膀胱腟瘻
昼夜を問わず続く尿漏れに、一人で悩んでいませんか。膀胱腟瘻は、膀胱と腟の間にできた異常なトンネルが原因で、日本では主に婦人科手術などをきっかけに発症します。日常生活の質を大きく損なう病気です。
この記事では、膀胱腟瘻の原因や症状から、詳しい検査方法、治療法までを解説します。海外の報告で合併症発生率4.37%、再発率2.91%と良好な成績が示されているロボット支援下手術など、具体的な選択肢を紹介します。
ご自身の状態を正しく理解し、どのような治療の選択肢があるかを知ることは、不安の軽減につながります。この記事が、改善に向けた適切な一歩を踏み出すための一助となります。
膀胱腟瘻の概要
膀胱と腟の間に「瘻孔(ろうこう)」という異常なトンネルが形成され、尿が意図せず腟から漏れ出てしまう病気が膀胱腟瘻です。
昼夜を問わず尿漏れが続くため、日常生活や社会生活の質(QOL)が大きく損なわれる原因となります。非常にまれな疾患ですが、主に婦人科領域など骨盤内の手術がきっかけで起こることがわかっています。
治療は手術が必要になることが多いものの、近年は体への負担が少ない選択肢も増えてきました。
特に、ロボット支援下手術は複雑な症例にも有効な治療法と考えられています。海外の複数の研究をまとめた報告によると、手術による全体的な合併症の発生率は4.37%、再発率は2.91%と低い数値でした※。
このように、適切な診断と治療によって改善が期待できる病気といえます。
膀胱腟瘻の種類
膀胱腟瘻は、その原因によって主に4つの種類に分けられます。どの種類に当てはまるかによって治療の難易度や方針が大きく変わるため、原因を正確に突き止めることが治療の第一歩となります。
・手術が原因のもの(医原性)
日本のようないわゆる先進国において、最も多いのがこのタイプです。子宮摘出術をはじめとする婦人科手術や、泌尿器科の手術後に合併症として発生します。手術中のわずかな損傷や、電気メスなどの熱によるダメージが、後になって組織の壊死(えし:組織が死んでしまうこと)を引き起こし、穴が開いてしまうのです。
・お産が原因のもの(産科瘻)
「産科瘻(さんかろう)」とも呼ばれ、特に発展途上国で多く報告されています。長時間にわたる難産などの際に、赤ちゃんの頭が母体の骨盤に強く圧迫され続けることで、膀胱や腟の組織への血流がストップします。血が通わなくなった組織が壊死してしまうことが、このタイプの原因です。
・放射線治療が原因のもの
骨盤内のがん(子宮がん、膀胱がんなど)の治療で放射線を照射した後に発生するケースです。治療直後ではなく、数カ月から数年という長い時間を経てから、放射線の影響で組織がもろくなり、穴が開いてしまうことがあります。血流自体が悪くなっているため、治りにくい(難治性)傾向があるといえます。
・その他の原因
まれなケースとして、子宮がんや膀胱がんそのものが進行し、組織を壊すことで瘻孔が形成されることがあります。また、クローン病のような炎症性の病気や感染症、生まれつきの体の構造が原因となることも報告されています。
原因の特定とあわせて、瘻孔(ろうこう)の大きさや組織の状態も、治療方針を決める上で重要な手がかりです。
例えば、瘻孔が2〜3cm以上と大きい場合や、穴の周りの組織が硬く変化している(線維化)場合は、手術をしても再発するリスクが高まることがわかっています※。
そのため、医師は原因を特定すると同時に、専門的な分類を用いて重症度を評価し、一人ひとりの状態に合わせた治療計画を立てていきます※。
膀胱腟瘻の原因
膀胱腟瘻が起こる原因はさまざまですが、日本では子宮摘出術といった婦人科手術がきっかけとなるケースが大半を占めます。一方で、世界に目を向けると、お産が原因となることも少なくありません。
原因ごとの特徴を整理すると、以下のようになります。
・婦人科・泌尿器科の手術
いわゆる先進国で最も多い原因です。子宮全摘術などの手術の際に、メスや電気メスによって膀胱にわずかな傷や熱ダメージが加わることがあります。その場では問題にならなくても、術後に時間差で組織への血流が悪化し、組織が壊死(えし:組織が死んでしまうこと)することで穴が開いてしまいます。
・お産(分娩)
「産科瘻(さんかろう)」とも呼ばれ、特に発展途上国で多い原因とされています。長時間の難産で赤ちゃんの頭が母体の骨盤に強く圧迫され続けると、膀胱と腟の間の組織への血流がストップします。血が通わなくなった組織が壊死することで、瘻孔が形成されるのです。
・放射線治療
子宮頸がんや膀胱がんなど、骨盤内のがん治療で行われる放射線治療の影響も原因の一つです。治療直後ではなく、数カ月から数年という長い時間を経てから、放射線の影響で組織の血流が悪化し、もろくなって穴が開くことがあります。
・がんの進行や炎症性の病気
まれなケースとして、子宮がんや膀胱がんそのものが進行し、組織を直接壊すことで瘻孔ができる場合があります。また、クローン病のような炎症性の病気が原因となることも報告されています。
原因の特定とあわせて、瘻孔そのものの状態も治療の難しさに大きく影響します。例えば、穴の大きさが2〜3cm以上と大きい場合や、穴の周りの組織が炎症で硬く変化している(線維化)場合は、手術をしても再発するリスクが高まることがわかっています※。
膀胱腟瘻の症状
膀胱腟瘻の症状で最も特徴的なのは、自分の意思ではコントロールできない尿漏れが、昼夜を問わず続いてしまうことです。
これは、咳やくしゃみといったお腹に力が入った瞬間だけ漏れる「腹圧性尿失禁」とは根本的に異なります。膀胱と腟の間にできた異常なトンネル(瘻孔)を通り、尿が常に流れ出てしまうため、じっとしている時や寝ている間も尿漏れが止まりません。
そのため、常に下着やパッドが湿った状態となり、日常生活に深刻な影響をおよぼします。
膀胱腟瘻によって起こる具体的な症状は、以下のとおりです。
・持続的な尿漏れ
体勢にかかわらず、常に尿が腟から漏れ出て、下着やパッドが濡れ続けます。
・動作による尿漏れの増加
立ち上がったり、歩いたりといった体の動きによって、膀胱から瘻孔へ尿が流れ込みやすくなり、漏れる量が増えることがあります。
・常に気になる尿の臭い
漏れた尿によるアンモニア臭が、ご自身の周りから常に漂っているように感じられます。
・外陰部の皮膚トラブル
尿が常に皮膚に触れることで、かぶれ(おむつ皮膚炎のような状態)、かゆみ、痛みなどが生じやすくなります。
・性交渉時の尿漏れ
性交渉の際に尿が漏れてしまうことも、患者さんにとって大きな悩みの一つです。
このような絶え間ない尿漏れは、外出することや人と会うことへの不安・恐怖心につながり、社会的な孤立を招きかねません。
もし「もしかして…」と心当たりがある場合は、決して一人で抱え込まず、泌尿器科や婦人科など専門の医療機関へご相談ください。
膀胱腟瘻の検査・診断
膀胱腟瘻の診断では、問診と内診で瘻孔(ろうこう:異常なトンネル)の存在を推測し、内視鏡や画像検査でその位置・大きさ・状態を正確に特定します。
はじめに問診で、これまでの手術歴やお産(分娩)の経験、尿漏れの具体的な状況などを詳しくお伺いします。そのうえで内診を行い、腟から尿が漏れ出ているかを直接確認します。
具体的には、膀胱に生理食塩水や青い色素のついた液体を注入し、腟の中から漏れ出てくる様子を観察することで、膀胱と腟の間に交通があるかどうかを判断します。
内診で瘻孔の存在が強く疑われた場合、診断を確定し、治療方針を決定するために、以下のような精密検査で瘻孔の状態をさらに詳しく評価します。
・内視鏡検査(膀胱鏡・腟鏡)
細いカメラを膀胱や腟に挿入し、モニターで内部を直接観察する検査です。瘻孔の正確な場所や大きさ、数、粘膜の状態などを詳細に把握できます。膀胱鏡では、尿管の出口(尿管口)と瘻孔の位置関係を確認することも重要な目的です。
・画像検査(膀胱造影・CT・MRI)
X線や磁気を使って体の断面を撮影する検査です。膀胱に造影剤を注入してX線撮影(膀胱造影)を行うと、瘻孔を通って造影剤が腟へ漏れ出す様子が確認できます。CTやMRIは、瘻孔の通り道や、尿管をはじめとする周囲の臓器との位置関係を立体的に把握するのに役立ちます。また、よく似た病気である「尿管腟瘻」との区別や、がんの有無を確認するためにも行われます。
これらの検査で得られる情報は、単に診断を確定するためだけのものではありません。
例えば、瘻孔の大きさが2〜3cm以上と大きい場合や、周囲の組織が炎症で硬く変化している(線維化)場合には、手術の難易度が上がり、再発のリスクも高まることがわかっています※。
そのため、手術の前にこれらの検査で精密な評価を行い、一人ひとりの状態に合わせた最適な治療法を選択することが、根治を目指すうえで非常に重要になります。
膀胱腟瘻の治療
膀胱腟瘻の治療は、尿漏れの原因である異常なトンネル(瘻孔)を外科手術で閉鎖するのが基本です。
瘻孔が非常に小さいごく一部のケースでは、尿道カテーテルを一定期間留置して尿の流れを確保し、瘻孔が自然にふさがるのを待つ保存的治療が試されることもあります。しかし、膀胱と腟の間には常に圧力がかかっているため自然治癒は難しく、ほとんどの場合で手術が必要になります。
手術の方法は、瘻孔の場所や大きさ、組織の状態によって、主に以下のアプローチから選択されます。
手術方法 | アプローチ | 特徴
経腟的修復術 | 腟から | ・お腹に傷がつかず、体への負担が少ない ・回復が早い傾向がある ・瘻孔が深い、腟が狭いなどの場合は手術が難しいことがある
開腹手術 | お腹を切開 | ・複雑な症例や再発例にも対応しやすい ・広い視野で確実な操作が可能 ・体への負担が大きく、入院期間が長引くことがある
腹腔鏡・ ロボット支援下手術 | お腹に数カ所の 小さな穴 | ・拡大された鮮明な3D画像で精密な操作が可能 ・出血量が少なく、傷が小さいため回復が早い ・再発例など複雑なケースにも有効性が報告されている※
近年、特に注目されているのが、腹腔鏡やロボット支援下での手術です。拡大された鮮明な視野のもとで精密な操作ができるため、複雑な症例に対しても安全で確実な修復が期待できます。海外の複数の報告をまとめた研究では、ロボット支援下手術における全体の合併症発生率は4.37%、再発率は2.91%と良好な成績が示されています※。
再発を防ぐための重要な工夫
手術の成功率を高め、再発を防ぐために重要なのが「組織介在法(そしきかいざいほう)」です。
これは、瘻孔を縫い合わせた後、膀胱と腟の間に患者さんご自身の脂肪組織(大網:だいもう)や腹膜などを挟み込む手技を指します。膀胱と腟はもともと隣接しているため、ただ縫うだけでは再びくっついてしまい、穴が再発する可能性があります。
間にクッションとなる組織を挟み込むことで物理的な壁を作り、血流の良い組織が治癒を促すため、再発のリスクを大きく下げられると考えられています※。
ただし、手術の成功率は100%ではありません。瘻孔の大きさが2〜3cm以上ある場合や、放射線治療後などで周囲の組織が硬く変化している(線維化)場合は、再発のリスクが高まることもわかっています※。
そのため、事前の検査で瘻孔の状態を正確に評価し、専門施設で一人ひとりの状態に合った最適な治療法を選択することが、根治への鍵となります。










