ジフテリア

「ジフテリア」と聞いても、多くの方は「過去の病気」という印象かもしれません。しかし、その認識こそが、実は感染リスクを約2.4倍も高める危険な落とし穴なのです。この病気の本当の恐ろしさは、菌が作り出す強力な毒素にあり、血液に乗って全身を巡ることで心臓や神経に深刻な後遺症を残すことがあります。

近年の研究では、ワクチン接種が不十分だとリスクが2.2倍、皮膚に症状がある人との接触では約4.8倍にもなると報告されています。決して過去のものではないジフテリアから、あなたと大切な人を守るために。この記事で、正しい知識と確実な予防法を学びましょう。

ジフテリアの概要

ジフテリアは、「ジフテリア菌」という細菌がのどや鼻に感染して起こる病気です。 この菌が作り出す「ジフテリア毒素」が非常に強力で、様々な重い症状を引き起こすことがあります。

感染した人のせきやくしゃみを吸い込む「飛沫感染」が主な感染経路です。 また、菌が付いた物に触れた手で口や鼻をさわる「接触感染」でもうつります。 主な症状は高熱やのどの痛み、犬が吠えるような咳などです。 病気が進行すると、のどに「偽膜(ぎまく)」と呼ばれる白い膜ができ、呼吸が苦しくなることがあります。

最近の研究では、ジフテリアにかかりやすくなる、避けることのできる要因がいくつか報告されています。 特に、以下の点はリスクを高めることが指摘されています。

  • ワクチン接種が不十分(3回未満) ジフテリアにかかるリスクが約2.2倍高まることが わかっています。
  • 皮膚に傷や湿疹などがある人との接触 感染のリスクが約4.8倍にもなると指摘されています。
  • ジフテリアという病気に関する知識不足 正しい知識がない場合、リスクが約2.4倍高まるという 結果も出ています。

日本ではワクチンの普及により患者さんの数は大きく減りました。 しかし、世界では今でも発生しているため、決して過去の病気ではありません。 正しい知識を持ち、ワクチンでしっかりと予防することがとても大切です。

ジフテリアの種類

ジフテリアは、菌が感染する体の場所によって症状の出方が変わります。 しかし、どの種類でも菌が作る毒素は血液に乗って全身を巡ります。 そのため、心臓や神経にダメージを与え、後遺症を残す危険性があります。 感染場所によって、主に以下の種類に分けられます。

種類

主な感染場所

特徴的な症状

咽頭・扁桃ジフテリア

のど・扁桃腺

・ジフテリアの中で最もよくみられます。

・強いのどの痛み、発熱、首のリンパ節の腫れが起こります。

・「偽膜(ぎまく)」という灰白色の厚い膜がのどにでき、無理にはがそうとすると簡単に出血するのが特徴です。この膜が空気の通り道をふさぎ、呼吸が苦しくなることがあります。

喉頭ジフテリア

のどの奥(喉頭)

・声がかすれたり、犬が吠えるような咳(犬吠様咳嗽:けんばいようがいそう)が出たりします。

・咽頭ジフテリアから進行することが多く、偽膜によって急に気道がふさがれ、命に関わる危険性が高いため、特に注意が必要です。

鼻ジフテリア

鼻の粘膜

・はじめは風邪と似ており、血液が混じった鼻水などが出ます。

・他の種類に比べて症状は比較的軽いことが多いですが、軽い症状でも毒素は作られるため、決して油断はできません。

皮膚ジフテリア

皮膚

・ケガをした傷口などから菌が入り込み、なかなか治らない潰瘍(かいよう)や、ただれができます。

・ある研究では、皮膚に症状がある人との接触で感染するリスクが約4.8倍にも高まると報告されています。

このほかにも、まれに目や耳、性器などに感染することもあります。 どの場所に感染した場合でも、早期の診断と治療が重要になります。

ジフテリアの原因

ジフテリアは、「ジフテリア菌」という細菌が原因となって起こる病気です。 この菌が、のどや鼻の粘膜に感染して増えることで発症します。 主な感染ルートは、感染者のせきやくしゃみを吸い込む「飛沫感染」です。 また、菌が付いた物に触れた手で口や鼻をさわることでも感染します。

最近、複数の研究結果をまとめて分析した信頼性の高い報告がされました。 その報告では、ジフテリアにかかる危険性を高める要因が指摘されています。 特に、以下の3つの点は、生活の中で避けることができる重要なポイントです。

  • ワクチン接種が不十分 ワクチンを3回未満しか受けていない場合、 かかるリスクが約2.2倍に高まることがわかっています。
  • 皮膚に症状がある人との接触 皮膚にジフテリアの症状がある人との接触は特に危険です。 感染リスクが約4.8倍にもなると報告されています。
  • 病気に関する知識不足 正しい知識がない場合、リスクは約2.4倍高まります。 知らないうちに自分を危険にさらしてしまう可能性があります。

ジフテリア菌の本当の恐ろしさは、強力な「毒素」を作り出す点にあります。 この毒素が血液に乗って全身に広がり、心臓や神経を攻撃することがあります。 ただし、すべてのジフテリア菌がこの毒素を作るわけではありません。

ジフテリアの症状

ジフテリア菌に感染すると、2日から5日ほどの潜伏期間を経て症状があらわれます。 はじめは風邪とよく似ているため、見過ごされやすいのが特徴です。 しかし、病気が進むと命に関わる危険な症状が出ることがあります。

のどや鼻にあらわれる症状

最も多く見られるのが、のどや鼻の症状です。 初期症状は風邪と区別がつきにくいため、注意深く観察することが大切です。

  • 偽膜(ぎまく) のどの奥にできる、灰白色の分厚い膜です。 これは細菌と体の免疫細胞が戦った跡で、無理にはがそうとすると簡単に出血します。 この膜が空気の通り道をふさぎ、呼吸困難を引き起こす危険なサインです。
  • 特有の咳や声の変化 犬が吠えるような「ケン、ケン」という乾いた咳(犬吠様咳嗽:けんばいようがいそう)が出ることがあります。 また、声がかすれる症状(嗄声:させい)も特徴の一つです。
  • 首のリンパ節の腫れ 首のリンパ節がパンパンに腫れあがります。 見た目が牛の首のように太くなることから、「牛頸(ブルネック)」と呼ばれます。

全身に広がる重い症状

ジフテリアの本当の怖さは、菌が作り出す「毒素」が全身に広がることです。 この毒素が血液に乗って心臓や神経を攻撃し、重い合併症を引き起こします。

  • 心臓への影響 心臓の筋肉に炎症が起きる「心筋炎」になることがあります。 心臓のポンプ機能がうまく働かなくなり、不整脈や心不全につながる危険があります。
  • 神経への影響 神経が麻痺することで、様々な症状があらわれます。 食べ物が飲み込みにくくなったり(嚥下困難:えんげこんなん)、手足が動かしにくくなったりします。

皮膚にあらわれる症状

日本ではあまり見られませんが、皮膚に感染することもあります。 傷口から菌が入り込み、なかなか治らないジクジクとした潰瘍(かいよう)ができるのが特徴です。 少しでも気になる症状があれば、自己判断せず、すぐに医療機関を受診してください。

ジフテリアの検査・診断

ジフテリアが疑われる場合、まずお医者さんが口の中をライトで照らします。 のどの奥に「偽膜(ぎまく)」という、灰白色の厚い膜がないかを確認します。 これはジフテリアの大きな特徴ですが、なくても安心はできません。 正確に診断するため、次のような検査に進みます。

  • のどの菌を調べる検査(細菌培養検査) 長い綿棒で、のどの奥や鼻をそっとこすって菌を採取します。 その菌を特別な環境で育て、ジフテリア菌がいるかを調べます。 結果がわかるまで数日かかりますが、最も確実な診断方法です。
  • 心臓の動きを調べる検査(心電図検査) ジフテリア菌が作る毒素は、心臓の筋肉を攻撃することがあります。 心臓に異常が起きていないか、電気信号を記録して確認します。

ジフテリアは症状の進みが速く、重症化する危険がある病気です。 そのため、多くの場合、検査の結果を待たずに治療を始めます。 特徴的な症状からジフテリアが強く疑われた時点で、一刻も早く治療を開始します。

また、診断の際にはいつワクチンを受けたかという情報も非常に重要です。 最近の研究では、ジフテリアのワクチン(dTpaワクチン)を、 RSVワクチンなど他のワクチンと同時に接種しても安全だと報告されています。 効果が落ちることもなく、しっかり免疫がつくこともわかっています。 これにより、効率よく様々な感染症を予防できるようになっています。

ジフテリアの治療

ジフテリアの治療は、まさに時間との戦いです。 菌が作る毒素が全身に広がるのを防ぐことが最優先されます。 そのため、疑わしい症状があれば検査結果を待たずに治療を始めます。 治療は、主に以下の2つの方法を同時に進めていきます。

  • 抗毒素療法 すでに体の中に広がってしまった毒素を無力化する治療です。 「ウマ抗毒素血清」という薬を注射し、毒素が心臓や神経を 攻撃するのを食い止めます。
  • 抗菌薬による治療 毒素を作り出すジフテリア菌そのものを退治する治療です。 ペニシリンなどの抗菌薬(抗生物質)を使い、 これ以上、体の中で毒素が作られるのを防ぎます。

このほか、のどの偽膜で呼吸が苦しくなった場合は、 空気の通り道を確保するための緊急処置も行われます。

治療法はありますが、最も大切なのはジフテリアにかからないことです。 そのための最も確実な方法が「ワクチン接種」による予防です。 最近の研究では、ワクチンの安全性について新たな報告がされています。 例えば、ジフテリアワクチン(dTpaワクチン)は、 RSVワクチンなど他のワクチンと同時に接種しても安全です。 それぞれのワクチンの効果が落ちることもないと分かっています。 これにより、効率よく様々な病気から体を守ることができます。 妊婦さんへのワクチン接種についても、安全性を確かめる研究が進んでいます。 決められた時期にワクチンを接種することが、ご自身と大切な人を守ります。