菌を飲むことで、下痢が続く期間が 平均して約23時間(およそ1日)短くなる可能性が示されました。 入院が必要な場合でも、その期間が短くなることも報告されています。

一方で、細菌が原因と判断された場合にだけ「抗生物質」を使います。 このお薬はウイルスには効かないため、医師の診断がとても重要です。

ご家庭で注意してほしいこと

つらい下痢を早く止めたくて、市販の下痢止めを使いたくなるかもしれません。 しかし、下痢は体の中の悪い菌やウイルスを外に出すための防御反応です。 自己判断で下痢を止めると、かえって回復が遅れることがあります。 お薬を使う前には、必ず医師や薬剤師に相談してください。