扁桃炎
つばも飲み込めないほどのどの痛みや、38度を超える高熱に悩んでいませんか。扁桃炎は年に何度も繰り返すこともあり、そのたびに仕事や日常生活に大きな支障をきたすため、つらい思いをしている方も少なくありません。
この記事では、急な高熱を伴うものから慢性的なものまで、扁桃炎の種類ごとの特徴や原因、治療法を網羅的に解説します。どのような場合に手術が選択肢となるのかについても、近年の研究結果を交えながら紹介します。
ご自身の状態がどのタイプにあてはまるかを把握し、重症化や再発を防ぐために今できることを知ることで、つらい症状を繰り返さないための次の一歩が見えてくるはずです。
扁桃炎の概要
扁桃炎とは、のどの奥にある「扁桃(へんとう)」というリンパ組織が、ウイルスや細菌に感染して炎症を起こす病気です。
扁桃は、鼻や口から体内に侵入しようとする病原体をブロックする、いわば「免疫の砦」のような役割を担っています。
しかし、過労やストレス、睡眠不足などで体の抵抗力が落ちると、この防御機能が弱まり、扁桃が病原体に負けて炎症を引き起こしてしまいます。
扁桃炎は子どもによく見られますが、大人も発症します。一度かかると、飲食もままならないほどの激しいのどの痛みや高熱に悩まされることも少なくありません。
症状が重い場合や年に何度も繰り返す場合には、日常生活に大きな支障をきたし、重症化すれば入院が必要になるケースもあります。
耳や鼻、のどの病気の中には、適切な初期対応によって重症化や入院を防げるものがあり、扁桃炎もその一つです。そのため、かかりつけ医といった身近な医療機関で早期に発見し、適切に対処することが重症化を防ぐうえで重要と考えられています※。
扁桃炎の種類
扁桃炎は、症状の経過や現れ方によって、急性のものから慢性のものまでいくつかの種類に分けられます。ご自身の状態がどれにあたるかを知ることが、適切な対処への第一歩です。
・急性扁桃炎
ウイルスや細菌の感染が原因で、急にのどの痛みや38度以上の高熱、だるさなどが現れる状態です。多くの方が「扁桃炎」と聞いてイメージするのがこのタイプといえます。
・慢性扁桃炎
急性扁桃炎を年に何度も繰り返すうちに、扁桃に常に弱い炎症がくすぶるようになった状態です。これには、さらに次の2つのタイプがあります。
種類 | 主な特徴
習慣性(反復性)扁桃炎 | ・年に3〜4回以上、急性扁桃炎を繰り返す ・高熱や激しいのどの痛みで仕事や学業に支障が出やすい
慢性単純性扁桃炎 | ・主に大人に見られる ・のどの違和感や乾燥感、微熱といった症状が長く続く ・飲酒や喫煙などが悪化の一因となることがある
特に、何度も高熱やのどの痛みに悩まされる習慣性扁桃炎では、扁桃を摘出する手術が選択肢になります。実際に、手術を受けた方は受けなかった方と比べて、2年間でのどが痛む日数が大幅に減ることが英国の研究でわかっています※00473-1/fulltext)。
ただし、慢性扁桃炎に加えて睡眠時無呼吸など、複数の理由で手術を受ける場合、術後の出血リスクが単一の理由の場合よりも高まることが指摘されています※。
・扁桃病巣感染症
扁桃自体の症状は軽いものの、扁桃での免疫反応の異常が引き金となり、体の離れた場所に病気を引き起こす特殊な状態です。
代表的なものに、腎臓の病気(IgA腎症)や、手のひら・足の裏に膿がたまる皮膚の病気(掌蹠膿疱症)、関節の痛みなどがあります。
扁桃炎の原因
扁桃炎は、ウイルスや細菌がのどの扁桃に感染することで起こりますが、その直接の引き金となるのが体の抵抗力(免疫力)の低下です。
私たちの体は、鼻や口から侵入しようとする病原体から身を守る免疫機能を持っています。しかし、ストレスや過労などで免疫力が落ちると、防御システムがうまく働かずに病原体に感染し、扁桃炎を発症します。
原因となる病原体は、大きく分けて「ウイルス」と「細菌」の2種類です。
種類 | 主な病原体
ウイルス | ・風邪の原因となるライノウイルスやコロナウイルス ・インフルエンザウイルス ・アデノウイルス(プール熱の原因) ・EBウイルス(伝染性単核球症の原因)
細菌 | ・A群溶血性レンサ球菌(溶連菌) ・肺炎球菌 ・インフルエンザ菌(インフルエンザウイルスとは別物) ・黄色ブドウ球菌
ウイルスが原因の場合は対症療法が中心ですが、細菌が原因の場合は抗生物質による治療が必要なため、原因の見極めが重要になります。
特に、子どもによく見られるA群溶血性レンサ球菌(溶連菌)が原因の扁桃炎では、口の中の所見が感染を判断するうえで重要な手がかりとなる可能性が研究で示唆されています。具体的には、口の天井(口蓋)にみられる赤い点状の出血や、扁桃そのものの腫れ、飲み込みにくさといった症状が、溶連菌感染を強く疑うサインと考えられています※。
また、そもそも病原体に感染しやすくなる背景には、免疫力の低下が関わっています。以下のような要因は、免疫力を下げる引き金となるため注意が必要です。
・ストレスや過労
・睡眠不足
・急激な気温の変化
・のどの乾燥
・喫煙
例えば、のどが乾燥すると粘膜のバリア機能が弱まり、ウイルスや細菌が付着しやすくなります。喫煙も同様に、のどの粘膜を傷つけ防御機能を低下させます。
これらの病原体は、感染者の咳やくしゃみに含まれる飛沫(しぶき)を吸い込む「飛沫感染」や、ウイルスが付いた手で口や鼻に触れる「接触感染」によって体内に侵入します。
扁桃炎の症状
扁桃炎では、つばも飲み込めないほどの激しいのどの痛みや高熱が特徴ですが、原因となる病原体によって症状の現れ方が少しずつ異なります。
多くの場合、以下のような全身症状を伴います。
・38℃を超える高熱
・飲食もままならないほどの激しいのどの痛み
・悪寒を伴う体のだるさ(倦怠感)
・頭痛や関節の痛み
・首のリンパ節(あごの下や耳の後ろなど)の腫れと痛み
のどを直接見てみると、扁桃が赤く腫れあがっていたり、白い膿(膿栓:のうせん)が付着したりしていることがあります。
特に、細菌の一種であるA群溶血性レンサ球菌(溶連菌)が原因の場合、診断の手がかりとなる特徴的なサインがあることがわかってきました。複数の研究結果を統合した分析によると、以下の所見は溶連菌感染と強い関連があると考えられています※。
・のどの天井部分にみられる赤い点々(口蓋点状出血)
・扁桃そのものの著しい腫れ(扁桃肥大)
・食べ物や飲み物がうまく飲み込めない(嚥下障害)
一方で、これまで風邪の症状としてよく挙げられてきた頭痛や咳、鼻水といった症状は、必ずしも細菌性の扁桃炎に特有のものではない可能性も指摘されています※。
危険なサイン:扁桃周囲膿瘍
扁桃炎の炎症がさらに悪化し、扁桃の周囲に膿がたまる「扁桃周囲膿瘍(へんとうしゅういのうよう)」という危険な状態に進行すると、以下のような症状が現れます。
・片側ののどだけが突き刺すように激しく痛む
・口が開きにくくなる(開口障害)
・食事はもちろん、水分さえ飲み込めない
・声がこもって、何を言っているかわかりにくくなる
・息苦しさ
扁桃周囲膿瘍は、窒息のリスクもある緊急性の高い状態です。これらのサインが見られたら、ただちに医療機関を受診してください。
扁桃炎の検査・診断
扁桃炎の検査・診断は、まず問診での詳しい症状の聞き取りと、のどの状態を直接観察する視診から始まります。
なぜなら、原因がウイルスか細菌かによって治療法が大きく異なり、特に細菌が原因の場合にのみ抗生物質が有効となるため、この見極めが非常に重要だからです。
まず、いつからどのような症状があるか(発熱、のどの痛みの程度など)をお伺いする「問診」を行い、次にペンライトなどでのどの奥を直接確認する「視診」で、炎症の状態を詳しく観察します。
視診では、特に細菌の一種であるA群溶血性レンサ球菌(溶連菌)の感染を疑う場合、診断の決め手となる特徴的なサインがないかを重点的にチェックします。
ある系統的レビューとメタアナリシス(複数の研究結果を統合して分析する方法)によると、以下の所見は溶連菌感染と強い関連があることがわかっています※。
・扁桃の白い膿(扁桃滲出液)
・のどの天井部分に見られる赤い点々(口蓋点状出血)
・食べ物や飲み物がうまく飲み込めないほどの扁桃の腫れ(嚥下障害・扁桃肥大)
・首のリンパ節の腫れ
一方で、これまで風邪の症状としてよく挙げられてきた頭痛や咳、鼻水といった症状は、必ずしも細菌性の扁桃炎に特有のものではない可能性も指摘されています※。
これらの診察所見に加え、診断の精度を高めるため、あるいは重症度を評価するために、必要に応じて次のような検査を追加します。
検査の種類 | 内容 | 主な目的
迅速検査キット | ・綿棒でのどの奥をこすり、粘液を採取 ・検査キットで10分ほどで判定 | 特定の病原体(溶連菌やアデノウイルスなど)の有無をその場で確認する
血液検査 | ・腕などから採血を行う | ・白血球数やCRP値などを測定 ・体内の炎症の強さを数値で把握し、重症度を客観的に評価する
細菌培養検査 | ・迅速検査と同様に採取した粘液を検査室で培養 ・結果判明まで数日を要する | ・原因となっている細菌の種類を正確に特定する ・どの抗生物質が最も効果的か(感受性)を調べる
これらの診察や検査の結果を総合的に評価し、ウイルス性か細菌性かを見極めたうえで、一人ひとりの状態に合わせた最適な治療方針を決定します。
扁桃炎の治療
扁桃炎の治療は、原因がウイルスか細菌かによって方針が大きく異なり、症状の重さや繰り返す頻度に応じて薬物治療や手術が検討されます。
どのような場合でも、治療の基本となるのは「安静」と「水分補給」です。体をしっかり休め、脱水を防ぐことが、自身の免疫力で病原体と戦うための第一歩となります。
そのうえで、原因に合わせた専門的な治療を進めていきます。
ウイルスが原因の場合
インフルエンザなど一部の例外を除き、多くのウイルス性扁桃炎には特効薬がありません。そのため、治療の主役はご自身の免疫力となります。
医療機関では、高熱や激しいのどの痛みといったつらい症状を和らげ、体がウイルスと戦うのをサポートするための「対症療法」を行います。具体的には、解熱鎮痛薬などを処方し、体力の消耗を防ぎます。
特に、小さなお子さんの場合、ハーブ由来の製剤などが症状を和らげるのに役立つ可能性を示した研究もありますが、その有効性をしっかりと証明するには、今後のさらなる研究が待たれる状況です※。
細菌が原因の場合
細菌が原因の場合は、その菌を直接攻撃する「抗生物質(抗菌薬)」による治療が不可欠です。
服薬を始めると数日で症状は楽になることが多いですが、ここで自己判断で薬をやめてはいけません。症状が軽くなっても、体の中にはまだ細菌が生き残っている可能性があります。
生き残った菌が再び増殖してぶり返したり、薬が効きにくい「耐性菌」に変化したりするのを防ぐため、医師から指示された期間は必ず薬を飲み切ることが重要です。
入院治療が必要になるケース
以下のような場合は、入院による専門的な治療が必要になることがあります。
・のどの腫れが極度にひどく、水分すら飲み込めない場合
・炎症が扁桃の周囲にまで広がり、膿がたまる「扁桃周囲膿瘍」に進行した場合
これらの状態では、口から薬を飲むことが困難なため、抗生物質の点滴治療を行います。扁桃周囲膿瘍では、たまった膿を針で刺したり、少し切開したりして排出する処置が必要になることもあります。
手術という選択肢
年に何度も高熱や激しいのどの痛みを繰り返す「習慣性(反復性)扁桃炎」に悩まされている方には、扁桃そのものを摘出する手術も有効な選択肢となります。
実際に、頻繁に扁桃炎を繰り返す成人を対象とした英国の研究では、手術を受けた方は受けなかった方と比べて、その後の2年間でのどが痛む日数が大幅に減ることが報告されています※。
ただし、手術には術後の出血といったリスクもゼロではありません。手術を受けるかどうかは、日常生活への支障の度合いや手術のメリット・デメリットを医師と十分に話し合い、ご自身が納得したうえで決定することが大切です。













