QT延長症候群

健康診断の心電図で異常を指摘されたり、血縁者に若くして突然亡くなった方がいたりして、不安に思った経験はありませんか。その背景には、普段は無症状なのに、ある日突然、命に関わる不整脈を引き起こす「QT延長症候群」が隠れているかもしれません。

この病気は、約2,000人に1人の割合で見つかるとされ、決して他人事ではありません。しかし、その診断は専門家でも難しい場合があるほど複雑です。この記事では、そんな”サイレントキラー”とも呼ばれるQT延長症候群の正体から原因、そしてご自身や大切な人を守るための治療法まで、分かりやすく解説します。

QT延長症候群の概要

心臓は電気信号で規則正しく動き、血液を全身に送ります。 心電図は、この心臓の電気的な活動を波の形で記録したものです。

QT延長症候群は、心電図の「QT時間」が長くなる病気です。 QT時間とは、心臓の筋肉が一度興奮してから、次に備えて回復するまでの時間を示します。

QT時間が長くなること自体に、普段の生活で感じる症状はありません。 しかし、突然、命に関わる危険な不整脈(トルサデポアン)が起こりやすくなります。 この不整脈が原因で、失神(気を失う発作)や突然死に至る可能性があります。

この病気は、約2,000人から5,000人に1人の割合で見つかり、決して珍しいものではありません。 診断は心電図検査が基本ですが、その解釈は専門家でも難しい場合があります。 海外の研究では、研修中の医師にとってQT延長症候群のような緊急性の高い心電図の診断は、簡単ではないことが示されています。

そのため、健康診断で異常を指摘されたり、血縁者に突然亡くなった方がいたりするなど、気になることがあれば専門の医療機関を受診することが大切です。

QT延長症候群の種類

QT延長症候群は、原因によって大きく2つのタイプに分けられます。 生まれつきの要因で起こるものと、後から何かがきっかけで起こるものです。

先天性QT延長症候群

心臓の電気信号に関わる遺伝子の特徴によって起こるタイプです。 生まれつき、QT時間が長くなりやすい体質を持っています。 このタイプは、さらに2種類に分けられます。

  • ロマノ・ワード症候群 先天性のほとんどがこのタイプで、耳の聞こえに異常はありません。
  • ジャーベル・ランゲニールセン症候群 生まれつき耳が聞こえにくい「難聴」を伴う、非常にまれなタイプです。

また、原因となる遺伝子の「型」によって、発作が起きやすい状況も異なります。

代表的な型

特徴

1型 (LQT1)

運動中、特に水泳中に発作が起こりやすいです。

2型 (LQT2)

驚いた時や大きな音で発作が起こりやすいです。

3型 (LQT3)

眠っている時や安静時に発作が起こりやすいです。

後天性QT延長症候群

生まれた時点ではQT時間に問題がなくても、後から起こるタイプです。 お薬の副作用や、下痢・嘔吐による体内のミネラル不足が原因となります。

新しい考え方「自己免疫」

最近の研究で、これまで原因不明とされた不整脈の新しい原因が注目されています。 体を守るはずの「免疫」が、自分の心臓を攻撃してしまうことがあるのです。

心臓の電気信号の通り道である「イオンチャネル」が攻撃されるこの状態を、「自己免疫性心筋チャネル病」と呼びます。 QT延長症候群の一部も、この仕組みで起こることがあると報告されています。 この発見は、診断や治療の新たな可能性につながると期待されています。

QT延長症候群の原因

QT延長症候群がなぜ起こるのか、その原因を詳しく見ていきましょう。 原因は、生まれつきの「先天性」と、後から起こる「後天性」に分けられます。

生まれつきの「先天性」が原因の場合

心臓が動くための電気信号は、「イオンチャネル」という道を通ります。 先天性の場合は、この道の設計図にあたる「遺伝子」に特徴があります。

例えば、KCNH2という遺伝子の変化が原因の一つとして知られています。 実際に、けいれんのような発作で受診したお子さんが、遺伝子検査でこの病気と診断されたという報告もあります。

ご家族に同じ病気の方がいなくても、発症することがあります。 そのため、ご自身やご家族を責める必要はまったくありません。

生活の中の「後天性」が原因の場合

もともと問題がなくても、生活の中の出来事がきっかけで発症します。 誰にでも起こる可能性があり、主な原因は次の2つです。

  • お薬の影響 一部の不整脈の薬、抗菌薬、抗うつ薬などが原因となることがあります。 他の病気の治療で薬を飲む際は、医師にこの病気のことを伝えましょう。
  • ミネラル不足(電解質異常) 血液中のカリウムやマグネシウムが不足した状態です。 激しい下痢や嘔吐の後などは、特に注意が必要になります。

新しい考え方「自己免疫」

最近の研究で、これまで原因不明とされたケースの解明が進んでいます。 体を守るはずの「免疫」が、自分の心臓を攻撃してしまうのです。

この状態は「自己免疫性心筋チャネル病」と呼ばれています。 心臓の電気の通り道が攻撃され、QT延長症候群が起こると考えられます。 この発見は、今後の診断や治療の新たな可能性につながると期待されています。

QT延長症候群の症状

QT延長症候群は、ふだんは何も症状がないことがほとんどです。 そのため、ご自身では病気に気づきにくいのが特徴です。 しかし、突然、命に関わる危険な不整脈が起こることがあります。

発作が起きたときに見られる主な症状は、以下のとおりです。

  • めまいや、ふらつき 急に目の前が暗くなるような感覚です。
  • 突然意識を失う(失神) 気を失って、バタンと倒れてしまいます。
  • けいれん 体が硬直したり、ガクガクと震えたりします。

特に、意識を失う発作は注意が必要です。 顔色が悪くなり、尿をもらしてしまうこともあります。 そのため、心臓が原因にもかかわらず、てんかんなど脳の病気と間違われる場合があるのです。

実際に海外では、けいれんのような発作を繰り返していたお子さんが、詳しく調べた結果、この病気だったという報告もあります。 このような手足の硬直や震えを伴う発作では、心電図検査が不可欠です。

また、どのようなときに症状が出やすいかは、原因のタイプで異なります。

遺伝子のタイプ

症状が出やすい状況の例

1型 (LQT1)

運動中、特に水泳をしているとき

2型 (LQT2)

驚いたときや、目覚まし時計などの大きな音を聞いたとき

3型 (LQT3)

寝ている間や、安静にしているとき

これらの症状は、心臓からの危険なサインかもしれません。 ご自身やご家族に思い当たる症状があれば、早めに医療機関へご相談ください。

QT延長症候群の検査・診断

QT延長症候群が疑われる場合、いくつかの検査で診断します。 健康診断の心電図で異常を指摘され、見つかることも少なくありません。

診断の中心となるのは、心臓の電気信号を調べる心電図検査です。 この検査で「QT時間」という部分の長さを正確に測定します。

しかし、この心電図の波形を正しく読み解くのは簡単ではありません。 海外の研究では、研修中の医師にとってQT延長症候群のような緊急性の高い心電図の診断は、難しいことが示されています。 そのため、経験を積んだ専門の医師による慎重な判断が大切です。

診断は心電図の結果だけでなく、症状や家族歴を総合的に評価します。 その際に、世界的に用いられる「診断基準(Schwartzスコア)」を参考にします。

評価項目

点数

心電図の波形

QTcが480ミリ秒以上

3

QTcが460~479ミリ秒

2

QTcが450~459ミリ秒(男性)

1

症状

はっきりした原因のない失神

2

ご家族のこと

家族にQT延長症候群と診断された人がいる

1

家族に30歳以下で原因不明の突然死をした人がいる

0.5

このスコアの合計が3.5点以上の場合などに、QT延長症候群の可能性が高いと判断されます。

このほか、診断を確定したり、治療方針を決めたりするために、以下の検査も行います。

  • 遺伝子検査 採血をして、病気の原因となりうる遺伝子の特徴を調べることがあります。
  • お薬の確認 一部のお薬が原因でQT時間が長くなることがあるため、服用中の薬を確認します。 新しい薬が開発される際も、心臓への影響を予測する研究が進められています。

QT延長症候群の治療

QT延長症候群の治療は、命に関わる不整脈を防ぐことが目的です。 これにより、失神や突然死といった危険な発作を避けます。 治療は、主に3つの方法を組み合わせて行います。 患者さん一人ひとりの状態に合わせて、最適な治療を選びます。

生活習慣で発作のきっかけを避ける

まず基本となるのは、発作の引き金を生活からなくすことです。

  • 激しい運動を控える 水泳やマラソンなどは心臓に負担をかけ、発作を誘発します。
  • 突然の刺激を避ける 目覚まし時計の大きな音などで驚くことも、きっかけになり得ます。
  • 体調管理を徹底する 下痢や嘔吐は、体内のミネラル(電解質)のバランスを崩します。 カリウムなどが不足すると、危険な不整脈が起こりやすくなります。

お薬で心臓の興奮をコントロールする

失神などの症状がある場合、お薬での治療が中心になります。 中心となるのは「β遮断薬」という、心臓の興奮を抑えるお薬です。 また、他の病気の治療薬がQT延長を引き起こすことがあります。

最近の研究では、変形性関節症の治療薬でも、副作用としてQT延長症候群が報告されました。 そのため、新しい薬が開発される段階から、心臓への副作用を予測する研究も進んでいます。 他の病院や薬局では、必ずこの病気のことを伝えてください。

機械の力で命を守る(デバイス治療)

お薬だけでは発作を防げない、重症の場合に検討する治療法です。

  • 植え込み型除細動器(ICD) 体内に植え込む小さな機械です。 常に心臓のリズムを監視し、危険な不整脈が起きると作動します。 自動で電気ショックを与え、心臓の動きを正常に戻します。

どの治療を選ぶかは、症状や遺伝子の型などによって異なります。 専門の医師とよく相談し、納得して治療を進めることが大切です。