疼痛(痛み)

「ズキズキ」「ビリビリ」とした、つらい痛み。「いつものことだから」と我慢してしまっていませんか?実は、私たちが病院を訪れる理由で最も多いのが、この「痛み」なのです。痛みは単なる体の不調を知らせるだけでなく、心にも影響をおよぼす、体からの重要な「SOSサイン」です。

しかし、そのサインを放置して痛みが3ヶ月以上も続くと、集中力の低下や気分の落ち込みを引き起こし、生活の質を大きく下げてしまうことがあります。ひとくちに痛みと言っても、その原因はケガだけでなく、神経の不調や心理的なストレスなど、実にさまざまで複雑に絡み合っています。

この記事では、そんな痛みの種類や原因について詳しく解説します。ご自身の痛みの正体を知り、つらい症状を和らげるための一歩として、ぜひ読み進めてみてください。

疼痛(痛み)の概要

「痛み」は、体に何か良くないことが起きていると教えてくれる、とても大切な「SOSサイン」です。実は、皆さんが病院を訪れる理由で最も多いのが、この「痛み」なのです。

専門家の集まりである国際疼痛学会では、痛みを「心と体に起きる不快な体験」と説明しています。これは、転んでヒザがズキズキするといった体の感覚だけではありません。それに伴う「つらい」「不安だ」といった心の動きも、すべて含めて「痛み」なのです。

痛みには、私たちの体を守るための重要な役割があります。

  • 危険を知らせるアラーム
    熱いやかんに触った時、すぐに手を引っ込めるのは痛みのおかげです。
  • 体を休ませる合図
    ケガした部分を動かさないように促し、回復を早めてくれます。
  • 経験として記憶する
    危ないことを覚えておき、次から同じ失敗をしないように助けます。

しかし、この痛みが長く続くと、生活にさまざまな影響をおよぼします。例えば、勉強に集中できなくなったり、気分が落ち込んだり、イライラしやすくなったりします。

特にご高齢の方は、痛みの影響を強く受けやすいことがわかっています。痛みの原因は複雑なことも多く、その管理は医療における大きな課題の一つです。

痛みの感じ方は人それぞれです。他の人が何と言おうと、ご本人が「痛い」と感じていれば、それが真実の痛みです。つらい痛みを我慢せず、必ずお医者さんに相談してください。

疼痛(痛み)の種類

ひとくちに「痛み」といっても、その性質は実にさまざまです。 痛みは、続く期間や原因によって、いくつかの種類に分けられます。 ご自身の痛みがどの種類にあたるのかを知ることは、適切な治療法を見つけるための重要な第一歩です。

期間による分類

痛みは、まず続く期間によって大きく2つに分けられます。

  • 急性疼痛(きゅうせいとうつう) けがや手術、やけどなど、原因がはっきりしている一時的な痛みです。 原因となった体の傷が回復するにつれて、痛みも自然に和らいでいきます。
  • 慢性疼痛(まんせいとうつう) 治療を続けても、痛みが一般的に3ヶ月以上続く状態を指します。 痛みが長引くと、気分の落ち込みや不眠など心身に影響をおよぼします。 特に高齢の方の場合、生活の質を大きく下げる原因になりがちです。 また、ご本人の苦痛だけでなく、支えるご家族の負担が増えることもあります。

原因による分類

痛みがなぜ起きるのか、その原因によっても分類されます。 この分類は、お薬の選択など治療方針を決める上で非常に重要です。

痛みの種類

原因

痛みの特徴の例

侵害受容性疼痛

けがや火傷、打撲などで体の組織が傷つくこと

「ズキズキ」「ジンジン」とした鋭い痛み、うずくような鈍い痛み

神経障害性疼痛

病気やけがで神経そのものが傷ついたり、圧迫されたりすること

「ビリビリ」「チクチク」としびれるような痛み、電気が走るような痛み

痛覚変調性疼痛

脳や神経の、痛みを調整する仕組みがうまく働かなくなること

体の広い範囲に痛みを感じ、原因となる異常が見つかりにくいことがある

心因性疼痛

心理的・社会的なストレスが原因で起こること

不安や気分の落ち込みとともに痛みが強くなることがある

これらの痛みは、どれか一つだけとは限りません。 複数の種類が複雑に混ざり合って現れることもよくあります。 例えば、長引く腰痛では、侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛が合併している場合があります。 それぞれの痛みに合った治療が必要なため、痛みの種類の正確な診断が、回復への近道となるのです。

疼痛(痛み)の原因

痛みという「SOSサイン」がなぜ鳴り響くのか、その原因は一つではありません。 痛みがどこから来ているのかを知ることで、治療への道筋が見えてきます。 痛みの原因は、大きく分けて3つのタイプに分類することができます。

  • 体の部品が壊れたサイン
    ケガや打撲、やけどなどで体の組織が傷つくと、痛みが発生します。 これは「ここに異常があるよ」と知らせる、体からの正直な警告サインです。 このタイプの痛みは、原因となった傷が治るにつれて自然と消えていきます。
  • 痛みを伝える神経の故障
    痛みの情報を脳に伝える「神経」そのものが傷ついてしまうこともあります。 例えば、帯状疱疹の後や、糖尿病の合併症などで神経がダメージを受けると起こります。 神経が故障すると、何もないのに「痛い」という誤った信号が脳に送られ続けます。
  • 心や環境が影響する痛み
    体に明らかな異常が見つからないのに、痛みが続くことがあります。 これは、脳の痛みを調整する仕組みがうまく働かなくなることが一因です。 強いストレスや不安は、脳を過敏にして痛みを増幅させてしまうのです。

特に長く続く痛みは、単なる体の問題だけでは説明できないことが多くあります。 患者さんご本人の心の状態や、ご家族など周囲の環境も複雑に関わります。 例えば、ご高齢の方の痛みを介護するご家族の不安が、ご本人の痛みの感じ方に影響を与えることもあるのです。 このように、痛みの原因は「体・心・社会環境」という視点で総合的に考えることが大切です。

疼痛(痛み)の症状

痛みは、単なる体の不調を知らせるサインだけではありません。 心や頭の働きにも、気づかないうちに影響をおよぼすことがあります。 長く続く痛みは、生活の質を大きく下げてしまう可能性があるのです。

痛みが心や頭の働きにおよぼす影響 痛みを抱えていると、脳のエネルギーが消耗してしまいます。 その結果、以下のような変化がみられることがあります。

  • 勉強や仕事に集中できなくなる
  • 物事を覚えにくくなったり、忘れっぽくなったりする
  • 考えがうまくまとまらなくなる
  • ささいなことで、いらいらしやすくなる
  • 気分が落ち込んだり、不安な気持ちになったりする

痛みの感じ方から原因を探る 痛みの感じ方や表現は、人によって実にさまざまです。 どのように痛むかを詳しくお医者さんに伝えることが、原因を探るための重要な手がかりになります。

痛みの種類

感じ方の例

チクチク、ズキズキ

ケガのような、痛む場所がはっきりした鋭い痛み

鈍い、重苦しい

お腹が痛いときのような、場所がぼんやりした痛み

ビリビリ、ジンジン

正座の後のようなしびれや、電気が走るような痛み

焼けるような

やけどのように、ヒリヒリと熱く感じる痛み

締め付けられる

ぎゅーっと圧迫されたり、つぶされたりするような痛み

これらに加え、普段は痛みを感じないような軽い刺激でさえ、強く痛む「アロディニア」という症状もあります。例えば、服が肌にふれるだけで、激しい痛みを感じてしまう状態です。

また、「のどの痛み」や「飲み込みにくさ」といった症状は、見過ごしてはいけない重要なサインです。かつては進行しないと見つかりにくかった病気が隠れている可能性もあり、早期発見のためには大切な手がかりとなります。気になる痛みがあれば、我慢せずに専門医へ相談しましょう。

疼痛(痛み)の検査・診断

痛みの原因を探るとき、一番大切なのは患者さん自身の「痛い」という感覚です。 ご本人がどう感じているかが、診断における最も信頼できる情報源となります。 お医者さんは、その大切な情報を基に、さまざまな方法で痛みの正体を探ります。

お話を聞かせてください(問診)

まず、痛みについて詳しくお話を聞くことから始まります。 うまく言葉にできなくても大丈夫です。 以下のような質問は、痛みの原因を突き止めるための重要な手がかりになります。

  • いつから痛いですか? 急に始まったのか、ずっと続いているのかを知るためです。
  • 体のどこが痛みますか? 痛む場所を指で示していただくと、より分かりやすいです。
  • どんなふうに痛みますか? 「ズキズキ」「ビリビリ」など、感じたままの言葉で教えてください。
  • どんな時に痛みが変わりますか? 動くと痛い、温めると楽になるなど、痛みが変化するきっかけを探ります。

痛みの強さを測る「ものさし」

痛みの感じ方は人それぞれ違うため、「ものさし」を使って評価することがあります。 これにより、お医者さんは痛みの強さを客観的に理解しやすくなります。

評価方法

説明

数字で評価

全く痛くない「0」と、想像できる最悪の痛みを「10」として、今の痛みがどの数字に近いか教えてもらいます。

VAS

「痛みなし」と「最悪の痛み」と書かれた線の上で、ご自身の痛みがどのあたりかを指で示してもらう方法です。

体の中を詳しく見る検査

お話を聞いたり体を調べたりすることに加え、必要に応じて詳しい検査を行います。 血液検査や、レントゲン、CT、MRIといった画像検査がこれにあたります。 かつては、痛みなどの症状がはっきりしてから検査をすることが多くありました。 しかし、近年のカメラや画像の技術の進歩はめざましく、痛みの原因をより早く、より正確に見つけられるようになってきています。

うまく話せない方の場合は、周りの方が気づく変化も重要なサインです。 例えば、顔をしかめる、食欲がない、いつもと行動が違うといった様子は、言葉にできない痛みを教えてくれているのかもしれません。

疼痛(痛み)の治療

痛みの治療は、一人ひとりに合わせた「オーダーメイド」が基本です。 原因や種類、強さに応じて、いくつかの方法を組み合わせて進めます。 つらい痛みを和らげるための、代表的な治療法をご紹介します。

お薬による治療(薬物療法)

痛みの治療で、まず基本となるのがお薬を使った治療です。 世界保健機関(WHO)も推奨する方法で、痛みの強さに合わせて、 お薬を段階的に使い分けるのが一般的です。

痛みの強さ

主に使われるお薬の例

軽い痛み

炎症や熱を抑えるお薬(非ステロイド性抗炎症薬)、熱を下げるお薬(アセトアミノフェン)

中くらいの痛み

弱いタイプの医療用麻薬(弱オピオイド)

強い痛み

強いタイプの医療用麻薬(強オピオイド)

このようにお薬を使い分け、患者さんの状態を丁寧に見ながら、 痛みをコントロールしていきます。

注射などの専門的な治療

飲み薬だけでは痛みが十分に和らがない場合に、専門的な治療を行います。 例えば、痛みの原因となっている神経の近くに直接お薬を届ける、 「神経ブロック注射」という方法があります。

また、新しい治療法も登場しています。 腰の痛みに対しては、オゾンというガスを注射する方法があります。 炎症を抑えるお薬(ステロイド)の注射と同じくらいの効果が、 期待できるという研究結果も報告されています。

帯状疱疹の後に残るつらい痛みには、特殊な電気治療と、 オゾンを組み合わせる方法もあります。 この治療によって痛みが和らぐだけでなく、 睡眠の質が改善したという報告もあり、注目されています。

体と心からのアプローチ

お薬や注射以外にも、痛みを軽くするための大切な方法があります。

  • 理学療法
    運動やストレッチなどで体の機能を回復させ、痛みを和らげます。
  • 心理的アプローチ
    痛みと上手に付き合っていく方法を学び、心への負担を軽くします。

痛みの治療法は一つではありません。 どの方法がご自身に合っているか、まずはお医者さんに相談しましょう。