睡眠時無呼吸症候群

「いびきがうるさい」「寝ている間に息が止まっていたよ」と、ご家族に指摘された経験はありませんか? それは単なる疲れではなく、睡眠中に10秒以上も呼吸が止まる「睡眠時無呼吸症候群」という病気のサインかもしれません。

この病気は呼吸が止まるたびに心臓や血管に大きな負担をかけます。原因は肥満と思われがちですが、ある研究では肥満を手術で解消しても症状が完全に改善したのは65%でした。実は、日本人に多い「あごが小さい」といった骨格も原因となり、やせている方でも決して無関係ではないのです。

この記事では、睡眠時無呼吸症候群の知られざる原因や種類、そしてご自身に合った治療法について詳しく解説します。大切なご自身の健康を守るため、まずは正しい知識を確認してみませんか。

睡眠時無呼吸症候群の概要

睡眠時無呼吸症候群は、眠っている間に呼吸が止まる病気です。 医学的には「10秒以上呼吸が止まることが、1時間に5回以上ある状態」を指します。

この病気は、ただの大きないびきや寝不足の問題ではありません。 呼吸が止まるたびに、体の中の酸素が足りなくなってしまいます。 すると体は酸素を補おうとして、心臓や血管に大きな負担をかけます。

この病気の原因として肥満がよく知られていますが、原因はそれだけではありません。 ある研究では、肥満の方が手術で体重を減らしても、症状が完全に良くなったのは65%でした。

これは、睡眠時無呼吸症候群の原因が肥満だけでなく、他の要因も関係していることを示しています。 例えば、以下のような骨格の問題も原因になります。

  • あごの骨格
  • あごが小さい、または下あごが後ろに引っ込んでいる
  • 舌の大きさ
  • 生まれつき舌が大きい
  • のどの空気の通り道
  • のどにある扁桃などが大きく、空気の通り道が狭い

日本人はあごが小さい方も多いため、やせている方でも発症する可能性があります。 気になる症状があれば、一度専門医に相談することが大切です。

睡眠時無呼吸症候群の種類

睡眠時無呼吸症候群は、呼吸が止まる原因によって主に2つの種類に分けられます。 空気の通り道である「気道」に問題があるタイプと、呼吸を指令する「脳」に問題があるタイプです。 それぞれの特徴を理解することが、ご自身の状態を知る第一歩になります。

閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)

睡眠時無呼吸症候群と診断される方のほとんどが、この閉塞性のタイプです。 睡眠中にのどの周りの筋肉がゆるみ、舌の付け根などが気道に落ち込みます。 その結果、空気の通り道が物理的にふさがれてしまい、呼吸が止まります。

体は必死に呼吸をしようとしますが、道が狭いため空気が通りにくい状態です。 このとき、狭い気道を空気が無理やり通ることで、大きないびきが発生します。 呼吸が止まるたびに体内の酸素が不足し、心臓や血管に大きな負担をかけます。

中枢性睡眠時無呼吸(CSA)

こちらは比較的まれで、睡眠時無呼吸症候群全体の数%程度といわれるタイプです。 空気の通り道はふさがっていませんが、呼吸をコントロールする脳からの指令が止まってしまいます。 つまり、脳が一時的に「呼吸する」という命令を出すのを忘れてしまう状態です。

呼吸をしようとする動き自体が止まるため、閉塞性のような大きないびきはありません。 代わりに、呼吸がだんだん大きくなった後に弱くなり、最終的に呼吸が止まる、という特徴的な呼吸のリズムが見られることがあります。 心臓の病気などが原因となっている場合もあるため注意が必要です。

種類

原因

いびき

体の動き

閉塞性(OSA)

のどの空気の通り道が物理的にふさがる

大きないびきをかくことが多い

呼吸しようと頑張る動きがある

中枢性(CSA)

脳からの呼吸の命令が止まる

いびきはないことが多い

呼吸しようとする動き自体がない

このように、いびきの有無だけで睡眠時無呼吸症候群ではないと判断することはできません。 ご自身の状態を正しく把握するためにも、気になる症状があれば専門医に相談しましょう。

睡眠時無呼吸症候群の原因

睡眠時無呼吸症候群は、なぜ呼吸が止まるかによって原因が異なります。 ご自身の状態を理解するため、それぞれの原因を詳しく見ていきましょう。

空気に関わる「閉塞性」の原因

患者さんの多くを占めるのが、空気の通り道がふさがる閉塞性です。 主な原因は、物理的にのどが狭くなってしまうことにあります。

  • 肥満
  • 患者さんの約70%が肥満といわれ、最も多い原因です。
  • 首の周りについた脂肪が、寝ている間に気道を圧迫します。
  • あごや顔の骨格
  • あごが小さい、または下あごが後ろに下がっている骨格です。
  • 日本人はこの特徴を持つ方が多く、やせていても発症しやすいです。
  • 舌や扁桃(へんとう)の大きさ
  • 生まれつき舌が大きい、のどの扁桃が大きいなども原因です。
  • これらが気道に落ち込み、空気の通り道をふさいでしまいます。

肥満は大きな原因ですが、それだけが全てではありません。 ある研究では、肥満の方が手術で体重を減らしても症状が完全に治ったのは65%でした。 このことからも、骨格など他の要因も複雑に関わっていると考えられます。

脳に関わる「中枢性」の原因

こちらは、呼吸を命令する脳の働きに問題が起きてしまうタイプです。 脳が「呼吸しなさい」という指令を一時的に忘れてしまう状態です。 背景に、以下のような病気が隠れていることがあります。

  • 心臓の病気
  • 心不全など、心臓の機能が低下している方の約3割が発症します。
  • 脳の病気
  • 脳卒中などで、呼吸をコントロールする部分が傷ついた場合です。
  • 腎臓の病気
  • 進行した腎不全も、心臓に負担をかけ原因となることがあります。

このように、原因は一つとは限らず、複数の要因が関係していることも少なくありません。

睡眠時無呼吸症候群の症状

睡眠時無呼吸症候群の症状は、寝ている間に起こるのが特徴です。 そのため、ご自身では気づきにくく、ご家族に指摘されてわかることも少なくありません。

「いびきがうるさい」「息が止まっていたよ」と言われたことはありませんか。 ただの疲れや寝不足に見える症状が、実は体からのSOSサインかもしれません。 まずはご自身やご家族に当てはまるものがないか、確認してみましょう。

睡眠中に現れる危険信号

夜、寝ている間に次のようなサインが見られたら注意が必要です。 これらは、体が酸欠状態になっていることを示しています。

  • 大きないびき
  • 狭くなった空気の通り道を、空気が無理やり通る時に出る音です。
  • 呼吸の停止と再開
  • いびきが急に止まり、しばらくして「ガッ」とあえぐように呼吸がもどります。
  • 息苦しさで目が覚める
  • 呼吸が止まることで、脳が危険を察知して目を覚まさせようとします。
  • たくさんの寝汗をかく
  • 必死に呼吸しようと体に余計な力が入り、多くのエネルギーを使うためです。
  • 夜中に何度もトイレに起きる
  • 睡眠中の低酸素状態が、尿の量を調整するホルモンに影響を与えます。

日中に感じる体の不調

夜に質の良い睡眠がとれないため、日中の活動にも影響が出ます。 これらの症状は、脳や体が十分に休めていない証拠といえます。

  • 朝起きたときの頭痛
  • 睡眠中に酸素が足りなくなり、脳の血管が広がることが原因です。
  • ぐっすり眠れた感じがしない
  • 睡眠中に何度も無意識に目が覚めているため、熟睡感が得られません。
  • 日中の強い眠気
  • 会議中や運転中など、本来集中すべき場面で急に眠気に襲われます。
  • 集中力や記憶力の低下
  • 脳が酸欠と睡眠不足の状態にあり、本来の働きができていません。
  • 気分が落ち込みやすい
  • 十分な休息がとれないことで、精神的にも不安定になりがちです。

これらのサインを放置してしまうと、高血圧や心臓の病気、糖尿病などのリスクが高まります。 一つでも気になる症状があれば、早めに専門の医療機関へ相談することが大切です。

睡眠時無呼吸症候群の検査・診断

いびきや日中の眠気など、気になる症状がある場合、まずは検査で客観的に体の状態を把握することが大切です。 ご自身の感覚だけでは、病気の有無や重症度を正しく判断することはできません。 検査は、大きく分けて2つのステップで行います。

ステップ1:ご自宅でできる簡易検査

はじめに、ご自宅で手軽にできる検査を行います。 指と鼻に小さなセンサーを取り付けて、いつも通り眠っていただくだけです。

  • 指のセンサー
  • 睡眠中に血液の中の酸素が、どのくらい減っているかを測定します。
  • 鼻のセンサー
  • 呼吸がきちんとできているか、空気の流れを記録します。

この検査で、睡眠中に呼吸が止まっている回数や、体の酸欠状態を大まかに把握することができます。 まずは「疑わしいかどうか」をふるいにかけるための大切な検査です。

ステップ2:入院して行う精密検査(PSG検査)

簡易検査の結果、睡眠時無呼吸症候群が強く疑われる場合は、より詳しい検査に進みます。 通常は病院に1泊入院して、睡眠中の体の状態を総合的に調べる「ポリソムノグラフィー(PSG)検査」を行います。

体には複数のセンサーを取り付けますが、痛みはありません。 この検査では、簡易検査の内容に加えて、以下のことまで詳しくわかります。

  • 脳波
  • ぐっすり眠れているか、睡眠の質を評価します。
  • 心電図
  • 呼吸が止まった時に、心臓に負担がかかっていないかを調べます。
  • 体の動き
  • 呼吸が止まる原因が、のどの問題(閉塞性)か、脳の問題(中枢性)かを見極めます。

診断の「ものさし」となるAHI

検査結果は、「AHI(無呼吸低呼吸指数)」という数値で評価します。 これは、睡眠1時間あたりの「呼吸が止まった回数」と「呼吸が浅くなった回数」を合計したものです。 このAHIの数値によって、重症度が決まります。

重症度

AHI(1時間あたりの回数)

状態の目安

正常

5回未満

–

軽症

5回以上 15回未満

約10分に1回、呼吸が乱れている

中等症

15回以上 30回未満

約3分に1回、呼吸が乱れている

重症

30回以上

約2分に1回、呼吸が乱れている

AHIが5回以上で、睡眠時無呼吸症候群と診断されます。 重症の場合、眠っている間に2分と経たずに呼吸が止まる危険な状態を繰り返していることになります。 これでは脳も体も全く休まりません。

このAHIという客観的な指標をもとに、今後の治療方針を一緒に考えていきます。

睡眠時無呼吸症候群の治療

睡眠時無呼吸症候群の治療は、検査でわかった重症度や原因に応じて選びます。 あなたのライフスタイルも考えながら、最適な方法を一緒に探していきましょう。 治療の目的は、睡眠中の呼吸を正常に戻し、日中の眠気や合併症を防ぐことです。

代表的な治療法には、以下のものがあります。

  • CPAP(シーパップ)療法
  • 中等症から重症の方に行われる、最も標準的な治療法です。
  • 寝るときに鼻にマスクを着け、機械で空気を送り込みます。
  • 空気の圧力で、狭くなった空気の通り道を押し広げる仕組みです。
  • 治療を始めたその日から、いびきや無呼吸が減るのを実感しやすいです。
  • ただし、病気を根本から治すものではないため、毎晩使い続ける必要があります。
  • マウスピース(口腔内装置)による治療
  • 軽症から中等症の方に適した治療法です。
  • 寝るときに専用のマウスピースを着け、下のあごを少し前に出します。
  • これにより舌がのどに落ち込むのを防ぎ、空気の通り道を確保します。
  • 持ち運びが簡単なので、出張や旅行が多い方にも向いています。
  • この治療は、専門の歯科医院でご自身に合ったものを作成します。
  • 外科的手術
  • のどの扁桃が大きいなど、原因がはっきりしている場合に検討されます。
  • また、重い肥満が原因の場合、体重を減らすための手術も選択肢です。
  • ある研究では、肥満の方がこの手術を受けた結果、無呼吸が大きく改善しました。
  • しかし、症状が完全に治ったのは65%だったという報告もあります。
  • このことから、原因は肥満だけでなく骨格なども関係していると考えられます。

これらの治療とあわせて、生活習慣を見直すことも非常に重要です。 肥満の方は体重を減らす、お酒を控えるなどの工夫で、症状が軽くなることもあります。