急性胃炎

急なみぞおちの痛みや吐き気、とてもつらいですよね。その症状は、胃がSOSを出している「急性胃炎」のサインかもしれません。胃を守る力と攻撃する力のバランスが崩れたとき、胃の粘膜に急な炎症が起こるのです。

原因は、お酒の飲み過ぎやストレスだけだと思っていませんか?実は、普段飲んでいる痛み止めや、お刺身に潜むアニサキス、さらには子どもの頃に感染し一生すみ着くこともあるピロリ菌など、原因は多岐にわたります。中には放置すると危険なサインにつながるものも。

この記事では、あなたの胃痛の原因を突き止めるためのヒントと、正しい治療法を詳しく解説します。ご自身の症状と照らし合わせ、つらい痛みから解放されるための第一歩として、ぜひ最後までご覧ください。

急性胃炎の概要

急なみぞおちの痛みや吐き気は、とてもつらいものです。 これは、何らかの原因で胃の粘膜が急に荒れてしまう「急性胃炎」のサインかもしれません。

私たちの胃の中には、食べ物を消化するための強力な「胃酸」があります。 普段、胃は「粘液」というバリアで守られているため、胃酸で胃自体が溶けることはありません。 この「攻撃する力」と「守る力」のバランスが、胃の健康を保つカギとなります。

  • 胃を攻撃する力(攻撃因子) 胃酸、消化酵素、ストレス、アルコール、一部の薬、細菌など
  • 胃を守る力(防御因子) 胃の粘液、胃の粘膜を流れる血液など

しかし、暴飲暴食や強いストレスなどによってこのバランスが崩れると、胃を守る力が弱まります。 その結果、胃酸が粘膜を直接攻撃し、急な炎症を引きおこしてしまうのです。

また、細菌の感染も急性胃炎の重要な原因となります。 特に「ピロリ菌」は、多くの場合、子どもの頃に感染します。 そして、お薬で治療しない限り、一生お腹の中にすみ続けることがあるのです。

ピロリ菌は胃酸から身を守る特別な力を持っているため、胃の中で長く生き続けます。 これが胃の炎症を引きおこし、胃炎のほか、胃潰瘍などの原因にもなることがあります。

急性胃炎は数日でよくなることが多いですが、症状が強い場合は無理せず受診を検討しましょう。

急性胃炎の種類

ひとくちに急性胃炎といっても、その原因は一つではありません。 原因ごとに、いくつかの種類に分けることができます。 ご自身の症状がどのタイプかを知るための参考にしてください。

代表的な急性胃炎の種類は、以下のとおりです。

種類

簡単な説明

感染性胃炎

ウイルスや細菌、寄生虫などが原因です。<br>食中毒もこの一種になります。

薬剤性胃炎

痛み止めなどのお薬の副作用によって、<br>胃の粘膜が荒れてしまうタイプです。

ストレス性胃炎

心のつかれや体の大きな負担が原因で、<br>胃の働きが乱れて起こります。

アルコール性胃炎

お酒の飲み過ぎで胃が直接刺激され、<br>炎症が起こるタイプです。

これらのなかでも、特に注意したいのが「感染性胃炎」です。 食中毒の原因となるノロウイルスや、お刺身にいるアニサキスがよく知られています。

また、ピロリ菌という細菌の感染も、胃炎の大きな原因となります。 ピロリ菌は、多くの場合、子どもの頃に感染すると考えられています。

ピロリ菌は「外膜蛋白質」という特殊な手足を持っています。 この手足で胃の壁にしっかりとしがみつき、簡単には離れません。 そのため胃の中で長く生き続け、粘膜に炎症を引き起こすのです。

お薬で治療をしない限り、ピロリ菌は一生すみ続けることもあります。 慢性的な胃炎だけでなく、胃潰瘍や胃がんの原因にもなるため注意が必要です。

急性胃炎の原因

急性胃炎は、胃を守る力と攻撃する力のバランスが崩れることで起こります。 原因は一つだけでなく、複数が重なって症状を引きおこすことも少なくありません。

主な原因として、以下の4つが挙げられます。

  • お薬の副作用 ロキソニンなどに代表される痛み止め(NSAIDs)が、原因として最も多くみられます。 これらの薬は痛みを抑える一方、胃の粘膜を守るバリアの生成も抑えてしまいます。 その結果、胃酸の攻撃を受けやすくなり、胃が荒れてしまうのです。
  • 食べ物や飲み物の影響 アルコールの飲みすぎは、胃の粘膜を直接傷つけ、炎症を引きおこします。 また、唐辛子やニンニクといった香辛料を多く使った刺激の強い食事も原因です。
  • ストレスの影響 心の疲れや体の大きな負担は、自律神経のバランスを乱す原因となります。 自律神経が乱れると、胃酸が過剰に出たり、胃の血流が悪くなったりします。 これが胃を守る力を弱め、胃炎につながることがあります。
  • ばい菌や寄生虫の感染 – ピロリ菌 多くは子どもの頃に感染し、お薬で治療しない限り胃の中にすみ続けます。 ピロリ菌は、胃酸から身を守る特別な力(ウレアーゼ酵素)を持っています。 また、胃だけでなく、体全体の免疫が勘違いを起こす原因にもなりえます。 これを「分子模倣」と呼び、他の病気につながる可能性も指摘されています。
    – ウイルス・細菌 ノロウイルスやカンピロバクターなどによる食中毒も、急な胃炎の原因です。
    – アニサキス サバやイカなどにいる寄生虫で、胃の壁に食いつくことで激しい痛みを引きおこします。

このほか、お子さんや高齢者の方がボタン電池などを誤って飲み込むことも危険です。 胃に穴があくこともあるため、緊急の対応が必要になります。

急性胃炎の症状

急性胃炎は、胃がSOSを出しているサインです。 突然、みぞおちのあたりにキリキリとした痛みが現れることが多いです。

ご自身の状態と照らし合わせられるよう、チェックリストを用意しました。 一つでも当てはまる場合は、注意深く様子を見てください。

【急性胃炎の主な症状チェックリスト】

  • みぞおち(お腹の上のほう)が痛む
  • 胃が重たい、張っている感じがする
  • むかむかして吐き気がする
  • 実際に吐いてしまう
  • 食欲がまったくない
  • 熱が出ることがある

胃の痛みは、痛む場所がはっきりせず、波があるのが特徴です。 胃の粘膜が炎症で荒れると、胃の動きも悪くなります。 そのため、お腹の張りや吐き気、食欲不振といった症状も起こるのです。

炎症がひどくなると、胃の粘膜から出血することがあります。 この場合、吐いたものに血が混じったり(吐血)、便が海苔の佃煮のように黒くなったり(下血)します。 これは危険なサインなので、すぐにご相談ください。

多くの場合、症状は数日で自然に落ち着きます。 しかし、原因によっては症状が長引くこともあります。 特にピロリ菌という細菌が原因の場合、注意が必要です。

最近の研究では、ピロリ菌が体を守るシステムをだます、とても小さな物質(miRNA)を操ることがわかってきました。 この働きによって、ピロリ菌は体の攻撃から巧みに逃れます。 そして、しつこい胃の炎症につながる可能性があるのです。

いつもと違う胃の痛みや、症状が続く場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

急性胃炎の検査・診断

急な胃の痛みの原因を正しく突き止めるため、いくつかの検査を行います。 原因を特定することで、一人ひとりに合った適切な治療を選べるようになります。

検査のなかで、特に重要なのが胃内視鏡検査(胃カメラ)です。 口や鼻から細いカメラを入れ、胃の中の様子を直接観察する検査です。

▼胃カメラでわかること

  • 胃の粘膜を直接見る 炎症の程度や範囲、出血がないかなどを、目で見て正確に確認できます。
  • 組織を採って詳しく調べる 胃の組織を少しだけ採って(生検)、ピロリ菌がいるかなどを調べられます。
  • その場で処置もできる お刺身などにいるアニサキスが原因の場合、その場で取り除くことも可能です。 また、胃から出血が見られる場合は、止血する処置も行えます。

ピロリ菌の検査は、胃の健康状態を知るうえで非常に大切です。 最近の研究では、ピロリ菌が「miRNA」という小さな物質を操ることがわかってきました。 miRNAは、体の様々な働きを調整する司令塔のようなものです。

ピロリ菌はこのmiRNAを利用して、体を守る免疫の攻撃から巧みに逃れます。 将来的には、このmiRNAを調べることで、体を傷つけることなく病気のリスクを早く発見できるかもしれません。

このほか、体全体の様子を調べるために、以下の検査も行います。

  • 血液検査 炎症の強さや、出血による貧血が起きていないかなどを評価します。
  • 画像検査(レントゲン・CT) まれですが、胃に穴が開くなど重い状態が疑われる場合に実施します。

これらの検査結果を総合的に判断し、今後の治療方針を決めていきます。

急性胃炎の治療

急性胃炎の治療で最も大切なのは、胃に負担をかけている原因を取りのぞくことです。 そして、荒れてしまった胃の粘膜をしっかり休ませ、回復を助けることがゴールです。

治療の基本は、次の3つの柱で進められます。

  1. 原因を取りのぞく
  2. お薬で胃を助ける
  3. 特別な原因への治療

1. 原因を取りのぞく

胃炎を引きおこした原因を、生活から遠ざけることが治療の第一歩です。 胃に刺激を与えるものをひかえ、胃を安静に保ちましょう。

  • 食事や飲み物 アルコールやコーヒー、香辛料の多い食事は、胃の粘膜を直接攻撃します。 症状が落ち着くまでは、消化の良いおかゆやうどんなどを選びましょう。
  • お薬 痛み止めなどが原因の場合、自己判断で中止せず、必ず医師に相談してください。 胃への負担が少ないお薬への変更などを検討します。
  • ストレス 十分な睡眠をとり、リラックスできる時間をつくることが大切です。 心と体を休ませることで、胃の防御機能の回復を助けます。

2. お薬で胃を助ける

症状をやわらげ、胃の粘膜が回復するのをサポートするためにお薬を使います。 患者さまの状態に合わせて、これらのお薬を組み合わせて処方します。

お薬の種類

主なはたらき

酸分泌抑制薬

胃酸の出すぎをおさえ、胃の粘膜へのダメージを減らします。

防御因子増強薬

胃の粘膜を守るバリアの力を高め、胃の回復を助けます。

漢方薬

胃痛、食欲不振、吐き気など、それぞれの症状に合わせて使います。

3. 特別な原因への治療

症状が重い場合や、特別な原因がある場合には、以下のような治療を行います。

  • 点滴(輸液療法) 吐き気がひどく、食事や水分がとれないときに行います。 点滴で水分や栄養を補給し、脱水状態を防ぎます。
  • 内視鏡(胃カメラ)での治療 アニサキスが原因の場合や、出血している場合に有効です。 胃カメラを使って直接、原因を取りのぞいたり血を止めたりします。

特に、ピロリ菌の感染が原因の場合は、お薬による除菌治療が必要です。 ピロリ菌は、体を守る免疫の働きをじゃまする物質(miRNA)を操ることがあります。 これにより免疫の攻撃から巧みに逃れ、しつこい炎症につながるのです。

そのため、ピロリ菌の治療は飲み薬が基本となります。 しかし、お薬を飲むことが難しい方には、点滴による治療が選択肢となることもあります。 どのような治療法が良いかは、一人ひとりの状態に合わせて判断していきます。