バレット食道

胸焼けや胃の不快感がないからといって、あなたの食道は本当に健康だと断言できますか?実は、明確な自覚症状がほとんどないにもかかわらず、放置すると食道がんの一種である食道腺癌へと進行する可能性がある「バレット食道」という病気が存在します。最近の研究では、胃酸の逆流症状がない方でも、およそ50人に1人の割合で見つかることが示されており、決して他人事ではありません。

知らず知らずのうちに、あなたの食道でも変化が起きているかもしれません。本記事では、この見過ごされがちなバレット食道の概要から、その原因、症状、そして早期発見の重要性について詳しく解説します。ぜひご自身の健康と向き合い、適切な知識を身につけるきっかけにしてください。

バレット食道の概要

バレット食道とは、ふだん食べ物が通る食道の粘膜が、胃の粘膜とそっくりな状態に変化してしまうことをいいます。 食道の粘膜は、実はとてもデリケートな作りです。 胃酸のような強い酸には弱いため、胃酸が何度も逆流すると炎症を起こしてしまいます。 すると、食道は自分を守ろうとして、胃酸に強い胃の粘膜に似た細胞へと姿を変えるのです。

これまでは、胸やけなどの胃酸逆流による症状(胃食道逆流症)がある方に多く見つかる病気だと考えられていました。 しかし、最近の研究では、症状がなくてもバレット食道が見つかるケースが少なくないことがわかっています。 ある報告では、胃酸の逆流症状がない方でも、およそ50人に1人の割合でバレット食道が見つかることが示されました。 症状がないからといって、決して安心できるわけではないのです。

私たちは、胃酸の逆流症状があるかどうかだけでバレット食道を判断することはできません。 症状がない方でも、無視できない確率で見つかることがわかっています。 この状態は、長い時間をかけて食道がんの一種である食道腺癌へと進行する可能性があります。 そのため、症状の有無にかかわらず、適切なタイミングで検査を受け、ご自身の体の状態を知ることがとても大切です。 私たち医師も、将来の早期発見ガイドラインにおいて、症状の有無にかかわらずスクリーニング戦略を見直す必要があると認識しています。

バレット食道の種類

バレット食道は、胃酸に弱い食道(しょくどう)が、胃酸に強い胃の粘膜(ねんまく)とそっくりな状態に変化してしまう病気です。 この変化が食道のどのくらいの範囲で起きているかによって、大きく二つの種類に分けられます。 食道の粘膜が変化した長さで分類することは、その後の病気の見守り方や、将来的なリスクを考える上で非常に大切です。 私たち医師も、この長さによる分類を非常に重視しています。

短節(たんせつ)バレット食道

食道の粘膜が胃の粘膜に似た状態に変化している部分が、3センチメートルよりも短い場合に「短節バレット食道」と呼びます。 このタイプのバレット食道は、胸やけなどの胃酸逆流症状(いさんぎゃくりゅうしょうじょう)がない方でも見つかることが少なくありません。 ある研究では、胃酸逆流症状がない方でも、全体の2.2%(およそ50人に1人)の割合で見つかると報告されています。 胃酸の逆流が原因で起こることが多いのですが、症状がはっきりとなくても、この状態になっている可能性があるのです。 短節バレット食道は、胃酸逆流の症状がないからといって、決して安心できるものではありません。

長節(ちょうせつ)バレット食道

食道の粘膜の変化している部分が、3センチメートルよりも長い場合に「長節バレット食道」と呼びます。 この長節バレット食道は、胸やけや酸っぱいものが上がってくるなどの、胃酸逆流症状がある方に多く見られる傾向があります。 胃酸の強い逆流が長く続くことと、深く関係していると考えられています。 複数の研究結果によると、胃酸逆流症状がある方では、そうでない方と比べて長節バレット食道になるリスクが約4倍も高まることが示されています。 このことは、症状がある場合に、より注意深く検査を行うべきであることを意味しています。

どちらのタイプのバレット食道であるかを知ることは、将来的に食道がん(しょくどうがん)のリスクを評価し、適切なタイミングで定期的な検査を行う上で非常に大切な情報となります。 ご自身の体の状態を正確に把握するためにも、気になる症状があれば、ぜひ医療機関にご相談ください。

バレット食道の原因

バレット食道がなぜ起こるのか、その最も大きな原因は、胃から胃酸が食道へ逆流することです。私たちの胃は、特別な粘膜によって胃酸からしっかりと守られています。しかし、食道の粘膜はとてもデリケートな作りです。胃酸のような強い酸から身を守る仕組みが備わっていません。そのため、食道に繰り返し胃酸が逆流すると、食道の粘膜が炎症を起こしてしまいます。炎症が何度も起きると、食道は自分自身を守ろうと変化します。胃酸に強い胃の粘膜に似た細胞へと姿を変えていくのです。この変化こそが、バレット食道と呼ばれる状態につながっていきます。

これまでは、胸やけなどの胃食道逆流症(GERD)の症状があることが、バレット食道を見つける主なきっかけだと考えられてきました。しかし、私たち医師は、最近の研究から重要な事実を認識しています。胸やけなどの症状がはっきりしない方でも、バレット食道が見つかるケースが少なくないことがわかってきたのです。例えば、胃酸逆流症状がある方では約7%の方にバレット食道が見られます。一方で、症状がない方でも約2.2%の割合でバレット食道が見つかることが報告されています。この割合は、決して無視できるものではありません。さらに、質の高い大規模な研究では、症状のない方でバレット食道が見つかる割合が約4.9%にも上ると示されています。

この事実は、私たち医師にとっても今後の医療を考える上で非常に重要な情報です。胃酸の逆流はバレット食道の主な原因ですが、その逆流による症状が明らかでなくても、食道に変化が起きている場合があるという点を理解しておくことが大切です。そのため、胸やけがないからといって、決して安心できるわけではありません。定期的な健康チェックや内視鏡検査を受けることが、バレット食道を早期に発見する重要な機会となる可能性があります。私たち医師も、将来のバレット食道や食道がんを早期に発見するためのガイドラインにおいて、症状の有無にかかわらずスクリーニング戦略を見直す必要があると考えています。ご自身の体の状態を正確に知ることが、将来の健康を守る第一歩となります。

バレット食道の症状

バレット食道は、残念ながらご自身で気づくような、はっきりとした症状がほとんどありません。私たち医師もこの点を非常に重要視しています。多くの方が「症状がないから大丈夫」と考えがちですが、決してそうではないのです。

胃酸が食道に逆流する病気(胃食道逆流症)の症状がある方だけでなく、胸やけや酸っぱいものが上がってくる感じといった症状が全くない方でも、バレット食道になっているケースが少なくないことがわかっています。ある大規模な研究では、胃酸の逆流症状がまったくない方でも、およそ20人に1人(4.9%)の割合でバレット食道が見つかることが報告されています。症状がないからといって、安心できる病気ではないと、私たちは考えています。

もしバレット食道に関連した症状が出るとしたら、胃酸が逆流することで起こる、以下のようなものが多いです。

  • 胸やけ
  • みぞおちのあたりから胸にかけて、焼けるような感じがします。
  • これは食道が胃酸で刺激されることで感じる痛みです。
  • 胃酸の逆流
  • 酸っぱいものが喉まで上がってくる感じがします。
  • 時に口の中まで酸っぱさを感じることもあります。
  • 食べ物や飲み物が喉につかえる感じ(嚥下障害)
  • 食べ物がスムーズに食道を通らず、途中で引っかかるように感じることがあります。
  • 食道の炎症や変化によって、食道が狭くなったり動きが悪くなったりすることで起こります。
  • 喉の不快感や異常感
  • 喉に何かがひっかかっているように感じたり、声がかすれたり(嗄声)することもあります。
  • また、特に原因がわからない咳が出続ける場合も、食道への胃酸の逆流が関わっている可能性があります。

これらの症状は、胃酸が食道に繰り返し逆流することで起こりやすいため、バレット食道と深く関連しています。特に、喉の症状は風邪などと勘違いして見過ごされがちですが、胃酸逆流のサインであることも少なくありません。ご自身で症状に気づきにくい病気だからこそ、症状の有無にかかわらず、定期的な内視鏡検査(胃カメラ)で、早い段階で見つけることが非常に重要です。

バレット食道の検査・診断

バレット食道は、多くの場合、ご自身で気づくような症状がほとんどありません。私たち医師は、この「症状がない」という点が非常に重要だと考えています。症状がないからこそ、知らないうちに病気が進行してしまう可能性があるからです。だからこそ、定期的な検査で早く見つけることが、将来の健康を守るためにとても大切になります。早期に発見し、適切な対応をすることで、より深刻な合併症のリスクを減らすことができるのです。

主な検査方法:胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)

バレット食道を確実に見つけるための中心となる検査は、「胃カメラ」と呼ばれる上部消化管内視鏡検査です。この検査では、細いカメラを口や鼻から食道に通し、食道の粘膜の状態を医師が直接目で見て確認します。もし、バレット食道が疑われるような部分が見つかった場合、その場所からごく小さな組織を採取します。これを「生検(せいけん)」と呼び、採取した組織を顕微鏡で詳しく調べることで、細胞レベルでの詳しい変化を確認し、バレット食道の診断を確定させます。

新しい検査方法:カプセルスポンジ検査

近年、胃カメラに比べて患者さんの負担が少ない、新しい検査方法も登場しています。それが「カプセルスポンジ検査」です。この検査は、カプセルのような小さなスポンジを飲み込むことで、食道の細胞を採取するというものです。採取した細胞は、バレット食道の目印となる特定の物質(バイオマーカー)があるかどうかを調べます。

このカプセルスポンジ検査は、特に胸やけなどの胃酸の逆流症状がある方で、胃カメラでの詳しい検査が必要かどうかを見分けるための「ふるい分け」として役立つことがわかっています。ある研究では、症状のある逆流性食道炎の方のうち、胃カメラが必要となる約3割の方をこの検査で効果的に特定できたと報告されています。さらに、カプセルスポンジ検査で陽性の結果が出た場合、胃カメラの生検で確認されるバレット食道の重要な指標である「腸上皮化生(ちょうじょうひかせい)」(胃の粘膜に似た細胞への変化)と強い関連性があることも示されました。具体的には、陽性だった方の約88.5%でこの変化が見つかっています。私たち医師は、この新しい検査が、内視鏡検査のリソースを本当に必要な患者さんに集中させることにも貢献すると考えています。特に、COVID-19のパンデミック中は、内視鏡サービスへの負担を軽減する上で大きな助けとなりました。

しかし、カプセルスポンジ検査で異常が見つからなかったとしても、完全に安心できるわけではありません。ごくまれにですが、検査が陰性だった方の中にもバレット食道や、さらに進行した食道の初期のがんが見つかることがあります。ある研究では、検査が陰性だった方の0.9%からも、バレット食道や食道腺癌といった悪性腫瘍が発見された例が報告されています。また、この検査は主に食道の病変が対象です。そのため、胃に病気がある場合など、食道以外の病変を見落としてしまう可能性もゼロではありません。もし、気になる症状が続いたり、不安な点があったりする場合には、必ず医師とよく相談し、必要に応じて改めて胃カメラなどの詳しい検査を受けることが大切です。検査で異常がなかった方も含め、長期的にご自身の体を大切にし、定期的なチェックを続けることが、将来の健康を守る上で非常に重要だと私たちは考えています。

バレット食道の治療

バレット食道と診断された場合、その状態や、将来がんになる可能性によって治療法が変わってきます。私たち医師は、患者さんの状況を詳しく見て、あなたにとって最適な治療法を一緒に考えていきます。

特に、食道にがんになる可能性のある変化が見られたり、早期のがんが見つかったりした場合には、内視鏡を使った治療が検討されます。この治療は、細いカメラを口や鼻から食道に入れ、病変を直接取り除くものです。

内視鏡による病変の切除

内視鏡を使った治療法には、主に二つの方法があります。

  • 内視鏡的粘膜切除術(EMR)
  • 病変を部分的に切除する方法です。
  • 内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)
  • 病変の周囲を少しずつ剥がしながら、かたまりのまま大きく切除する方法です。

ESDはEMRと比べて、病変をより確実にかたまりのまま取り除けるという利点があります。ある研究では、ESDの方がEMRよりも、病変を一度で完全に切除できる確率が高く、治療後に病変が再発する可能性も低いことが示されました。これは、ESDが病変の取り残しを減らし、再治療の必要性を減らす効果が期待できるためです。

しかし、ESDはEMRに比べて、治療中や治療後に出血したり、食道が狭くなったり、まれに食道に穴が開いたりするリスクが少し高くなることも報告されています。患者さんの病変の大きさや深さ、そして体の状態によって最適な治療法は異なりますので、私たち医師とよく相談して決めていきましょう。

治療後の大切なこと

治療が終わった後も、病変が再発していないか、定期的に検査を続けることが非常に重要です。これには、通常通り胃カメラ(上部消化管内視鏡検査)を使う方法があります。

近年では、患者さんの負担を減らす新しい検査方法も注目されています。それは「カプセルスポンジ検査」というものです。

  • カプセルスポンジ検査とは
  • カプセルのような小さなスポンジを飲み込んで、食道の細胞を採取する検査です。
  • 採取した細胞からは、バレット食道の目印となる特定の物質(バイオマーカー)があるかを調べます。

この検査は、特に胸やけなどの胃酸の逆流症状がある方で、胃カメラでの詳しい検査が必要かどうかを見分けるための「ふるい分け」として役立つことがわかっています。ある研究では、この検査によって胃カメラが必要となる患者さんの約3割を効果的に特定できたと報告されています。実際に、カプセルスポンジ検査で陽性の結果が出た場合、胃カメラで確認されるバレット食道の重要な指標である「腸上皮化生」という細胞の変化が見つかる可能性が非常に高いです。具体的には、陽性だった方の約88.5%でこの変化が確認されました。私たち医師は、この新しい検査が、本当に詳しい検査が必要な患者さんに、より早く医療を提供することにも役立つと考えています。

しかし、カプセルスポンジ検査で異常が見つからなかったとしても、完全に安心できるわけではありません。ごくまれにですが、検査が陰性だった方の中にもバレット食道や、さらに進行した食道の初期のがんが見つかることがあります。ある研究では、検査が陰性だった方の0.9%からも、バレット食道や食道腺癌といった悪性腫瘍が発見された例が報告されています。また、この検査は主に食道の病変が対象です。そのため、胃に病気がある場合など、食道以外の病変を見落としてしまう可能性もゼロではありません。

気になる症状が続く場合や不安な点がある場合は、必ず私たち医師とよく相談し、必要に応じて改めて胃カメラなどの詳しい検査を受けることが大切です。検査で異常がなかった方も含め、長期的にご自身の体を大切にし、定期的なチェックを続けることが、将来の健康を守る上で非常に重要だと私たちは考えています。