卵円孔開存症

生まれつき心臓に卵円孔開存症があると診断され、不安を感じていませんか?日本人の約4人に1人に見られるこの状態は、多くが無症状で経過しますが、一部では脳梗塞などのリスクとの関連も指摘されています。

この記事では、卵円孔開存症の概要から、種類、原因、考えられる症状、診断方法、そして治療の選択肢までを詳しく解説します。

本文を読み進めることで、ご自身の状態を深く理解し、医師との対話を通じて適切なケアや今後の生活における判断ができるようになるでしょう。

卵円孔開存症の概要

卵円孔開存症は、誰もが経験する胎児期の心臓の構造が、大人になっても一部残ってしまった状態を指します。具体的には、お母さんのお腹の中にいる胎児の心臓には、右心房と左心房の間に「卵円孔」という一時的な交通路があり、胎児の血液循環に不可欠な役割を担っています。しかし、赤ちゃんが生まれて肺呼吸を始めると、通常はこの卵円孔は自然に閉じ、役割を終えます。

もし大人になってもこの卵円孔が完全に閉じずに残っている状態を「卵円孔開存症(PFO)」と呼びます。日本人では、およそ4人に1人の割合で見られ、比較的多くの方に認められる状態です。

多くの場合、卵円孔開存症があっても特別な自覚症状はなく、治療が必要ないケースがほとんどです。ただし、一部の状況下では、脳梗塞や潜水病といった病態との関連性が指摘されることもあります。特に、脳卒中の原因となりうる先天性心疾患の一つとして、卵円孔開存症は医学研究の重要なテーマです。

例えば、スウェーデンで進められている大規模な研究では、卵円孔開存症(PFO)を原因とする脳卒中を経験した18歳以上の成人を対象としています※。この研究では、日常生活での座位時間や身体活動、さらに心臓や筋肉に関連する血液中の特定の物質(「バイオマーカー」と呼ばれる、体の状態を示す目印のようなもの)が、将来的な心不全とどのように関連するかを詳しく調べています※。これは、卵円孔開存症が単なる心臓の形態的な特徴にとどまらず、患者さんの長期的な健康、特に心不全といった心血管イベントのリスクにどう影響しうるのかを探る、大切な試みといえるでしょう。

卵円孔開存症の種類

卵円孔開存症は、その構造的特徴、血液の流れ方、そして症状の有無といった複数の観点から分類されます。これらの分類を理解することは、ご自身の状態を把握し、医師とともに適切な治療方針を検討する上で重要な手がかりとなります。

卵円孔開存症は、以下の3つの主な項目でタイプ分けされます。

分類項目 | 詳細な特徴

右から左へのシャント(PFO-RLS)の有無と程度 | 卵円孔を通して、右心房から左心房へと血液が流れる現象を「右から左へのシャント(PFO-RLS)」と呼びます。このシャントがあるかどうか、またその血流の量や速さによって、卵円孔開存症のタイプは区別されます。特に、シャントの存在は診断において重要な指標とされています※。 診断には、造影剤を用いた経頭蓋ドップラー(c-TCD)や、経胸壁心エコー(c-TTE)などの検査が用いられます。これらの検査はシャントの有無や程度を確認する上で高い診断的価値を持ち、c-TCDはc-TTEと比較してわずかに感度が高いと報告されています※。

卵円孔の構造的な特徴 | 卵円孔の「隙間の大きさ」や「形」は、患者さんごとに個性があります。 また、卵円孔を形成する弁組織が緩んで「卵円孔瘤(らんえんこうりゅう)」と呼ばれる状態を合併することもあります。卵円孔瘤とは、卵円孔の弁が風船のように膨らんだり、心臓の拍動に合わせて揺れ動いたりする状態を指し、血流の乱れや血栓形成のリスクに影響を及ぼす可能性も考えられています。

合併症の有無 | 卵円孔開存症自体は、生まれつき心臓にみられる構造的な特徴の一つです※。 しかし、もし脳梗塞や一過性脳虚血発作といった症状が確認された場合は、「症候性」の卵円孔開存症として分類され、特に注意深い評価と対応が求められます※。これは、卵円孔開存症がこれらの症状の一因となっている可能性を考慮する必要があるためです。

ご自身の卵円孔開存症がどのタイプに属するのかは、専門医による精密な検査と詳細な診断によって明らかになります。医師は、これらの分類基準と患者さんの具体的な状態に基づいて、今後の経過観察や治療に関する最適な提案を行います。

卵円孔開存症の原因は、胎児期の心臓の構造が、出生後も完全に閉じきらずに残ってしまうことにあります。この状態は、多くの場合は病気ではなく、心臓の構造的な特徴の一つと考えられています。

お母さんのお腹の中にいる胎児は、肺で呼吸をしていません。そのため、胎児の心臓には、右心房と左心房の間に「卵円孔」という一時的な交通路があり、肺を通らずに血液を全身に送る仕組みになっています。

赤ちゃんが生まれて肺呼吸を始めると、肺に血液が流れ込むようになり、通常、卵円孔は自然に閉じます。多くのケースでは生後数カ月から1年以内に閉鎖が完了しますが、日本人のおよそ4人に1人は卵円孔が完全に閉じきらず、卵円孔開存症として残存するといわれています。卵円孔が閉じない明確な単一の原因は特定されていませんが、遺伝的要因や胎児期の環境要因など、複数の要素が複雑に関与している可能性が示唆されています。残存する卵円孔の大きさは人によってさまざまです。

通常、卵円孔開存症があっても自覚症状はほとんどありません。しかし、まれに右心房から左心房への血液の逆流(右左シャント)がある場合、体のどこかで生じた小さな血栓が、通常であれば肺でろ過されるはずが、この開存した卵円孔を通り抜けて脳の血管に流れ込み、脳梗塞を引き起こすことがあります。これを「奇異性脳塞栓症」と呼び、卵円孔開存症がその原因の一つとなることが指摘されています。

特に、先天性心疾患を持つ成人を対象としたスウェーデンの研究では、卵円孔開存症が原因と特定された脳卒中を経験した患者さんの長期的な健康状態に注目し、座位時間、身体活動、そして心臓や筋肉に関連する血液中のバイオマーカー(体の状態を示す目印となる物質)が、将来的な心不全とどのように関連するかが詳しく調査されています※。これは、卵円孔開存症が単なる心臓の構造的な特徴にとどまらず、特定の状況下では脳卒中や心不全といった重要な健康リスクの「原因」となりうる可能性を探る、大切な研究といえるでしょう。

卵円孔開存症の症状

卵円孔開存症は、ほとんどの場合、特別な症状がない状態です。生まれつき心臓にこの特徴を持っていても、心臓の機能に直接的な影響を与えることが少ないため、ご自身が卵円孔開存症であることに気づかないまま、日常生活を送っている方が大半といえます。

ただし、ごくまれに特定の状況下で症状が現れることがあります。最も注意が必要なのは、脳卒中との関連性です。

卵円孔が開いていると、心臓の右心房から左心房へ血液が異常に流れる「右から左へのシャント」と呼ばれる状態が生じることがあります※。通常、静脈にできた小さな血栓は、肺を通る際にフィルターのようにろ過され、脳に達することはありません。しかし、卵円孔開存症があり、このシャントが存在する場合は、ろ過されずにそのまま脳へと送られ、脳の血管を詰まらせて脳卒中を引き起こす可能性があります。これを「奇異性脳塞栓症」と呼びます※。

奇異性脳塞栓症によって起こりうる脳卒中の症状には、次のようなものがあります。

・手足のしびれや麻痺

・ろれつが回らない、言葉が出にくいなどの言語障害

・めまい、ふらつき

・視覚障害(片方の目が見えにくい、二重に見えるなど)

・突然の激しい頭痛

特に、若年性脳梗塞(比較的若い年齢で発症する脳梗塞)の原因がはっきりしない場合や、一過性脳虚血発作(一時的に脳の血流が悪くなることで起こる、脳卒中によく似た症状)を繰り返す経験がある方は、卵円孔開存症が関連している可能性も考えられます。このような状況で検査が行われた結果、卵円孔開存症が発見されることも少なくありません。

もしご自身が卵円孔開存症と診断された場合は、どのような症状が出たら医療機関を受診すべきか、また日常生活で注意すべき点など、担当の医師と詳しく相談し、病状への理解を深めておくことが重要です。

卵円孔開存症の検査・診断

卵円孔開存症の診断は、主に心臓の超音波検査(心エコー)を通じて行われ、その種類や右から左へのシャント(血液の漏れ)の有無、そしてその程度を詳細に評価します。

まず、心臓の構造や動き、そして卵円孔開存の有無や血液の流れ具合を把握するために、基本的な心臓超音波検査(心エコー)が実施されます。

より詳しく調べる必要がある場合は、微細な気泡を利用した特殊な超音波検査が用いられます。これは、生理食塩水を撹拌して作製した微細な気泡(造影剤)を静脈に注入し、その気泡が心臓の左右の部屋を隔てる壁の穴(卵円孔)を通過して、脳の血管に到達するかどうかを超音波で確認するものです。これにより、右心房から左心房へ血液が異常に流れる「右から左へのシャント(PFO-RLS)」の有無や程度を高い精度で診断できます。

このシャントの診断には、大きく分けて二つの方法があります。一つは、胸の外から心臓を超音波で見る「造影剤を用いた経胸壁心エコー(c-TTE)」。もう一つは、頭蓋骨越しに脳の血管を超音波で観察する「造影剤を用いた経頭蓋ドップラー(c-TCD)」です。

2024年に発表されたPFO-RLSの診断に関するメタ分析によると、これらの検査には以下のような診断的価値が報告されています。

・造影剤を用いた経頭蓋ドップラー(c-TCD)

・感度: 0.91 (91%)

・特異度: 0.87 (87%)

・造影剤を用いた経胸壁心エコー(c-TTE)

・感度: 0.86 (86%)

・特異度: 0.88 (88%)

※

ここでいう「感度」とは、実際に病気がある人を見つけ出す能力のことで、例えば感度が91%であれば、病気を持つ100人のうち91人を正しく診断できることを示します。一方「特異度」は、病気がない人を正しく「病気なし」と判断する能力です。この研究では、c-TCDはc-TTEと比較して、PFO-RLSの診断においてわずかに高い感度と低い特異度を持つことが示されています。ただし、両者の診断的価値に統計的に有意な差は認められないとも報告されており、どちらもPFO-RLSの診断に有効な検査であるといえるでしょう※。

これらの検査結果に加え、患者さんの症状や他の病気の有無、全身の状態を総合的に判断し、最終的な診断と治療方針が決定されます。どの検査が最適か、またその結果が何を意味するのかは、患者さん一人ひとりの状況によって異なります。そのため、担当の医師と十分に相談し、ご自身の状態に合った検査計画と診断の説明をしっかりと受けることが大切です。

卵円孔開存症の治療

卵円孔開存症は、ほとんどの場合、特別な治療を必要としません。しかし、他の原因では説明できない脳卒中(奇異性脳塞栓症)を発症した場合など、特定の状況下では、脳卒中の再発予防のために治療が検討されることがあります。

治療が必要となるケース

卵円孔開存症は生まれつき心臓にある構造的な特徴であり、多くの場合は心臓の機能に影響を与えることなく、無症状で過ごすことができます。そのため、基本的に治療は行わず、経過観察となります。

しかし、以下のようなケースでは、将来的な脳卒中のリスクを減らすために、治療が真剣に検討されます。

・他の原因が見当たらない脳卒中(奇異性脳塞栓症)を発症した場合:

体内でできた小さな血栓(血液の塊)が、通常であれば肺でろ過されるはずが、開いている卵円孔を通って脳の血管に入り込み、脳梗塞を引き起こすことがあります。特に、比較的若い年齢で脳梗塞を発症し、他の原因が見つからない場合に、卵円孔開存がその原因である可能性が高いと判断され、治療が検討されます。

・脳梗塞や一過性脳虚血発作を繰り返している場合:

卵円孔開存がこれらの症状の原因となっている可能性が考えられ、再発を防ぐための治療が推奨されることがあります。

・重度の減圧症(潜水病)を繰り返し経験している場合:

潜水中に体内で生じた窒素の気泡が、卵円孔を通り抜けて脳などの臓器に到達し、症状を引き起こすリスクがあるため、治療が考慮されることがあります。

治療法

卵円孔開存症の治療法には、薬で血栓ができるのを防ぐ「薬物療法」と、カテーテルを使って卵円孔を直接閉じる「卵円孔閉鎖術」の2つが主な選択肢として挙げられます。

1. 薬物療法

薬物療法では、血栓が作られるのを防ぐことで、脳梗塞のリスクを減らすことを目指します。主に次の種類の薬が使われます。

・抗血小板薬:

血液の中にある「血小板(けっしょうばん)」が固まるのを抑え、血栓ができるのを予防する薬です。例えば、アスピリンなどがこれにあたります。

・抗凝固薬:

血液が固まる仕組み全体に働きかけ、より強力に血栓の発生を抑える薬です。

これらの薬は、血栓が卵円孔を通って脳に到達する「奇異性脳塞栓症」のリスクが高いと医師が判断した場合に選択されます。

2. カテーテルを用いた卵円孔閉鎖術

カテーテル治療は、開いている卵円孔を物理的に閉じる手術です。具体的には、足の付け根などの血管から細い「カテーテル」という管を挿入し、心臓まで慎重に進めます。そして、卵円孔の隙間に専用の「閉鎖栓(へいさせん)」という器具を留置します。

この閉鎖栓が卵円孔をしっかりと塞ぐことで、心臓の右側から左側へ血液が異常に流れること(シャント)をなくし、血栓が脳へと向かう経路を物理的に遮断することができます。

この手術は、他の原因が見つからない脳梗塞を経験し、卵円孔開存がその原因であると強く考えられる患者さんにとって、将来的な脳卒中の再発リスクを低減する有効な治療法の一つといえます。

治療法の選択と診断

どの治療法が患者さんにとって最も適切であるかは、医師がさまざまな要素を総合的に評価して決定します。考慮される主な要素は次のとおりです。

・患者さんの年齢

・過去の症状や病歴(特に脳卒中の種類や回数)

・卵円孔の大きさや形

・右心房から左心房への血液の流れ(シャント)の程度

これらの要素を詳しく評価するためには、精密な検査が欠かせません。卵円孔開存に伴うシャントの診断には、造影剤を用いた経頭蓋ドップラー検査(c-TCD)や経胸壁心エコー検査(c-TTE)が高い診断的な価値を持つとされています。例えば、ある研究では、c-TCDは91%の感度と87%の特異度を、c-TTEは86%の感度と88%の特異度を示し、両検査ともにシャントの検出に非常に有効であると報告されています※。

これらの詳細な検査結果に基づき、医師は患者さん一人ひとりの状態に合った最適な治療方針を提案します。ご自身の状態や治療について疑問や不安があれば、遠慮なく担当医に相談し、十分に理解を深めることが大切です。