食道がん

熱い飲み物で胸がしみたり、食べ物がつかえるような違和感を覚えたりしたことはありませんか。そのささいなサインは、初期症状がほとんどなく「静かな病気」とも呼ばれる食道がんの危険信号かもしれません。自覚症状に乏しいため、気づかないうちに進行してしまうことがあるのです。

実は、日本人の食道がんの約90%は「扁平上皮がん」という種類で、その最大の原因は「飲酒」と「喫煙」という非常に身近な生活習慣にあります。特にお酒を飲むと顔が赤くなる方は、発がん性物質を分解する力が弱く、リスクが格段に高まることがわかっています。

この記事では、食道がんの詳しい症状や原因、そして内視鏡治療から最新の薬物療法までをわかりやすく解説します。ご自身の状態と照らし合わせ、早期発見とあなたに合った治療法を見つけるための一歩としてお役立てください。

食道がんの概要

食道がんは、食べ物の通り道である「食道」にできるがんです。 食道はのどと胃をつなぐ管状の臓器で、食べ物を胃へ送ります。

食道は、場所によって大きく3つに分けられます。

  • 頸部(けいぶ)食道
  • のどに近い首の部分を指します。
  • 胸部(きょうぶ)食道
  • 胸の中を通る最も長い部分です。
  • 食道胃接合部
  • 食道が胃につながる部分のことです。

がんの多くは、食道の壁の一番内側をおおう粘膜から発生します。 がんがまだ粘膜の中にとどまる浅い状態を「早期食道がん」と呼びます。 がんは進行すると、食道の壁の外側へと深く広がっていきます。

治療法は、がんの深さや広がり、転移の有無によって決まります。 最近では、治療を始める前にがんの性質を詳しく調べる研究が進んでいます。 これにより、一人ひとりに合った治療法を選びやすくなりました。

例えば、がんの周りの環境を調べることで治療効果を予測します。

  • 免疫細胞の働きを調べる
  • がん組織に集まる「がんと戦う免疫細胞」の種類や数を調べます。
  • がんと戦う細胞が多いと、治療が効きやすい傾向があります。
  • がんの活動性を調べる
  • PET検査という画像検査で、がん細胞の活動の勢いを見ます。
  • がんの活動性が高いか低いかなども、治療方針の参考になります。

これらの情報から、抗がん剤や放射線治療が効きやすいかを判断します。 より効果的な治療を選択するための大切な手がかりとなるのです。

食道がんの種類

食道がんは、がん細胞の顔つき(組織型)によって種類が分かれます。 この顔つきの違いで、できやすい場所や治療方法が変わることがあります。 日本人の食道がんでは、主に以下の2つの種類が見られます。

種類

特徴

日本人での割合

扁平上皮(へんぺいじょうひ)がん

食道の内側をおおう粘膜から発生します。

約90%

腺(せん)がん

胃酸などが逆流しやすい食道と胃の境目にできやすいがんです。

約7%

がんの種類を正確に知ることは、治療計画を立てる上でとても重要です。 どの治療法が最も効果的かを見極めるための、大切な第一歩になります。

最近の研究では、治療が効きやすいかどうかを事前に予測する試みが進んでいます。 がん細胞の周りの環境を詳しく調べることで、より個人に合った治療を選びます。

例えば、がん組織に集まる「がんと戦う免疫細胞」の種類や数を調べます。

  • CD8陽性細胞など
  • がんを攻撃する働きを持つ免疫細胞です。
  • この細胞が多いと、治療が効きやすい傾向があると考えられています。

また、がん細胞が持つ特定のたんぱく質を分析することもあります。 このような治療効果を予測する目印は「バイオマーカー」と呼ばれます。 がんの種類やバイオマーカー、体力などを総合的に評価することが大切です。 それにより手術が安全に行えるかなどを予測し、治療方針を決めていきます。

食道がんの原因

食道がんがなぜできるのか、その仕組みはまだ全てわかっていません。 しかし、がんの発生リスクを高めるいくつかの要因が知られています。 特に、毎日の生活習慣が大きく関わっていると考えられています。

主な原因として、以下のものが挙げられます。

  • 飲酒と喫煙 食道がんの発生に最も強く関わるのが、飲酒と喫煙の習慣です。 これらは、日本人に多い「扁平上皮がん」の二大危険因子です。 お酒を飲むと、体内で「アセトアルデヒド」という物質が作られます。 この物質には、がんを引き起こす性質(発がん性)があります。 特にお酒で顔が赤くなる人は、この物質を分解する力が弱い体質です。 そのため、食道がんになるリスクが高いので特に注意が必要です。 喫煙だけでもリスクは上がりますが、飲酒と喫煙の習慣が重なると、 がんの発生リスクはさらに高まることがわかっています。
  • 食生活の習慣 熱い食べ物や飲み物を頻繁に摂る習慣も、リスクを高めます。 熱いものが食道の粘膜を繰り返し傷つけるためと考えられています。 また、ビタミンなどが豊富な野菜や果物の摂取が不足することも、 リスク要因の一つとして挙げられます。
  • 遺伝的な要因 生活習慣だけでなく、生まれ持った遺伝的な体質も関係します。 遺伝子の違いは、がんのなりやすさだけでなく、薬の効きやすさにも影響します。 近年の研究では、個人の遺伝子のわずかな違いを調べることが増えました。 例えば、「ERCC1」という遺伝子のタイプを調べる研究があります。 アジア人の食道がん患者さんを対象とした研究では、 この遺伝子の特定のタイプを持つ人は、一部の抗がん剤が効きやすい、 という可能性が報告されています。 これは、将来一人ひとりに合った治療を選ぶための大切な情報になります。

食道がんの症状

食道がんは、初期の段階では症状がほとんど現れないことが多いです。 そのため「静かな病気」とも呼ばれ、気づかないうちに進行する危険があります。 しかし、がんが少しずつ大きくなると、体はサインを出し始めます。 ささいな変化を見逃さないことが、早期発見につながる大切な鍵です。

【見逃さないで!食道がんの初期サイン】 はじめに現れる症状は、胸のあたりのかすかな違和感です。

  • しみるような感覚 熱いものや酸っぱいものを飲んだとき、胸がしみるように感じます。
  • チクチクする感じ 食べ物を飲み込むと、胸の奥がチクチクと痛むことがあります。
  • 食べ物のつかえ感 胸に食べ物が引っかかるような、通りが悪い感じがします。

これらの症状は、しばらくすると自然に消えてしまうこともあります。 そのため「治った」と勘違いしやすいのですが、注意が必要です。

がんが食道の中でさらに大きくなると、よりはっきりした症状が出ます。

症状

なぜ起こるのか(原因の例)

食べ物がつかえる

がんが食道をふさぎ、食べ物の通り道が狭くなるためです。

体重が減る

食事がうまく摂れなくなり、栄養が不足するためです。

胸や背中の痛み

がんが食道の壁を越え、周りの臓器へ広がっているサインです。

咳が続く・声がかすれる

がんが気管や、声を出す神経に影響を及ぼしているためです。

息苦しさ(呼吸困難)

がんが気管を圧迫したり、肺に影響したりするためです。

特に「食べ物のつかえ感」は、だんだんと悪化していく特徴があります。 初めは固い肉などが食べにくくなり、次にご飯、おかゆと進みます。 最後には水さえも飲みにくくなる場合は、病気が進んでいるサインです。

咳や息苦しさは、がん自体が原因で起こるだけでなく、治療後も注意が必要です。 ある研究では、治療によって飲み込みにくさは改善しやすい一方で、 息苦しさはかえって悪化することがある、と報告されています。 これらの症状は他の病気でも起こりますが、続く場合はご相談ください。

食道がんの検査・診断

食道がんの疑いがあるとき、精密な検査でがんの正体を探ります。 がんがいるか、どれくらい広がっているかを正確に知ることが大切です。 それにより、一人ひとりに最適な治療法を選ぶことができます。

がんを見つけるための主な検査

食道がんの診断では、いくつかの検査を組み合わせて行います。 それぞれの検査には、大切な役割があります。

  • 内視鏡検査(胃カメラ)
  • 口や鼻から細いカメラを入れ、食道の粘膜を直接見る検査です。
  • がんの場所や大きさ、形などを確認できる、最も重要な検査です。
  • 検査中に疑わしい部分の組織を少しだけ採り(生検)、
  • 顕微鏡でがん細胞がいるかを調べ、診断を確定させます。
  • 画像検査
  • がんの広がりや他の場所への転移がないかを調べる検査です。
  • 体の中を詳しく見ることで、治療計画を立てる手がかりにします。

検査の種類

わかること

CT検査

体の輪切りの写真で、がんが周りの臓器やリンパ節、肺や肝臓などへ転移していないかを確認します。

超音波内視鏡検査(EUS)

内視鏡の先についた超音波で、がんが食道の壁のどの深さまで達しているかを調べます。

PET検査

がん細胞がエネルギーをたくさん使う性質を利用し、がんの勢いや全身への広がりを見つけます。

これらの検査結果を総合的に見て、がんの進行度(ステージ)を決めます。 ステージは、がんの深さや転移の状況で決まる、病気の進み具合です。

また、手術の前に抗がん剤などで治療を行うことがあります。 その治療がどれだけ効いたかを、手術で取った組織で確認します。 このとき、がん細胞が完全に消えているか(病理学的完全奏効)を見ます。

しかし、ここで一つ注意が必要です。 ある研究では、検査でがんが消えたように見えても、 それが長期的な安心を保証するとは限らない、と報告されています。 目に見えない小さながんが残っている可能性も考える必要があるのです。 そのため、治療効果の判断は慎重に行うことがとても大切になります。

食道がんの治療

食道がんの治療法は、がんの進み具合や体の状態を考えて決めます。 年齢やご本人の希望なども大切にし、最適な方法を選びます。 治療は一つだけでなく、複数を組み合わせることもあります。 これを「集学的治療」と呼び、チームでがんに立ち向かいます。

主な治療法には、以下のような選択肢があります。

治療法

どんなときに行うか

治療の概要

内視鏡治療

ごく初期のがん(ステージ0など)

口からカメラを入れ、食道の内側からがんを取り除きます。体への負担が少ないのが特徴です。

手術

がんが食道の壁の中にある場合など

がんのある食道と周りのリンパ節を切り取ります。がんを根本から治すことを目指せる治療法です。

放射線治療

手術が難しい場合など

高いエネルギーのX線をあて、がん細胞を攻撃します。薬の治療と組み合わせて行うことも多いです。

薬物療法

進行した場合や手術の補助など

点滴や飲み薬で、がんが増えるのをおさえたり、攻撃したりします。抗がん剤や免疫の薬が使われます。

化学放射線療法

手術が難しい場合や手術の前など

放射線治療と薬物療法を同時に行い、治療の効果をさらに高めることを目指します。

手術はがんを治すための強力な選択肢ですが、体への負担も大きいです。 そのため、手術前に体の状態を詳しく調べ、安全に行えるかを予測します。 手術後のリスクを事前に予測するための研究も進められています。

特に、手術の前に行う化学放射線療法では、効果を高める工夫がされています。 例えば、治療を始める前にPET検査などでがんの勢いを調べることがあります。 また、がん組織に集まる「がんと戦う免疫細胞」の種類を分析することもあります。 これらは「バイオマーカー」と呼ばれ、治療が効きやすいかの目印になります。

しかし、化学放射線療法は、治療後しばらくしてから副作用が出ることもあります。 肺の働きが少し落ちて、息苦しさが出ることが報告されています。 また、治療後に検査でがんが見えなくなっても、安心とは限りません。 目に見えない小さながんが残っている可能性もあるため、注意が必要です。 どの治療を選ぶかは、良い点と注意点を理解し、医師と話し合って決めましょう。