扁桃肥大

お子さんの大きないびきや、いつも口を開けている様子に心配になっていませんか。扁桃肥大は3歳から7歳頃に見られる自然な成長過程の一つですが、睡眠や発育に影響を及ぼすこともあります。

この記事では、扁桃肥大がなぜ起こるのか、その原因と種類を解説します。いびきや睡眠時無呼吸、歯並びへの影響といった注意すべき症状から、検査・治療法までを詳しく紹介します。

ご家庭での観察ポイントや、専門医に相談すべきサインがわかることで、お子さんの健やかな成長を守るための適切な対応が見えてくるはずです。

扁桃肥大の概要

扁桃肥大とは、のどの奥で免疫の役割を担う「口蓋扁桃(こうがいへんとう)」というリンパ組織が、通常よりも大きくなった状態です。

扁桃は、鼻や口から体内に侵入しようとするウイルスや細菌を食い止める、いわば“体の門番”のような働きをしています。

お子さんの場合、免疫システムが活発に発達する3歳頃から扁桃は自然と大きくなりはじめ、6〜7歳頃にその大きさはピークを迎えます。その後、成長とともに小さくなっていくのが一般的な体の変化です。

しかし、この扁桃が生理的な範囲を超えて大きくなりすぎると、空気の通り道である気道を物理的に狭くしてしまいます。

その結果、大きないびきや、睡眠中に呼吸が浅くなったり止まったりする「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)」を引き起こすことがあります。実際、扁桃肥大は小児における閉塞性睡眠時無呼吸症候群の重大なリスク因子であることがわかっています。※

また、気道が狭くなることで鼻呼吸がしづらくなり、「口呼吸」が習慣になってしまう点も見過ごせません。口呼吸が長く続くと、顎の正常な発達が妨げられ、歯並びの乱れ(不正咬合)や顔つきの変化につながる可能性も指摘されています。※

このように、扁桃肥大は単に「扁桃が大きい」というだけでなく、お子さんの健やかな睡眠や成長に影響を及ぼすことがあるため、気になる症状があれば専門医に相談することが大切です。

扁桃肥大の種類

扁桃肥大は、大きくなっている扁桃の「場所」と、肥大の「性質」によって種類が分けられます。そもそも「扁桃」とは一つの組織ではなく、のどの周囲に点在し、体を守る免疫の砦として機能するリンパ組織の総称です。

場所による分類

主に次の4つの扁桃組織があり、それぞれ肥大した場合に現れる症状が異なります。

扁桃の種類 | 場所 | 特徴

口蓋扁桃(こうがいへんとう) | のどちんこの両脇 | ・一般的に「扁桃腺」と呼ばれる部分 ・ここが大きくなった状態が、いわゆる「扁桃肥大」です

アデノイド(咽頭扁桃) | 鼻の奥(上咽頭) | ・鼻呼吸の通り道を物理的に塞ぎやすく、いびきや口呼吸の主な原因となります ・「アデノイド顔貌」と呼ばれる独特の顔つきに影響することもあります

舌扁桃(ぜつへんとう) | 舌の付け根 | ・肥大すると、のどの違和感や食べ物の飲み込みにくさにつながることがあります

耳管扁桃(じかんへんとう) | 耳と鼻をつなぐ管(耳管)の近く | ・肥大して耳管を塞ぐと、滲出性中耳炎の原因になる場合があります

特に注意が必要なのが、アデノイドや口蓋扁桃の肥大です。これらの肥大によって鼻呼吸が妨げられ口呼吸が長期間続くと、顎が後退したり、受け口や出っ歯(不正咬合)、噛み合わせが開いてしまう開咬、上あごの歯列が狭くなるなど、歯並びや顔の骨格形成に影響を及ぼす可能性が指摘されています。※

性質による分類

肥大がなぜ起きているか、その性質によっても分類されます。

・生理的肥大

免疫機能が活発に発達する過程でみられる、ごく自然な体の変化です。多くの場合、3歳頃から大きくなり始め、6〜7歳でピークを迎え、その後は成長とともに自然と小さくなっていきます。

・病的肥大

扁桃炎を繰り返すなどの慢性的な感染や、アレルギーによる刺激が原因で起こる肥大を指します。生理的肥大とは異なり、自然に小さくなりにくく、いびきや睡眠時無呼吸などの症状が強い場合は治療の対象となることがあります。

このように、ひとくちに扁桃肥大といっても、どの場所が、どのような理由で大きくなっているかによって、その後の経過や対処法は大きく変わります。

扁桃肥大の原因

扁桃肥大の原因は、お子さんの成長に伴う自然な「生理的肥大」と、感染やアレルギーなどが関わる「病的肥大」の2つに大別されます。

ほとんどの場合、心配のいらない生理的なものです。

免疫機能が活発に発達する3歳頃から、扁桃は“体の門番”としてさまざまな病原体と戦うトレーニングを始め、その過程で自然と大きくなります。大きさは6〜7歳頃にピークを迎えますが、その後は免疫システムが成熟するにつれて小さくなっていくのが一般的な体の変化です。

しかし、一部には注意が必要な「病的肥大」もあります。生理的な範囲を超えて肥大が続いたり、大きくなりすぎたりする背景には、次のような要因が隠れていることがあります。

・繰り返す感染(慢性扁桃炎)

ウイルスや細菌による扁桃炎を繰り返していると、扁桃は常に炎症を起こして腫れた状態(慢性扁桃炎)になり、肥大につながります。特に、繰り返す気道感染症は小児の閉塞性睡眠時無呼吸のリスクを著しく高めることが、複数の研究を統合した解析で報告されています。※

・アレルギー体質

アレルギー反応による慢性的な刺激も、扁桃の肥大を促す一因です。鼻やのどの粘膜がアレルギーで常に炎症を起こしていると、その刺激が扁桃にも及び、組織が大きくなることがあります。

・口呼吸の習慣

鼻づまりなどで口呼吸が習慣になると、鼻というフィルターを通らない乾燥した冷たい空気が、直接のどを刺激し続けます。この絶え間ない負担が扁桃の炎症を招き、肥大を助長する可能性があります。

・その他のリスク因子

近年の研究では、肥満や睡眠時無呼吸の家族歴も、小児の閉塞性睡眠時無呼吸と強い関連があることがわかっています。お子さん自身の肥満傾向や、ご家族にいびき・無呼吸の症状がある場合は、扁桃肥大による症状がより強く現れる可能性があります。※

また、大人の場合は、喫煙による慢性的な刺激が原因となることもあります。

扁桃肥大の症状

扁桃肥大の症状は、大きくなった扁桃が空気の通り道(気道)を物理的に狭くすることで起こり、睡眠中だけでなく、食事や日中の活動にもさまざまな影響を及ぼします。

お子さんに当てはまるサインがないか、以下の3つの場面に分けて確認してみましょう。

睡眠への影響

気道が狭くなる影響が最も現れやすいのが、筋肉がゆるんで気道が狭くなりやすい睡眠中です。

・大きないびきをかく

・睡眠中に呼吸が止まる、または浅くなる

・寝ている間、常に口を開けている(口呼吸)

・寝汗が多い、寝相が極端に悪い

特に、いびきや無呼吸は注意すべきサインです。複数の研究を統合した解析では、扁桃肥大があるお子さんは、ないお子さんと比べて閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)を発症するリスクが約3.5倍も高まることが報告されています。※

食事や発声への影響

物理的に大きくなった扁桃は、食べ物の通り道も狭くしてしまいます。

・食べ物を飲み込みにくい、むせやすい(嚥下障害)

・食事に時間がかかる、一度にたくさん食べられない

・声がこもって聞こえる(鼻声のような話し方)

日中の活動への影響

睡眠の質が低下すると、日中の活動にも支障が出始めます。

・朝、すっきりと起きられない

・日中に強い眠気を感じる、あくびが多い

・集中力が続かない、なんだか落ち着きがない

これらの症状は、扁桃肥大による睡眠不足が原因かもしれません。

【特に注意】左右の大きさが違う扁桃肥大

左右の扁桃の大きさが明らかに違う「非対称性の扁桃肥大」が見られる場合は、特に注意が必要です。

これは、小児の頭頸部にできる悪性リンパ腫の一種「バーキットリンパ腫」の、最も一般的な症状の一つであることがわかっています。多くの場合、最初は単なる扁桃炎として見過ごされることもありますが、診断の遅れを防ぐためにも、気になる場合は自己判断せず速やかに耳鼻咽喉科を受診することが重要です。※

扁桃肥大の検査・診断

扁桃肥大の診断は、まず耳鼻咽喉科で扁桃の大きさを直接確認することから始まります。お子さんのいびきや無呼吸といった症状に応じて、必要な検査を組み合わせ、その原因と重症度を正確に評価します。

主な検査方法は、以下のとおりです。

・視診

医師が口の中を直接見て、扁桃の大きさや形、赤みなどを確認します。扁桃の大きさは、のどの真ん中に向かってどの程度張り出しているかで客観的に評価します。

・ファイバースコープ(内視鏡)検査

鼻から細くやわらかなカメラを入れ、肉眼では見えない鼻の奥にある「アデノイド(咽頭扁桃)」や舌の付け根の状態を詳しく観察します。いびきや鼻づまりの原因がアデノイドにある場合、この検査で肥大の程度を正確に把握できます。

・画像検査

顔の側面からレントゲン撮影を行い、アデノイドの大きさや、それによって空気の通り道である気道がどの程度狭くなっているかを客観的に評価するために行います。

・睡眠検査

いびきや睡眠時無呼吸が疑われる場合、睡眠中の呼吸状態を調べる検査です。ご自宅で指や鼻にセンサーをつけて行う簡易的な検査や、入院して脳波なども含めて精密に調べる睡眠ポリグラフ検査(PSG)があります。

【特に注意】左右の大きさが違う扁桃肥大

これらの検査の中でも、特に注意深く診察するのが「左右の扁桃の大きさ」です。

片方だけが著しく大きい、あるいは左右の大きさが明らかに違う「非対称性の扁桃肥大」は、単なる肥大ではない可能性を考える必要があります。

実際に、小児の頭頸部にできる悪性リンパ腫の一種「バーキットリンパ腫」では、片側性の首のリンパ節の腫れや、左右非対称な扁桃肥大が最も一般的な症状として現れることが報告されています。初期には単なる炎症や感染症として見過ごされることもあり、診断までの時間を最小限にすることが重要です。※

「いつもの風邪とは腫れ方が違う」「片方だけが目立って大きい」など、気になる点があれば自己判断せず、速やかに耳鼻咽喉科を受診してください。

扁桃肥大の治療

扁桃肥大の治療は、お子さんの年齢や症状の重さ、睡眠や食事といった日常生活への影響を丁寧に見きわめ、大きく分けて「保存的治療」と「手術療法」から最適な方法を選択します。

いびきは時々かく程度で、日常生活に大きな影響が出ていない軽度の場合は、まずはお薬や生活習慣の見直しによる「保存的治療」で症状の緩和を目指します。

・経過観察

多くの場合、扁桃は成長とともに自然に小さくなるため、定期的な診察で大きさや症状の変化を注意深く見守ります。

・薬物療法

扁桃の腫れそのものを直接小さくする薬はありません。しかし、アレルギーが関わっている場合は抗ヒスタミン薬を、細菌感染による扁桃炎を繰り返している場合は抗生物質を用いることで、炎症や腫れを和らげ、間接的に症状を軽くできることがあります。

・生活習慣の改善

鼻うがいや室内の加湿は、鼻やのどの粘膜を潤し、乾燥やホコリによる刺激を和らげます。これにより、扁桃への負担を軽減し、症状の緩和につながります。

保存的治療で改善が見られない場合や、次のような重い症状によってお子さんの健やかな成長が妨げられていると判断される場合には、根本的な解決策として手術療法が有力な選択肢となります。

・重度のいびきや睡眠時無呼吸によって、睡眠の質が著しく低下している

・食べ物を飲み込みにくく、食事に極端に時間がかかる(嚥下障害)

・年に何度も高熱を伴う扁桃炎を繰り返している

・滲出性中耳炎を繰り返し、聴力への影響が心配される

手術は、大きくなった扁桃(口蓋扁桃)とアデノイドを同時に切除する「アデノ扁桃摘出術」が標準的な方法です。この手術は、空気の通り道を物理的に広げることで、睡眠中の呼吸状態を根本から改善する効果が期待できます。

実際、小児の閉塞性睡眠時無呼吸に対する治療効果を比較した研究では、アデノ扁桃摘出術は、あごの骨格を広げる矯正治療と比べて、睡眠中の呼吸状態の改善度は同等であったものの、いびきや日中の眠気といった臨床症状や生活の質(QOL)において、より優れた改善効果を示したと報告されています。※

また、手術の長期的な影響についてもさまざまな研究が行われています。複数の研究を分析した報告によると、扁桃摘出術を受けた人は、将来的な扁桃がんのリスクが低くなる傾向が示唆されています。その一方で、舌の付け根のがん(舌根がん)のリスクが高まる可能性も指摘されました。ただし、この分析に含まれた研究ごとのばらつきが非常に大きく、現時点でははっきりとした結論は出ていないのが実情です。※

どの治療法がお子さんにとって最適かは、症状の重さや成長段階によって一人ひとり異なります。いびきや無呼吸など、気になるサインが見られたら、まずは専門医に相談し、現状を正確に把握することから始めましょう。