呼吸不全(急性呼吸不全/慢性呼吸不全)

呼吸不全(急性呼吸不全/慢性呼吸不全)

私たちは普段、何も考えずに当たり前のように息をしていますが、もしその「呼吸」がうまくできなくなったらどうなるでしょうか。「最近、階段で息が切れる」「疲れやすい」といった症状を、単なる年齢のせいだと見過ごしていませんか。それは、命に関わることもある「呼吸不全」という体からの危険信号かもしれません。

呼吸不全の原因となるCOPD(慢性閉塞性肺疾患)は、世界の死因で上位に入るほど、多くの人々を苦しめています。ご自身の呼吸の力を知るための簡単なテストがあります。息を深く吸って、いくつまで数を数えられますか?ある研究では「25」が一つの目安とされています。

この記事では、急に命を脅かす急性呼吸不全と、静かに進行する慢性呼吸不全について、その原因や危険なサイン、そして最新の治療法までを詳しく解説します。手遅れになる前に、ご自身の「呼吸」と向き合ってみませんか。

呼吸不全(急性呼吸不全/慢性呼吸不全)の概要

私たちは普段、何も考えずに当たり前のように息をしています。 しかし、この「呼吸」がうまくできなくなると、 体の中では大変なことが起きてしまうのです。 それが「呼吸不全」という状態です。

呼吸不全とは、息を吸っても体の中に十分な酸素を取り込めない、 または、いらない二酸化炭素をうまく外に出せない状態を指します。 具体的には、次のような問題が起こります。

  • 酸素が足りなくなる 体の細胞がエネルギーを作れず、活動が鈍ってしまいます。 特に、心臓や脳など、常に働く大切な臓器が影響を受けます。
  • 二酸化炭素が増えすぎる 血液が酸性に傾き、体に毒として作用します。 頭痛が起きたり、意識がぼんやりしたりする原因になります。

この状態は、原因によって大きく2つのタイプに分けられます。 急に症状が現れる「急性呼吸不全」と、 ゆっくりと進行する「慢性呼吸不全」です。 慢性呼吸不全の原因となるCOPD(慢性閉塞性肺疾患)は、 世界の死因で上位に入るほど、多くの人が苦しむ病気です。

ご自身の呼吸の力を知るための簡単な方法があります。 それは「シングルカウント呼気テスト(SCBT)」と呼ばれるものです。 ある研究では、このテスト結果と肺活量には関連があるとされ、 呼吸機能をみる一つの目安として注目されています。

やり方はとても簡単です。

  1. 座った姿勢で、深く息を吸い込みます。
  2. 普通の声の大きさで、次の息を吸うまで数を数え続けます。

この研究では、25まで数えられることが、 呼吸をする筋肉の機能が正常である一つの目安とされています。 ただし、これはあくまで簡易的な方法に過ぎません。 正確な診断のためには、医療機関での詳しい検査が必要です。

息苦しさを感じるのは、体からの危険信号かもしれません。 呼吸不全は命に関わることもある深刻な状態です。 気になる症状があれば、決して放置せずに早めに医師へ相談しましょう。

呼吸不全(急性呼吸不全/慢性呼吸不全)の種類

呼吸不全は、症状があらわれる速さによって、 大きく2つの種類に分けられます。 急激に悪化する「急性呼吸不全」と、 ゆっくり進行する「慢性呼吸不全」です。

項目

急性呼吸不全

慢性呼吸不全

進行の速さ

急激(数時間〜数日)

ゆっくり(数ヶ月〜数年)

状態

突然、命の危険が迫る緊急事態

慢性的に呼吸が苦しい状態が続く

主な原因

肺炎、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)など

慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺結核の後遺症など

特徴

緊急の治療が必要になることが多い

長期的な管理が必要。風邪などをきっかけに急激に悪化することも

急性呼吸不全

これまで呼吸に問題がなかった人の状態が、 数時間から数日で急激に悪くなるのが急性呼吸不全です。 肺炎や、重い感染症などが原因で肺に水がたまる 急性呼吸窮迫症候群(ARDS)などで起こります。 これは命に関わる緊急事態であり、 直ちに入院しての治療が必要になります。

慢性呼吸不全

慢性閉塞性肺疾患(COPD)のように、 長い時間をかけて肺の機能が低下していく病気が原因です。 普段は症状が安定していても、風邪などをきっかけに 急に状態が悪化する「急性増悪」を起こすことがあります。

この急性増悪の際には、より体に負担の少ない 高流量鼻カニュラ酸素療法が有効な場合があります。 ある研究では、この治療法によって、 人工呼吸器の使用に至る割合を減らせたとの報告もあります。

また、ご自宅で酸素を吸いながら生活する在宅酸素療法は、 急性増悪の回数を減らし、生活の質を高める効果が期待できます。 特に在宅での高流量鼻カニュラ療法は、 入院のリスクを下げるとの研究結果も示されています。

呼吸不全(急性呼吸不全/慢性呼吸不全)の原因

呼吸が苦しくなる「呼吸不全」は、 実はたった一つの原因で起こるわけではありません。 原因は大きく2つに分けられます。 「肺そのもの」に問題がある場合と、 「肺以外の場所」に問題がある場合です。

肺そのものが原因となる病気

肺は酸素を取り込み、二酸化炭素を出す大切な臓器です。 この肺自体にトラブルが起きると、呼吸不全につながります。

  • 慢性閉塞性肺疾患(COPD) タバコの煙などが原因で、肺の機能が徐々に落ちる病気です。 風邪などをきっかけに急に症状が悪化する「急性増悪」は、 呼吸不全の非常に多い原因の一つです。 ある研究では、こうした急性増悪の患者さんに対して、 高流量鼻カニュラという特別な酸素療法を行うことで、 死亡率を下げられる可能性が報告されています。
  • 間質性肺疾患(ILD) 肺がだんだんと硬くなってしまう病気の総称です。 この病気が急に悪化した場合も、急性呼吸不全を引き起こします。 このような状態では、従来の酸素療法だけでなく、 マスクを使う非侵襲的呼吸補助などの治療が、 酸素の状態を改善する選択肢となり得ます。
  • 肺炎 ウイルスや細菌が肺の中で増えて炎症を起こします。 これにより、肺での酸素の交換がうまくいかなくなります。
  • 急性呼吸窮迫症候群(ARDS) 重い病気や大きなケガが引き金となり、 肺の中の小さな袋(肺胞)に水がたまってしまう状態です。 肺が溺れたような状態になり、酸素を取り込めなくなります。

肺以外の体の部分が原因となる場合

肺は元気でも、他の体の部分のトラブルが原因で、 呼吸がうまくできなくなることもあります。

  • 心臓の病気 心不全などで心臓のポンプ機能が弱まると、 血液が肺にたまってしまい(肺水腫)、呼吸困難になります。
  • 神経や筋肉の病気 呼吸をする筋肉や、その筋肉を動かす脳からの指令に 問題が起きると、十分に呼吸ができなくなります。
  • 胸郭の異常 肺を覆っている肋骨などの「胸郭」が、 ケガや病気で変形することも原因になります。

このように、呼吸不全の原因は多岐にわたります。 正確な原因を突き止めることが、適切な治療への第一歩です。

分類

急性呼吸不全の主な原因

慢性呼吸不全の主な原因

肺の病気

肺炎、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、COPDや間質性肺疾患の急性増悪

慢性閉塞性肺疾患(COPD)、肺結核の後遺症、間質性肺疾患

心臓の病気

急性心不全(肺水腫)

慢性心不全

神経・筋肉の病気

脳卒中、脊髄損傷など

筋萎縮性側索硬化症(ALS)など

その他

重いケガ、やけど、薬の副作用

重度の肥満、胸郭の変形

呼吸不全(急性呼吸不全/慢性呼吸不全)の症状

呼吸不全の症状は、体の酸素が足りなくなることからくるSOSサインです。 症状の現れ方は、急に悪化する「急性」と、 ゆっくり進む「慢性」とで大きく異なります。 それぞれの危険なサインを見逃さないことが大切です。

急性呼吸不全のおもな症状

急性呼吸不全は、突然命の危険が迫る緊急事態です。 脳や心臓など、大量の酸素を必要とする臓器が悲鳴を上げ、 以下のような症状が急激に現れます。

  • 突然の激しい息切れや呼吸困難 まるで水に溺れているかのような息苦しさを感じます。
  • 意識の混乱 時間や場所がわからなくなったり、意識がもうろうとしたりします。
  • 強い不安感や落ち着きのなさ 酸素不足が脳に影響し、強い恐怖を感じることがあります。
  • チアノーゼ 血液中の酸素が減り、唇や指先などが青紫色になります。
  • 脈が速くなる、冷や汗をかく 足りない酸素を補おうと、心臓が必死に働いているサインです。

特に重い肺炎などが原因で起こる急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は、 急性呼吸不全の中でも、とりわけ危険な状態です。 このような場合、集中治療室での高度な治療が必要になります。

その一つにECMO(エクモ)という治療法があります。 これは体外式膜型人工肺といい、肺の代わりをする装置です。 ある研究では、重い感染症でARDSになった妊婦さんに対し、 ECMOで治療した結果、75%以上の方が助かったと報告されています。 命を救うための重要な治療選択肢の一つです。

慢性呼吸不全のおもな症状

慢性呼吸不全の症状は、ゆっくりと静かに進行します。 そのため、ご自身では気づきにくく、注意が必要です。

  • 体を動かしたときの息切れ 以前は平気だった階段の上り下りで息が切れるようになります。
  • 長引く咳や痰 風邪でもないのに、咳や痰が何週間も続くことがあります。
  • 疲れやすさ、だるさ 全身の細胞が酸素不足になり、常に疲労感があります。
  • 胸の圧迫感や息苦しさ 特に朝方に症状を感じることがあります。
  • 食欲の低下や体重減少 呼吸にエネルギーを使いすぎて、痩せてしまうこともあります。

これらの症状は、数ヶ月から数年かけて現れます。 そのため、年のせいや体力の低下だと思い込みがちです。 しかし、これらは肺が限界に近づいているサインかもしれません。 気になる症状があれば、決して放置せずに早めに受診しましょう。

呼吸不全(急性呼吸不全/慢性呼吸不全)の検査・診断

息苦しさの原因を探り、体の状態を正確に知るために、 いくつかの検査を組み合わせて診断を進めていきます。 医師が聴診器で肺の音を聞くなどの診察に加えて、 次のような詳しい検査で呼吸不全の状態を評価します。

体の中の酸素量を調べる検査

  • 動脈血液ガス分析 手首の動脈から少量の血液を採り、酸素の量を直接はかる検査です。 呼吸不全の診断において、最も重要で正確な情報が得られます。 この検査でわかる「PF比」という数値は、 肺がどれだけ効率よく酸素を取り込めているかを示す大切な指標です。 ある研究では、間質性肺疾患で急に呼吸が悪くなった患者さんに対し、 マスクなどを使う非侵襲的呼吸補助を行うことで、 このPF比が改善したと報告されています。
  • パルスオキシメーター 指先に洗濯ばさみのような機械をはさんで測定します。 血液中の酸素の量を手軽に推定できます。 ただし、この数値はあくまで目安です。 より正確な状態を知るには、動脈血液ガス分析が必要です。

肺の形や原因を調べる検査

  • 画像検査(胸部X線・CT検査) 肺のレントゲン写真やCT画像を撮影します。 肺炎や肺に水がたまっている様子など、 肺の形や構造に異常がないかを目で見て確認します。 呼吸が苦しい原因となっている病気を見つけるために欠かせません。
  • シングルカウント呼気テスト 特別な機械を使わず、呼吸の力を簡易的に調べる方法です。 ある研究では、このテスト結果と肺活量には関連があるとされ、 呼吸機能の目安として注目されています。 一般的に25まで安定して数えられれば、 呼吸筋の機能は保たれていると考えられています。

これらの検査結果を総合的に判断し、呼吸不全の診断を確定させ、 一人ひとりに合った治療計画を立てていきます。

検査の種類

何を調べるための検査か

動脈血液ガス分析

血液中の酸素や二酸化炭素の量を正確に測定し、呼吸不全の重症度を判断する

パルスオキシメーター

指先で血液中の酸素量を手軽に推定する

胸部X線・CT検査

肺の形や構造の異常を見つけ、息苦しさの原因を探る

シングルカウント呼気テスト

呼吸するための筋肉の力を簡易的に評価する

呼吸不全(急性呼吸不全/慢性呼吸不全)の治療

呼吸不全の治療は、2つの大きな柱で進められます。 一つは原因となっている病気そのものを治す治療です。 もう一つは、苦しい呼吸を楽にするための「呼吸サポート」です。 患者さんの状態に合わせて、これらの治療法を組み合わせて行います。

呼吸を助けるサポート治療

体の酸素不足を補い、呼吸を楽にするための治療法です。 患者さんの状態に応じて、いくつかの段階があります。

酸素療法

体の中に十分な酸素を取り込むための、基本となる治療です。 鼻につけるチューブや、顔を覆うマスクから酸素を吸います。 しかし、これだけでは不十分な場合、次の方法を検討します。

高流量鼻カニュラ酸素療法(HFNC)

温かく湿らせた高濃度の酸素を、鼻からたくさん送り込む治療法です。 従来の酸素療法よりも快適で、効果的に酸素を届けられます。 この治療は、人工呼吸器が必要な重篤な状態への悪化を防ぎます。 ある研究では、COPDが急に悪化した患者さんにおいて、 このHFNCが死亡率を下げたという結果も報告されています。

また、ご自宅でこの治療を続けることで、症状の急な悪化を減らし、 生活の質(QOL)を高める効果も期待できるとされています。

人工呼吸療法

ご自身の力だけでは、十分に呼吸ができなくなった場合の治療です。 機械の力で呼吸を強力にサポートします。

  • 非侵襲的陽圧換気(NIPPV) 顔にぴったり合うマスクを着け、圧力をかけた空気を送ります。 この圧力で肺がふくらむのを助け、呼吸を楽にします。 気管に管を入れないので、体への負担が比較的少ない方法です。 ある研究では、間質性肺疾患という病気で急に呼吸が悪くなった場合、 NIPPVやHFNCは従来の酸素療法より酸素の状態を改善させました。
  • 侵襲的機械換気(気管挿管) 口や鼻から気管まで管を入れ、直接肺に空気を送り込みます。 NIPPVでも呼吸の状態が良くならない、より重症な場合に行います。 呼吸を機械で完全に管理するための方法です。
  • 体外式膜型人工肺(ECMO) 肺がほとんど機能しなくなった最重症の場合に使う、いわば「最後の砦」です。 血液を一度体の外に出し、機械の人工肺で酸素を加えて体に戻します。 ある研究では、重い感染症で呼吸不全になった妊婦さんに対し、 ECMOで治療した結果、75%以上の方が助かったと報告されています。

どの治療法を選ぶかは、呼吸不全の原因や重症度、 そして患者さん一人ひとりの状態をみて慎重に判断します。

治療の段階

主な治療法

特徴

初期のサポート

酸素療法(従来型、HFNC)

鼻やマスクから酸素を吸い、体内の酸素不足を補います。

中等度のサポート

非侵襲的陽圧換気(NIPPV)

マスクで圧力をかけ、肺がふくらむのを助けます。

重度のサポート

侵襲的機械換気(気管挿管)

気管に管を入れ、機械で呼吸を完全に管理します。

最重症のサポート

体外式膜型人工肺(ECMO)

体の外で血液に酸素を送る「人工の肺」です。