体を動かしたときの息切れや、以前より増した疲れやすさ。もしかしたら年齢や体力のせいだと、見過ごしてしまっているかもしれません。しかし、その症状は心臓から肺へ血液を送る血管の圧力が異常に高くなる「肺高血圧症」という病気の、重要なサインである可能性があります。
この病気は腕で測る血圧とは異なり、気づかないうちに心臓へ大きな負担をかけ、全身を酸素不足の状態にしてしまいます。近年では診断技術の進歩により、診断される方の数も増えており、決して他人事ではありません。
この記事では、肺高血圧症の隠れた初期症状から、原因によって大きく異なる5つの種類、そして最新の治療法までを専門的に解説します。あなたの体のSOSを見逃さないために、ぜひ最後までご覧ください。
肺高血圧症の概要
肺高血圧症とは、心臓から肺へ血液を送る血管「肺動脈」の血圧が、何らかの原因で異常に高くなってしまう病気です。
腕で測る血圧とは異なり、心臓の精密検査(右心カテーテル検査)で測定した平均肺動脈圧が25mmHg以上の場合に診断されます。
肺動脈の血圧が高くなると、心臓はより強い力で血液を送り出す必要があります。この状態が続くと心臓に大きな負担がかかり、働きが弱まってしまいます(右心不全)。また、全身に十分な酸素が届きにくくなります。
この病気のポイントを以下にまとめました。
- 心臓と肺をつなぐ「肺動脈」の血圧が異常に高くなる病気です。
- 心臓に大きな負担がかかり、全身が酸素不足の状態になります。
- 体を動かしたときの息切れや、疲れやすさなどが挙げられます。
この病気は心臓や肺の病気が原因となることが多いです。しかし、他の病気の治療がきっかけで起こる可能性も指摘されています。
実際に、血液の病気などで行われる「造血幹細胞移植」という治療の合併症として、肺高血圧症が関連することが研究で報告されています。近年、診断技術が進歩したことで、この病気と診断される方の数は増えています。
肺高血圧症の種類
肺高血圧症は、原因によって大きく5つのグループに分けられます。 原因が違えば治療法も大きく変わるため、どの種類なのかを正しく診断することが、治療の最も重要な第一歩となります。
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グループ
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分類
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どんな状態?(わかりやすく解説)
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1群
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肺動脈性肺高血圧症(PAH)
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肺の細い血管そのものが硬くなったり、狭くなったりするタイプです。
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2群
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左心性心疾患に伴う肺高血圧症
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心臓の左側の部屋(左心室など)の不調が原因で起こります。
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3群
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肺疾患や低酸素血症による肺高血圧症
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肺そのものの病気や、体の中の酸素が足りないことが原因です。
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4群
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慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)
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肺の血管に古い血の塊(血栓)が詰まってしまうタイプです。
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5群
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原因不明の複合的要因による肺高血圧症
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他の4つのグループに当てはまらない、複数の原因が関わります。
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この中で特に1群の「肺動脈性肺高血圧症(PAH)」は、原因が特定できない「特発性」や遺伝によるものなど、さらに細かく分類されます。
また、他の病気が関連して発症することもあり、その一つに膠原病があります。 膠原病とは、免疫システムが誤って自分の体を攻撃してしまう病気のことです。 代表的な膠原病の全身性エリテマトーデス(SLE)が原因で、この1群の肺高血圧症が起こることがあります。
この場合、原因となっている免疫の働きを調整するお薬を使うことがあります。 免疫を抑える治療で、血液の流れが改善する可能性があるという研究報告もあります。 しかし、その効果や安全性については、まだ十分なデータがありません。 より良い治療法を見つけるため、現在も世界中で研究が進められています。
肺高血圧症の原因
肺高血圧症の原因は一つではなく、実にさまざまです。 治療法は原因によって全く異なるため、なぜ肺の血圧が高いのかを正確に突き止めることが治療のスタートラインになります。
原因は、主に以下の5つのグループに分けられます。
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グループ
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主な原因(わかりやすく解説)
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第1群
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肺の細い血管自体が硬くなったり狭くなったりする場合です。
原因がわからないものや、遺伝、お薬、他の病気が関係します。
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第2群
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心臓の左側の部屋(左心室など)の働きが悪くなる病気が原因です。
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第3群
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肺気腫や間質性肺炎など、肺そのものの病気が原因になります。
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第4群
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肺の血管に古い血の塊(血栓)が詰まってしまうことが原因です。
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第5群
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上記のどれにも当てはまらない、複数の要因が関わる場合です。
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この中で特に、第1群の原因となる「他の病気」には注意が必要です。 その代表的な病気が、全身性エリテマトーデス(SLE)などの膠原病です。 膠原病とは、体を守るはずの免疫システムが誤って自分を攻撃してしまう病気です。
SLEが原因で肺高血圧症が起こった場合、体の免疫反応を調整する治療法が有効ではないかという研究が進められています。 この治療で血液の流れが改善したという報告もあります。 しかし、まだデータが十分にそろっておらず、安全性や有効性については、さらなる質の高い研究が必要とされているのが現状です。
このように、肺高血圧症の原因は多岐にわたります。 自己判断はせず、専門の医療機関でしっかりと検査を受けることが大切です。
肺高血圧症の症状
肺高血圧症の症状は、静かに始まることが多く、見過ごされやすいのが特徴です。 はじめは症状が軽いか、全くないため、気づいたときには病気が進んでいることも少なくありません。
初期にあらわれやすい、体からのSOSサインには次のようなものがあります。
- 体を動かしたときの息切れ 心臓から肺へ血液を送る力が弱まり、全身が酸素不足になるため起こります。
- 疲れやすさ 少し動いただけでも、以前より疲れを感じやすくなるのは注意が必要なサインです。
- 動悸 心臓が体に酸素を届けようと、無理に頑張っているために感じることがあります。
これらの症状は風邪や単なる疲れと間違われやすいです。 しかし、病気が進行すると、心臓への負担はさらに大きくなり、よりはっきりとした症状があらわれます。
- 顔や足のむくみ
- めまいや、ひどい場合は意識を失う(失神)
- 胸の痛みや締めつけられる感じ
- 血が混じった痰(たん)が出る
また、肺高血圧症は呼吸器だけでなく、他の臓器の不調と関連することもわかってきています。 ある研究では、血液の病気などで行われる「造血幹細胞移植」という治療の合併症として、肺高血圧症が起こりうることが報告されました。 この研究により、肺高血圧症は呼吸器症状だけでなく、消化管や腎臓などの不調とも関連があることが示唆されています。
症状の重さを知る目安として、世界的に使われている分類があります。 ご自身の状態を客観的に把握するために、参考にしてください。
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分類
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症状の程度
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Ⅰ度
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日常的な身体活動では、特に症状はあらわれません。
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Ⅱ度
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坂道や階段など、日常的な動きで息切れや疲れを感じます。
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Ⅲ度
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着替えなど、普段の生活より軽い動きでも症状が出ます。
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Ⅳ度
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安静にしていても息苦しさなどがあり、動くのが困難です。
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少しでも気になる症状があれば、自己判断はせず、早めに専門の医療機関を受診することが非常に大切です。
肺高血圧症の検査・診断
肺高血圧症の初期症状は、息切れや疲れやすさなど、他の病気とよく似ています。 そのため、本当にこの病気なのかを正確に見極めるために、いくつかの検査を段階的に行います。 まずは体への負担が少ない検査から始め、必要に応じてより詳しい検査に進むのが一般的です。
【ステップ1】まずは体への負担が少ない検査から 心臓や肺の状態を大まかにチェックするための検査です。
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検査の種類
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どんなことを調べるの?(わかりやすく解説)
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心電図
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心臓が頑張りすぎていないか、電気信号で調べます。
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胸部X線(レントゲン)
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心臓の大きさや形、肺に異常がないか写真で確認します。
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心エコー検査
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超音波を使って、心臓の動きや血液の流れをリアルタイムで見ます。
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胸部造影CT検査
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血管に薬を入れて、肺の血管や心臓を立体的に詳しく調べます。
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【ステップ2】確定診断のための精密検査 上記の検査で肺高血圧症が強く疑われた場合、診断を確定させるために次の検査を行います。
- 腕や足の付け根の血管から「カテーテル」という細い管を入れます。
- 心臓や肺の血管まで進めて、肺動脈の血圧を直接測定します。
- この検査で測った平均肺動脈圧が25mmHg以上だと、肺高血圧症と診断されます。
【ステップ3】原因や重症度をさらに詳しく調べる検査 診断を確定させるだけでなく、原因や重症度を詳しく調べるために、以下の検査を行うことがあります。
- 運動中に心臓や肺がどう働くかを評価する検査です。
- ある研究では、肺高血圧症の患者さんは運動中に脳が酸素をより多く使おうとする反応が見られることが報告されています。
- このような体の特別な反応も、診断の助けになります。
- 気管支鏡を使い、肺の組織をほんの少しだけ取って調べる検査です。
- 以前は出血が心配されていましたが、最近の研究では、出血のリスクは大きく上がらないことがわかっています。
- ただし、血液中の酸素が少なくなる「低酸素症」のリスクは少し高まるため、慎重に行われます。
肺高血圧症の治療
肺高血圧症の治療目標は、単に肺の血圧を下げることだけではありません。 心臓への負担を軽くし、息切れなどの症状を和らげることが重要です。 そして最終的には、患者さんが自分らしい生活を取り戻すことを目指します。
治療は原因によって方法が大きく異なるため、正確な診断が全ての基本です。 原因となっている病気の治療と、肺の血圧を下げる治療を並行して進めます。
原因に合わせた専門的な治療
肺高血圧症の原因は5つのグループに分類されます。 それぞれの原因に応じて、治療法は次のように異なります。
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分類
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主な治療法(わかりやすく解説)
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1群:肺動脈性肺高血圧症(PAH)
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肺の血管を広げるお薬(肺血管拡張薬)が治療の中心です。
現在では多くの種類のお薬があり、これらを組み合わせることで治療成績は大きく向上しています。
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3群:肺疾患や低酸素血症によるもの
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肺の病気自体の治療と、在宅酸素療法が基本です。
体の中に酸素を補給し、心臓の負担を和らげます。
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4群:慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)
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お薬の治療に加えて、カテーテル治療も選択肢です。
血管に詰まった部分を風船で広げる治療(BPA)を行います。
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もう一つの大切な治療「運動療法」
お薬による治療と並行して、運動療法も非常に重要な治療の一つです。 専門家の指導のもとで行う運動は、安全かつ効果的であることがわかっています。
複数の信頼できる研究を分析した結果、運動療法によって次のことが示されました。
- 6分間で歩ける距離が、平均で約50mも改善する
- 生活の質(QOL)の向上につながる
ただし、自己判断で運動を始めるのは危険です。 研究によると、肺高血圧症の患者さんが運動をすると、脳が酸素をより多く使おうとする特殊な反応が起こることが報告されています。 安全に治療を進めるため、必ず医師の管理のもとでリハビリを行いましょう。