突然の息切れや胸の痛み。それは、血液のかたまり(血栓)が肺の血管に詰まる「肺血栓塞栓症」という、命にも関わる病気のサインかもしれません。心臓や肺に大きな負担をかけるこの病気は、決して他人事ではありません。
驚くべきことに、その原因となる血栓の多くは、肺から遠く離れた「足」の静脈で生まれます。デスクワークや長時間のフライトなど、身近な習慣が引き金となり、血流に乗って肺に到達するのです。さらに近年の研究では、体内の「炎症」を示す数値や、意外にもコレステロール値が病気の経過に関わることがわかってきました。
この記事では、肺血栓塞栓症のメカニズムから最新の治療法までを詳しく解説します。自分や大切な人の体を守るための知識を身につけましょう。
肺血栓塞栓症の概要
肺血栓塞栓症とは、血液のかたまりである「血栓」が肺の血管に詰まる病気です。 心臓から肺へ血液を送る大切な血管が塞がれるため、肺や心臓に大きな負担がかかります。
この原因となる血栓は、多くの場合、足の奥深くにある静脈にできたものです。 足にできた血栓が血の流れに乗って肺まで運ばれ、血管を詰まらせてしまうのです。 この一連の病気の流れをまとめて「静脈血栓塞栓症」と呼びます。
- 深部静脈血栓症(DVT)
主に足の静脈に血栓ができる状態です。
- 肺血栓塞栓症(PTE)
深部静脈血栓症でできた血栓が、血流に乗って肺の動脈に詰まる状態です。
また、近年の研究では、体の中で起きる「炎症」との関係も指摘されています。 血液検査でわかるC反応性タンパク質(CRP)などの数値が高い状態は要注意です。 実際に、炎症を示す数値が高い人は、将来的に静脈血栓塞栓症のリスクが高まるという研究結果もあります。 このため、炎症のサインは病気の発生を予測する上で重要な手がかりと考えられています。
肺血栓塞栓症の種類
「肺血栓塞栓症」は、実は「肺塞栓症」という大きな病気のグループの一つです。 肺塞栓症とは、肺の血管に何かが詰まってしまう病気の総称を指します。
肺の血管を詰まらせる原因物質は、血の塊だけではありません。 詰まるものの正体によって、病気の名前や原因、治療法が異なります。 どのような種類があるのか、下の表で見ていきましょう。
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種類
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詰まるもの
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主な原因や状況
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肺血栓塞栓症(PTE)
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血の塊(血栓)
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主に足の静脈にできた血の塊が、
血の流れに乗って肺まで運ばれます。
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脂肪塞栓症候群
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脂肪のかけら
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太ももの骨など、大きな骨を骨折した際に、
骨の中の脂肪が血管に入り込みます。
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羊水塞栓症
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羊水
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出産の際に、羊水が母親の血液の中に入り、
肺の血管を塞いでしまう、まれな病気です。
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空気塞栓症
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空気
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注射やカテーテル治療などの際に、
空気が血管の中に入ってしまうことで起こります。
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腫瘍塞栓症
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がん細胞のかたまり
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がん細胞が血の流れに乗り、
肺の血管に詰まることがあります。
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この中で最も多いのが、血の塊が原因となる「肺血栓塞栓症」です。 そのため、一般的に「肺塞栓症」といえば、この病気を指すことがほとんどです。
前の章でも触れましたが、足の静脈に血栓ができる深部静脈血栓症(DVT)と、 肺血栓塞栓症は、一連の病気として捉えられています。 この2つを合わせて静脈血栓塞栓症(VTE)と呼ぶことも覚えておきましょう。
肺血栓塞栓症の原因
肺血栓塞栓症は、血の塊(血栓)が肺の血管に詰まることで起こります。 では、なぜ危険な血の塊ができてしまうのでしょうか。 その原因は、主に3つの条件がそろうことで起こると考えられています。
- 血の流れがよどむこと
長時間同じ姿勢でいると、足の血液が心臓に戻りにくくなります。 飛行機での移動やデスクワーク、寝たきりの状態などがこれにあたります。 流れの遅い川にゴミがたまるように、血栓ができやすくなります。
- 血管の壁が傷つくこと
手術や大きなケガ、カテーテルなどの医療処置が原因となります。 血管の内側が傷つくと、その部分を修復しようとして血の塊ができます。
- 血が固まりやすい状態になること
がんや妊娠、ピルの服用、脱水状態などが原因で起こります。 生まれつき血が固まりやすい体質の方もいらっしゃいます。
これらに加えて、近年の研究では体内の「炎症」も深く関わることがわかってきました。 血液検査でわかるC反応性タンパク質(CRP)が高い人は、要注意です。 実際に、CRPなどの炎症を示す数値が高い人は、将来的に血栓症のリスクが高まるという報告もあります。
手術やケガだけでなく、肥満や喫煙、糖尿病といった生活習慣もリスクを高めます。 これらは血管を傷つけたり、体の中に気づかない炎症を起こしたりするからです。 ご自身の生活に危険な要因がないか、一度見直してみることが大切です。
肺血栓塞栓症の症状
肺血栓塞栓症の症状は、血の塊の大きさや詰まった場所で大きく変わります。 風邪に似た軽いものから、命に関わる危険なサインまで、実にさまざまです。
なぜ症状が出るかというと、肺の大切な血管が詰まるためです。 酸素を取り込む仕事がうまくできず、心臓にも大きな負担がかかるのです。 ご自身の状態を確認するため、下のチェックリストを見てみましょう。
【肺血栓塞栓症でみられるサイン】
- ☐ 突然の息切れや呼吸困難(最も多く、約8〜9割の方に現れます)
- ☐ 深呼吸や咳でひどくなる胸の痛み
- ☐ 理由のわからない咳や血の混じった痰(たん)
- ☐ ドキドキする(動悸)や脈が速くなる
- ☐ めまいや、急に意識を失う(失神)
- ☐ 血圧が下がり、顔色が悪くなる
- ☐ 皮膚や唇が青紫色になる(チアノーゼ)
これらの症状は、一つでも当てはまれば危険なサインの可能性があります。 また、症状の重さやその後の経過を予測する上で、意外なものが注目されています。 それは、健康診断でもおなじみの、血液中のコレステロールなどの「脂質」です。
ある研究では、善玉コレステロール(HDL)などの値が高い人ほど、 病気の経過が良好である可能性が報告されています。 血液検査で脂質の値を調べることは、今後の治療方針を決める上でも、 重要な手がかりの一つになると考えられているのです。 症状に気づいた場合は自分で判断せず、すぐに医療機関を受診してください。
肺血栓塞栓症の検査・診断
肺血栓塞栓症が疑われる場合、様々な検査を組み合わせて診断します。 検査は、まず病気の可能性を探り、次に診断を確定するという流れです。 正しい治療を早く始めるため、段階的に慎重な判断が求められます。
ステップ1:可能性を絞り込む検査
まず、肺血栓塞栓症の可能性がどの程度あるのかを調べる検査です。 体への負担が少ない検査から行い、手がかりを集めていきます。
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検査の種類
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内容
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血液検査(D-ダイマー)
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体に血の塊(血栓)があると数値が上がる項目を測定します。
この数値が低い場合、病気の可能性は低いと考えられます。
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心電図
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血の塊で心臓に負担がかかっていないか、電気的な信号で調べます。
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胸部X線検査
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肺炎など、息切れや胸の痛みを引き起こす他の病気がないかを確認します。
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心エコー検査
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超音波を使い、心臓の動きや大きさを直接目で見て評価します。
特に心臓の右側(右心室)への負担を確認するのに役立ちます。
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血液検査のD-ダイマーは、病気を見つけ出す感度が高いのが特徴です。 しかし、この病気以外(ケガや感染症など)でも数値が上がることがあります。 そのため、この検査だけで診断することはなく、他の検査結果も重要です。
ステップ2:診断を確定させる検査
ステップ1で疑いが強まった場合、診断を確定させるための検査に進みます。 肺の血管に血の塊があるかを直接、目で見て確認する段階です。
- 腕の血管から薬を注射しながらCT撮影を行います。
- 肺の血管を詳しく写し出し、血の塊の有無を直接確認します。
この造影CT検査のような画像診断は、診断の決め手として非常に重要です。 複数の研究結果をまとめた分析でも、その診断能力の高さが示されています。 肺画像診断は、病気の人を見つける精度と、病気でない人を正しく見分ける精度の両方が高く、最も信頼できる検査法とされています。
これらの検査結果を総合的に判断し、最終的な診断を下します。 気になる症状があれば、自己判断せず早めに医療機関で相談してください。
肺血栓塞栓症の治療
肺血栓塞栓症の治療は、時間との勝負です。 命を守り、後遺症を防ぐため、迅速な治療開始が何よりも大切になります。 治療の目的は、血の塊が大きくなるのを防ぎ、再発を予防することです。
体を安定させるための初期治療
まずは、呼吸や血圧を安定させることが最優先です。 息が苦しい場合は、酸素を吸入して体に必要な酸素を補います。 血圧が低いなど危険な状態では、血圧を支える点滴薬を使うこともあります。 体を安静に保ち、血の塊が動かないようにすることも重要です。
治療の中心となる「抗凝固療法」
治療の中心は、血液を固まりにくくする「抗凝固療法」です。 この治療で、血の塊が大きくなることや、新しい血の塊ができるのを防ぎます。 お薬にはいくつかの種類があり、患者さんの状態に合わせて使い分けます。
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主な薬の種類
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特徴
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ヘパリン
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点滴や注射で使う、効果が早く現れるお薬です。
治療の初期によく使われます。
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ワルファリン
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長い期間にわたって使われることの多い飲み薬です。
定期的な血液検査で、薬の量を細かく調整する必要があります。
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直接経口抗凝固薬(DOAC)
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新しいタイプの飲み薬です。
ワルファリンに比べ、食事制限が少なく検査の頻度が少ない特徴があります。
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治療方針を決めるための情報
治療と並行して、患者さんの全身状態を詳しく評価することも大切です。 実は、血液検査でわかるコレステロールなどの「脂質」の値が、その後の経過を予測する手がかりになる可能性が、複数の研究をまとめた分析で示されています。 特に、善玉コレステロール(HDL)の値が高い人ほど、経過が良好である可能性が報告されており、治療方針を決める上で重要な情報となります。
また、退院を考える際には、安全に日常生活に戻れるかを確認します。 そのために簡単な運動テストを行うことがありますが、どのようなテストが最適かについては現在も研究が進められており、医師が一人ひとりの状態に合わせて慎重に判断します。