RSウイルス感染症

せきや鼻水といった、ありふれた風邪の症状。しかしその原因が「RSウイルス」の場合、特に小さなお子さんや高齢のご家族にとっては、重い肺炎につながる危険な病気になる可能性があります。2歳までにほぼすべての子どもが感染するといわれるほど身近なウイルスですが、「ただの風邪」と侮ってはいけません。

近年、コロナ禍を境に流行パターンは大きく変化し、今や季節を問わず一年中、警戒が必要な感染症となっています。かつての「冬に流行る風邪」という常識は、もう通用しない時代に変わりました。

なぜ同じウイルスに感染しても、症状の重さが全く違うのでしょうか?本記事では、重症化の意外なメカニズムから、ワクチンをはじめとする最新の予防策まで、あなたと大切な家族を守るための情報を詳しく解説します。ご自身の状況と照らし合わせながら、ぜひ最後までご覧ください。

RSウイルス感染症の概要

RSウイルス感染症は、「RSウイルス」が原因で起こる呼吸器の感染症です。 発熱や鼻水、せきといった、風邪とよく似た症状があらわれます。

このウイルスは非常に身近なもので、2歳になるまでには、ほとんどすべての子どもが一度は感染するといわれています。 何度も感染を繰り返しますが、通常は年を重ねるごとに症状は軽くなります。

ただし、生まれて初めて感染する赤ちゃんは注意が必要です。 特に、早産で生まれた赤ちゃんや、心臓や肺に病気があるお子さんは、重症化しやすい傾向があります。

RSウイルス感染症のポイント

原因ウイルス

主な症状

感染の特徴

特に注意が必要な場合

以前は秋から春にかけて流行のピークがありましたが、近年そのパターンは変化しています。 新型コロナウイルスの流行以降、RSウイルスの流行時期が乱れ、季節を問わず感染が見られるようになりました。

実際に中国で行われた大規模な研究では、コロナ禍で夏の流行が確認され、年間を通してRSウイルスの流行が見られたと報告されています。 そのため、現在は一年を通して注意が必要な感染症といえます。

RSウイルス感染症の種類

RSウイルスと一言でいっても、実はウイルスの型がいくつかあります。 しかし、ウイルスの型そのものよりも大切なことがあります。 それは、「誰が感染すると重症化しやすいか」というリスクの種類です。

RSウイルス感染症は、年齢やもともとの健康状態で症状が大きく変わります。 特に、次のような方は重症化しやすいため注意が必要です。

  • 赤ちゃん(特に生後6か月以内) 生まれて初めて感染する赤ちゃんや、月齢の低い赤ちゃんは重くなりやすいです。 特に、予定日より早く生まれたり、心臓や肺に病気があったりすると、さらに注意が必要です。
  • ご高齢の方や持病のある方 大人にとってはただの風邪でも、ご高齢の方では重い肺炎になることがあります。 海外の専門家も、持病がある方や高齢の方は重症化リスクが高いため、予防が重要だと指摘しています。

特に、次のような病気をお持ちの方は注意が必要とされています。

  • ぜんそくなどの呼吸器の病気
  • 心臓の病気
  • 糖尿病
  • その他、長く続いている病気(慢性疾患)

このように、RSウイルスは誰でも感染する可能性があります。 しかし、年齢や健康状態によって症状の重さが大きく変わるのです。 ご自身やご家族がどのリスクに当てはまるか知っておくことが大切です。

RSウイルス感染症の原因

RSウイルス感染症は、その名の通り「RSウイルス」が原因です。 このウイルスが体の中に入ることで、様々な症状を引き起こします。

ウイルスは感染力が非常に強く、主に2つの方法で人から人へうつります。

  • 飛沫(ひまつ)感染 感染した人の咳やくしゃみ、会話で飛び散るしぶきを吸い込むことです。
  • 接触(せっしょく)感染 ウイルスがついた手で、目や鼻、口をさわることで感染します。 おもちゃやドアノブなど、身の回りの物からうつることもあります。

しかし、なぜ同じウイルスに感染しても症状の重さが違うのでしょうか。 最近の研究で、鼻やのどに住む「常在菌」が関係していると分かってきました。

私たちの鼻やのどには、普段からたくさんの細菌が住んでいます。 この細菌たちの集まり(呼吸器細菌叢)のバランスが大切なのです。

海外の研究によると、RSウイルス感染時の細菌の種類で重症度が変わります。 例えば、ヘモフィルス属などの菌が多いと、症状が重くなる傾向がありました。 一方で、コリネバクテリウム属という菌が多いと、症状は軽くすむようです。

このように、ウイルスの感染だけでなく、その子の体の中の環境も大切です。 一人ひとりの体の中にある細菌のバランスが、病気の経過に影響します。

RSウイルス感染症の症状

RSウイルスに感染すると、2日から8日ほどの潜伏期間をおいて症状が出ます。 最初は発熱や鼻水、せきといった、風邪とよく似た症状からはじまります。

多くのお子さんや大人は、軽い症状だけで自然とよくなります。 しかし、初めて感染する赤ちゃんは症状が重くなることがあるため注意が必要です。

ウイルスがのどの奥にある気管支や肺にまで広がると、次のようなサインが見られます。

  • せきがひどくなる 夜も眠れないほど激しくせき込むことがあります。
  • ゼーゼー、ヒューヒューという呼吸音(喘鳴:ぜんめい) 息をするたびに、のどや胸から特徴的な音が聞こえます。
  • 苦しそうな呼吸(呼吸困難) 呼吸が速くなったり、肩で息をしたり、胸がペコペコへこんだりします。

これらの症状は、気管支の先が炎症を起こす「細気管支炎」や「肺炎」のサインです。 せき込んで水分がとれない、顔色が悪い場合は、すぐに医療機関を受診してください。

最近の研究では、症状の重さには鼻やのどに住む細菌の種類が関係すると分かっています。 例えば、ヘモフィルス属という細菌が多いお子さんは、症状が重くなりやすい傾向がありました。

また、重症化すると心臓に負担がかかることもあります。 心臓の筋肉が傷ついた時に増える物質(心筋トロポニンI)が多いと、集中治療室での治療が必要になるリスクが高まるという報告もあります。

特に生後1か月未満の赤ちゃんは、はっきりした症状がないまま、突然呼吸が止まる「無呼吸発作」を起こすことがあります。 少しでも様子がおかしいと感じたら、すぐに医師に相談しましょう。

RSウイルス感染症の検査・診断

RSウイルス感染症が疑われる場合、検査で原因を特定することがあります。 インフルエンザの検査のように、鼻の奥に細い綿棒を入れて調べます。 この迅速検査で、ウイルスがいるかどうかを短時間で確認できます。

ただし、この検査は健康保険を使って誰もが受けられるわけではありません。 RSウイルスには特効薬がなく、診断がついても治療法は変わらないためです。

しかし、重症化する危険性が高いお子さんには、診断がとても重要です。 そのため、次のような場合は保険を使って検査を行うことがあります。

  • 入院している患者さん
  • 外来で診察を受ける1歳未満の赤ちゃん
  • 重症化を防ぐお薬(パリビズマブ)の使用を考える必要があるお子さん

検査をするかどうかは、お子さんの月齢や症状から医師が判断します。

また、最近の研究から、診断の際に役立つ新しい情報がわかってきました。 実は、鼻やのどに住む「細菌の種類」が症状の重さに関係するのです。 海外の研究では、次のような傾向が報告されています。

鼻やのどの細菌の種類

症状の傾向

ヘモフィルス属などが多い

症状が重くなり、長引く傾向がある

コリネバクテリウム属などが多い

症状が軽くすむ傾向がある

このように、感染したときの体の中の環境を詳しく見ることも大切です。 この発見は、今後の治療を考える上で役立つ可能性があります。

RSウイルス感染症の治療

RSウイルスには、ウイルス自体を直接やっつける特効薬がありません。 そのため、治療は出てきた症状を和らげる「対症療法」が中心です。 体を休ませ、自分の力でウイルスを追い出す手助けをすることが目的です。

多くは自宅でのケアでよくなりますが、症状によっては入院が必要です。

おうちでのケア(症状が軽い場合)

  • 水分補給 脱水を防ぐため、麦茶やイオン飲料などを少しずつこまめに与えます。
  • 安静 体をゆっくり休ませて、ウイルスと戦うための体力を温存します。
  • 呼吸を楽にする工夫 鼻水を吸い取ったり、部屋の湿度を保ったりして呼吸を楽にします。

入院での治療(症状が重い場合)

  • 酸素投与 せきがひどく呼吸が苦しい時に、体の中に十分な酸素を送ります。
  • 点滴 水分や食事がとれない時に、脱水を防ぎ、栄養を補給します。
  • 呼吸の管理 呼吸の状態が悪い場合は、人工呼吸器で呼吸を助けることもあります。

治療よりも大切な「予防」という考え方

治療は症状を和らげるのが中心のため、感染しないことが何より大切です。 特に、重症化しやすい赤ちゃんや高齢者にとっては予防が非常に重要です。 最近では、重症化を防ぐための新しい選択肢も出てきています。

赤ちゃんを守るための予防策

  • 妊婦さんへのワクチン お母さんが妊娠中にワクチンを打つことで、抗体が作られます。 その抗体がお腹の赤ちゃんにプレゼントされ、生まれつき守る力が備わります。 アメリカの研究では、このワクチンが早産のリスクを高めないことも示されています。
  • 赤ちゃんへの抗体薬の注射(ニルセビマブ) 生まれた赤ちゃんに、RSウイルスと戦う助っ人(抗体)を直接注射します。 これにより、ウイルスが体に入ってきても重症化しにくくなります。

高齢者や持病がある方のための予防策

海外の専門家は、高齢者や持病がある方へのワクチン接種を推奨しています。 RSウイルスは、大人でも重い肺炎を引き起こすことがあるためです。

  • ワクチン接種が推奨される方
  • 60歳以上のすべての方
  • ぜんそく、心臓病、糖尿病などの持病がある50歳以上の方

これらのワクチンは、インフルエンザワクチンと同時に接種することも可能です。 ご自身やご家族を守るため、かかりつけ医に相談してみましょう。