食道良性腫瘍

健康診断の胃カメラで「食道にできものがあります」と告げられたら、多くの方が「もしかして、がん…?」と大きな不安を感じるのではないでしょうか。しかし、すぐに深刻に考える必要はありません。実は、食道にできる腫瘍の多くは命に直接関わらない「良性腫瘍」なのです。

実際に食道良性腫瘍の中で最も多い「平滑筋腫」は全体の約7割を占め、そのほとんどは心配のないものです。ただし、良性腫瘍の中にはウイルス感染が関連し、ごくまれにがん化する可能性が指摘される種類も存在するため、正しい知識を持つことが大切です。

この記事では、食道良性腫瘍の詳しい種類や原因、そして安心できるケースと注意すべきケースの見分け方について詳しく解説します。ご自身の状態を正しく理解し、不要な不安を解消するためにお役立てください。

食道良性腫瘍の概要

食道良性腫瘍とは、口から胃へと続く食べ物の通り道である「食道」にできる、「できもの」の一種です。

腫瘍には「良性」と「悪性」があり、悪性のものが一般的に「がん」と呼ばれます。食道良性腫瘍はがんとは異なり、命に直接関わることはほとんどありません。まずはご安心ください。

食道にできる腫瘍は悪性腫瘍(食道がん)に比べてまれです。多くは症状がないまま、健康診断の胃カメラ(内視鏡検査)などで偶然発見されます。

食道良性腫瘍にはいくつかの種類があります。代表的なものは以下の通りです。

  • 平滑筋腫(へいかつきんしゅ)
  • 最も多く、全体の約7割を占めます。食道の壁にある筋肉の層から発生する腫瘍です。
  • 乳頭腫(にゅうとうしゅ)
  • ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が関係していることがあります。
  • まれですが、ウイルスの種類によってはがん化する可能性も指摘されており、慎重な経過観察が必要な場合があります。
  • 食道異所性皮脂腺(しょくどういしょせいひしせん)
  • 本来は皮膚にあるはずの皮脂腺が食道にできる、非常に珍しい良性の状態です。
  • 胃食道逆流症の症状がある方に見つかることがありますが、がん化の心配はほとんどないとされています。

ほとんどの良性腫瘍は、ゆっくりと大きくなるか、大きさが変わらないため、すぐに治療が必要となるケースは少ないです。しかし、種類や大きさによっては、定期的な検査や治療がすすめられることもあります。

食道良性腫瘍の種類

食道にできる良性の「できもの」と一言でいっても、実はさまざまな種類があり、それぞれ性質が異なります。

一番多く見つかるのは「平滑筋腫(へいかつきんしゅ)」で、食道の良性腫瘍の約7割を占めています。これは食道の壁にある筋肉の層から発生する腫瘍です。

次に、注意が必要なものとして「乳頭腫(にゅうとうしゅ)」があります。 ヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスの感染が関係していることがあります。ウイルスの種類によっては、まれにがん化する可能性も指摘されており、慎重な経過観察が必要になる場合があります。

主な種類

特徴

食道平滑筋腫

食道の壁の筋肉からできる、最も多い良性腫瘍です。

乳頭腫

ウイルス感染が関わり、まれにがん化する可能性も考えられます。

ポリープ

食道の粘膜が、きのこのように盛り上がったものです。

食道異所性皮脂腺

本来は皮膚にある皮脂腺が食道にできる、非常に珍しい状態です。

「食道異所性皮脂腺」は、本来お肌にあるはずの油分を出す組織が、食道にできてしまう非常に珍しいものです。胃酸が逆流する症状がある方に見つかることがありますが、がんになる心配はほとんどないとされています。

このように、食道良性腫瘍には多くの種類があるため、胃カメラ(内視鏡検査)でしっかりとその種類を見きわめることが大切です。

食道良性腫瘍の原因

食道良性腫瘍ができる、はっきりとした原因はまだ完全には解明されていません。 しかし、いくつかの要因が腫瘍発生の「きっかけ」になるのではと考えられています。 腫瘍の種類によって、関係する原因も異なるとされています。

主な原因として、以下の3つが挙げられます。

  • 食道の粘膜へのくり返す刺激 熱い飲み物や食べ物、アルコール、タバコなどが考えられます。 これらは食道の壁(粘膜)を傷つける可能性があります。 長い間、粘膜が傷つけられると、細胞が自分を治そうとする過程で間違いが起き、腫瘍ができることがあるのです。
  • 胃酸が食道へ戻ってくること 胃の中の強い酸が食道へ逆流する病気を「胃食道逆流症」といいます。 この逆流した胃酸で食道に炎症が続くと、「炎症性線維性ポリープ」という種類の腫瘍ができることがあります。
  • ウイルスの感染 良性腫瘍の一種である「乳頭腫」は、ウイルスの感染が関係します。 このウイルスは「ヒトパピローマウイルス(HPV)」と呼ばれています。 研究によると、HPVには様々な種類があり、一部の種類(高リスク型)に感染すると、ごくまれに腫瘍ががん化する可能性も指摘されています。 そのため、HPVが原因の乳頭腫が見つかった場合は、定期的な胃カメラ検査などで慎重な経過観察が必要になることがあります。

食道良性腫瘍の症状

食道良性腫瘍は、ほとんどの場合で特別な症状がありません。 そのため、ご自身で気づくことは少なく、健康診断の胃カメラなどで偶然見つかることがほとんどです。

しかし、腫瘍が大きくなると食道が狭くなり、次のような症状が現れることがあります。 ご自身の体調で気になることがないか、チェックしてみましょう。

【食道良性腫瘍のセルフチェック】

  • のどや胸のあたりに違和感がある 食べ物がつかえるような、何かが残っているような感覚です。
  • 食べ物を飲み込みにくい 腫瘍が食道の通り道を物理的にふさいでしまうために起こります。
  • 胸のあたりに痛みを感じる 腫瘍が大きくなり、周りの組織を圧迫することで痛みが出ます。
  • 胸やけがする 腫瘍が原因で胃酸が逆流しやすくなることがあります。 ある研究では、食道にできた良性の病気を持つ方の60%に、胃食道逆流症(胸やけなど)の症状が見られたとの報告もあります。

また、非常にまれですが、腫瘍の種類によっては表面から出血することもあります。 出血すると、血を吐いたり(吐血)、便が黒くなったり(黒色便)することがあります。 このような症状は、すぐに専門医に相談すべきサインです。

これらの症状は、逆流性食道炎など他の病気とも似ています。 もし心当たりがある場合は自己判断せず、消化器内科などの専門の医療機関にご相談ください。

食道良性腫瘍の検査・診断

食道に「できもの」があると聞くと、不安に感じられるかもしれません。 まずは、それがどんな性質のものかを詳しく調べることが大切です。 食道良性腫瘍の診断は、いくつかの検査を組み合わせて慎重に行います。

中心となるのは「胃カメラ(内視鏡検査)」です

食道の腫瘍を調べる上で、最も詳しく情報が得られる重要な検査です。 口や鼻から細いカメラを入れ、食道の内部を直接目で見て確認します。

胃カメラでは、主に以下の点を確認し、腫瘍の診断に役立てます。

  • 腫瘍の大きさや形 どれくらいのサイズか、どんな形をしているかを観察します。
  • 腫瘍ができている場所 食道のどの部分にできているかを正確に把握します。
  • 表面の粘膜の状態 腫瘍の表面の色や凹凸などから、その性質を推測します。

最近の内視鏡技術は進歩しており、特殊な光をあてて観察できます。 これにより、腫瘍の表面にある細かい血管の様子などがより鮮明に見えます。 良性か、あるいは悪性(がん)の可能性があるかを判断する助けになります。

さらに、検査中に腫瘍の組織をほんの少しだけつまみ取ることがあります。 これを「生検(せいけん)」と呼び、顕微鏡で詳しく調べることで、良性か悪性かの最終的な確定診断を行います。

全体像をつかむための検査

胃カメラに加えて、他の検査でより多くの情報を集めることもあります。

検査の種類

どんな検査?

何がわかる?

CT検査

X線を使って体の輪切りの写真を撮る検査です。

腫瘍の深さや、周りの臓器への影響を確認します。

食道造影検査

バリウムを飲んでレントゲン撮影をします。

食道全体の形や、食べ物の通り道が狭くなっていないかを見ます。

これらの検査結果をすべて合わせて、総合的に診断をくだします。 特に「乳頭腫」という種類のできものでは、ウイルスの感染が関係することがあります。 そのため、必要に応じてウイルスの有無を調べることも重要です。

研究でも、ウイルス感染が関連する乳頭腫には、より注意深い経過観察が必要になる場合があると報告されています。 正確な診断は、今後の治療方針を決めるための、とても大切な第一歩なのです。

食道良性腫瘍の治療

食道良性腫瘍の治療は、腫瘍の大きさや症状の有無で決まります。 必ずしもすぐに治療が必要なわけではなく、患者さんごとに最適な方法を選びます。

主な治療法には、以下の3つの選択肢があります。 ご自身の状態がどれにあたるか、目安としてご覧ください。

治療法

どのような場合に選ばれるか

治療の概要

経過観察

・腫瘍が小さい

・症状がない

定期的に胃カメラで検査し、大きさや形に変化がないかを見守ります。

内視鏡治療

・症状がある

・腫瘍が大きくなった

・がん化の可能性がある

口からカメラを入れ、先端の器具で腫瘍を切り取ります。体への負担が少ない方法です。

外科手術

・腫瘍が非常に大きい

・内視鏡で取れない場所にある

胸などを切開して腫瘍を取り除きます。内視鏡より体への負担は大きくなります。

内視鏡を使った詳しい治療法

多くの場合、内視鏡を使った治療が第一の選択肢となります。 口から細いカメラを入れるので、体に傷が残らないのが特徴です。

  • 内視鏡的粘膜切除術(EMR)など 多くの良性腫瘍に対して行われる、基本的な切除方法です。
  • 乳頭腫(にゅうとうしゅ)の治療 乳頭腫はウイルス感染が関わり、まれにがん化する可能性も考えられます。 そのため、診断と治療を兼ねて、内視鏡で完全に切り取ることが基本です。 ただし、小さく単発の場合は様子を見ることもありますが、多発する場合などは治療後も慎重な経過観察が大切です。
  • 食道が狭くなった場合の治療 腫瘍で食道が狭くなり、食べ物がつかえる症状が出ることがあります。 その際は、内視鏡の先につけた風船(バルーン)を使い、狭い部分を内側から優しく広げる治療(拡張術)を行うこともあります。

どの治療法が良いかは、腫瘍の種類や患者さんの状態を総合的にみて判断します。 不安な点は、担当の医師とよく相談して決めていきましょう。