食道気管支瘻

長引く咳や食事中のむせ、繰り返す肺炎などの症状に心当たりはありませんか。これらの症状は「食道気管支瘻」という、食道と気管が異常につながるまれな疾患が原因の可能性もあります。

食道気管支瘻は診断が難しいとされる病気ですが、成人で発症する良性の約7割が先天性か感染症によるものです。この記事では、食道気管支瘻の主な原因や症状、診断方法を具体的に解説します。97.4%と高い感度を持つ食道造影検査、そして原因に合わせた治療選択肢についても詳述します。

ご自身の症状と照らし合わせながら読み進めることで、早期に専門医を受診し、適切な診断と治療につなげるためのヒントを見つける一助となるでしょう。

食道気管支瘻の概要

食道気管支瘻(しょくどうきかんしろう)は、食道と気管や気管支が異常な通路でつながってしまう、まれな疾患です。この異常なつながり(瘻孔:ろうこう)があると、食べ物や飲み物が食道から気管や気管支へと流れ込みやすくなります。その結果、咳が止まらなくなったり、肺炎を繰り返したりといった症状を引き起こすことがあります。

この疾患は成人では比較的珍しく、治療が原因ではない(非医原性)ものでも発症することがあります。1990年から2020年までの文献を網羅的に分析した研究では、非医原性の食道気管支瘻251症例が解析されました。その結果、成人における良性で非医原性の食道気管支瘻の主な原因として、先天性奇形が約38.7%、感染症が約32.7%と、これら二つが原因の大半を占めることが明らかになっています※。先天性とは、生まれつき食道と気管が交通している状態を指します。一方、感染症が原因となる場合は、結核や真菌などの感染によって周囲の組織が破壊され、瘻孔が形成されることで発症すると考えられています。

食道気管支瘻は非常にまれであることに加え、症状が特定の臓器に限定されず多岐にわたる(非特異的な症状)ため、診断が難しいケースも少なくありません※。しかし、疑わしい症状があれば専門医による詳細な検査が重要です。特に診断に際しては、食道造影検査が97.4%と高い感度(疾患のある人を正しく陽性と判断する割合)を示しており、内視鏡検査やCT、気管支鏡検査と比較しても非常に有用とされています※。

治療の選択肢も、原因によって異なります。例えば、先天性の食道気管支瘻では外科的手術が第一選択となる場合が多いのに対し、感染性の食道気管支瘻では、保存的治療(手術以外の治療)や内視鏡的な治療が選択されるケースも少なくありません※。また、感染性の食道気管支瘻は先天性のものと比較して症状の期間が短く、再発率や治療失敗率が高い傾向にあるため、臨床医は特に注意を払いながら診断や治療にあたることが求められます※。

症状から食道気管支瘻が疑われる場合は、早期に正確な診断を受け、適切な治療を始めることが症状の改善や合併症の予防につながると考えられています。

食道気管支瘻の種類

食道気管支瘻は、その発生原因によって大きく「先天性」と「後天性」の2つに分類されます。特に成人で見つかる良性の食道気管支瘻の場合、その多くが生まれつきの異常(先天性)か、感染症によって引き起こされていることがわかっています※。

食道気管支瘻は、主に次の3つのタイプに分けられます。

・先天性食道気管支瘻

・感染性食道気管支瘻

・その他の食道気管支瘻(医原性・腫瘍性など)

それぞれの種類について詳しく見ていきましょう。

先天性食道気管支瘻

先天性食道気管支瘻は、お母さんのお腹の中にいる胎児の時から、食道と気管(気管支)が異常につながってしまっている状態を指します。このタイプの食道気管支瘻は、本来は小児期に診断されることが多いものです。しかし、交通(瘻孔)が小さかったり、症状が軽かったりする場合は、成人になってから偶然見つかることもあります。

成人で診断される良性かつ医療行為が原因ではない(非医原性)食道気管支瘻のうち、約38.7%を先天性の奇形が占めているとの報告があります※。この先天性タイプでは、異常な交通そのものを閉鎖するため、外科的な手術が治療の第一選択となることがほとんどです※。

感染性食道気管支瘻

感染性食道気管支瘻は、食道や気管の周囲で起きた感染症が原因で、組織が破壊され、食道と気管がつながる道(瘻孔:ろうこう)が作られてしまうものです。原因となる感染症としては、結核や真菌(カビの一種)によるものなどが挙げられます。

成人で診断される良性かつ医療行為が原因ではない食道気管支瘻の約32.7%は、感染症によって引き起こされていると考えられています※。このタイプの治療では、感染を抑えるための薬物療法や、内視鏡を使った閉鎖術などが選択肢となることもあります※。

ただし、感染性の食道気管支瘻は、先天性のものと比べると、次のような特徴が見られます※。

・症状が現れてから診断されるまでの期間が短い傾向にある

・治療後の再発や、治療がうまくいかない(治療失敗)割合が高い傾向がある

そのため、感染性の食道気管支瘻は、先天性のものとは異なる慎重な経過観察と治療アプローチが求められるといえるでしょう。

その他の食道気管支瘻

上記以外にも、食道気管支瘻には次のようなタイプが存在します。

・医原性食道気管支瘻:医療行為、たとえば食道や気管の手術、内視鏡治療、カテーテル挿入などが原因で起こるものです。

・腫瘍性食道気管支瘻:食道、気管、肺などに発生した悪性腫瘍(がん)が進行し、周囲の組織を侵食することで瘻孔が形成されるものです。

食道気管支瘻は、このように原因によって種類が異なり、それぞれで症状の現れ方、診断方法、治療法、そして病気の経過も大きく変わってきます。ご自身の状態がどの種類に該当するのかについては、専門の医師による詳しい検査と正確な診断が不可欠です。

食道気管支瘻の原因

食道気管支瘻は、食道と気管が本来つながることのない異常な通路(瘻孔:ろうこう)で結ばれてしまう病気です。この瘻孔ができる原因は多岐にわたりますが、成人で見られる良性の食道気管支瘻では、大きく分けて「生まれつきの異常(先天性)」か「感染症」のいずれかが大半を占めます。ある研究では、成人における良性かつ医療行為が原因ではない(非医原性)食道気管支瘻のうち、先天性奇形が約38.7%、感染症が約32.7%と報告されています※。

食道気管支瘻のおもな原因は、次のとおりです。

・先天性奇形

胎児期に食道と気管が形成される過程で、うまく分離せずに異常なつながりが残ってしまった状態です。この先天性の瘻孔は、通常であれば出生後早期に発見されることが多いですが、瘻孔が小さい場合や症状が軽微な場合は、成人になるまで気づかれないケースもあります。

・感染症

肺や食道周辺の組織で細菌や真菌などによる重い感染症が起こり、その炎症が周囲の組織を破壊して食道と気管の間に穴を開けてしまうことで発症します。具体的には、結核や肺膿瘍(肺に膿がたまる病気)、食道憩室炎(食道の壁にできた袋状のくぼみに炎症が起きる病気)などが原因となることがあります。

感染性の食道気管支瘻は、先天性のものと比較して症状が現れてから診断に至るまでの期間が短い傾向にあること、さらに治療後の再発率や治療失敗率が高い傾向にある点に注意が必要です※。このため、先天性とは異なる慎重な治療アプローチが求められるといえるでしょう※。

その他にも、非常にまれですが、以下のような原因で食道気管支瘻が発生することもあります。

・外傷:胸部に強い衝撃を受けるなど、外からのダメージによって食道と気管が損傷し、つながってしまうケースです。

・悪性腫瘍:食道、気管、肺などに発生したがんが進行し、周囲の組織を侵食することで瘻孔が形成されることがあります。

・特定の薬剤の使用:食道や気管の組織に影響を与える特定の薬剤の副作用として、瘻孔ができる可能性も指摘されています。

食道気管支瘻の原因を正確に特定することは、適切な治療法を選択するために欠かせません。もし、咳が止まらない、食後にむせるなどの症状が続く場合は、早めに専門医へ相談し、詳しい検査を受けることが重要です。

食道気管支瘻の症状

食道気管支瘻の症状は、食道と気管が異常につながることで、本来胃に送られるはずの飲食物が肺へと流れ込むことで引き起こされます。これにより、咳や肺炎などの呼吸器症状が中心となりますが、症状自体は他の一般的な病気と区別しにくいことが特徴です。

食道気管支瘻が疑われる場合、次の症状に注意が必要です。

・咳や痰 飲食物が食道から気管へ流れ込むと、気管支が刺激されて咳が出やすくなります。特に食事中や食後にひどくなることが多く、多量の痰を伴うこともあります。

・誤嚥性肺炎 気管に入り込んだ飲食物や胃液が肺に達することで、肺炎を繰り返すリスクが高まります。これを誤嚥性肺炎といい、重症化すると命に関わる場合もあります。

・息苦しさ 常に異物が気管に入ることで、肺や気管支に負担がかかり、息切れや呼吸困難を感じることがあります。

・発熱 誤嚥性肺炎などの感染症を併発すると、発熱や全身のだるさ(倦怠感)が現れることがあります。

・体重減少 食事のたびに咳き込んだり、飲み込むことに苦痛を感じたりするため、食欲が落ち栄養状態が悪化し、結果として体重が減ってしまうことがあります。

食道気管支瘻は非常にまれな病気であるため、一般的な呼吸器疾患や消化器疾患と区別しにくく、診断が難しいケースも少なくありません※。その理由は、食道気管支瘻による症状が、他の多くの病気でも見られるような「非特異的」なものが多いからです※。そのため、臨床医は、はっきりしない症状が続く場合にこの病気を念頭に置き、慎重な診断を進めることが求められます※。

もし、「いつものことだから」と軽視せず、長引く咳や食事中のむせ、繰り返す発熱など、これらの症状に心当たりがある場合は、早めに医療機関を受診し、専門医に相談することが大切です。

食道気管支瘻の検査・診断

食道気管支瘻は、そのまれな性質と他の病気と紛らわしい症状のため、正確な診断には専門的な視点と慎重な検査が不可欠です。この病気の診断は、患者さんの症状や病態、そして疑われる原因に合わせて、いくつかの検査方法を組み合わせることで行われます。

診断にあたっては、主に次の検査が用いられます。

・食道造影検査(バリウム検査)

食道造影検査は、飲んだバリウム(造影剤)が食道から気管や気管支へ流れ込む異常な経路(瘻孔)がないかをX線で確認する検査です。この検査は、食道気管支瘻の診断において高い感度(97.4%)を示しており、内視鏡検査やCT、気管支鏡検査と比較しても、診断に極めて有用であることがわかっています※。わずかな瘻孔であっても、造影剤の流れ方によって見つけられる場合があります。

・内視鏡検査(上部消化管内視鏡、気管支鏡)

口から細い管(内視鏡)を挿入し、食道や胃の内部を直接観察する「上部消化管内視鏡」と、気管や気管支の内部を観察する「気管支鏡」を組み合わせて行われます。この方法で、瘻孔の位置や大きさ、周囲の組織の炎症の有無などを直接目で見て確認できます。必要に応じて、組織の一部を採取し、顕微鏡で詳しく調べる病理検査も同時に行われます。

・CT検査(コンピュータ断層撮影)

CT検査は、X線を使って体の内部を様々な角度から撮影し、詳細な断面画像を作成する検査です。瘻孔がどこにあり、周囲の臓器(肺やリンパ節など)とどのような関係にあるのか、また炎症がどの程度広がっているのかを立体的に把握できます。特に、食道気管支瘻の原因となっている可能性がある腫瘍や、感染による病変(感染巣)の確認にも有効です。

これらの検査結果は、それぞれの画像や所見を総合的に評価することで、食道気管支瘻の確定診断へとつながります。この病気は非常にまれで、非特異的な症状が多い(他の病気でも見られるような症状が多い)ため、診断が難しいケースも少なくありません※。そのため、専門医は、患者さんの状況を詳しく伺いながら、病気を強く疑い、最も適切な検査計画を立てて診断を進めていくことになります。

食道気管支瘻の治療

食道気管支瘻の治療は、瘻孔(ろうこう)ができた原因や患者さんの全身状態、瘻孔の大きさなど、複数の要因を総合的に考慮して選択されます。主な治療法には、外科手術、内視鏡を用いた治療、そして保存的治療の3つがあります。

食道気管支瘻の治療方法は、主に以下の表のとおりです。

治療法 | 特徴 | 適応されるケース

外科手術 | ・瘻孔を直接閉鎖し、周囲の組織を修復する ・根本的な解決(根治)が期待できる治療法 | ・先天性食道気管支瘻の場合が最も多い ・瘻孔が大きい場合や、他の治療法で効果が見込めない場合

内視鏡的治療 | ・内視鏡を使って瘻孔をクリップで閉じたり、塞ぐ薬剤を注入したりする ・体への負担が少ない | ・瘻孔が比較的小さい場合 ・感染性食道気管支瘻の一部 ・外科手術が難しい患者さん

保存的治療 | ・抗生物質などで感染症を治療し、点滴などで栄養を補給しながら、自然に瘻孔が閉じるのを待つ方法 | ・感染性食道気管支瘻の一部 ・全身状態が悪く、外科手術や内視鏡治療が困難な場合

それぞれの治療法について、より詳しく見ていきましょう。

外科手術

外科手術は、食道と気管を異常につなぐ瘻孔を直接閉鎖し、周囲の組織を修復することで、病気の根本的な解決を目指す治療法です。特に、生まれつきの異常である先天性食道気管支瘻の場合、この外科手術が第一選択となることがほとんどです※。手術によって瘻孔を確実に閉鎖することで、飲食物の誤嚥を防ぎ、繰り返す肺炎などの合併症を予防することが期待できます。

内視鏡的治療

内視鏡的治療は、口から挿入した内視鏡を使って瘻孔を閉鎖する治療法です。具体的な方法としては、瘻孔をクリップで閉じたり、特殊な薬剤を注入して塞いだりすることが挙げられます。外科手術に比べて体への負担が少ないため、瘻孔が比較的小さい場合や、患者さんの全身状態から外科手術が難しい場合に選択されることがあります。感染症が原因で生じた食道気管支瘻(感染性食道気管支瘻)では、内視鏡的治療が選択肢の一つとなるケースも少なくありません※。

保存的治療

保存的治療は、手術や内視鏡による直接的な処置を行わず、薬や栄養管理で症状の改善や瘻孔の閉鎖を促す方法です。例えば、感染症が原因の食道気管支瘻であれば、抗生物質を使って感染を治療します。また、食事からの栄養摂取が難しい場合は、点滴などで栄養を補給し、患者さんの体力を回復させながら、瘻孔が自然に閉じるのを待ちます。感染性の食道気管支瘻では、このような保存的治療が選択されることもあります※。

ただし、