睡眠中に突然、下腹部や足の付け根を襲う耐えがたいほどの激痛。それは、特に10代から20代の男性に多い「精索捻転」のサインかもしれません。精巣への血流が完全に途絶えてしまう、まさに時間との勝負となる泌尿器科の救急疾患です。
この病気の恐ろしさは、治療までの時間にあります。発症から6時間以内であれば精巣を救える確率は約90%ですが、24時間を超えると約10%にまで激減し、将来の不妊につながる深刻なダメージを残す可能性があります。
この記事では、ある日突然あなたや家族を襲うかもしれない精索捻転について、その原因や見逃してはいけない症状、そして一刻を争う治療法までを詳しく解説します。大切な体を守るために、正しい知識を身につけましょう。
精索捻転の概要
精巣(せいそう)と体をつなぐ命綱である「精索(せいさく)」が、ねじれてしまう病気です。精索の中には、精巣に血液を送るための大切な血管が通っています。
この精索がねじれると、精巣への血の流れが完全に止まってしまいます。血液が届かないと、精巣は酸素や栄養をもらえず、深刻なダメージを受け始めます。これは「泌尿器科の救急疾患」と呼ばれ、時間との勝負になる病気です。
血液が止まった精巣の中では、次のようなことが起こります。
- 酸素不足(低酸素)になる 精巣の細胞が息をできなくなり、弱ってしまいます。
- 炎症や酸化ストレスが起きる 精巣の中で小さな火事が起きたり、細胞がサビついたりするような状態になります。
- 細胞が自ら壊れてしまう(アポトーシス) ダメージがひどくなると、細胞が自ら壊れることを選んでしまいます。
このようなダメージが進むと、精巣は機能を失ってしまう可能性があります。そうなると、将来子どもができにくくなる「不妊」の原因になることもあります。
この病気は、特に10代から20代の男性に多く見られます。しかし、赤ちゃんから大人まで、どの年代でも起こる可能性があるため注意が必要です。精巣を守るためには、症状が出てからすぐに病院へ行くことが何よりも大切です。
精索捻転の種類
精索捻転は、ねじれる場所や起こりやすい年齢によって、主に2つの種類に分けられます。どちらのタイプも精巣への血流が止まるため、すぐに治療が必要な危険な状態です。
鞘膜外捻転(しょうまくがいねんてん)
お母さんのお腹にいる赤ちゃんや、生まれたばかりの赤ちゃんに起こりやすいタイプです。精巣を包んでいる「鞘膜(しょうまく)」という膜の外側で、精索ごとねじれてしまいます。
赤ちゃんの体はまだ発達の途中です。そのため、精巣とそれを包む膜が、陰のうの壁にしっかりと固定されていません。この未熟な構造が原因で起こると考えられています。
鞘膜内捻転(しょうまくないねんてん)
幼児期から思春期の男の子に起こる精索捻転のほとんどが、このタイプです。鞘膜の内側で、精巣だけがコマのようにクルッと回転してねじれてしまいます。
生まれつき精巣が鞘膜の中でぶら下がっているような構造(ベルクラップ変形)の人に起こりやすい特徴があります。
|
種類
|
起こりやすい時期
|
ねじれる場所
|
|
鞘膜外捻転
|
赤ちゃん(お腹の中〜新生児)
|
精巣を包む膜の外側
|
|
鞘膜内捻転
|
幼児期〜思春期以降
|
精巣を包む膜の内側
|
どちらのタイプでも、ねじれで血流が止まると、精巣は酸素不足で大きなダメージを受けます。迅速な診断と手術が必要な泌尿器科の緊急疾患であることを覚えておきましょう。
精索捻転の原因
精索捻転がなぜ起こるのか、その主な原因は生まれつきの体のつくりにあります。 ねじれやすい構造をたまたま持っていることが、発症の根本的な理由です。
特に重要と考えられている原因は、主に以下の2つです。
- 精巣の固定がゆるい(ベルクラップ変形) 通常、精巣は「鞘膜(しょうまく)」という膜に包まれ、陰のうの中で安定しています。 しかし、生まれつきこの膜の付き方が異なり、精巣がぶら下がった状態の人がいます。 この「ベルクラップ変形」は、精巣が回転しやすくなる最も大きな原因となります。
- 精索が生まれつき長い 精巣と体をつなぐ命綱である精索が、平均より長い場合も注意が必要です。 精巣が動ける範囲が広くなるため、何かの拍子にねじれやすくなります。
このような体のつくりに、何らかのきっかけが加わることで精索捻転は発症します。 激しい運動や体を冷やすこと、お腹に強く力を入れることなどが引き金になります。 しかし、特別なきっかけがなく、睡眠中や朝方に突然起こることも多いのが特徴です。
精索捻転は、足の付け根(鼠径部)に激痛をもたらす泌尿器科の緊急疾患です。 ねじれによって精巣にダメージが加わると、将来の不妊につながる可能性も指摘されています。 ある研究では、精巣捻転が自分の精子を異物と間違えて攻撃する物質(抗精子抗体)を作るきっかけになる可能性が示唆されています。 大切な精巣を守るためにも、迅速な対応が何よりも重要になります。
精索捻転の症状
精索捻転は、ある日とつぜん、激しい痛みとともに始まることがほとんどです。特に、夜中から朝方にかけての睡眠中に起こりやすいという特徴があります。
症状は非常に特徴的で、我慢できないほどの強いものが多いです。 お子さんから大人まで、以下のようなサインを見逃さないことが重要です。
- 陰のうの激しい痛みと腫れ 陰のう(精巣の入っている袋)や精巣そのものが、突然、殴られたような激痛に襲われます。 痛みで体を丸めてしまうほどで、赤くパンパンに腫れあがります。
- 下腹部や足の付け根の痛み 痛みは陰のうだけでなく、下腹部や足の付け根(鼠径部)にまで広がることがあります。 男性の足の付け根の痛みは、精巣捻転のような緊急性の高い泌尿器科疾患のサインかもしれません。
- 吐き気やおう吐 あまりの痛みの強さに体が反応し、吐き気を感じたり、実際におう吐してしまったりすることもあります。
- 精巣の位置の異常 ねじれた側の精巣が、正常な位置よりも上に持ち上がっていたり、横向きになったりします。 鏡で見て、左右の高さが違う場合は注意が必要です。
言葉で痛みをうまく伝えられない小さなお子さんの場合は、次のような様子で気づかれることもあります。
- 急に機嫌が悪くなり、泣きやまない
- お腹が痛いと訴える
- 歩きたがらない
まれに痛みが自然に治まることがありますが、ねじれが一時的に戻っただけの可能性が高いです。 放置すると再発する危険があるため、症状が一つでも当てはまる場合は、すぐに泌尿器科を受診してください。
精索捻転の検査・診断
精索捻転の診断は、まさに時間との勝負です。 精巣への血の流れが止まった時間が長いほど、精巣は深刻なダメージを受けてしまいます。 そのため、病院では素早く正確な診断が何よりも大切になります。
病院に着くと、まず医師が症状を詳しく聞き、陰のうの状態を丁寧に診察します。
- お話を聞く(問診) いつから、どんな風に痛いか、吐き気はないかなどを確認します。
- 体の診察 精巣の位置が普段より高くなっていないか、腫れや硬さがないかを見たり触ったりします。 太ももの内側を軽くこすって精巣が上がる反射(挙睾筋反射)が消えていないかも調べます。
診察で精索捻転が強く疑われる場合は、体の内部を見る検査で診断を確定させます。
- 超音波(エコー)検査 この検査が診断の中心です。超音波を使って精巣の様子を観察します。 「カラードップラー」という機能で、精巣への血液の流れを色で確認できます。 精索捻転では血流が止まるため、この色が乏しくなったり、完全に消えたりします。
ただし、超音波検査は非常に役立ちますが、ねじれた直後では判断が難しいこともあります。 足の付け根の痛みを引き起こす病気には、精索捻転のほかにも緊急性の高いものがあります。 もし見分けが難しい場合でも、精巣を守ることを最優先に考えます。 そのため、診断と治療を兼ねて緊急手術に踏み切ることがあります。
精索捻転の治療
精索捻転の治療は、まさに時間との勝負です。 精巣への血の流れが止まるため、一刻も早い治療が求められます。 治療が早いほど、大切な精巣を守れる可能性が高くなります。
発症してから治療を始めるまでの時間で、精巣を救える確率は大きく変わります。
|
発症からの時間
|
精巣を救える確率の目安
|
|
6時間以内
|
約90%
|
|
12時間以内
|
約50%
|
|
24時間以内
|
約10%
|
この表が示すように、時間が経つほど精巣は回復できないダメージを受けます。 「おかしいな」と感じたら、ためらわずに病院へ行くことが何よりも大切です。
治療の基本は緊急手術です
治療の基本は、ねじれた精索を元に戻すための緊急手術です。 手術では、主に以下のことを行います。
- ねじれを元に戻す 精索のねじれをほどき、精巣に再び血液が流れるようにします。
- 精巣を固定する 再発を防ぐため、精巣を陰のうの内側に糸で縫い付けて固定します。 将来のねじれを防ぐため、症状がない反対側の精巣も固定することが勧められます。
残念ながら、発見が遅れて精巣が機能を取り戻せない場合は、精巣を取り出す手術が必要になることもあります。
手術後の課題と新しい治療法
手術で血流が戻っても、安心できない場合があります。 一度血流が止まった場所に再び血液が流れると、逆に組織が傷つくことがあるのです。 これを「虚血再灌流障害(きょけつさいかんりゅうしょうがい)」と呼びます。
この影響で、手術後に精巣が小さくなったり(萎縮)、将来子どもができにくくなる(不妊)可能性も指摘されています。 そのため、手術で精巣を残せたとしても、長期的なリスクについて医師から十分な説明を受けることが大切です。
現在、手術によるダメージを減らすため、新しいお薬の研究が進められています。 動物実験の段階ですが、精巣の機能を守るための有望な治療法も報告されており、今後の治療の進歩が期待されます。