去勢抵抗性前立腺がん

前立腺がんの治療で中心となるホルモン療法。しかし、治療を続けるうち、がん細胞が抵抗力を持ち、薬が効きにくくなることがあります。これが「去勢抵抗性前立腺がん」です。「もはや打つ手はないのか…」と、深い不安を感じている方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、諦めるのはまだ早いのです。近年の治療法の進歩は目覚ましく、新たな選択肢が次々と登場しています。例えば、転移のある患者さんの約4人に1人に見つかる遺伝子の特徴を標的とする薬や、がん細胞だけを狙い撃ちする新しい放射線治療は、生存期間や生活の質を大きく向上させることが研究で示されています。

この記事では、複雑化する去勢抵抗性前立腺がんについて、その原因から最新の治療法までを詳しく解説します。ご自身の状態と照らし合わせ、最適な治療を見つけるための確かな知識をぜひ手に入れてください。

去勢抵抗性前立腺がんの概要

前立腺がんの基本的な治療は、がんの栄養源となる男性ホルモンの働きを抑える「ホルモン療法」です。

しかし、治療を続けていくうちに、がん細胞がたくましく性質を変化させることがあります。 男性ホルモンという栄養が非常に少ない環境でも増殖できる、手ごわいがん細胞が生き残り、再び活動を始めてしまうのです。 この、ホルモン療法に抵抗するようになった状態を「去勢抵抗性前立腺がん」と呼びます。

具体的には、以下の状況で診断されることが一般的です。

  • どんな状態?
  • ホルモン療法によって体内の男性ホルモン値を低く抑えても、がんの進行を止められなくなった状態です。
  • どうやってわかる?
  • 血液検査で「PSA」という数値が再び上昇し始めたり、CTなどの画像検査でがんの広がりが確認されたりします。

この段階では、骨やリンパ節など他の臓器へ転移していることも少なくありません。 しかし、近年は治療法が大きく進歩しており、諦める必要はありません。

例えば、がん細胞の表面にある「PSMA」という目印を狙い撃ちする「放射性リガンド療法」という新しい選択肢があります。 ある臨床試験(VISION試験)では、この治療法が生活の質(QOL)の悪化を遅らせることが示されました。 また、骨転移による痛みなどの症状が出るまでの期間を、約6.8ヶ月から約11.5ヶ月へと延ばす効果も報告されています。

ただし、治療法の効果は、何と比較するかによって評価が変わる点に注意が必要です。 ある研究では、比較する薬剤の種類によって、治療成績の見え方が異なる可能性が指摘されました。 ご自身の状態を正確に把握し、担当の医師とよく相談しながら、最適な治療方針を決めていくことが何よりも大切です。

去勢抵抗性前立腺がんの種類

去勢抵抗性前立腺がんは、すべてが同じ状態ではありません。 がんの広がり方や遺伝子の特徴で、いくつかの種類に分類されます。 この分類は、一人ひとりに合った治療法を見つけるために重要です。

転移の有無による分類

まず、がんが体の他の場所に広がっているかで大きく2つに分けます。

  • 転移のない去勢抵抗性前立腺がん(nmCRPC) 画像検査で明らかな転移は見つかりませんが、血液検査でPSA値の上昇が続いている状態です。
  • 転移のある去勢抵抗性前立腺がん(mCRPC) 骨やリンパ節、肺など他の臓器に、がんが転移してしまっている状態です。

遺伝子の特徴による分類

近年、がん細胞が持つ遺伝子の特徴に注目した分類が重要です。 特に「遺伝子の傷(変異)」を調べることが治療の鍵となります。

  • 相同組換え修復(HRR)関連遺伝子の変異 私たちの細胞には、遺伝子が傷ついた時に修理する仕組みがあります。 この修理を担うのが「相同組換え修復(HRR)関連遺伝子」です。 去勢抵抗性前立腺がんの患者さんの約4人に1人では、この遺伝子に傷(変異)があることが知られています。

特に「BRCA1/2」や「ATM」といった遺伝子の変異が重要です。 これらの変異があると、特定の薬が効きやすいことがわかっています。

ある研究(BRCAAway試験)では、新しいホルモン療法薬と「PARP阻害薬」という薬を一緒に使う治療法が検討されました。 その結果、がんの進行を抑えられた期間の中央値は、併用した場合で39ヶ月でした。 これは、それぞれの薬を単独で使った場合(8.6ヶ月や14ヶ月)より大幅に長い結果です。

ただし、複数の研究をまとめた解析では、この併用療法で貧血などの副作用が増えることも報告されています。 そのため、遺伝子の特徴を詳しく調べ、効果と副作用のバランスを考えながら治療法を決めることが大切です。

去勢抵抗性前立腺がんの原因

ホルモン療法が効きにくくなる原因は、がん細胞の性質変化です。 もともと前立腺がんは、男性ホルモンを栄養源として増殖します。

しかし治療を続けるうちに、がん細胞の中に手ごわい性質を持つものが現れます。 男性ホルモンという栄養が少なくても生き残り、増殖できるのです。 このたくましいがん細胞が勢力を広げることが、直接的な原因です。

ではなぜ、一部のがん細胞はこのような変化を起こすのでしょうか。 近年の研究で、その背景に遺伝子の異常が関わることがわかってきました。 私たちの体には、細胞の設計図(DNA)の傷を修復する機能があります。

去勢抵抗性前立腺がんでは、この修理機能に問題が生じていることが多いのです。

  • DNAを修復する仕組みの異常
    細胞の設計図であるDNAが傷ついた際、それを修理する仕組みがあります。 この仕組みに関わる遺伝子に異常がある状態を「相同組換え修復変異(HRRm)」と呼びます。 ある研究では、転移のある患者さんの約4人に1人にこの変異が見つかっています。
  • 特定の遺伝子の変異
    特に「BRCA1/2」や「ATM」という遺伝子の変異が重要です。 これらの遺伝子に異常があるとDNAの修理がうまくいかなくなります。 その結果、がん細胞がしぶとく生き残り、増殖しやすくなると考えられています。

去勢抵抗性前立腺がんの症状

ホルモン療法が効きにくくなると、がんは前立腺の外に広がり始めます。 これを「転移」と呼び、体の様々な場所にサイン(症状)が現れます。 症状の出方は、がんがどこに転移したかによって異なります。

骨への転移による症状

去勢抵抗性前立腺がんが最も転移しやすい場所は「骨」です。 骨に転移すると、生活の質を大きく下げるつらい症状が出やすくなります。

  • 持続的な痛み 腰や背中、お尻の骨(骨盤)などに、じっとしている時も続く痛みが出ます。 夜間に痛みが強くなることも特徴の一つです。
  • 骨がもろくなる(病的骨折) がんが骨を破壊するため、健康な時なら問題ないような弱い力で骨折します。 くしゃみや少し体をひねっただけで骨が折れてしまうこともあります。
  • 神経の麻痺 背骨に転移すると、中を通る大切な神経(脊髄)が圧迫されることがあります。 その結果、手足のしびれや麻痺、排尿や排便の障害が起こる可能性があります。

その他の症状

骨以外への転移や、がんが進行することで以下のような症状も現れます。

  • 足のむくみ お腹の奥にあるリンパ節に転移し、足からのリンパの流れが滞ることが原因です。
  • 排尿のトラブル 尿が出にくい、回数が多い、おしっこに血が混じるなどの症状です。
  • 全身の症状 原因不明のだるさ、食欲の低下、意図しない体重の減少などがみられます。

これらのつらい症状をコントロールすることは、治療の重要な目的です。 ある大規模な研究(VISION試験)では、新しい治療法が注目されています。 この治療は、骨の痛みが悪化したり骨折したりするまでの期間を延ばす効果が示されました。 具体的には、これまでの治療では約6.8ヶ月だった期間を、約11.5ヶ月まで遅らせることができたのです。

これは、治療によって生活の質(QOL)を高く保てる可能性を示唆します。 気になる症状があれば我慢せず、すぐに主治医へ相談することが大切です。

去勢抵抗性前立腺がんの検査・診断

ホルモン療法中にも関わらず、がんが進行していないかを確認します。 そのために、血液検査や画像検査の結果を組み合わせて総合的に判断します。 現状を正確に把握することが、次の最適な一手につながります。

がんの勢いをみる血液検査(PSA検査)

まず基本となるのが、定期的に行う血液検査です。 この検査では「PSA」という、前立腺がんの勢いを示す数値を測ります。 ホルモン療法で一度は下がったPSA値が、再び上昇し続ける場合、注意が必要です。 このPSA値の変化は、がんが抵抗力を持ち始めた最初のサインとなります。

がんの隠れ場所を探す画像検査

次に、がんが体の他の場所に広がっていないか(転移)を調べます。 まるで探偵のように、様々な機械を使い、がんの隠れ場所を探します。

  • CT検査・MRI検査 お腹の中のリンパ節や、肝臓などの臓器にがんがいないかを確認します。 体の断面図を撮影して、詳しく観察する検査です。
  • 骨シンチグラフィ 前立腺がんは骨に転移しやすい特徴があります。 この検査では、骨にがんが潜んでいないかを全身にわたって確認します。

未来の治療につながるPSMA-PET検査

近年、がんをより正確に見つけるための強力な検査が登場しました。 それが「PSMA-PET検査」です。

  • 検査の仕組み 前立腺がんの細胞は、表面に「PSMA」という特別な目印を出しています。 この目印にくっつく特殊な薬を注射し、がん細胞を光らせて見つけます。 これにより、CTなどでは見つけにくい小さながんも捉えることができます。
  • 診断から治療へ この検査で「PSMA陽性」とわかると、治療の選択肢が大きく広がります。 PSMAを目印にした新しい治療法(放射性リガンド療法)の対象になるからです。 ある大規模な臨床試験(VISION試験)では、この治療の有効性が示されました。 骨の痛みや骨折などが起こるまでの期間を、約6.8ヶ月から約11.5ヶ月へと延ばすことができたのです。 これは、検査が診断だけでなく、より良い治療を選ぶための道しるべになることを意味します。

これらの検査結果を総合的にみて、医師が最終的な診断を下します。 そして、その診断をもとに、一人ひとりに合った次の治療計画を立てていきます。

去勢抵抗性前立腺がんの治療

ホルモン療法が効きにくくなったがんの治療は、諦める必要は全くありません。 がんの進行をできるだけ遅らせ、つらい症状を和らげることが目標です。 治療法は一つではなく、がんの個性や体力に合わせて選ぶことが大切です。

近年、治療の選択肢は大きく増え、様々な武器でがんと戦えるようになりました。 主な治療法は、がんの性質に合わせて使い分けたり、組み合わせたりします。

治療法の種類

どんな薬・方法?

特徴

新規ホルモン療法薬

アビラテロン

エンザルタミド など

がんの栄養源である男性ホルモンを、

さらに強力にブロックします。

抗がん剤(化学療法)

ドセタキセル

カバジタキセル など

がん細胞が増えるのを直接邪魔して、

がんを小さくする効果が期待できます。

分子標的薬

(PARP阻害薬)

オラパリブ など

がん細胞が持つ特定の弱点(傷を治す機能の異常)を

狙い撃ちする薬です。

放射性医薬品

ラジウム-223

ルテチウム-177 PSMA

体の中から放射線を出す薬を注射し、

がんを内側から破壊します。

特に、がん細胞の遺伝子を調べ、その特徴に合わせた薬を選ぶ治療が重要です。

遺伝子の特徴に合わせた治療(PARP阻害薬)

がん細胞には、傷ついた自分の設計図(DNA)を修理する機能があります。 この修理機能に問題があるがんには「PARP阻害薬」という薬が効きやすいです。

  • どんな人に有効? 特に「BRCA」という遺伝子に生まれつき傷(変異)がある方で、
    高い効果が期待されています。

ある臨床試験(BRCAAway試験)の結果が、その有効性を示しています。 BRCA遺伝子に変異がある患者さんで、新しいホルモン薬とPARP阻害薬を併用しました。 その結果、がんの進行が抑えられた期間の中央値は、約39ヶ月でした。 これは、それぞれの薬を単独で使った場合(8.6ヶ月や14ヶ月)より大幅に長い結果です。

ただし、複数の研究をまとめた解析では、注意点も報告されています。 この併用療法は、貧血などの副作用が強く出る可能性も指摘されています。 効果と副作用のバランスを考え、慎重に治療法を選ぶことが大切です。

体の中から放射線をあてる治療(放射性医薬品)

「ルテチウム-177 PSMA」は、前立腺がん細胞の表面にある「PSMA」という特別な目印に結合します。 そして、放射線でがん細胞だけを狙い撃ちする、新しいタイプの治療薬です。

この治療薬と、抗がん剤(カバジタキセル)の効果を比べた研究があります。 その結果、どちらも有効な治療の選択肢であることが示唆されました。 どちらを先に使うかは、これまでの治療経過や体の状態をみて総合的に判断します。

このように、治療の選択肢は多岐にわたります。 ご自身の状態に合った最適な治療を見つけるため、主治医と十分に話し合いましょう。