食道炎
胸のあたりが焼けるように熱い「胸やけ」。年のせいや一時的なものだと見過ごしていませんか?その不快な症状は、食道の粘膜が傷つく「食道炎」のサインかもしれません。実は、長引く咳や声のかすれなど、一見関係なさそうな症状の裏に食道炎が隠れていることも少なくないのです。
原因は単なる胃酸の逆流だけとは限りません。近年では食物アレルギーが関わる食道炎も注目されており、厳しい食事制限が原因で摂食障害に至るケースも報告されています。食物アレルギーを持つ人では、摂食障害の有病率が最大62.9%にものぼるという研究結果もあり、心身への影響は深刻です。
この記事では、食道炎の意外な症状や多様な原因、そして薬だけに頼らない最新の治療法までを詳しく解説します。ご自身の体からのサインを正しく理解し、適切な対処法を見つけるための一歩にしてください。
食道炎の概要
食道炎とは、口から胃へ食べ物を運ぶ管である「食道」の粘膜が、何らかの原因で傷つき、炎症を起こしている状態を指します。
食道炎で最も多いのは、胃酸が食道に逆流する「逆流性食道炎」です。胃の粘膜は強力な胃酸から自身を守る機能を持っています。しかし、食道の粘膜にはその防御機能がありません。そのため、胃酸が食道へ流れ込むと、粘膜がただれてしまいます。
これが、胸のあたりが焼けるように熱く感じる「胸やけ」や、酸っぱい液体が口までこみ上げる「呑酸(どんさん)」といった症状の原因です。単なる胸の不快感だけでなく、食事や心の健康に影響することもあります。
また、食物アレルギーが関連する「好酸球性食道炎」もあります。この場合、原因となる食べ物を避ける食事制限が必要です。しかし、厳しい食事制限が「回避・制限性食物摂取障害(ARFID)」などの摂食障害につながる可能性も指摘されています。
実際に、食物アレルギーを持つ人では摂食障害の有病率が高いという研究結果があります。報告によって0.8%から62.9%と大きな幅がありますが、食事の楽しみが失われる可能性を示す重要なデータです。
食道炎の種類
食道炎と一言でいっても、原因によっていくつかの種類に分けられます。最も多いのは、胃酸が食道に逆流して起こるタイプです。しかし、それ以外にもさまざまな原因で食道は炎症を起こします。
胃食道逆流症(GERD)
胃食道逆流症(GERD)は、胃酸などが食道へ戻ってしまうことで起こる症状や炎症の総称です。このGERDは、内視鏡(胃カメラ)で食道を見たときの状態で、さらに2つのタイプに分けられます。
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種類 |
特徴 |
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逆流性食道炎 (びらん性食道炎) |
胸やけなどの症状があり、内視鏡で食道の壁を観察すると、「びらん」と呼ばれるただれや傷が見える状態です。 |
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非びらん性胃食道逆流症(NERD) |
胸やけなどの症状はあるのに、内視鏡で調べても目に見える異常が見つからない状態です。食道の壁が胃酸に対して過敏になっていることなどが原因と考えられています。 |
その他の食道炎
胃酸の逆流以外が原因となる食道炎には、以下のようなものがあります。
- 感染性食道炎 カンジダというカビ(真菌)や、ヘルペスウイルスなどの感染が原因で起こります。病気の治療などで体の抵抗力が落ちているときに起こりやすいのが特徴です。
- 好酸球性食道炎 アレルギーに関係する「好酸球」という血液の成分が食道に集まり、炎症を引き起こします。食べ物がつかえる感じや、飲み込みにくさが主な症状です。
- 薬剤性食道炎 飲んだ薬が食道に長く留まることで、その成分が食道の壁を傷つけて起こります。十分な水なしで薬を飲んだり、飲んですぐに横になったりすることが原因です。
- 腐食性食道炎 酸やアルカリ性の強い液体を誤って飲んでしまうことで、食道の壁が化学的に傷ついて起こる食道炎です。
- 放射線性食道炎 がんの治療などで胸のあたりに放射線をあてた際の副作用として起こることがあります。
食道炎の原因
食道炎が起こる原因は、一つだけではありません。胸やけなどを引き起こす原因で最も多いのは、胃酸の逆流です。
胃と食道のつなぎ目には、胃の中身が戻らないようにするフタがあります。このフタの重要な役割を担うのが、横隔膜という筋肉です。横隔膜は呼吸で鍛えられるため、その機能が弱ると逆流が起こりやすくなります。
実際に、横隔膜を意識した呼吸トレーニング(DBT)が、症状を和らげるのに役立つ可能性も報告されています。また、肥満や猫背の姿勢は、お腹を圧迫して胃酸の逆流を招く原因です。
その他にも、食道炎には以下のようなさまざまな原因があります。
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原因の種類 |
具体的な内容 |
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胃食道逆流症(GERD) |
胃酸が食道へ逆流することで起こります。横隔膜の機能低下や、肥満などによるお腹の圧迫が関係します。 |
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感染症 |
カンジダというカビやウイルスが原因です。病気の治療中などで、体の抵抗力が落ちているときに起こりやすくなります。 |
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薬剤 |
薬が食道に長く留まり、粘膜を傷つけます。十分な水で飲んだり、飲んですぐ横になったりしないことが大切です。 |
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アレルギー |
特定の食べ物への反応で起こる「好酸球性食道炎」です。原因食物を避ける厳しい食事制限が、摂食障害につながる可能性も指摘されています。 |
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物理的な刺激 |
熱すぎる飲み物や、誤って飲んだ化学物質などが、食道の粘膜を直接傷つけて炎症を起こします。 |
特にアレルギーが原因の場合、厳しい食事制限が精神的な負担になることもあります。食物アレルギーを持つ人では、摂食障害の有病率が高いという研究結果もあり、専門家との相談が重要です。
食道炎の症状
食道炎のサインは、多くの方が思う「胸やけ」だけではありません。胃酸の逆流などの影響は、食道だけでなく、喉や気管支にまで及ぶことがあります。ご自身の体に起きている変化に気づくことが、早期発見への第一歩です。
食道に直接あらわれる症状
まずは、食道そのものに炎症が起きたときの代表的な症状を見てみましょう。
- 胸やけ
- みぞおちから胸の下あたりが、焼けるように熱く感じる症状です。
- 呑酸(どんさん)
- 酸っぱくて苦い液体が、口や喉の奥まで上がってくる感覚です。
- 胸の痛み
- 胸が締め付けられるように痛むことがあります。心臓の病気と間違えることもあります。
- 飲み込みにくさ・つかえ感
- 食べ物や飲み物が、食道につかえるような違和感を覚えます。
- 喉の違和感
- 常に何かが喉に詰まっているような、すっきりしない感じがします。
特に、アレルギーが関わる好酸球性食道炎では、飲み込みにくさから食事への不安が生まれることもあります。これが「回避・制限性食物摂取障害」という摂食障害につながる可能性も報告されています。
食道以外にあらわれる意外な症状
胃酸の逆流は、食道だけでなく他の場所にも影響を及ぼします。
- 長引く咳
- 声のかすれ
- 喘息に似た呼吸の症状
これらの症状は、逆流した胃酸が喉や気管を直接刺激して起こります。また、逆流を防ぐフタの役割を持つ「横隔膜」の機能低下が、こうした呼吸器症状に関わっている可能性も考えられています。夜間に症状が出て、睡眠が妨げられることも少なくありません。
食道炎の検査・診断
食道炎が疑われる場合、まずはお話を聞く「問診」から始まります。 胸やけなどの症状がいつから、どんな時に起こるかなどを詳しく伺います。 そのお話をもとに、原因や状態を正確に知るための検査へと進みます。
中心となる検査は「上部消化管内視鏡検査」、いわゆる胃カメラです。 口や鼻から細いカメラを入れ、食道の粘膜を直接目で見て確認します。 炎症による赤みや、「びらん」と呼ばれる粘膜のただれがないか調べます。 この検査で、逆流性食道炎やカンジダなどが原因の食道炎を診断できます。 必要であれば、粘膜の一部を少しだけ採って詳しく調べる「生検」も行います。
胃カメラだけでは診断が難しい場合や、より詳しく調べるために、 以下のような検査を行うこともあります。
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検査の種類 |
検査でわかること |
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PPIテスト |
胃酸を抑えるお薬を一定期間飲んで、症状が良くなるかを確認します。お薬が効けば、胃酸の逆流が原因である可能性が高いと判断できます。 |
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食道内pHモニタリング |
細い管を鼻から食道に入れ、24時間、食道の中が酸性になる時間を測ります。胃酸の逆流の頻度や時間を客観的なデータで評価でき、治療効果の判定にも役立ちます。 |
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高分解能食道内圧検査(HRM) |
食道の筋肉の動きや、逆流を防ぐフタの役割を持つ筋肉の力を測定します。逆流が起こる機能的な問題を探るのに役立ち、横隔膜の力が弱いとわかれば、呼吸トレーニングが有効な治療法になる可能性も考えられます。 |
これらの検査結果を総合的に判断し、一人ひとりの状態に合わせた適切な治療方針を決定します。
食道炎の治療
食道炎の治療は、主に2つの柱で進められます。 それは「お薬による治療」と「生活習慣の見直し」です。 この2つを車の両輪のように組み合わせて行います。
1. お薬による治療
多くの場合、食道炎は胃酸の逆流が原因です。 そのため、胃酸の分泌を抑えるお薬が治療の中心となります。
- プロトンポンプ阻害薬(PPI) 胃酸を出すポンプの働きを抑えるお薬です。 食道炎治療の基本として広く使われています。
- カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB) PPIよりも早く、そして強く胃酸を抑える効果が期待できます。 このタイプのお薬(ボノプラザンなど)は、複数の研究で様々な量(用量)の効果や安全性が比較されています。 その結果から、患者さん一人ひとりの状態に合った最適なものが選択されます。
症状が良くなっても、再発を防ぐためにしばらくお薬を続けることも大切です。
2. 生活習慣の見直し
お薬と並行して、日々の生活を見直すことも非常に重要です。
- 食事の工夫 食べ過ぎや早食いは胃に負担をかけ、逆流の原因になります。 脂肪の多い食事や刺激物を控え、食後すぐに横にならないようにしましょう。
- 姿勢の工夫 ベルトなどでお腹を締め付けないようにします。 寝るときは上半身を少し高くすると、胃酸が上がってくるのを防げます。
- 呼吸の工夫 胃と食道のつなぎ目のフタの役割を担う横隔膜を鍛えることも有効です。 横隔膜を意識した呼吸トレーニングが、症状を和らげる可能性も報告されています。
3. その他の治療法
お薬や生活習慣の改善でも効果が不十分な場合もあります。 そのような時には、内視鏡(胃カメラ)を使った治療も選択肢の一つです。 例えば、「内視鏡的全層縫縮術(EFTP)」という方法があります。 これは、内視鏡を使って緩んだ胃と食道の境目を縫い縮める治療です。 胃酸の逆流そのものを減らし、お薬の量を減らせる可能性が研究で示されています。









