腟トリコモナス症

「もしかして…」そのおりものの異常やかゆみ、実は性感染症のサインかもしれません。ある海外の研究では、若い世代の約20人に1人が感染していたというデータもある「腟トリコモナス症」。世界全体では年間約1億5600万人もの人々が新たに感染しており、誰にとっても決して他人事ではない病気です。

この病気の恐ろしい点は、男性はほとんど症状が出ないため、ご自身が気づかないうちに大切なパートナーにうつしてしまう可能性があることです。知らない間に感染を繰り返し、つらい症状に悩まされる「ピンポン感染」に陥ってしまうケースも少なくありません。

この記事では、腟トリコモナス症の具体的な症状から原因、そしてパートナーと一緒に完治を目指すための治療法まで詳しく解説します。正しい知識を身につけ、ご自身と大切な人を守るための一歩を踏み出しましょう。

腟トリコモナス症の概要

腟トリコモナス症は、目では見えない小さな生きものが原因の病気です。 この生きものは「トリコモナス原虫」と呼ばれ、とても小さいです。 主に性的なふれあい(セックス)によってうつる性感染症の一つです。

この病気は世界的に見ても、感染している方が非常に多いのが特徴です。 2020年の報告では、15歳から49歳の方だけでも、1年間に 約1億5600万人が新しく感染したとされています。

ある海外の研究では、若い世代の性感染症について調査しました。 その結果、検査を受けた方のうち4.8%がトリコモナス症でした。 これは、およそ20人に1人が感染していた計算になります。 このように誰にとっても身近な病気であり、注意が必要です。

腟トリコモナス症の主な特徴を以下にまとめます。

  • 原因
  • 大きさ0.1mmほどの「トリコモナス原虫」という生きものです。
  • 症状
  • 女性はおりものの変化やかゆみといった症状が出やすいです。
  • 感染
  • 性的なふれあいによってうつることがほとんどです。

女性は症状が出やすい一方で、男性は症状がほとんどないことも珍しくありません。 そのため、ご自身が気づかないうちにパートナーにうつしてしまう可能性があります。 若い方だけでなく、中高年の方にもみられるため、幅広い年代で注意しましょう。

腟トリコモナス症の種類

腟トリコモナス症は、「トリコモナス原虫」という1種類の生きものが原因です。 そのため、医学的にインフルエンザのA型・B型のような分類はありません。 しかし、症状の出方や体の状態によって、いくつかのパターンに分けて考えます。 これは、患者さん一人ひとりに合った治療を行うためにとても重要です。

症状の有無による分け方

トリコモナスに感染しても、症状が出る人と出ない人がいます。

  • 症状があるタイプ(症候性)
  • おりものの変化やかゆみなど、はっきりとしたサインが現れます。
  • これは体が原虫に反応し、炎症を起こしているサインです。
  • 特に女性に多く見られ、治療のきっかけになりやすいです。
  • 症状がないタイプ(無症候性)
  • 感染した方のうち2〜5割は、自覚できる症状がほとんどありません。
  • 特に男性に多く、ご自身が気づかないうちにパートナーにうつす危険があります。
  • 症状がある人の方が検査の精度が高いとの報告もあり、症状がないと感染が見逃される可能性も考えられます。

性別や状況による違い

誰が感染するかによっても、症状の出方や注意すべき点が異なります。

対象

特徴

女性

腟や尿道に原虫がすみつきやすく、おりものの異常などの症状が出やすいです。

男性

主に尿道に感染しますが、おしっこで洗い流されやすく症状が出にくい傾向にあります。

妊娠中の方

妊娠中は体の免疫状態が変化するため、特に注意が必要です。

早産や、赤ちゃんが小さく生まれるリスクが高まる可能性が報告されています。

また、クラミジアや淋病など他の性感染症と同時に感染することも珍しくありません。 症状がなくても、気になることがあれば検査を受けることが大切です。

腟トリコモナス症 の原因

腟トリコモナス症の原因は、「トリコモナス原虫」という生きものです。 大きさは0.1mmほどで、私たちの目では直接見ることはできません。 この小さな生きものが体の中に入り込むことで、病気が始まります。

一番多い感染のきっかけは、感染した人との性的なふれあいです。 腟や尿道にいる原虫が、性行為によってパートナーの体へ移動します。 しかし、原因は性的なふれあいだけではないため、注意が必要です。

トリコモナス原虫は、湿った場所であればしばらく生きられます。 そのため、次のような場所や物を介してうつる可能性も考えられます。

  • 感染の可能性があるもの
  • 感染した人が使った濡れたタオルや下着の共有
  • きれいに掃除されていないお風呂のお湯や椅子
  • トイレの便座

特に妊娠している方は、体の変化によって注意が必要になります。 妊娠中はホルモンのバランスが変わり、腟の中の環境も変化します。 この変化が、トリコモナス原虫がすみやすい環境を作ることがあります。 妊娠中の感染は、早産のリスクを高める可能性も報告されています。

1回の性的なふれあいでもうつる確率は低くありません。 コンドームで覆われていない部分からうつることもあります。 そのため、コンドームを使っていても完全には防げない場合があります。

腟トリコモナス症の症状

腟トリコモナス症は、症状の出方に大きな個人差があります。 特に女性と男性では、サインの現れ方が大きく異なるのが特徴です。 症状がなくても、気づかないうちにパートナーにうつす可能性があります。 ご自身の体の小さな変化に気づくことが、早期発見の第一歩です。

女性にあらわれる症状

女性は比較的症状が出やすく、特に「おりもの」の変化が重要なサインです。 感染した女性の約半数は、何らかの症状を自覚するといわれています。 以下のチェックリストで、ご自身の状態を確認してみましょう。

【女性の症状チェックリスト】

  • おりものの変化 普段と違う、泡立った黄緑色のおりものが出ていませんか。 量が増え、魚が腐ったような強い臭いがしていませんか。 これは原虫の活動でガスが発生し、炎症が起きているサインです。
  • 外陰部のかゆみ・痛み デリケートゾーンに、ヒリヒリするような強いかゆみはありませんか。 原虫が腟の壁を傷つけ、炎症を起こすことで刺激感が生まれます。
  • 排尿時の不快感 おしっこをする時にしみたり、痛みを感じたりしませんか。 腟だけでなく、尿道にまで原虫が広がっている可能性があります。

この他にも、下腹部の痛みや性的なふれあいの際の痛みも症状の一つです。 しかし、感染した女性の約2〜5割は、はっきりした症状が出ません。 症状がなくても、パートナーにうつしてしまう危険性は変わらないため注意が必要です。

男性にあらわれる症状

男性の場合は、ほとんど症状が出ない「無症候性」が多いのが特徴です。 そのため、ご自身が感染に気づかないまま、感染源となるケースが後を絶ちません。 まれに、尿道炎のような軽い症状が出ることがあります。

【男性の症状チェックリスト】

  • 軽い排尿時の痛みや、むずむずするような違和感
  • 尿道のあたりのかゆみ
  • 尿道の先から、少量の膿(うみ)のようなものが出る

これらの症状は非常に軽く、「気のせいかな」と見過ごされがちです。 しかし、気になるサインは、病気を発見するための体からのメッセージです。 ある研究では、症状がある人の方が検査の精度が高いことも報告されています。 症状の有無にかかわらず、不安があれば早めに医療機関を受診しましょう。

腟トリコモナス症の検査・診断

腟トリコモナス症の症状がみられたら、検査で原因を確かめます。 目に見えない「トリコモナス原虫」がいるかどうかを調べる検査です。 性別によって、調べるものが少し異なります。

  • 女性の場合 腟の中から、おりものを綿棒などで優しく取って調べます。
  • 男性の場合 おしっこ(尿)や、尿道から出る液体を調べます。

検査にはいくつかの種類があり、お医者さんが症状に合わせて選びます。 それぞれの検査に特徴があるため、一つずつ見ていきましょう。

検査の種類

どのような検査か

顕微鏡で見る検査

採取したおりものなどを顕微鏡で直接観察します。

動いている原虫を探す、その場で結果がわかりやすい検査です。

原虫を育てる検査

(培養検査)

原虫の数が少ない時に行います。

原虫を数日間育ててから確認するため、結果が出るまで時間がかかります。

遺伝子を見つける検査

(PCR法)

原虫が持つ特別な設計図(遺伝子)を探す検査です。

ごくわずかな原虫も見つけられる、とても精度の高い方法です。

目印を見つける検査

(抗原検査)

原虫が持つ目印(抗原)に反応する薬を使って調べます。

比較的早く結果がわかり、特に症状がある場合に精度が高いです。

ある研究では、症状がある方の抗原検査は精度が高いことが示されました。 間違って「感染している」と判断されることが非常に少ない検査です。 どの検査を行うかは、症状や体の状態によってお医者さんが判断します。 気になることがあれば、自分で悩まずに医療機関で相談しましょう。

腟トリコモナス症の治療

腟トリコモナス症の治療は、原因である原虫を退治するお薬を飲むことが基本です。 お医者さんが処方する「メトロニダゾール」という飲み薬が中心となります。 このお薬は、体の中にいるトリコモナス原虫をやっつける力を持っています。

実はこのお薬は、婦人科の手術で感染を防ぐためにも使われることがあります。 例えば、お腹に傷をつけずに行うvNOTES(ブイノーツ)という手術の際に、 ばい菌が入らないよう前もって使われることもある、信頼性の高いお薬です。

治療期間は、だいたい7日から10日間ほどです。 途中でかゆみなどの症状がなくなっても、お薬をやめてはいけません。 目に見えない原虫がまだ体の中に隠れているかもしれないからです。 必ずお医者さんから出された分を、最後までしっかり飲み切りましょう。

そして、この病気の治療で一番大切なことがあります。 それは、パートナーも一緒に検査と治療を受けることです。 これをしないと、お互いにうつし合う「ピンポン感染」を繰り返してしまいます。

【治療中の大切な3つの約束】

  • パートナーも一緒に 症状がなくても、パートナーが感染している可能性があります。 必ず二人で病院へ行き、一緒に治療を始めましょう。
  • お薬は最後まで 症状が消えても、原虫が残っているかもしれません。 処方されたお薬は、必ず最後まで飲み切りましょう。
  • 治るまではお休み 治療が終わって、お医者さんから「大丈夫」と言われるまで、 性的なふれあい(セックス)は控えてください。

治療が終わった後も、完全に治ったかを確認するための再検査が大切です。 特に女性は、生理の血を栄養にして原虫が増えることがあります。 そのため、次の生理が終わった後に検査を受けると、より安心できます。