腟欠損
「15歳を過ぎても生理が始まらない」「周りの友人たちと比べて、自分の体に何か違いがあるのかもしれない」。思春期にこのようなデリケートな悩みを抱えていませんか。その原因は、もしかすると「腟欠損」という病気かもしれません。これは女の子の約5,000人に1人の割合で起こるとされる、生まれつき腟がうまく作られない状態を指します。
聞き慣れない病名に、大きな不安を感じるかもしれません。しかし、この病気は卵巣の機能が正常なことが多く、胸がふくらむといった女性らしい体の変化は自然に起こります。そのため、生理がこないことをきっかけに診断されるケースがほとんどです。決して珍しすぎる病気というわけではなく、正しい知識を持つことが大切です。
この記事では、腟欠損とはどのような病気なのか、その原因から症状、そして最新の治療法までを詳しく解説します。ご自身の体のことを正しく理解し、漠然とした不安を解消するための一歩として、ぜひ最後までお読みください。
腟欠損の概要
腟欠損(ちつけっそん)とは、生まれつき腟という部分が、うまく作られていない状態を指す病気です。多くの場合、赤ちゃんを育てる子宮も、同時に欠損していたり、とても小さかったりします。
腟欠損のなかで最も多いものは「MRKH症候群」と呼ばれます。これは女の子の約5,000人に1人の割合で起こると報告されています。
この病気の大きな特徴は、卵巣の機能は正常なことが多い点です。そのため女性ホルモンはきちんと分泌され、胸がふくらむなどの思春期における体の変化は自然に起こります。
しかし、月経(生理)の血が通る道である腟がないため、生理が起こりません。この「思春期になっても生理が始まらない」ことをきっかけに、病院を受診して診断に至るケースがほとんどです。
腟欠損は、女性の体の中の通り道がふさがってしまう「閉塞」の一種と考えることができます。体の内部の状態を詳しく調べるためには、MRI検査がとても役立ちます。MRIという特別なカメラで体の断面を見ることで、腟や子宮がどのような形になっているかを正確に把握できます。
腟欠損の主な特徴は以下のとおりです。
- 腟や子宮がうまく作られない 生まれつきの状態です。
- 卵巣の機能は正常 思春期の体の変化はみられます。
- 月経(生理)がこない 病気に気づく主なきっかけです。
診断を受けたご本人やご家族は、心に大きな不安を感じることがあります。そのため、周りの人の理解と、心のケアがとても重要になります。
腟欠損の種類
腟欠損には、生まれつき腟がつくられていない「先天性」と、生まれた後に何らかの原因で腟が失われる「後天性」の2つのタイプがあります。
先天性腟欠損
生まれつき腟がうまくつくられていない状態を指します。体のどの部分までがつくられているかによって、いくつかの種類に分けられます。
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分類 |
腟の状態 |
子宮の状態 |
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軽度 |
一部が欠けている |
存在する |
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中等度 |
欠けている |
欠けていることが多い |
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重度 |
欠けている |
欠けている |
特に子宮が存在するタイプでは、注意が必要です。思春期に月経が始まっても、血液の出口である腟の一部がふさがっている(閉塞している)ためです。
出口のない血液は体の中にたまってしまい、腟や子宮に水風船のように血液がたまることがあります。これが、周期的に起こるお腹の痛みの原因となるのです。
そのため、MRIなどの詳しい画像検査が非常に重要になります。体の内部を詳しく見ることで、どこがどのようにふさがっているのかを正確に把握し、適切な治療計画を立てることができます。
後天性腟欠損
生まれたときには正常な腟があったものの、病気やケガによって、その一部またはすべてが失われた状態を指します。
主な原因としては、以下のようなものが挙げられます。
- がんの治療 子宮がんなどの手術や、放射線治療の影響で腟がふさがってしまうことがあります。
- 大きなケガ 事故などによる骨盤周辺の深刻なケガが原因となることがあります。
このように、腟欠損とひとことで言っても、その原因や体の状態は一人ひとり異なります。
腟欠損 の原因
腟欠損が起こる原因は、主に生まれつきの「先天性」のものと、生まれた後の「後天性」のものに分けられます。それぞれについて詳しく見ていきましょう。
先天性の原因
腟欠損のほとんどは、生まれつきの原因によるものです。赤ちゃんがお母さんのお腹のなかで体がつくられていく過程で、問題が生じることで起こります。
腟や子宮は「ミュラー管」という組織から作られます。このミュラー管がうまく発達しないことが、先天性腟欠損の主な原因と考えられています。
なぜミュラー管がうまく発達しないのか、その詳しい原因はまだ完全には解明されていません。しかし、遺伝的な要因や、お腹のなかにいるときの環境などが、複雑に関係しているのではないかと考えられています。
なお、卵巣はミュラー管とは別の組織から作られます。そのため、腟や子宮に問題があっても、卵巣の機能は正常なことが多いのです。
後天性の原因
数は多くありませんが、生まれた後に病気の治療やケガなどが原因で、腟が失われる後天性の腟欠損もあります。
後天性腟欠損の主な原因
- がんの治療 子宮がんや腟がんなどの手術によって、腟の一部または全部が失われることがあります。
- 放射線治療の影響 がん治療でおこなう放射線の影響で、腟の組織が傷つき、ふさがってしまうことがあります。
- 大きなケガ 事故などによって骨盤周辺に深刻なケガを負うことが、原因となる場合があります。
これらの原因によって、腟という女性の体の中の通り道がふさがってしまう「閉塞」という状態が起こります。
体のどの部分が、どのようにふさがっているのかを正確に把握することは、適切な治療をおこなうために非常に重要です。そのため、MRIなどの特別な検査で体の内部を詳しく調べ、診断をおこないます。
腟欠損の症状
腟欠損の症状は、体の成長が進む思春期になるまで、ご本人も周りの方も気づかないことがほとんどです。
卵巣の機能は正常な場合が多いため、女性ホルモンはきちんと分泌されます。そのため、乳房がふくらむといった、女の子らしい体の変化は自然に起こります。
最も特徴的な症状は、15歳を過ぎても初めての月経(生理)がこないことです。これを「原発性無月経」と呼びます。周りの友人が生理を経験する中で、自分だけ始まらないことで心配になり、病院を受診して診断に至るケースがほとんどです。
また、子宮の機能は正常で、腟だけがなかったり閉じていたりする場合には、以下のような症状が現れることがあります。
- 周期的なお腹の痛み 生理の血は子宮で作られます。しかし、出口である腟がふさがっているため、血液が子宮や腟の中に溜まってしまいます。これにより、月に一度、生理の時期になるとお腹が痛くなるのです。ある研究では、このタイプの方の症状として腹痛が約67%、生理痛のような症状が約64%に見られたと報告されています。
- 性交渉の難しさ 腟が短い、もしくはないために、性交渉ができなかったり、痛みを感じたりすることがあります。
腟欠損の方は、体の他の部分にも生まれつきの特徴を合併することがあります。
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合併する可能性のある異常 |
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腎臓の異常(片方の腎臓がないなど) |
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背骨などの骨格の異常 |
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骨盤内子宮内膜症(長期的な合併症) |
これらの症状は、腟欠損のタイプによって異なります。気になることがあれば、まずは婦人科や思春期外来にご相談ください。
腟欠損 の検査・診断
腟欠損の診断は、生理がこないことを心配したご本人が、病院を訪れることで始まる場合がほとんどです。
ある研究では、診断される平均年齢は16歳過ぎと報告されており、診断が遅れてしまう可能性も指摘されています。まずは詳しいお話を聞き、体の状態を確認した上で、内部を調べるための検査を進めていきます。
【主な検査方法】
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検査の種類 |
何を調べるか |
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画像検査 |
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超音波(エコー)検査 |
お腹の上から機械をあてて、子宮や卵巣の有無や形を確認します。研究では約86%の診断で用いられています。 |
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MRI検査 |
磁石の力で体の断面図を撮影します。子宮や腟の詳しい形を立体的に評価でき、診断が難しい場合に特に役立ちます。 |
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血液検査 |
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ホルモン検査 |
卵巣がきちんと働いて、女性ホルモンが作られているかを調べます。 |
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染色体検査 |
体の設計図である染色体に、異常がないかを確認します。 |
特に超音波検査やMRI検査といった画像検査は、診断のために非常に重要です。これらの検査で、腟や子宮がどのような状態にあるのかを正確に把握することができます。
また、腟欠損のある方では、腎臓など尿を作る臓器に異常を伴うことがあります。そのため、必要に応じて腎臓の超音波検査なども行い、体全体の状態を詳しく評価します。
これらの検査を組み合わせることで、体の状態を正しく理解し、一人ひとりに合った治療計画を立てていきます。合併症を防ぐためにも、早めに診断を受けることがとても大切です。
腟欠損 の治療
腟欠損の治療は、ご本人の希望や体の状態を考えて、慎重に進めていきます。主な目的は、性交渉をスムーズに行えるようにすることです。治療を始めるかどうかは、ご本人が納得して判断することが何よりも大切です。
治療法は、大きく分けて手術をしない方法と、手術をする方法の2つがあります。
手術をしない方法(保存的治療)
体にメスを入れずに、**ダイレーター(腟拡張器)**という専用の器具を使う方法です。腟の入り口のくぼみにダイレーターをあてて、少しずつ圧力をかけ皮膚を伸ばしていきます。これにより、性交渉が可能なスペースを作ります。
- メリット 体に傷がつかず、心身への負担が少ない方法です。
- デメリット ご自身で毎日続ける必要があり、時間がかかることがあります。
手術をする方法(手術療法)
保存的な方法で十分な広さが得られない場合や、ご本人の希望に応じて手術を考えます。体の状態によって、さまざまな手術の方法があります。
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手術の種類 |
特徴 |
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腟中隔切除術 |
腟の中に壁がある場合に、その壁を取り除く手術です。ある研究では、このタイプの手術が最も多く(約83%)行われています。 |
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皮膚移植術 |
太ももやおしりなど、体の別の場所から採った皮膚を使って腟をつくる方法です。 |
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腹膜利用術 |
お腹の中にある腹膜という薄い膜を利用して腟をつくる方法です。 |
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腸管利用術 |
S状結腸などの腸の一部を利用して腟をつくる方法です。 |
最近では、体への負担が少ない方法も選ばれるようになっています。お腹に小さな穴を開けて行う腹腔鏡手術や、カメラ付きの細い管を使う子宮鏡下手術などです。特に子宮鏡下手術は、傷が小さく済む有望な選択肢とされています。
どのような治療法を選ぶとしても、合併症を防ぐためには、早い段階での診断と適切な治療計画がとても重要です。治療を通して、体のことだけでなく心のケアも大切になりますので、不安なことは医師やカウンセラーにご相談ください。










