胃MALTリンパ腫

胃カメラ検査などで「胃MALT(マルト)リンパ腫」という聞き慣れない病名を告げられたら、大きな不安を感じるかもしれません。これは胃にできる「悪性リンパ腫」、つまり血液のがんの一種ですが、その原因の約9割は、実は身近な「ピロリ菌」の長期感染にあることをご存じでしょうか。

この病気は進行が非常にゆっくりで、初期症状もほとんどないため、落ち着いた対応が可能です。しかし、治療の基本であるピロリ菌の除菌療法が、近年「耐性菌」の増加によって、うまくいかないケースが増えています。この記事では、胃MALTリンパ腫の正しい知識から、治療を成功させるために知っておくべき重要なポイントまでを詳しく解説します。

胃MALTリンパ腫の概要

胃MALT(マルト)リンパ腫とは、胃の粘膜にできる悪性リンパ腫です。 悪性リンパ腫は、血液の白血球に含まれるリンパ球ががん化する病気です。 MALTは「粘膜関連リンパ組織」という免疫組織を指します。

この病気には、知っておくべき3つの大きな特徴があります。

  • 進行が非常にゆっくり
    悪性リンパ腫の中では「低悪性度」に分類されます。 年単位でゆっくりと進行するため、落ち着いて治療に臨めます。
  • 初期症状が出にくい
    初期段階では自覚症状がほとんどなく、胃の不快感もまれです。 そのため、胃カメラ検査などで偶然発見されることも少なくありません。
  • ピロリ菌感染との強い関連
    主な原因は、ヘリコバクター・ピロリ菌の長期感染です。 慢性的な胃の炎症が、リンパ球のがん化を招くと考えられています。

胃MALTリンパ腫の治療は、このピロリ菌を取り除く除菌療法が基本です。 しかし、近年では抗生物質が効かない「耐性菌」の増加が問題です。 この薬剤耐性は、治療がうまくいかない主な原因となっています。

そのため、治療薬を決める前に、どの抗生物質が有効か調べる必要があります。 特に「クラリスロマイシン」という薬への耐性の有無を事前に特定することが、 治療方針を決めるうえで極めて重要になります。

胃MALTリンパ腫の種類

胃MALTリンパ腫は、大きく2つのポイントで分類されます。 この分類によって、治療の方法が大きく変わってきます。

ポイント1:ピロリ菌がいるか、いないか 胃の中にピロリ菌がいるかどうかは、最も大切な分類です。 患者さんの約9割は、ピロリ菌の感染が原因で発症します。

  • ピロリ菌陽性(ピロリ菌がいるタイプ)
    ピロリ菌を退治する「除菌療法」という飲み薬での治療が基本です。 しかし近年、抗生物質が効かない「耐性菌」の増加が大きな問題です。 これは世界的な課題で、治療がうまくいかない主な原因になっています。
    そのため、治療を始める前にどの薬が効くか調べることが重要です。 特に「クラリスロマイシン」という薬への耐性の有無を特定することが、 治療方針を決めるうえで極めて大切になります。
  • ピロリ菌陰性(ピロリ菌がいないタイプ)
    ピロリ菌がいない場合は、除菌療法は行いません。 放射線治療や、お薬を使った化学療法などが選択肢となります。

ポイント2:病気の広がり(病期) もう一つは、病気が体のどこまで広がっているかによる分類です。

病期

状態

限局期

病気が胃やその近くのリンパ節にとどまっている段階です。

進行期

病気が横隔膜を越えて、体の広い範囲に広がっている段階です。

このように、胃MALTリンパ腫の治療計画を立てる際には、 「ピロリ菌の有無」と「病気の広がり」を総合的に評価します。 そして、一人ひとりの状態に合わせた治療法を決めていきます。

胃MALTリンパ腫の原因

胃MALTリンパ腫の主な原因は、ピロリ菌への感染です。 胃の中に長期間ピロリ菌がすみつくことで発症します。 実際に、患者さんの約9割からピロリ菌の感染が見つかります。

ピロリ菌は、胃の粘膜で弱い炎症をずっと起こし続けます。 これは、お部屋で小さな火事がずっと続いているような状態です。 この火事を消すため、免疫を担うリンパ球が集まります。

しかし、炎症が長引くとリンパ球に異常が生じることがあります。 そして、リンパ球の一種である「B細胞」ががん化してしまうのです。 これが、胃MALTリンパ腫が発生する仕組みと考えられています。

胃MALTリンパ腫が起こる流れ

  1. ピロリ菌が胃に長くすみつく
  2. 胃の粘膜で慢性的な炎症が起こる
  3. 免疫細胞であるB細胞に傷がつく
  4. 傷ついたB細胞が、がん細胞に変化する

ピロリ菌の感染は決して珍しいものではありません。 住んでいる地域によっては、多くの人が感染している細菌です。 このピロリ菌が、胃がんや胃潰瘍なども引き起こします。

また、まれにピロリ菌がいない方でも発症することがあります。 この場合、「API2-MALT1融合遺伝子」という遺伝子の異常が、 原因の一つとして報告されており、約2割の患者さんに見られます。

胃MALTリンパ腫の症状

胃MALTリンパ腫は、とてもゆっくりと進行する病気です。 そのため、初期の段階では自覚できる症状はほとんどありません。 多くの場合、健康診断や他の病気で受けた胃カメラ検査で、 偶然発見されることが少なくないのが特徴です。

症状が現れる場合でも、一般的な胃の不調とよく似ています。 ご自身で病気だと気づくことは、非常に難しいでしょう。

考えられる胃の症状

  • みぞおちの痛みや重い感じ おなかの上のほう(上腹部)に、痛みや重苦しい感じがします。
  • 胃もたれ 食事の後に、胃が重く感じたりスッキリしなかったりします。
  • 吐き気や食欲の低下 むかむかしたり、あまり食事がとれなくなったりします。

これらの症状は、この病気の主な原因であるピロリ菌が、 胃にすみつくことで起こる慢性的な胃炎の症状とそっくりです。 ピロリ菌は決して珍しいものではなく、住んでいる地域によっては、 多くの人が感染している身近な細菌です。

進行した場合にみられる全身の症状

病気が進行すると、以下のような全身の症状が現れることがあります。 これらは悪性リンパ腫でみられることがある重要なサインです。

  • 貧血による症状 血液が薄くなることで、だるさや息切れ、めまいが起こります。
  • リンパ節の腫れ 首やわきの下、足の付け根などのリンパ節が腫れることがあります。
  • 原因不明の発熱 風邪などの感染症ではないのに、熱が出たり下がったりします。
  • ひどい寝汗 夜中にパジャマを着替える必要があるほどの汗をかきます。
  • 体重の減少 特にダイエットをしていないのに、半年で5%以上体重が減ります。

このように、症状だけで胃MALTリンパ腫と判断するのは困難です。 「いつもの胃もたれだ」と軽く考えず、気になる不調が続く場合は、 消化器内科などの医療機関へ相談することをおすすめします。

胃MALTリンパ腫の検査・診断

胃MALTリンパ腫が疑われる場合、正確な診断が不可欠です。 診断と病気の広がりを把握するため、いくつかの検査を行います。 検査は大きく2つのステップに分けて進められます。

まず、病気を確定させるための「確定診断」が第一歩です。 次に、体のどこまで病気が広がっているか調べる検査をします。 これらの結果を基に、一人ひとりに合った治療法を決めます。

ステップ1:確定診断のための検査

診断で最も重要なのは、胃カメラ(内視鏡)を使う検査です。 胃の内部を直接観察し、病変が疑われる部分を探します。

見つかった部分の組織を、ごくわずかに採取するのが生検です。 この組織を顕微鏡で詳しく調べ、がん細胞の有無を確定します。 同時に、主な原因であるピロリ菌の有無も検査します。

ステップ2:病気の広がりと治療方針を決める検査

診断が確定したら、病気の範囲(病期)を調べます。 また、治療を効果的に進めるための検査も重要です。

  • 薬剤感受性検査 ピロリ菌がいた場合に、どの抗生物質が効くか調べる検査です。 近年、抗生物質が効かない「耐性菌」の増加が世界的な問題です。 これは治療がうまくいかない大きな原因となっています。 そのため、事前に薬の効果を調べることが非常に重要です。 特に「クラリスロマイシン」という薬への耐性の有無を、 治療前に特定することが、治療戦略を決めるうえで不可欠です。
  • 画像検査(CT検査など) 体の断面図を撮影し、病気が胃の周りのリンパ節や、 他の臓器に広がっていないかを確認します。
  • 血液検査 貧血の有無や白血球の数など、全身の健康状態を評価します。
  • 骨髄検査 まれに病気が骨の中心にある骨髄に及ぶことがあるため、 それを調べるために行われることがあります。

これらの検査結果を総合的に判断し、最適な治療計画を立てます。

胃MALTリンパ腫の治療

胃MALTリンパ腫の治療は、いくつかの選択肢があります。 この病気は年単位でゆっくり進行するため、慌てる必要はありません。 患者さん一人ひとりの状態に合わせて、慎重に治療法を選びます。

基本はピロリ菌を退治する「除菌療法」

胃MALTリンパ腫の患者さんの約9割は、ピロリ菌に感染しています。 そのため、病気が胃の中だけにとどまっている場合は、 まずピロリ菌を退治する「除菌療法」という飲み薬での治療が基本です。

  • 一次除菌 胃酸を抑える薬と2種類の抗生物質を、1週間服用します。
  • 二次除菌 一次除菌で効果がなかった場合に、薬の種類を変えて再度行います。

【重要】薬が効かない「耐性菌」の増加

近年、抗生物質が効きにくい「耐性菌」を持つピロリ菌が増加し、 これは世界中で治療がうまくいかない大きな原因となっています。

特に「クラリスロマイシン」という薬への耐性が問題です。 そのため、治療を始める前にどの薬が効くかを調べることが、 治療を成功させるためのカギとなります。

除菌療法以外の治療法

除菌療法で効果がない場合や、ピロリ菌がいない場合、 また病気が胃の外にも広がっている場合は、他の治療を検討します。

対象となる状態

主な治療法

除菌療法で効果がない場合<br>ピロリ菌がいない場合

放射線治療

病気が胃の外に広がっている場合

・抗体療法(リツキシマブなど)<br>・お薬(抗がん薬)を使った化学療法

症状がなく、腫瘍が小さい場合

経過観察<br>(すぐに治療せず定期的に検査)

どの治療法を選ぶかは、病状や全身の状態を総合的に判断します。 ご自身の治療方針については、担当の医師とよく相談しましょう。