前立腺炎

下腹部の不快感や頻尿といった、人には相談しづらいお悩みはありませんか。その症状、実は男性の約8割が生涯で一度は経験するともいわれる「前立腺炎」かもしれません。多くの男性にとって、決して他人事ではない非常に身近な病気なのです。

特に、長引く慢性の痛みは生活の質を大きく下げてしまいます。デスクワークや長時間の運転といった日常の習慣が引き金になることもあり、10代後半から40代の若い世代にも増えているのが特徴です。「年のせい」と自己判断してしまうのは危険かもしれません。

この記事では、前立腺炎の詳しい症状や原因、そして近年注目されている新しい治療の選択肢までを分かりやすく解説します。つらい症状の改善に向け、まずは正しい知識を得ることから始めましょう。

前立腺炎の概要

男性だけが持つ「前立腺」という臓器をご存じでしょうか。 膀胱のすぐ下にあり、精液の一部をつくる大切な働きをしています。 この前立腺に、細菌の感染などが原因で炎症が起きる病気が前立腺炎です。

前立腺炎は決して珍しい病気ではありません。 実は、男性の約8割が生涯で一度は経験するともいわれています。 そのため、多くの男性にとって非常に身近な疾患の一つと言えます。 炎症が起こると、主に以下のような症状があらわれます。

  • 痛みや不快感が出る場所 下腹部、足の付け根、会陰部(えいんぶ:股間と肛門の間)、肛門の周りなど
  • おしっこの悩み 排尿時の痛み、トイレが近くなる(頻尿)、おしっこが残っている感じ(残尿感)
  • その他の症状 射精する時の痛みや違和感

前立腺炎には、急に高熱が出る「急性」のものと、鈍い痛みや不快感が長く続く「慢性」のものがあります。 特に「慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群(CP/CPPS)」は、10代後半から40代の比較的若い世代の方にも多くみられます。

この慢性的な痛みに対しては、近年新しい治療の選択肢も増えています。 例えば、低強度体外衝撃波治療(Li-ESWT)という、体に負担の少ない治療法が有効であると報告されています。 複数の研究結果を分析した報告によると、この治療は痛みや生活の質を改善する効果が確認されています。 お薬と組み合わせることで、さらに症状改善の効果が高まることもわかっており、治療の選択肢は広がっています。

前立腺炎の種類

ひとくちに前立腺炎といっても、いくつかの種類に分けられます。 原因や症状のあらわれ方によって、治療法も変わってきます。 現在では、米国国立衛生研究所(NIH)が提唱した、 以下の4つのタイプに分類するのが一般的です。

カテゴリー

名称

主な特徴

Ⅰ

急性細菌性前立腺炎

細菌が原因で急に発症します。

38度以上の高熱や強い排尿痛が特徴です。

Ⅱ

慢性細菌性前立腺炎

細菌感染が治りきらず、長引くタイプです。

排尿時の不快感や頻尿などが続きます。

Ⅲ

慢性前立腺炎/慢性骨盤疼痛症候群(CP/CPPS)

最も多いタイプです。

細菌は見つからず、お腹や股間の痛み、不快感が長く続きます。

Ⅳ

無症候性炎症性前立腺炎

自覚症状はありません。

他の病気の検査で偶然、前立腺の炎症が見つかるタイプです。

この中で最も多いのが「カテゴリーIII」のタイプです。 はっきりした原因がわからないことも多く、診断や治療が難しい場合があります。 このタイプのつらい痛みに対しては、新しい治療法の研究も進んでいます。

例えば、体に衝撃波をあてる低強度体外衝撃波治療(Li-ESWT)があります。 複数の研究結果を分析した報告によると、この治療は痛みなどを和らげ、 生活の質を高める効果が確認されています。 さらに、お薬と組み合わせることで、治療効果がより長く続き、 改善の度合いも大きくなることがわかっています。

このように、前立腺炎はタイプによって状態が大きく異なります。 ご自身の症状がどのタイプかを正しく診断し、 それぞれに合った治療を受けることがとても大切です。

前立腺炎の原因

前立腺炎がなぜ起こるのか、その原因は一つではありません。 細菌が入り込むことで起こる場合と、それ以外の要因が複雑に絡み合って起こる場合があります。

細菌による感染が原因の場合 尿の通り道である尿道から、大腸菌などの細菌が前立腺に侵入することで炎症が起こります。 これが、高熱や強い痛みを伴う「急性細菌性前立腺炎」や、症状が長引く「慢性細菌性前立腺炎」の主な原因です。

細菌感染以外の要因が原因の場合 最も多いタイプの「慢性前立腺炎/慢性骨盤疼痛症候群」は、はっきりした原因が不明なことも少なくありません。 しかし、以下のような要因が関係していると考えられています。

  • 体の内部で起こっている問題
  • 血流の悪化 前立腺の周りの血の巡りが悪くなることです。 血流が悪くなると炎症を抑える力が弱まるため、症状につながると考えられています。
  • 排尿のトラブル おしっこがうまく出きらず、前立腺の中に逆流することがあります。 この尿が、化学的な刺激となって炎症を引き起こすことがあります。
  • 神経や筋肉の緊張 骨盤まわりの神経が過敏になったり、筋肉がこわばったりすることも痛みの原因となります。
  • 日々の生活習慣の問題
  • 長時間の圧迫 デスクワークや運転で長時間座ることは、股間を圧迫し続けます。 この圧迫が血流を悪化させ、前立腺炎の引き金になります。
  • その他の習慣 精神的なストレスや疲れ、過度な飲酒、体の冷えなども影響します。 これらは自律神経のバランスを乱し、症状を悪化させる一因です。

このように原因は多岐にわたります。 特に慢性的な痛みに対しては、薬だけでなく、血流を改善するなど、原因に働きかける治療も行われるようになっています。

前立腺炎の症状

前立腺炎の症状は、そのタイプによって大きく異なります。 まるで嵐のように突然やってくる「急性の症状」と、 ジワジワと長く続く「慢性の症状」の2つに分けられます。

急性細菌性前立腺炎の症状

急性の場合は細菌が原因で、次のようなはっきりした症状が出ます。 まるでインフルエンザのように、急な体調の変化が特徴です。

  • 急な高熱と悪寒 ガタガタと体が震えるほどの強い寒気と、38度以上の高熱が出ます。
  • 排尿時の強い痛み おしっこの際に、尿道が焼けるような激しい痛みを感じます。
  • おしっこの異常 何度もトイレに行きたくなったり(頻尿)、出し切れない感じがしたりします。
  • 尿閉(にょうへい) 悪化すると、尿意があるのに全くおしっこが出せなくなることもあります。
  • 全身のだるさ 体のだるさや、関節・筋肉の痛みを伴うことも少なくありません。

慢性前立腺炎の症状

一方、慢性の場合は症状が出たり消えたりを繰り返し、多彩な症状がみられます。 特に、最も多い「慢性前立腺炎/慢性骨盤痛症候群」の長引く痛みは、 生活の質(QOL)を大きく下げる原因になります。

ご自身の状態を知るために、以下のチェックリストを参考にしてください。

【もしかして?前立腺炎症状チェック】

  • 痛みや不快感のサイン
  • 場所 下腹部、足の付け根、股間と肛門の間、睾丸などに痛みや不快感がある
  • 状況 長時間座っていると症状が強くなる、射精の時に痛みがある
  • おしっこのトラブルサイン
  • 回数 トイレに行く回数が以前より増えた(頻尿)
  • 感覚 急に我慢できない尿意がある、排尿後もスッキリしない(残尿感)
  • 状態 尿の勢いが弱い、排尿時に痛みや熱さを感じる

これらの症状は一つだけの場合もあれば、複数が重なることもあります。 気になる症状があれば、我慢せずに専門のクリニックに相談しましょう。

前立腺炎の検査・診断

前立腺炎が疑われる場合、正しい診断のためにいくつかの検査を行います。 患者さんの症状や体の状態を正確に把握し、最適な治療法を見つけるためです。

まず、医師が症状について詳しくお話をお伺いします。 いつから、どのような症状で困っているのかなどを確認します。 この時、症状の強さを客観的に評価する質問票も使います。 例えば、「NIH慢性前立腺炎症状スコア(NIH-CPSI)」という世界共通の指標があります。 痛みや排尿の状態、生活への影響を点数化し、状態を正確に把握します。 この点数は、治療の効果を確認する上でも大切なものさしになります。

次に、具体的な検査に進みます。主に以下の3つの検査を行います。

  • 尿検査 おしっこの中に、細菌や、細菌と戦う白血球がいないかを調べます。 これは前立腺炎の診断において、最も基本となる検査です。
  • 直腸診(ちょくちょうしん) 医師が肛門から指を入れ、前立腺を直接触って診察する方法です。 前立腺の大きさや硬さ、押したときの痛みの有無を確認します。 少し抵抗があるかもしれませんが、診断のために非常に重要な検査です。
  • 前立腺マッサージ後の検査 直腸診の際に前立腺を優しく刺激し、その直後の尿を調べます。 こうすることで、前立腺内部の炎症の状態をより詳しく把握できます。

このほか、必要に応じて血液検査で体全体の炎症の程度を確認したり、 超音波(エコー)検査で前立腺の形を詳しく見ることもあります。 これらの検査結果を総合的に判断し、診断を確定させていきます。

前立腺炎の治療

前立腺炎の治療は、その種類や症状の重さに合わせて行います。 治療の基本は、お薬を使う「薬物療法」です。 これに加えて、日々の暮らし方を見直す「生活習慣の改善」も大切です。

薬物療法

患者さんの症状を和らげるため、さまざまなお薬を使い分けます。 一人ひとりの状態に合わせて、これらを組み合わせて治療を進めます。

薬の種類

主な働き

抗生物質

細菌が原因の時に、菌の増殖を抑え、炎症を鎮めます。

αブロッカー

前立腺や尿道の筋肉の緊張をゆるめ、おしっこを出しやすくします。

消炎鎮痛薬

痛みや炎症を和らげ、つらい症状を軽くする目的で使います。

漢方薬

体全体のバランスを整え、血流を改善し、不快な症状を和らげます。

生活習慣の改善

お薬と並行して、生活習慣を見直すことは再発予防にも繋がります。 特に、前立腺まわりの血の巡りを良くすることが大切です。

  • 長時間座るのを避ける デスクワークの合間に立ち上がったり、軽いストレッチをしましょう。
  • 体を冷やさない シャワーだけでなく湯船に浸かるなど、体を温める工夫をしましょう。
  • 食事に気をつける アルコールや、唐辛子などの刺激が強い食べ物は控えめにしましょう。
  • ストレスをためない 十分な休息をとり、心と体をリラックスさせることが大切です。

新しい治療の選択肢

お薬だけでは改善が難しい慢性的な痛みもあります。 そのような痛みに対し、新しい治療の選択肢も増えています。 その一つが「低強度体外衝撃波治療(Li-ESWT)」です。

これは体に特殊な衝撃波をあて、痛みを和らげる治療法です。 多くの研究結果をまとめた信頼性の高い報告があります。 それによると、この治療は痛みや生活の質を改善する効果が確認されています。 お薬と組み合わせることで、症状改善の効果がより長く続き、改善の度合いも大きくなることがわかっています。 体に大きな負担をかけずに行えるため、安心して受けられる治療の一つです。

治療法は一つではありません。 医師とよく相談し、ご自身に合った方法を見つけていきましょう。