腟がん

女性の骨盤内にできる悪性腫瘍のうち、わずか2%にも満たない「腟がん」。日本では1年間に10万人に0.7人ほどしか見つからない、非常にまれながんとして知られています。しかし、この病気の約20%は自覚症状がないまま発見されるため、気づきにくいのが特徴です。「自分には関係ない」と思っていませんか?実は、ある特定の病気をお持ちの方では、そのリスクが約3.6倍にも高まるというデータもあります。

この記事では、まれな病気だからこそ知っておきたい腟がんの本当の原因、そして見逃してはならない体からのサインを詳しく解説します。不正出血やおりものの変化など、些細な違和感の裏に隠された病気の可能性について、ご自身の体を守るための正しい知識を身につけましょう。

腟がんの概要

腟がん(ちつがん)は、腟という場所にできるがんです。 女性の骨盤の中にできる悪性のできもの(悪性腫瘍)全体でみると、腟がんは2%にも満たない、とてもまれながんとして知られています。

日本では、同じくまれながんである外陰(がいいん)がんと合わせても、1年間で10万人に0.7人ほどしか見つからない、非常に珍しい病気です。

腟がんは、腟の壁をおおっている組織から発生します。 がんができた部分は、こぶのように盛り上がったり、逆に地面がえぐれたようにくぼんだりすることがあります。

  • できやすい場所
  • 腟の中でも、子宮に近い奥の部分(上部3分の1)にできることが最も多いです。

また、近年の研究で、特定の病気との関連がわかってきました。 全身性エリテマトーデス(SLE)という病気を持っている方です。

SLEは、自分の体を守る免疫が、誤って自分自身を攻撃してしまう自己免疫疾患という病気の一つです。

複数の研究をまとめて分析した結果、SLEの患者さんでは、そうでない方と比べて腟がんや外陰がんになる危険性が約3.6倍高くなることが報告されています。

このように非常にまれな病気ですが、不正出血など気になる症状があれば、婦人科で相談することが大切です。 診断をはっきりさせるためには、疑わしい部分の組織を少し取って、顕微鏡で詳しく調べる「生検(せいけん)」という検査を行います。

腟がんの種類

腟がんと一言でいっても、実はいくつかの種類に分けられます。 がん細胞がどこから発生したか、どんな顔つきをしているかで分類します。 どの種類かによって病気の進み方や治療法が変わるため、とても重要です。

主に、次の2つの種類に分けられます。

種類

特徴

扁平上皮癌(へんぺいじょうひがん)

腟がんの中で最も多くみられるタイプです。

腟の表面をおおっている、皮膚に似た「扁平上皮」という細胞から発生します。

腺癌(せんがん)

2番目に多いタイプです。

腟の粘液などをつくる「腺細胞」という組織から発生するがんです。

このほかにも、ごくまれに次のような種類の腟がんが発生することもあります。

  • 明細胞腺がん(めいさいぼうせんがん) かつて特定の薬剤(ジエチルスチルベストロール)を使ったお母さんから 生まれた女性に見られることがある、まれながんです。
  • 悪性黒色腫(あくせいこくしょくしゅ) 皮膚にできることが多いメラノーマが、まれに腟にできることがあります。
  • 肉腫(にくしゅ) 腟の壁にある筋肉や、その周りの組織から発生するがんです。

このように、腟がんには様々な種類が存在します。 治療を始める前にがんの種類を正確に診断することは、極めて重要です。 なぜなら、がんの種類によって治療方針や病気の見通しが大きく異なるからです。

正確な診断は、その後の適切な治療計画を立てるための第一歩となります。 そのため、組織を一部採って顕微鏡で詳しく調べる検査(生検)を行い、 専門の医師が細胞の顔つきを慎重に見極めるのです。

腟がんの原因

腟がんがなぜできるのか、その原因はまだ全て解明されていません。 しかし、いくつかの要因ががんの発生に関わっていることがわかっています。

最も大きな原因は「ヒトパピローマウイルス(HPV)」というウイルスです。 このウイルスは子宮頸がんの原因としても知られており、 腟がんになった方の半数以上から見つかっています。

ただし、HPVに感染しても、全ての人ががんになるわけではありません。 最近の研究では、腟の中にいる細菌たちのバランスが重要だとわかってきました。 これを「腟マイクロバイオータ」と呼びます。

腟内の環境が良好だと、免疫がうまく働き、HPVを体の外へ追い出します。 しかし、この細菌バランスが崩れると免疫の働きが乱れ、 HPVの感染が長引き、がん化のリスクを高めることがあるのです。

その他、腟がんの発生に関係すると考えられる要因は以下の通りです。

  • 特定の病気 全身性エリテマトーデス(SLE)という病気を持っている方です。 複数の研究を分析した信頼性の高い報告によれば、 腟がんや外陰がんになる危険性が約3.6倍高くなるとされています。
  • 過去の薬の使用 1971年まで流産予防で使われた「DES」という薬の影響です。 お母さんが妊娠中にこの薬を使っていた場合、 生まれたお子さんが腟がんになりやすいことが知られています。

このように腟がんの原因は一つではなく、ウイルスや免疫、体質などが 複雑に絡み合って発症すると考えられています。

腟がんの症状

腟がんは、初期の段階では自覚できる症状がほとんどないことが多いです。 がんが静かに進行するため、気づきにくいのがこの病気の特徴です。 実際に、腟がんと診断された方の約20%は、症状がないまま見つかります。

しかし、がんが進行するにつれて、体は様々なサインを出し始めます。 ご自身の体に当てはまることがないか、確認してみましょう。

【腟がんの主な症状チェックリスト】

  • 出血に関するサイン
  • 生理でもないのに、おりものに血が混じるなどの不正な出血がある。
  • 性交渉のあとに出血する。
  • 閉経して生理が終わったはずなのに、出血がある。
  • おりものの変化
  • いつもと違う、水っぽいおりものが増える。
  • おりものに血が混じって、ピンク色や茶色っぽくなる。
  • 痛みや違和感
  • お腹の下のあたり(下腹部)や骨盤の周りに痛みを感じる。
  • 性交渉のときに痛みを感じることがある。
  • 腟の中に、しこりのような硬いものを感じる。
  • トイレに関するサイン
  • がんが大きくなり膀胱を押すことで、トイレが近くなる(頻尿)。
  • おしっこをするときに痛みを感じる。
  • 便が出にくくなる(便秘)。

特に、自分の体を守るはずの免疫が自分を攻撃してしまう病気(自己免疫疾患)をお持ちの方は、より注意が必要です。 信頼性の高い複数の研究を分析した結果、全身性エリテマトーデス(SLE)という病気の方は、腟がんや外陰がんになる危険性が約3.6倍高くなることが報告されています。

これらの症状は、腟がん以外の病気でも起こることがあります。 しかし、「いつもと違うな」と感じたら、それは体からの大切なサインです。 「そのうち治るだろう」と自己判断せず、早めに婦人科を受診してください。

腟がんの検査・診断

腟がんは、はじめのうちは症状がほとんどないことが多いです。 そのため、婦人科の検診などで偶然見つかることも少なくありません。 もし腟がんが疑われた場合は、次のような検査を順に進めていきます。

まず、医師が腟の中を直接見て、しこりや出血がないかを確認します。 これを「内診」や「視診」と呼び、病気を見つけるための第一歩です。 次に、子宮頸がん検診でも行う「細胞診」という検査をします。 綿棒のようなもので腟の壁を優しくこすり、細胞に異常がないか調べます。

これらの検査で異常が疑われた場合は、さらに詳しい検査に進みます。 「コルポスコピー」という拡大鏡で腟の粘膜を詳しく観察し、 怪しい部分の組織をほんの少しだけ取って調べる「生検」を行います。 この生検でがん細胞が見つかれば、腟がんであるという確定診断になります。

また、腟がんの主な原因であるHPV(ヒトパピローマウイルス)の検査も大切です。 最近では、ご自宅で自分で検査ができる自己採取キットも利用できます。 病院で採取するのと同じくらいの精度で調べられる便利な方法です。 ただし、もし陽性だった場合は必ず病院で精密検査を受ける必要があります。

がんと診断されたら、がんがどのくらい広がっているかを確認します。 MRIなどの画像検査を行い、今後の治療方針を決めるための情報を集めます。 フランスなど海外でも、検査で異常が見つかった後の対応が重要視されています。 気になる症状があれば、ためらわずに専門の病院を受診してください。

腟がんの治療

腟がんの治療は、がんの広がり具合(ステージ)や種類、 患者さんの体の状態や年齢などを carefully に考え合わせて、 一人ひとりに最適なオーダーメイドの治療計画を立てます。

主な治療法は、大きく分けて3つあります。 これらを1つだけ行ったり、組み合わせたりして治療を進めます。

治療法

どんな時に選ばれる?

どんな治療?

手術

早期のがん

がんができた部分を直接メスで取り除く方法です。

放射線療法

手術が難しい場合や、進行したがん

特別な光(放射線)をあてて、がん細胞を攻撃し、小さくします。

化学療法

進行したがんや、再発したがん

抗がん剤というお薬を使い、がん細胞が増えるのを抑えます。

がんがまだ小さい早期の段階であれば、手術で取り除くことが中心です。 しかし、がんがある程度進行している場合や、手術が難しい場所にある場合は、 放射線療法が治療の中心になります。

特に、がんの大きさが4cmより小さい場合には、 放射線療法だけでとても良い結果が期待できることもわかっています。 さらに進行した場合には、放射線療法と化学療法を組み合わせて、 より強力にがんを攻撃することもあります。

治療の計画は、専門の医師たちがチームとなって慎重に話し合って決めます。 フランスなど海外でも、検査で異常が見つかった後に、 どのように対応するかの指針が専門家によってしっかり定められています。

また、治療はもちろん大切ですが、がんの原因となるHPVの感染を早く見つけ、 異常があれば必ず病院で精密検査を受ける体制づくりが重要です。 気になることがあれば、ためらわずに専門の医療機関に相談してください。