腟壁裂傷

出産という奇跡の体験の裏で、多くの女性が経験しながらも、あまり深く語られない体の変化があります。その一つが、出産時に起こる「腟壁裂傷」です。

単なる「お産の傷」と軽く考えることはできません。実は傷の深さは4段階に分類され、重い場合には大量出血だけでなく、その後の生活の質を大きく左右する後遺症につながる可能性もあります。

ある研究では、この傷が女性の人生を大きく変えうるとも指摘されています。この記事では、腟壁裂傷の原因から後遺症を残さないための治療法までを詳しく解説します。正しい知識で、ご自身の体を守るための一歩としましょう。

腟壁裂傷 の概要

腟壁裂傷(ちつへきれっしょう)は、主に出産の際に起こります。 赤ちゃんが通る道である「腟(ちつ)」の壁が裂けてしまう状態です。

腟の壁は伸び縮みしやすい作りですが、限界を超えると傷つきます。 例えば、赤ちゃんの体が大きい場合などに起こりやすくなります。 腟の出口である会陰(えいん)が裂ける「会陰裂傷」と同時に起こることも少なくありません。

腟壁裂傷は、傷の深さによってその後の経過が大きく変わります。

  • 軽い場合 傷が浅く、出血が少なければ自然に治ることもあります。
  • 重い場合 傷が深く、大量に出血してショック状態に陥る危険もあります。

腟の近くには便の通り道である直腸や肛門があります。 そのため、深い傷はこれらの臓器まで達してしまう可能性があります。 単なる体の痛みだけでなく、その後の生活や次の出産への不安など、心にも大きな影響を及ぼすことがあります。

研究によると、このような出産時の傷は、女性のその後の人生を大きく変える可能性のある、非常にデリケートな問題であると指摘されています。 後遺症を残さないためには、傷の深さを正確に見極め、丁寧に縫い合わせるなどの適切な治療を受けることがとても大切になります。

腟壁裂傷 の種類

腟壁裂傷は、傷ができた場所や深さによって、いくつかの種類に分けられます。 どこに、どのくらいの深さの傷ができたかによって、その後の治療法や回復のしかたが変わってきます。

傷の深さは、主に4つの段階(第1度〜第4度)に分類されます。

傷の深さの段階

特徴

第1度裂傷

腟の表面の粘膜など、浅い部分だけの傷です。

第2度裂傷

粘膜の下にある筋肉まで裂けている状態です。

第3度裂傷

おしりの穴(肛門)を締める筋肉まで傷が及んでいます。

第4度裂傷

肛門を通り越し、便の通り道(直腸)まで達した重い傷です。

筋肉に達する第2度以上の深い傷の場合は、糸で縫い合わせる治療が必要です。 この縫い方にも種類があり、研究によってより良い方法が探されています。 例えば、糸を一本で続けて縫い合わせる「連続縫合」という方法は、産後しばらくの痛みを軽くする可能性があると報告されています。

また、お産のときにできるだけ傷ができないようにする工夫も大切です。 いくつかのケアを組み合わせて行う「ケアバンドル」という予防策があります。 この予防策が、肛門の筋肉まで達するような重い裂傷を減らせるかについて、現在も研究が進められています。

このように、腟壁裂傷とひとことで言っても、その状態はさまざまです。 医師は診察で傷の状態を正確に確認し、一人ひとりに合った適切な治療を行います。

腟壁裂傷の原因

腟壁裂傷が起こる原因はいくつかありますが、最も多いのは出産時です。 腟の壁はよく伸びるようにできていますが、お産の状況によっては限界を超えて裂けてしまうことがあります。

お産のときに腟壁裂傷が起こりやすくなる主な原因は、以下の通りです。

  • 赤ちゃん側の要因 体が大きい、または頭の向きが通常と少し違う場合などです。 赤ちゃんの頭の向きによって産道を通る面積が変わり、腟に負担がかかります。
  • お母さん側の要因 初めてのお産(初産婦)であったり、年齢などにより腟の組織が伸びにくかったりする場合です。
  • お産の進み方や処置 お産が急激に進んだり、器具を使って赤ちゃんをとりあげたりする処置(吸引分娩など)が行われた場合です。

このような裂傷を予防するため、「ケアバンドル」という方法があります。 これは、いくつかのケアを組み合わせて行う、裂傷を予防するための対策のことです。 複数の研究を分析した報告によると、このケアバンドルは肛門の筋肉まで達する重い裂傷を減らす可能性があるとされています。 しかし、研究ごとの方法に違いがあるため、その効果の確実性はまだ低いというのが現状で、さらなる研究が期待されています。

また、出産以外では、性交渉の際に腟が十分に潤っていなかったり、事故で股間に強い衝撃を受けたりすることも原因となります。

腟壁裂傷 の症状

腟壁裂傷の主なサインは、「出血」と「痛み」の2つです。 お産の直後は様々な痛みがあるため、気づきにくいこともあります。 傷の深さによって症状のあらわれ方が大きく変わるのが特徴です。

出血

鮮やかな赤い血が、止まらずに出続けることがサインの一つです。

  • 軽い場合 出血は少なく、下着に少し付く程度で自然に止まることもあります。
  • 重い場合 出血がなかなか止まらず、ナプキンがすぐに真っ赤になることも。 大量の出血は、血圧が下がって意識が遠のいたり、顔色が悪くなったりする「ショック状態」を引き起こす危険があるため、注意が必要です。

痛み

痛みも、傷の深さによって感じ方が全く異なります。

  • 軽い場合 腟のあたりに何か挟まっているような違和感があります。 また、排尿の際に傷にしみて痛むこともあります。
  • 重い場合 じっとしていられないほどの激しい痛みや、焼けるような熱さを感じることがあります。

時間が経ってから気づく症状

出産直後だけでなく、時間が経ってから現れる症状にも注意が必要です。 研究においても、出産後の長期的な症状は、その後の生活の質に大きく影響する重要な課題として注目されています。

  • 貧血の症状 出血が多いと貧血が進み、立ちくらみや、少し動いただけでの動悸、息切れなどが起こります。
  • 生活への影響 傷が治った後も、性交時に痛みを感じることがあります。 また、傷がおしりの筋肉まで達した場合、便がもれてしまう「便失禁」といった後遺症につながる可能性も考えられます。

これらの症状は、お母さんの心と体に大きな負担をかけます。 少しでも気になることがあれば、決して我慢せず、すぐに医師や助産師に相談してください。

腟壁裂傷の検査・診断

腟壁裂傷が疑われる場合、まずはお母さんの体の状態を確認します。 その上で、傷の場所や深さを正確に把握するための診察に進みます。

診察では、腟鏡(ちつきょう)という器具を腟に入れて内部を広げます。 そして、傷の場所、大きさ、深さを直接目で見て診断します。 これを視診・内診といい、診断の基本となります。

特に出産後に出血が止まらないなど、状態によっては追加で検査を行います。

  • 全身状態のチェック 出血量が多いと、血圧が下がったり脈が速くなったりします。 体のSOSサインを見逃さないために、血圧や脈拍などを測定します。
  • 血液検査 出血による貧血の程度(ヘモグロビンの値など)を調べます。 体の回復に必要な血液がどのくらい残っているかを確認します。
  • 画像検査(超音波・CT検査) 傷が深い場合、お腹の中への出血が疑われることがあります。 超音波などで、腟の周りの臓器に影響がないかを調べます。
  • 直腸診 傷がおしりの近くに及ぶ場合、指で肛門の筋肉が傷ついていないか確認します。

これらの検査で傷の状態を正確に把握し、治療の方針を決めます。 研究によると、傷を早く縫い合わせる治療は治りを早める可能性があります。 しかし、合併症のリスクを高める可能性も指摘されています。

そのため、医師は検査結果をもとに利点とリスクを慎重に判断します。 一人ひとりの状態に合わせ、最も適した治療計画を立てていきます。

腟壁裂傷 の治療

腟壁裂傷の治療は、傷の深さや出血量によって方法が変わります。 お母さんの体の回復を第一に考え、最適な方法を選んでいきます。

  • 傷が浅い場合 腟の表面が少し裂けただけの軽い傷は、自然に治ることが多いです。 特別な処置はせず、痛み止めのお薬を使いながら様子を見ます。
  • 傷が深い場合 傷が筋肉まで達している場合は、糸で縫い合わせる処置をします。 これを「縫合(ほうごう)」と呼びます。 使う糸は、体の中で自然に溶ける吸収糸がほとんどです。 そのため、後で糸を抜く(抜糸)必要がなく、痛い思いをしなくてすみます。

縫い方にも工夫があります。 複数の研究を分析した報告によると、糸を一本で続けて縫う「連続縫合」という方法は、産後しばらくの痛みを軽くする可能性があるとされています。

  • 出血が多い場合 出血がとても多いときは、縫合での止血とあわせて点滴を行います。 貧血がひどい場合は、輸血で体力をサポートすることもあります。

一度縫った傷が、何らかの理由で開いてしまうこともあります。 その場合は、すぐに縫い直すか、自然に治るのを待つかを選びます。 研究によると、すぐに縫い直す方が治るまでの期間は短くなる可能性があります。 しかし、合併症のリスクも考えられるため、医師が傷の状態を丁寧に診察し、最も良い方法を判断します。