食道憩室

食べ物が飲み込みにくい、胸につかえる感じがする。年齢のせいだと見過ごしがちなその不調、もしかしたら食道の壁にできた小さな「袋」が原因かもしれません。この袋は「食道憩室」と呼ばれ、バリウム検査を受ける人の0.5~1%に見つかる、決して珍しくない病気です。

多くは無症状で治療も不要ですが、袋が大きくなると食べ物が溜まり、逆流や体重減少など生活に支障をきたす深刻な事態につながることも。日本では特定のタイプが全体の70~80%を占めるなど、その特徴は様々です。

この記事では、そんな食道憩室の種類や原因、そしてどのような場合に治療が必要になるのかを詳しく解説します。気になる症状の正体を知り、適切な対処法を見つけるための一歩として、ぜひ読み進めてみてください。

食道憩室の概要

食べ物の通り道である食道の壁の一部が、袋のように外側へふくらむ病気があります。 このふくらみを「食道憩室(しょくどうけいしつ)」と呼びます。

多くの場合、憩室は小さく、特に症状を引き起こすことはありません。 そのため、健康診断のバリウム検査などで偶然見つかることがほとんどです。 症状がなければ、治療の必要がないまま経過をみることが大半です。

しかし、憩室が大きくなると、食べ物の通り道が狭くなることがあります。 食べ物が飲み込みにくい、胸につかえる感じがするといった症状が出ます。 食べたものが胃に届かず、口の中へ戻ってくる「逆流」も起こりやすいです。 こうした症状が続くと、十分に食事が摂れなくなる場合があります。 その結果、体重が著しく減ってしまうなど、体に影響が出ることもあります。

食道憩室は、食道のどの部分にもできる可能性があります。 日本では食道の真ん中あたりにできる「中部食道憩室」が最も多いです。 気になる症状があれば、まずは消化器内科などの医療機関へご相談ください。

食道憩室の種類

食道憩室は、できる場所によって大きく3つの種類に分けられます。 それぞれのでき方や特徴が違い、国によって多い種類も異なります。

種類

できる場所

でき方(メカニズム)

特徴

咽頭食道憩室

(いんとうしょくどうけいしつ)

のどに近い

食道の入り口

内側からの圧力で

押し出される(圧出性)

欧米で多いタイプです

中部食道憩室

(ちゅうぶしょくどうけいしつ)

食道の

真ん中あたり

周りの組織に

外側へ引っ張られる(牽引性)

日本で最も多いタイプです

横隔膜上憩室

(おうかくまくじょうけいしつ)

胃に近い

食道の下の方

内側からの圧力で

押し出される(圧出性)

症状が強く出ることがあります

咽頭食道憩室(いんとうしょくどうけいしつ)

のどと食道の境目あたりにできるタイプの憩室です。 食べ物を飲み込む力などによって、壁の弱い部分が外側に飛び出します。 風船を内側から押して、一部がふくらむイメージに近いかもしれません。 欧米では、このタイプの食道憩室が最もよく見られます。

中部食道憩室(ちゅうぶしょくどうけいしつ)

食道の真ん中あたりにできる憩室です。 過去の肺の病気などで、近くのリンパ節が炎症を起こした影響でできます。 硬くなったリンパ節が食道の壁を外側へ引っ張ることで起こります。 日本ではこのタイプが最も多く、全体の70~80%を占めています。

横隔膜上憩室(おうかくまくじょうけいしつ)

胃につながる手前、横隔膜という筋肉のすぐ上にできる憩室です。 食道の動きが悪くなることなどで、中の圧力が高まってできると考えられます。 この憩室が大きくなると、飲み込みにくさや逆流などの症状が強く出やすいです。 食事が十分に摂れず、体重が大きく減ってしまうなど、体に影響が及ぶこともあります。

食道憩室の原因

食道憩室ができる原因は、憩室の種類によって異なり、主に2つのタイプに分けられます。 一つは食道の「内側からの圧力」でできるタイプです。 もう一つは「外側から引っ張られる力」によってできるタイプです。

内側からの圧力でできるタイプ(圧出性憩室)

食べ物を飲み込む時、食道の筋肉は動いて食べ物を胃へ送ります。 しかし、この動きに問題があると、食道の中の圧力が高まります。 高まった圧力によって、筋肉の壁の弱い部分が外側へ袋のように飛び出します。 これが「圧出性(あっしゅつせい)憩室」です。

のどに近い「咽頭食道憩室」や、胃に近い「横隔膜上憩室」がこのタイプです。 特に横隔膜上憩室が大きくなると、飲み込みにくさや逆流が起こりやすくなります。 食事が十分に摂れず、体重が著しく減ってしまうなど、体に影響が及ぶこともあります。

外側から引っ張られてできるタイプ(牽引性憩室)

食道の周りには、肺の近くにあるリンパ節などの臓器があります。 過去にかかった病気(結核など)で、このリンパ節が炎症を起こし硬くなることがあります。 硬くなったリンパ節が、近くの食道の壁とくっついてしまうのです。 その結果、食道の壁が外側へ引っ張られることで憩室ができます。 これを「牽引性(けんいんせい)憩室」と呼びます。 日本では、食道の真ん中にできる「中部食道憩室」の多くがこのタイプです。

原因のタイプ

メカニズム

関連する憩室の種類

圧出性憩室

食道の内圧が高まり、壁の弱い部分が外に飛び出す

咽頭食道憩室、横隔膜上憩室

牽引性憩室

周囲の臓器の炎症が原因で、食道の壁が外に引っ張られる

中部食道憩室

このように、食道憩室はその成り立ちが異なります。 特に横隔膜上憩室は、食道の動きが悪くなる他の病気に伴って見られることもあります。

食道憩室の症状

食道の壁にできた袋(憩室)が小さい間は、特に症状は出ません。 そのため、健康診断のバリウム検査などで偶然見つかることがほとんどです。

しかし、憩室が大きくなるにつれて、食べ物がその袋に溜まります。 それによって、食事や生活に影響を及ぼす様々な症状が現れ始めます。

  • 食べ物を飲み込みにくい(嚥下困難)
  • 食べ物がのどや胸につっかえる感じがする
  • 食べたものが口やのどまで戻ってくる(逆流)

これらの症状が続くと、食事を十分に摂ることが難しくなります。 特に、胃の近くにできる横隔膜上憩室などが巨大になると、栄養不足から著しく体重が減ってしまうこともあります。

また、憩室ができた場所によって、症状の出かたに特徴があります。

<のどの近くにできた場合(咽頭食道憩室)>

  • のどの違和感や、何かがつまっているような感じ
  • 夜、寝ている間に突然せき込むことがある
  • 憩室に溜まった食べ物が気管に入り、肺炎(誤嚥性肺炎)を起こす危険がある

<胸のあたりにできた場合(中部・横隔膜上憩室)>

  • 胸の痛みや、締め付けられるような不快感
  • まれに憩室の壁が傷つき出血したり、穴が開いたり(穿孔)することもある

もし、このような症状に心当たりがあれば、放置せずに消化器内科などの医療機関へご相談ください。

食道憩室の検査・診断

のどの違和感や食べ物のつかえ感などから食道憩室が疑われる場合。 詳しい状態を調べるために、主に2つの検査を組み合わせて診断します。 外側から全体像を見る検査と、内側から直接見る検査のことです。

まず、食道全体の形をみる「食道X線造影検査」を行います。 一般的には「バリウム検査」として知られているものです。 バリウムという白い液体を飲み、レントゲンで食道の形を撮影します。 この検査で憩室が見つかる割合は、およそ0.5~1%とされています。

次に、憩室の中を直接見る「上部消化管内視鏡検査」を行います。 これは「胃カメラ」のことで、先端にカメラが付いた管でのぞきます。 憩室の内部に、食べ物による慢性的な炎症や潰瘍がないかを確認します。 また、まれに憩室の中にがんができることもあるため、その確認も重要です。

検査の種類

どんな検査?

この検査でわかること

食道X線造影検査

(バリウム検査)

バリウムを飲んで

レントゲン撮影

・憩室の場所、形、大きさ

・食道全体の形の異常

・食べ物の通り道の様子

上部消化管内視鏡検査

(胃カメラ)

細いカメラで

食道の中を直接見る

・憩室の中の炎症や出血

・食べ物が溜まっていないか

・がんなどの別の病気がないか

このように2つの検査を組み合わせ、より正確な診断につなげます。 特に、体重が減るほどの症状がある場合、詳しく調べることが大切です。 詳しい診断結果をもとに、今後の治療方針を丁寧に決めていきます。

食道憩室の治療

食道憩室が見つかっても、すぐに治療が必要なわけではありません。 袋(憩室)が小さく、特に症状がなければ治療をせずに様子を見ます。

しかし、憩室が大きくなって生活に影響が出始めたら治療が必要です。 例えば、飲み込みにくさや逆流などの症状が強くなった場合です。 食事が十分に摂れず、著しく体重が減る場合も治療を考えます。 まれに憩室から出血したり、壁に穴が開いたりした時も治療対象です。

治療が必要と判断された場合、主に手術で憩室を取り除きます。 最近では、患者さんの体への負担が少ない方法を選ぶことが多いです。

手術方法

どんな手術?

開胸手術

胸を大きく開けて、直接憩室を切り取る従来の方法です。

胸腔鏡・腹腔鏡手術

体に小さな穴をいくつか開け、カメラや道具を入れて行う手術です。

傷が小さく、回復が早い傾向があります。

ロボット支援手術

医師がロボットアームを精密に操り、より細かい作業が可能な手術です。

開胸手術に代わる安全な選択肢の一つと考えられています。

内視鏡治療

口から入れた胃カメラを使い、憩室の壁を切る方法です。

体の外に傷がつかないため、負担がさらに少ないです。

特に胃の近くに憩室ができた場合、食道の筋肉の動きも原因です。 そのため、憩室を取り除くと同時に、食道の筋肉を少し緩める手術も行います。 根本的な原因にも対処することで、食べ物の通りを良くするのです。

症状がない場合でも、定期的な胃カメラ検査は大切です。 ご自身の状態に合った治療法を、担当の医師とよく相談しましょう。