溶連菌感染症
お子さんやご自身が急な高熱やのどの痛み、体に広がる発疹に悩まされていませんか?溶連菌感染症は子どもだけでなく大人にも感染し、世界中で報告が急増しています。特に21世紀に入ってからは、重症化しやすい新しい菌株が出現しているため、ご自身や大切なご家族の健康に不安を感じている方もいるでしょう。
本記事では、溶連菌感染症の概要から主な症状、感染経路、さらには心臓などに重い合併症を引き起こすリスクについて解説します。適切な治療が合併症を防ぐことにつながる点や、早期発見の重要性についても詳しくお伝えします。
この記事を読むことで、溶連菌感染症への理解が深まり、もしもの時に焦らず対処できる準備ができるでしょう。不安を軽減し、ご自身とご家族の健康を守るための一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。
溶連菌感染症の概要
溶連菌感染症は、A群溶血性レンサ球菌(溶連菌)と呼ばれる細菌が、のどや皮膚などに感染して引き起こされる病気です。主に子どもに多い感染症ですが、大人も感染します。
この病気は、咳やくしゃみによる飛沫(ひまつ)感染や、感染した人との直接的な接触が主な感染経路です。特に21世紀に入ってから、世界各地で溶連菌感染症(猩紅熱や劇症型溶連菌感染症)の報告が急増しています。その背景には、「M1_UK」という新しい菌株の出現が関係していると考えられています。※
M1_UK系統は、毒素を作る能力を高める遺伝子の変化(SpeAスーパー抗原の発現増強や、27箇所の一塩基多型(SNP)の蓄積など)を特徴としています。このため、感染した場合により重症化しやすい傾向があり、ヨーロッパ、オーストラリア、カナダなどで主要な原因菌となっています。※
溶連菌は遺伝子変異を繰り返し、次々と新しい病原体として多様化しています。そのため、現状の感染状況を常に監視し、新たな菌株の研究を進めることが非常に重要とされています。※ 治療が遅れると、まれに心臓や腎臓に重い合併症を引き起こす可能性もあるため、早期に発見し、適切な治療を始めることが肝心です。
溶連菌感染症の種類
溶連菌感染症は、のどや皮膚に感染する「A群溶血性レンサ球菌」が原因で発症する病気と、その後に引き起こされる合併症に分けられます。この菌は、感染する部位によってさまざまな症状を引き起こすのが特徴です。
代表的な溶連菌感染症は次のとおりです。
・A群溶血性レンサ球菌咽頭炎(一般的な溶連菌感染症)
のどに感染し、高熱やのどの強い痛み、体に小さな赤い発疹(猩紅熱)などを引き起こします。特に子どもに多い感染症です。
・皮膚の溶連菌感染症(膿痂疹、丹毒など)
皮膚に感染すると、水ぶくれや赤み、腫れといった症状が現れます。いわゆる「とびひ」もこの一種です。
これらの溶連菌感染症の治療が不十分な場合、まれに重い合併症を引き起こすことがあります。特に注意が必要なのは、「リウマチ熱」を経て発症する「リウマチ性心疾患(RHD)」です。
リウマチ性心疾患(RHD)とは
リウマチ性心疾患は、溶連菌感染症を放置したことが原因で起こる慢性疾患です。心臓の弁、なかでも僧帽弁(そうぼうべん:心臓の中にある血液の流れをコントロールする扉のような役割の弁)に深刻なダメージを与える特徴があります ※。
このような合併症は、特に溶連菌感染症が広く流行している地域で早期発見が重要だとされています ※。しかし、欧州での調査では、リウマチ性心疾患の診断歴がないにもかかわらず、心臓にさらなる検査が必要な異常が見つかるケースがあることが示されています。これは、病気が見過ごされている可能性を指摘するものです ※。ドイツのミュンヘンで行われたスクリーニング検査では、高リスクとされる移民集団の約6.8%に心臓の異常が認められたものの、彼らは自身のRHDに気づいていなかったことがわかっています ※。
心臓の弁に影響を及ぼす病気としては、非常にまれですが「乳頭状線維弾性腫(PFE)」という良性の腫瘍があります。PFEは主に大動脈弁(心臓から全身へ血液を送り出す出口にある弁)に発生するものです。このPFEとリウマチ性心疾患が同時に発生するケースは極めて稀で、診断には心臓エコー検査が欠かせません ※。
このように、溶連菌感染症はさまざまな病態を引き起こす可能性があるため、診断された場合は医師の指示通り治療を最後まで続けることが重要です。適切な治療で合併症のリスクを抑えることができます。
溶連菌感染症の原因
溶連菌感染症は、溶血性レンサ球菌という細菌が体に入り込むことで発症します。この細菌は種類が豊富で、それぞれ異なる病気を引き起こす特性を持っています。
中でも、A群溶血性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)が原因となるケースが多く、主に喉の炎症(咽頭炎)や皮膚の感染症(膿痂疹、いわゆる「とびひ」など)を招くことがわかっています※。この菌は、普段から感染者の喉、鼻、皮膚に存在しているものです。
溶連菌は、主に2つの経路で人から人へと広がります。
・飛沫感染
感染者の咳やくしゃみによって飛び散る、唾液や鼻水などのしぶき(飛沫)を吸い込むことで感染する可能性があります。
・接触感染
感染者の鼻水や傷口に直接触れることや、菌が付着したタオル、食器などを介して感染が広がることもあります。
なぜ溶連菌は病気を引き起こすのか?
溶連菌の種類は多岐にわたり、A群溶血性レンサ球菌以外にも、たとえば豚連鎖球菌(Streptococcus suis)のように、動物から人へ感染する「人獣共通感染症」として重篤な症状を引き起こす菌も知られています※。この豚連鎖球菌は、人に感染すると髄膜炎や敗血症(全身に菌が広がり重い症状を起こす状態)を招くことがあります。
溶連菌が体内で病気を引き起こすのは、その種類ごとに持つ多様な「病原性因子」を駆使して体を攻撃するためです。これらの因子は、菌が体の免疫システムを巧みに回避し、炎症反応を過剰に引き起こすことで病気を発症させると考えられています。
具体的には、溶連菌は以下のような物質を作り出すことで、私たちに病気をもたらします。
・莢膜(きょうまく)
菌の表面を覆うバリアのようなもので、免疫細胞から身を守る役割があります。
・線毛(せんもう)
菌がヒトの細胞にくっつくための毛のような構造です。
・溶血毒(スイリシンなど)
細胞を破壊する毒素の一種です。
これらの働きによって、菌は血液中で生き延び、免疫の攻撃から逃れ、時には脳を守る「血液脳関門」をも破壊することがあります。その結果、体が過剰な炎症反応を起こし、病気としてさまざまな症状が現れてしまうのです※。このように、溶連菌は非常に巧妙な手口で感染を広げ、多様な病態を引き起こす可能性があるといえます。
溶連菌感染症の症状
溶連菌感染症の症状は、感染した部位によって現れ方が異なります。主にのどの強い痛み、高熱、そして体中に現れる赤い発疹(ほっしん)が代表的です。
感染部位ごとの主な症状は次のとおりです。
・のどに感染した場合(溶連菌性咽頭炎)
・急な高熱(38度以上)が出ることが多いです。
・ものを飲み込むのがつらいほどの強いのどの痛みを感じることがあります。
・扁桃腺(へんとうせん)が赤く腫れ、白い膿(うみ)が付着することもあります。
・舌の表面がブツブツと赤くなる「イチゴ舌」と呼ばれる特徴的な症状が現れる場合があります。
・首のリンパ節が腫れて痛むこともあります。
・一般的な風邪とは異なり、咳や鼻水はあまり出ない傾向があります。
・皮膚に感染した場合(膿痂疹、丹毒など)
・胸、お腹、手足などに、赤くて小さな発疹が広がります。
・発疹に伴って強いかゆみを感じることがあります。
・皮膚が赤く腫れたり、水ぶくれができたりすることもあります。
・全身に現れる症状
・頭痛
・吐き気や嘔吐
・腹痛(特に小さいお子さんでは、のどの痛みよりも腹痛を強く訴えることがあります)
・体がだるい、倦怠感(けんたいかん)
これらの症状は子どもから大人まで年齢を問わず現れます。一見、症状が軽く見えても、溶連菌感染症は注意が必要です。
適切な治療を受けずに放置してしまうと、稀に急性リウマチ熱や急性糸球体腎炎(きゅうせいしきゅうたいじんえん)といった重い合併症を引き起こすことがあります。特に急性リウマチ熱は、溶連菌感染から一定の時間が経ってから発症すると考えられています。これは、溶連菌に対する体の免疫反応が、誤って自身の心臓や関節などの組織を攻撃してしまう「自己免疫疾患」として起こるメカニズムが指摘されているためです※。
溶連菌感染症に効果的な抗菌薬をきちんと服用することは、急性リウマチ熱の発生を大きく減らせることがわかっています※。
しかし、高リスクとされる特定の人たちでの近年のデータや、皮膚の溶連菌感染症がリウマチ熱にどの程度影響するのかなど、まだわかっていない点もあるため、さらなる研究が続けられています※。
症状に気づいたら、自己判断せずに医療機関を受診することが大切です。早めに医師の診察を受け、適切な診断と治療を始めることが、合併症を防ぐための重要な一歩となります。
溶連菌感染症の検査・診断
溶連菌感染症の検査と診断は、適切な治療を始めるための第一歩であり、重い合併症を防ぐために欠かせません。
約2世紀にわたる研究で、溶連菌感染症を放置すると、急性リウマチ熱(ARF)という重い合併症を発症するリスクが上がることがはっきりとわかっています。逆に、適切な抗菌薬で治療すれば、ARFの発症を抑えられることも証明されています。※ ARFは、溶連菌に対する体の免疫反応が、なぜか自身の心臓や関節などの組織を誤って攻撃してしまう、いわば「自己免疫疾患」として起こる可能性も指摘されています。※
特に注意したいのは、溶連菌感染症の長期的な合併症であるリウマチ性心疾患(RHD)です。これは早期に見つけることが非常に重要ですが、気づかないうちに進行しているケースが少なくありません。例えば、ヨーロッパで行われたある調査では、高リスクとされた若年層の約6.8%に心臓の異常が見つかったものの、彼らの誰もがRHDと診断された経験がなく、自覚がないまま放置されていたことが明らかになっています。※
診断が遅れると、心臓に深刻な影響を及ぼす可能性もあるため、症状が疑われる場合は、ためらわずに検査を受けることが大切です。特に無症状であっても、高リスクとされる方々には、定期的なスクリーニングが求められる現状もあります。※
溶連菌感染症の診断に用いられる主な検査方法は次のとおりです。
・迅速抗原検査(迅速診断キット)
のどの奥を綿棒で軽くこすり、そこにいる溶連菌の特定の成分(抗原)を検出する検査です。数分から十数分で結果が出るため、その場で診断の目安がわかります。
・細菌培養検査
のどから採取した菌を培養し、時間をかけて菌の種類を特定する検査です。迅速検査で陰性だった場合や、さらに確実な診断が必要なときに実施されます。結果が出るまでに数日かかりますが、より正確な情報を得られます。
これらの検査結果に加え、医師による診察や症状の経過を総合的に判断することで、最終的な診断が確定します。
溶連菌感染症の治療
溶連菌感染症の治療は、合併症を防ぐために抗菌薬を使った早期かつ適切な対応が非常に重要です。この感染症を放置すると、心臓に影響を及ぼす急性リウマチ熱(ARF)という重い合併症のリスクが高まることが、約2世紀にわたる研究で明らかになっています。しかし、適切な抗菌薬で治療すれば、ARFの発症率を大きく減らすことが可能です※。
溶連菌感染症の治療のポイントは次のとおりです。
・抗菌薬による治療
・症状を和らげる対症療法
・家庭での感染対策と注意点
抗菌薬による治療
治療の中心は、溶連菌に効果がある抗菌薬の服用です。症状が良くなったと感じても、自己判断で薬を中断してはいけません。医師の指示に従って、通常5〜10日間は薬を飲み続けることが大切です。これは、体内の菌を完全に除去し、急性リウマチ熱(ARF)のような合併症が起きるリスクを抑えるためです。
急性リウマチ熱は、溶連菌感染が引き金となって、体の免疫システムが自分自身の心臓や関節などを誤って攻撃してしまう、「自己免疫疾患」として発症すると考えられています※。溶連菌感染からARFが発症するまでの時間的な経過や、ARFの原因菌として溶連菌が特に重要であることについては、これまでの研究で一定の根拠が示されています※。
症状を和らげる対症療法
発熱やのどの痛みといったつらい症状に対しては、解熱鎮痛剤などが処方されます。これらは病気の原因を直接治療するものではありませんが、患者さんの苦痛を和らげ、安静に過ごせるようサポートします。症状が楽になったとしても、抗菌薬は指示通り飲み切るようにしましょう。
家庭での感染対策と注意点
治療中は、家族や周囲の人への感染を広げないための配慮も必要です。
・手洗いとマスク着用
こまめな手洗いを心がけ、咳やくしゃみをする際はマスクを着用しましょう。
・食器やタオルの共有を避ける
感染者の使った食器やタオルは、他の人と共用しないようにします。
抗菌薬を飲み始めてから24時間以上経つと、一般的に感染力は低下するといわれています。熱が下がれば、登校や登園が可能になるケースが多いですが、具体的な時期については、必ず医師の指示に従ってください。
なお、溶連菌感染症と急性リウマチ熱(ARF)との関連性については、いまだ不明確な点も残っています。特に、高リスク集団における最近のデータや、皮膚の溶連菌感染症がARFにどの程度影響するのかなど、さらなる研究が求められている分野です※。そのため、診断された場合は、医師の指示通りに治療を進め、不明な点があれば積極的に質問することが大切です。













