停留精巣
男の子の赤ちゃんのおむつ交換の際、「あれ?」と陰嚢のふくらみに左右差を感じたり、中身が空っぽのように感じたりしたことはありませんか。実は、正期産で生まれた男の子の約2~5%、早産児では最大30%に見られる「停留精巣」は、決して珍しい病気ではないのです。
痛みなどの自覚症状がなく、赤ちゃん自身が不調を訴えることがないため見過ごされがちです。しかし、この状態を放置すると、将来の男性不妊につながるリスクがあることが研究で指摘されています。お子さまの大切な未来のために、親御さんが気づいてあげるべき重要なサインかもしれません。
この記事では、停留精巣の原因やご家庭でできるチェック方法、そして適切な治療時期と方法について詳しく解説します。お子さまの健やかな成長のために、正しい知識を身につけていきましょう。
停留精巣の概要
男の子の赤ちゃんが生まれたとき、精巣(せいそう)がお腹の中にとどまっていることがあります。この精巣が、本来あるべき陰嚢(いんのう)という袋の中にない状態を停留精巣といいます。
精巣は赤ちゃんがお母さんのお腹にいる間に作られます。そして生まれる前に、お腹の中から陰嚢へとゆっくり移動します。停留精巣は、この精巣の移動が途中で止まってしまった状態です。
停留精巣は決して珍しい病気ではありません。生まれてくる男の子の赤ちゃんに見られる割合は以下の通りです。
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赤ちゃんの状態 |
発生する割合の目安 |
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予定通りに生まれた赤ちゃん |
約2~5% |
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予定より早く生まれた赤ちゃん |
最大で約30% |
特に、早く生まれたり、体が小さく生まれたりした赤ちゃんに多く見られる傾向があります。
多くの場合、生後3〜4ヶ月ごろまでに自然に精巣が陰嚢の中におりてきます。しかし、生後6ヶ月を過ぎても精巣がおりてこない場合は注意が必要です。
放置すると、将来的に子どもができにくくなる男性不妊の原因となる可能性があります。これは、自分の精子を攻撃する抗体(抗精子抗体)が作られやすくなるためという研究報告もあります。そのため、乳幼児健診などで医師にしっかりと確認してもらうことが大切です。
停留精巣の種類
停留精巣とひとことで言っても、いくつかの種類に分けられます。 精巣が体のどの部分にあるか、また触れるかで分類します。 この分類は、その後の検査や治療の方針を決めるうえでとても大切です。
精巣の位置による分類
精巣が本来の位置まで下りてくる途中のどこで止まったかで分かれます。
- 腹腔内(ふくくうない)精巣 お腹の中の高い位置に精巣がとどまっている状態です。
- 鼠径部(そけいぶ)精巣 足の付け根あたりで精巣が止まってしまっている状態です。
- 異所性(いしょせい)精巣 精巣が本来の通り道から外れた場所に位置する状態です。
生まれたときは正常でも、後から上がってしまう後天性のタイプもあります。
触診による分類
お医者さんが体の外から精巣に触れることができるかで分けられます。
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種類 |
特徴 |
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触知(しょくち)精巣 |
体の外から精巣に触れられる状態で、停留精巣の約8割がこのタイプです。 |
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非触知(ひしょくち)精巣 |
体の外から精巣に触れられない状態です。お腹の奥にある場合などが考えられます。 |
なぜ分類が重要かというと、将来のリスクに関わるからです。 ある研究では、停留精巣が不妊の原因になりうると報告されています。 これは、自分の精子を攻撃する抗体(抗精子抗体)が作られやすくなるためです。 そのため、種類を正確に診断し、適切な時期に治療することが重要になります。
停留精巣の原因
停留精巣がなぜ起こるのか、その原因は一つではありません。 いくつかの要因が複雑に絡み合って起こると考えられています。
赤ちゃんがお腹の中にいるとき、精巣は腎臓の近くで作られます。 そして、生まれる前に陰嚢(いんのう)という袋へ移動します。 この移動がうまくいかない場合に停留精巣となります。
原因として考えられている主な要因には、以下のようなものがあります。
- ホルモンの影響 精巣が下りてくるためには、男性ホルモンの働きが大切です。 このホルモンの働きが不十分だと、移動が途中で止まります。 お母さんの体内のホルモンバランスも影響するといわれます。
- 物理的な問題 精巣を陰嚢まで導く「精巣導帯」という組織があります。 この組織に異常があったり、お腹の圧力が弱かったりすると、 精巣がうまく下りてくることができません。
- 遺伝的な要因 ご家族に停留精巣の方がいる場合、発生しやすい傾向があります。 これは、体の設計図である遺伝子が関わっている可能性です。
停留精巣が将来の男性不妊につながる可能性も指摘されています。 ある研究では、停留精巣や感染症、解剖学的な問題など、 多様な原因が不妊につながる物質の産生に関わると報告されました。 原因は一つではないため、専門医による診断がとても重要です。
停留精巣の症状
停留精巣には、お子さま自身が訴える痛みやかゆみはありません。 そのため、ご家族が気づくか、乳幼児健診で指摘されて判明します。 陰嚢(いんのう)という袋の中に精巣(せいそう)がないのが特徴です。
一番わかりやすいサインは、見た目と触った感触の違いです。 おむつ交換の際などに、以下の点を確認してみてください。
【ご家庭でできるチェックリスト】
- 陰嚢のふくらみ 袋の大きさが左右で違う、または両方とも小さく見えます。
- 触った感触 袋の中に、栗の実のようなものが片方、または両方とも触れません。
ただし、赤ちゃんは寒さなどで精巣が一時的に上に上がることがあります。 これは「移動性精巣」といい、病気ではないので心配いりません。 お風呂で温まっている時など、リラックスしている時に確認しましょう。
ごくまれですが、精巣がねじれる「精巣捻転」を起こすこともあります。 急に激しく痛がったり、吐いたりする場合はすぐに受診してください。
停留精巣は自覚症状がなくても、将来に影響を及ぼす可能性があります。 精巣が温かいお腹の中にあると、精子を作る機能が育ちにくくなります。 近年の研究では、不妊につながる多様な原因の一つとして、停留精巣が報告されています。 そのため、気になることがあれば、早めに専門の医療機関に相談しましょう。
停留精巣の検査・診断
停留精巣が疑われる場合、まずはお医者さんが手で優しく触って精巣(せいそう)の場所を確認する「触診(しょくしん)」から始めます。
赤ちゃんは緊張したり体が冷えたりすると、精巣が反射でお腹の方へ上がることがあります。これを「移動性精巣」といい、病気ではないため区別が必要です。
そのため、お子さんがリラックスした状態で正しく診察できるよう、お部屋を暖かくして、医師の手も温めてから優しく触ります。お子さんにカエルの足のような姿勢になってもらうことも、正確な診察のために有効です。
触診で精巣の位置がはっきりとわからない場合には、さらに詳しく調べるために、次のような検査を行います。
- 超音波(エコー)検査 体に害のない音波を使い、お腹の中や足の付け根(そけい部)に精巣が隠れていないかを探します。ゼリーを塗って機械をあてるだけの、痛みのない検査です。
- MRI検査 磁石の力を利用して体の断面図を撮影します。超音波検査よりも、さらに詳しく精巣の位置や状態を確認できます。
- 腹腔鏡(ふくくうきょう)検査 触診や画像検査でも精巣が見つからない「非触知精巣」の場合に検討します。おへそから小さなカメラを入れ、お腹の中に精巣があるかを直接確認する方法です。
これらの検査で精巣の有無と正確な位置を突き止め、診断を確定します。停留精巣は、将来的に不妊につながる可能性があると指摘されています。
ある研究では、停留精巣が自分の精子を攻撃してしまう物質(抗精子抗体)の産生に関わる可能性が報告されました。そのため、早い段階で正確な診断を受け、適切な治療につなげることがとても大切です。
停留精巣の治療
停留精巣は、生後6ヶ月ごろまでに自然に精巣(せいそう)が陰嚢(いんのう)という袋の中におりてくることがほとんどです。しかし、それを過ぎても精巣がおりてこない場合は、手術による治療が考えられます。
治療の主な目的は、将来起こりうるリスクをできるだけ減らすことです。
- 不妊症のリスクを減らすため 陰嚢の中は、お腹の中よりも温度が低く保たれています。 これは、精子を作るのに適した環境を守るためです。 停留精巣のままだと、精巣が温かい場所にとどまります。 その結果、精子を作る機能がうまく育たない可能性があります。 また、停留精巣が原因で、自分の精子を攻撃してしまう物質 (抗精子抗体)が作られる可能性も研究で報告されています。
- 精巣がんのリスクを減らすため 停留精巣は、精巣がんになるリスクが通常より高いです。 手術で精巣を陰嚢内におろしても、リスクはゼロにはなりません。 しかし、自分で触ってしこりなどの異常に気づきやすくなり、 がんの早期発見につながるという大きなメリットがあります。
- その他のリスクを減らすため 精巣がねじれてしまう「精巣捻転」という病気や、 足の付け根へのケガのリスクを減らす目的もあります。
これらの理由から、手術は1歳前後(生後6ヶ月以降から2歳ごろまで)に行うことが推奨されています。
治療の中心は、精巣を陰嚢内の正しい位置に固定する「精巣固定術」という手術です。手術の方法は、精巣の位置によって異なります。
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精巣の状態 |
主な手術方法 |
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足の付け根などで触れる場合 |
鼠径部切開法 足の付け根の皮膚を小さく切開して、精巣を陰嚢内へ固定します。 |
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触れることができない場合 |
腹腔鏡手術 お腹に小さな穴をあけ、カメラを使ってお腹の中にある精巣を探し、陰嚢内へ固定します。 |
以前はホルモンを使った治療も行われていましたが、有効性が低いことなどから、現在では推奨されていません。手術後も、精巣が正常に育っているかなどを確認するため、定期的な経過観察がとても大切です。










