嵌頓痔核
おしりに突然、座れないほどの激しい痛みと硬い腫れ。それは「嵌頓痔核(かんとんじかく)」という、いぼ痔が起こす危険な症状かもしれません。肛門から飛び出したいぼ痔が戻れなくなり、筋肉に締め付けられることで、時には子どものこぶし大にまで急激に腫れ上がる非常に痛みを伴う状態です。
この激しい痛みは、血の流れが悪化しているSOSサイン。治療が遅れると、血流が途絶えた組織が腐ってしまう「壊死」や細菌感染を引き起こす危険性もあります。なぜこのような事態が起こるのか、そしてよく似た症状の「血栓性外痔核」とは何が違うのでしょうか。
「すぐに手術が必要?」と強い不安を感じるかもしれませんが、緊急手術になることはまれです。この記事では、つらい痛みの原因と正しい対処法、最新の治療について詳しく解説します。ご自身の状況を正しく理解し、悪化を防ぐためにお役立てください。
嵌頓痔核の概要
嵌頓痔核(かんとんじかく)とは、突然起こる激しい痛みを伴う痔の症状です。 肛門の内側にできた「いぼ痔(内痔核)」が肛門の外に飛び出してしまい、 自力では戻せなくなった状態を指します。
「嵌頓」とは、体の組織が狭い場所にはまり込み、抜けなくなることです。 この嵌頓痔核は、主に次のような3つの段階を経て起こります。
- 1. いぼ痔が飛び出す(脱出) 排便の際に強く力むことなどがきっかけとなり、 肛門の内側にあったいぼ痔が、完全に外へ飛び出してしまいます。
- 2. 筋肉に締め付けられる(絞扼) 飛び出したいぼ痔を、肛門を締める筋肉(肛門括約筋)が強く締め付けます。 この筋肉は、普段は便が漏れないように肛門を閉じる役割をしています。
- 3. 血の流れが悪くなり腫れる(うっ血) 締め付けによって、いぼ痔の血の巡りが悪くなります。 その結果、中に血の塊(血栓)ができて急激に腫れ上がります。 大きさは、時に親指大から子どものこぶし大になることもあります。
この状態になると、突然の激しい痛みと硬い腫れが生じます。 痛みは非常に強く、座ったり歩いたりすることさえ困難になる場合があります。
すぐに命に関わる緊急手術が必要なことは多くありません。 しかし、治療が遅れると血流が止まった組織が腐ってしまう「壊死」や、 細菌感染などを引き起こす危険があります。
つらい痛みを和らげ、重症化を防ぐためにも、 できるだけ早く医療機関を受診することが非常に重要です。
嵌頓痔核の種類
急におしりが腫れて激しく痛む場合、嵌頓痔核が考えられます。 しかし、よく似た症状を起こす別の病気もあります。
特に見分ける必要があるのは「血栓性外痔核」という病気です。 これら2つは、もとになる痔の種類や状態が全く異なります。 正しく治療するために、まずは違いを知ることが大切です。
- 嵌頓痔核(かんとんじかく)
- 肛門の「内側」にできた内痔核が原因です。
- 内痔核が外に飛び出し、戻れなくなって腫れ上がります。
- 血栓性外痔核(けっせんせいがいじかく)
- 肛門の「外側」にある外痔核が原因です。
- いぼ痔の中に血のかたまり(血栓)ができて腫れます。
※血栓(けっせん)とは、血管の中で血液が固まってできた塊のことです。
この2つの違いを、下の表で比べてみましょう。
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特徴 |
嵌頓痔核 |
血栓性外痔核 |
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もとになる痔 |
内痔核(ないじかく) |
外痔核(がいじかく) |
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でき方 |
内痔核が飛び出し、戻れなくなって腫れる |
外痔核に血のかたまり(血栓)ができる |
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腫れの大きさ |
比較的大きく、肛門全体が腫れることも |
パチンコ玉ほどの大きさが多い |
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痛みの特徴 |
突然の激しい痛み。座れないほど痛むことも |
ジンジンとした持続的な痛み |
また、嵌頓痔核は腫れの広がり方によっても分けられます。 肛門の一部分だけが腫れる場合と、 肛門全体がドーナツのように腫れる「全周性」のものがあります。
全周性に腫れると、痛みはより一層強くなる傾向にあります。 ご自身での判断は難しいため、専門医の診察が不可欠です。
嵌頓痔核の原因
嵌頓痔核は、もともとあった内痔核(いぼ痔)が悪化して起こります。 突然発症するように感じますが、原因となる悪循環が存在します。
まず、排便時に強く力んだりすることで、内痔核が肛門の外に飛び出します。 飛び出したいぼ痔を、肛門を締める筋肉(肛門括約筋)が締め付けます。 この筋肉は、普段は便が漏れないように肛門を閉じる役割があります。
締め付けによって、いぼ痔の血の流れが悪くなります。 すると、内部に血のかたまり(血栓)ができ、むくみも生じます。 その結果、いぼ痔は急激に腫れ上がり、肛門内に戻れなくなります。
この「脱出→締め付け→腫れ→さらに戻れない」という悪循環が、 激しい痛みを伴う嵌頓痔核を引き起こすのです。 また、嵌頓痔核は男性に多い傾向があり、 これは男性の方が肛門括約筋の力が強いことが理由の一つと考えられます。
特に、以下のような場面は肛門に強い圧力がかかり、 嵌頓痔核の引き金となるため注意が必要です。
- 排便時の強いいきみ 便秘などで、排便時に強く、長く力むことは大きな負担になります。
- 重い物を持ち上げる お腹に力が入る瞬間、肛門周辺の血流に影響を与えます。
- 長時間座りっぱなしの姿勢 デスクワークや運転などで、おしりが圧迫され血流が悪くなります。
- お腹に力が入る激しい運動 ゴルフや筋力トレーニングなども、腹圧を高める原因となります。
もともと排便のたびに痔核が外に出る方は、 これらの日常的な行動がきっかけとなりやすいため、特に注意が大切です。
嵌頓痔核の症状
嵌頓痔核になると、今までに経験したことのないような、 突然の激しい症状がおしりに現れます。 我慢できないほどの「痛み」と「大きな腫れ」が主な特徴です。
これらは、いぼ痔が肛門の外に飛び出したまま戻れなくなり、 おしりを締める筋肉に締め付けられて起こります。 血の流れが悪くなる「うっ血」という状態になり、急激に悪化します。
具体的には、以下のような症状が危険なサインです。
- 座れないほどの激しい痛み じっとしていてもズキズキと痛みます。 歩いたり座ったりすることが困難になるほどの激痛です。 この痛みで肛門の筋肉がさらに緊張し、 締め付けが強くなるという悪循環に陥ります。
- 硬く大きな腫れとしこり 肛門の外に、硬いしこりが触れるようになります。 大きさは親指大から、子どものこぶし大になることもあり、 肛門全体がカチカチに腫れ上がることも珍しくありません。
- 出血 腫れた部分が傷つき、出血することがあります。 下着に血が付く程度のものから、 ポタポタと血がたれ落ちるケースまで様々です。
- おしっこやうんちが出しにくい 激しい痛みの影響で、お腹に力を入れることが怖くなります。 その結果、排尿や排便が困難になる場合があります。
このような症状があるときに、ご自身で無理に押し戻そうとしないでください。 かえって組織を傷つけ、症状を悪化させる危険が非常に高いです。 これは、体からの緊急事態を知らせるSOSサインです。 ためらわずに、すぐに専門の医療機関を受診してください。
嵌頓痔核の検査・診断
嵌頓痔核の診察では、まず患者さんの強い痛みに配慮します。 そのため、おしりの中に器具を入れるような検査は行いません。 多くの場合、医師が目で状態を確認する「視診」だけで診断が可能です。
目で見て確認するポイント(視診)
医師は視診の際、主に以下の3つの点を確認しています。 これは、似た病気と正確に見分けるためにとても重要です。
- いぼ痔の状態 肛門の内側にあるはずの「内痔核」が、 外に飛び出してしまっているか(脱出)を確認します。
- 腫れの大きさや範囲 腫れの大きさや、肛門全体が大きく腫れているかを見ます。 嵌頓痔核は、ときに子どものこぶし大になることもあります。
- 色や出血の有無 血の流れが悪くなり、組織が黒っぽく変色していないかを見ます。 これは組織が死んでしまう「壊死(えし)」のサインであり、 治療を急ぐ必要があるかどうかの判断材料になります。
似ている病気との見分け方
嵌頓痔核とよく似た症状に「血栓性外痔核」があります。 どちらも急に痛みますが、原因や状態が異なるため治療法も変わります。
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特徴 |
嵌頓痔核 |
血栓性外痔核 |
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原因 |
内側のいぼ痔が<br>飛び出して戻れない |
外側のいぼ痔に<br>血のかたまりができる |
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腫れ方 |
肛門全体が大きく腫れる |
肛門の一部が小さく腫れる |
このように、専門の医師が目で見るだけでほとんどの場合、診断できます。 激しい痛みや腫れがあるときは、ご自身で判断せず、 できるだけ早く専門の医療機関を受診してください。
嵌頓痔核の治療
嵌頓痔核の激しい痛みから、すぐに手術が必要ではと不安になるかもしれません。 しかし、緊急で手術になることはまれですので、まずはご安心ください。 治療の第一歩は、痛みや腫れを落ち着かせることから始めます。
この手術以外の方法で症状を和らげる治療を「保存的治療」と呼びます。 日本の診療ガイドラインでも、まずはこの方法が推奨されています。 つらい症状を速やかに改善させることが、何よりも優先されます。
クリニックで行う処置と処方
クリニックではまず、飛び出したいぼ痔を優しく元の位置に戻します。 これを「用手整復(ようしゅせいふく)」と呼びます。 痛みを和らげる麻酔のゼリーを使うなど、苦痛を減らす工夫をします。
保存的治療では、主に以下のようなお薬を組み合わせて処方します。
- お薬での治療
- 飲み薬 痛みや炎症を抑えるお薬で、つらい症状を和らげます。
- 坐薬・軟膏 肛門に直接作用させて、腫れや痛みを鎮める効果が期待できます。
- 緩下剤(かんげざい) 便を柔らかくして、排便時の負担を減らし、悪化を防ぎます。
ご自宅で心がけること
お薬とあわせて、ご自宅でのケアも症状改善の大切なポイントです。
- おしりを温める
- お風呂にゆっくりつかるなどして、肛門の周りを温めましょう。
- 血の巡りが良くなり、腫れや痛みが和らぎやすくなります。
- 清潔に保つ
- 患部を清潔に保ち、細菌による感染を防ぐことも重要です。
これらの治療で、通常は1週間ほどで痛みはかなり楽になります。 しかし、原因のいぼ痔や皮膚のたるみが残ることも少なくありません。 そのため、症状が落ち着いた後に、再発を防ぐ手術を検討することがあります。










