尿道損傷

自転車での転倒やスポーツ中の事故で、股間を強く打ち付け「ヒヤリ」とした経験はありませんか。多くの人が「ただの打ち身」と軽く考えがちですが、それは尿の通り道が傷つく「尿道損傷」の危険なサインかもしれません。実はこの怪我、泌尿器に関するケガ全体の約半数を占めるともいわれ、決して他人事ではないのです。

尿道からの出血や血尿、そして最悪の場合おしっこが全く出なくなる「尿閉」といった症状は、すぐに対応が必要な緊急事態の可能性があります。初期対応を誤ると、将来的に尿道が狭くなるなどの後遺症に悩まされることも少なくありません。

この記事では、尿道損傷の知られざる原因から見逃してはいけない症状、そして最新の治療法までを詳しく解説します。万が一の時に備え、あなたとあなたの大切な人を守るための正しい知識を身につけましょう。

尿道損傷の概要

尿道損傷とは、おしっこの通り道である「尿道」が傷つくことです。 体の構造上、男性は尿道が長いため、ほとんどが男性に起こります。

泌尿器科で扱うケガの中では決して珍しいものではありません。 その頻度は、泌尿器に関するケガ全体の約半数を占めるといわれます。

尿道損傷を理解するためのポイントは、以下の3つです。

  • 主な原因は大きく2つ
    交通事故や転落などで股間を強く打つ「外傷」が一つです。 もう一つは、尿道に管を入れるなどの医療行為が原因の「医原性」です。
  • 代表的な症状
    尿の出口から血が出る、おしっこに血が混じるなどの症状が出ます。 また、おしっこが出にくい、または全く出なくなることもあります。 この状態を「尿閉(にょうへい)」と呼びます。
  • 治療の基本方針
    まずはおしっこを体の外へ出す処置を最優先で行います。 具体的には、尿道に管を入れたり、お腹から直接膀胱に管を通します。 この処置を「膀胱瘻(ぼうこうろう)」といいます。

初期治療で状態が落ち着いた後も注意が必要です。 後遺症として尿道が狭くなる「尿道狭窄」などが起こることがあります。 その場合は、後日あらためて手術を検討することもあります。

尿道損傷の種類

尿道損傷と診断されたとき、医師は2つの点に注目します。 一つは尿道の「どこが」傷ついたのかという場所の問題です。 もう一つは「どのくらいひどく」傷ついたのかという程度の問題です。 この2つの組み合わせで、今後の治療方針が大きく変わってきます。

まず、けがをした場所によって大きく2つの種類に分けられます。 体の外から見えやすい部分を「前部尿道」、体の奥深くにある部分を「後部尿道」と呼びます。

損傷の場所

尿道の具体的な部分

前部尿道損傷

・陰茎(おちんちん)の中を通る部分

・股間の、足の付け根の間にある部分

後部尿道損傷

・骨盤に囲まれた体の奥深くにある部分

前部尿道は、鉄棒や自転車のサドルなどで股を強く打つことで傷つきやすい部分です。 一方、後部尿道は骨盤に守られているため、交通事故などで骨盤を骨折するほどの大きな衝撃で傷つくことが多いのが特徴です。

次に、けがのひどさ(程度)によって、次の3つの状態に分けられます。 おしっコの通り道がどうなっているかで考えるとわかりやすいでしょう。

  • 挫傷(ざしょう) 尿道の壁が内出血を起こしているような軽い状態です。 おしっこの通り道自体は、きちんとつながっています。
  • 部分断裂 尿道が部分的に裂けてしまっている状態です。 完全には切れておらず、一部はつながりを保っています。
  • 完全断裂 尿道が完全にぷっつりと切れてしまっている状態です。 おしっこの通り道が上下で離れてしまっています。

このように、尿道損傷は場所と程度によって状態が全く異なります。 そのため、検査でどこがどのくらい傷ついているかを正確に調べることが、適切な治療を選ぶための大切な第一歩になるのです。

尿道損傷の原因

尿道が傷ついてしまう原因は、一体どのようなことなのでしょうか。 原因は、大きく次の2つのパターンに分けることができます。

  • けがによるもの(外傷性)
  • 医療行為によるもの(医原性)

それぞれの原因について、詳しく見ていきましょう。

けがによるもの(外傷性)

尿道損傷のほとんどは、日常生活や事故による「けが」が原因です。 特に、体に強い力が加わったときに起こりやすくなります。

  • 交通事故や高い所からの転落
    体にとても強い力が加わる大きなケガで起こります。 特に、体を支える骨盤が折れるほどの衝撃を受けると、 その近くを通る尿道も一緒に傷ついてしまうことがあるのです。 実際に、こうした大きなケガをした人の1〜20%に、 尿道損傷が見られるというデータもあります。
  • 股間を強く打つ事故
    自転車で転んだり、公園の遊具から落ちたりしたときに、 股間を強くぶつけることでも尿道は傷つきます。 「また打ち」と呼ばれるような、身近な事故が原因になることも少なくありません。

医療行為によるもの(医原性)

まれなケースですが、病院での検査や治療が原因になることもあります。 これを「医原性(いげんせい)」の尿道損傷と呼びます。

  • 尿道カテーテルの操作
    おしっこを出すための細い管(カテーテル)を入れたり抜いたりする際に、 尿道の壁をこすってしまい、傷がつくことがあります。
  • 内視鏡を使った検査や手術
    尿道の中にカメラや手術の道具を入れて治療や検査をするときに、 器具が尿道に触れて傷つけてしまう可能性があります。

このように尿道損傷は、特別なことだけでなく、 日常に潜む危険や、必要な医療行為の中でも起こりうるのです。

尿道損傷の症状

もし股間を強くぶつけた後、おしっこをするときに「いつもと違うな?」と感じたら、それは尿道が傷ついたサインかもしれません。体に現れる変化をよく観察することが大切です。

特に注意してほしい症状は、次の3つです。

  • おしっこの出口から血が出る 尿道そのものが傷ついているため、おしっこをしていない時でも出血が見られます。
  • おしっこに血が混じる(血尿) 傷ついた場所から出た血が、おしっこと一緒に体の外へ出てくる状態です。
  • おしっこが出にくい、または全く出ない 尿道が腫れたり切れたりして通り道がふさがり、おしっこが出せなくなります。 この状態を「尿閉(にょうへい)」と呼びます。

中でも、おしっこが全く出なくなる「尿閉」は、すぐに治療が必要な危険なサインです。 膀胱におしっこがどんどん溜まってしまい、下腹部がパンパンに張ってきます。 我慢できないほどの強い痛みを感じることもありますので、すぐに病院へ行きましょう。

ほかにも、次のような症状が見られることがあります。 自分の体と比べてみてください。

□ 股間やお腹の下の方が青紫色にあざになっている □ 股間やお腹の下の方が腫れている □ おしっこをするときに痛みを感じる

これらの腫れやあざは「皮下血腫(ひかけっしゅ)」と呼ばれるものです。 傷ついた尿道から血やおしっこが皮膚の下に漏れ出しているサインです。 女の子の場合は、おしっこの出口の近くが傷つくこともあります。

これらの症状が一つでも当てはまる場合は、自分で判断せず、すぐに泌尿器科などの医療機関を受診してください。

尿道損傷の検査・診断

尿道が傷ついたかもしれないとき、医師はまず体の状態を正確に知るための検査を行います。 けがの場所やひどさを特定するための、大切なステップです。

検査の中心になるのは「逆行性尿道造影(ぎゃくこうせいにょうどうぞうえい)」です。 これは、おしっこの通り道がどうなっているかを詳しく見るための特別なレントゲン検査です。

逆行性尿道造影の仕組み 尿道の入り口から「造影剤」というレントゲンに写る液体をゆっくりと入れます。 そして、その液体が尿道の中を流れていく様子を撮影します。

尿道の状態

レントゲン写真での見え方

けががない(正常)

入れた液体は、きれいな一本の線を描きながら膀胱までスムーズに流れます。

けががある(損傷)

傷ついた場所から液体が尿道の外へ漏れ出し、にじんでいるように写ります。

この検査で、けがの有無はもちろん、どこがどのくらいひどく傷ついているかを正確に知ることができます。

その他の大切な検査 尿道損傷は、交通事故のような大きなけがのときに起こることが多いです。 そのため、尿道以外にも問題がないか、体全体を調べる検査も同時に行います。

  • CT検査 体を輪切りにしたような画像で、全身を詳しく見る検査です。 骨盤の骨が折れていないか、他の内臓に傷がないかなどを確認します。
  • 軟性膀胱鏡検査(なんせいぼうこうきょうけんさ) 細くてやわらかいカメラを尿道に入れ、中の様子を直接目で見て確認します。 傷の状態をより詳しく観察したいときに行われることがあります。

これらの検査結果を総合的に判断して、一人ひとりに合った最適な治療方針を決めていきます。

尿道損傷の治療

尿道損傷の治療で最も大切なことは、まずおしっこを体の外へ出すことです。 これにより、おしっこが体内にたまる苦しさをなくし、将来の問題を防ぎます。

治療の目的は、大きく分けて次の3つです。

  • おしっこを外に出す おしっこが出せない「尿閉(にょうへい)」という状態をすぐに解消します。
  • ばい菌の感染を防ぐ 傷口から尿が漏れると、ばい菌が入りやすくなるため、それを防ぎます。
  • 後遺症を防ぐ 将来、尿道が狭くなる「尿道狭窄」などを防ぐことが大きな目標です。

治療の第一歩は、おしっこを体の外に出すための処置です。 これを「尿のドレナージ」と呼びます。方法には主に2つあります。

  • 尿道カテーテルの留置 おしっこの出口から膀胱へ、細い管(カテーテル)を入れておく方法です。
  • 膀胱瘻(ぼうこうろう)の造設 下腹部の皮膚から直接、膀胱に管を通して、おしっこを出す方法です。

ひどいけがの場合、無理に管を入れると傷を悪化させる恐れがあります。 そのため、お腹から管を通す膀胱瘻が安全な方法として選ばれることが多いです。

具体的な治療法は、けがのひどさによって変わります。

損傷の程度

主な初期治療

軽い損傷(挫傷)

尿道カテーテルを5~7日ほど入れて、尿道の自然な回復を待ちます。

部分的な断裂

レントゲンで見ながら慎重にカテーテルを入れます。難しい場合は膀胱瘻を作ります。

完全な断裂

まず膀胱瘻を作り、おしっこの通り道を確保します。けがの状態が落ち着いてから、後日手術を行います。

けがが治る過程で、尿道が硬く狭くなってしまうことがあります。 この「尿道狭窄」が起きた場合は、後日あらためて治療が必要です。

けがから2〜3ヶ月ほど経って体の状態が安定してから、 尿道をつなぎ直す手術(尿道形成術)などを検討します。 ほかにも、カメラを使って狭い部分を広げる治療などもあります。