溢流性尿失禁

トイレで力を入れても尿が出にくいのに、自分の意思とは関係なく下着が濡れている…。そんな「出ないのに漏れる」という、一見矛盾した症状に心当たりはありませんか。それは、膀胱から尿があふれ出している「溢流性(いつりゅうせい)尿失禁」のサインかもしれません。

「年のせい」と片付けてしまいがちですが、その背景には注意すべき原因が隠れていることがあります。男性特有の前立腺肥大症はもちろん、糖尿病や腰の病気、さらには重度の便秘や、感染から平均20年を経て発症する神経の病気が関係しているケースも。

この記事では、溢流性尿失禁がなぜ起こるのか、そのメカニズムと原因、そして放置するリスクについて詳しく解説します。ご自身の症状と照らし合わせ、正しい知識と対処法を知る第一歩にしてください。

溢流性尿失禁の概要

溢流性(いつりゅうせい)尿失禁とは、尿意を感じにくい状態です。 膀胱が尿でいっぱいになり、あふれて少しずつ漏れてしまうことを指します。

例えるなら、水を注ぎすぎたコップから水がこぼれるような状態です。 自分の意思とは関係なく、尿が漏れ続けるため生活に支障が出ます。

溢流性尿失禁が起こる背景には、尿を出したいのに出せない状態があります。 原因は主に以下の2つに分けられます。

  • 尿を押し出す力の低下
  • 膀胱の筋肉を動かす神経の障害などで、尿を押し出す力が弱くなります。
  • 尿の通り道の閉塞
  • 前立腺の肥大などで尿道が圧迫され、尿の通り道が狭くなります。

膀胱の筋肉を動かす神経が傷つく病気は、溢流性尿失禁の原因になります。 例えば、梅毒が進行して起こる脊髄癆(せきずいろう)という病気です。 この病気では脊髄の神経が傷つき、膀胱の機能が損なわれることがあります。

また、男性では前立腺が大きくなることで尿道を圧迫し、尿が出にくくなります。 そのため、溢流性尿失禁は女性には比較的少ないとされています。

溢流性尿失禁の種類

溢流性尿失禁は、尿をうまく出せなくなる原因によって、大きく2つの種類に分けられます。 どちらのタイプに当てはまるかで、その後の治療方針が大きく変わってきます。

1. 膀胱の機能が落ちるタイプ(機能性尿排出障害)

膀胱が尿を十分に押し出すための筋肉の力が、弱まってしまう状態です。 膀胱の収縮をコントロールしている神経のトラブルが背景にあることが多いです。 主な原因には、以下のような病気やけがが挙げられます。

  • 腰の病気やけが
  • 椎間板ヘルニアや、脊髄が圧迫される馬尾症候群などです。
  • 腰痛に伴って急に尿漏れが起きた場合は、早急な対応が必要なサインです。
  • 糖尿病による神経障害
  • 糖尿病の合併症として、全身の神経に障害が出ることがあります。
  • この影響が膀胱の神経に及ぶと、尿を押し出す力が弱まります。
  • 感染症による神経障害
  • 性感染症である梅毒が進行した「脊髄癆(せきずいろう)」も原因となり得ます。
  • 感染から平均20年という長い期間を経て発症するのが特徴です。
  • 膀胱の機能障害は、この病気の比較的早い段階で現れる症状の一つです。

2. 尿の通り道がふさがるタイプ(物理的尿路閉塞)

膀胱から体の外へと続く尿の通り道(尿道)が、物理的に狭くなる状態です。 尿が出口でせき止められることで膀胱が過剰に張り、結果として尿が漏れ出します。 主な原因には、以下のようなものがあります。

  • 前立腺肥大症(男性の場合)
  • 加齢に伴って前立腺が大きくなることで、その内側を通る尿道を圧迫します。
  • これにより、尿の通り道が狭くなってしまいます。
  • 重度の便秘(男女共通)
  • 硬い便が直腸に詰まる「糞便塞栓」という状態になると、近くにある膀胱や尿道を圧迫します。
  • 特に高齢者では、尿トラブルの原因が便秘であることを見過ごしがちなので注意が必要です。
  • 骨盤臓器脱(主に女性の場合)
  • 子宮などの骨盤内にある臓器が下がり、膀胱や尿道を圧迫することがあります。

溢流性尿失禁の原因

溢流性尿失禁が起こる原因は、大きく2つのパターンに分けられます。 1つは尿を押し出す膀胱の力が弱まること、もう1つは尿の通り道が狭くなることです。 これらがなぜ起こるのか、詳しく見ていきましょう。

1. 尿を押し出す力が弱まる場合

膀胱の筋肉がうまく収縮できず、尿を十分に押し出せなくなる状態です。 背景には、膀胱をコントロールしている神経のトラブルが隠れていることが多いです。

  • 神経の障害
  • 糖尿病、椎間板ヘルニア、脊髄のけがなどが原因で、
  • 膀胱に指令を出す神経が傷ついてしまうことがあります。
  • 感染症の影響
  • 性感染症の梅毒が進行して起こる「脊髄癆(せきずいろう)」も原因です。
  • 感染から平均20年という長い期間を経て発症するのが特徴で、
  • 比較的早い段階で膀胱の機能障害が現れることがあります。
  • 薬の副作用
  • 一部の精神疾患の薬やアレルギーの薬、痛み止めなどが、
  • 膀胱の筋肉の働きを弱めてしまうことがあります。

2. 尿の通り道がふさがる場合

尿の通り道である尿道が、物理的に狭くなることで尿が出にくくなる状態です。 出口が狭いため、膀胱に尿がたまりすぎてあふれてしまいます。

  • 男性に多い原因
  • 加齢に伴い前立腺が大きくなる「前立腺肥大症」です。
  • 前立腺の内側を通る尿道が圧迫され、道が狭くなります。
  • 女性にみられる原因
  • 子宮などが下がってくる「骨盤臓器脱」があります。
  • 下がった臓器が膀胱や尿道を圧迫してしまいます。
  • 男女共通の原因
  • 重度の便秘で硬い便がたまる「糞便塞栓(ふんべんそくせん)」です。
  • 特に高齢者では、尿トラブルの原因が便秘であることを見過ごしがちです。
  • 直腸に詰まった便が尿道を圧迫し、尿の通りを妨げます。

溢流性尿失禁の症状

溢流性尿失禁は、「尿が出にくい」ことと「尿が漏れる」こと。 この2つの症状が同時に起こるのが大きな特徴です。 膀胱が尿でいっぱいになり、伸びきってしまうことで尿意を感じにくくなります。 そして、ためきれなくなった尿が少しずつあふれ出てしまうのです。

ご自身やご家族に、次のようなサインがないか確認してみましょう。 「年のせい」と自己判断せず、客観的に見ることが大切です。

  • 持続的な尿漏れ 自分の意思とは関係なく、下着が常にじわじわと濡れている。 ちょろちょろと尿が漏れ続ける感覚がある。
  • 尿が出にくい(排尿困難) トイレで強くいきまないと、なかなか尿が出てこない。 尿の勢いがとても弱く、出し終わるまでに時間がかかる。
  • すっきりしない感じ(残尿感) 排尿した後も、まだ膀胱に尿が残っているような感じがする。 すっきりせず、すぐにまたトイレに行きたくなる。
  • トイレの回数が増える(頻尿) 日中だけでなく、夜中に何度もトイレに起きることがある。 就寝中に無意識に尿が漏れてしまうこともある。

これらの症状の背景には、注意すべき原因が隠れていることがあります。 例えば、高齢者では、ひどい便秘で硬い便がたまる「糞便塞栓」の状態が、 近くにある尿道を圧迫し、尿を出にくくさせることがあります。 認知症やパーキンソン病、また服用中の薬が便秘の原因となることも珍しくありません。

まれなケースですが、性感染症である梅毒が原因の神経障害(脊髄癆)も考えられます。 この病気は感染から平均20年という長い期間を経て発症するのが特徴で、 膀胱の機能障害は、比較的早い段階で現れる症状の一つとされています。 「尿が出にくいのに漏れる」というサインは、放置せずに専門医へご相談ください。

溢流性尿失禁の検査・診断

溢流性尿失禁の診断では、まず丁寧な問診から原因を探ります。 「尿が出にくいのに漏れる」というサインの裏には、様々な原因が考えられます。 そのため、医師は以下のような質問を通じて、原因を絞り込んでいきます。

  • 症状の始まり方 いつから始まりましたか?急に起こりましたか?
  • 尿意の有無 おしっこがしたい感覚はありますか?
  • 排尿の状態 尿の勢いが弱い、お腹に力を入れないと出ない、などの症状はありますか?
  • 治療中の病気 糖尿病や前立腺肥大症、腰の病気(椎間板ヘルニアなど)はありませんか?
  • 服用中の薬 お薬手帳など、今飲んでいる薬がわかるものがあればご持参ください。
  • 他の症状 腰痛や足のしびれ、便秘など、尿以外の症状はありますか?

特に、急に始まった尿のトラブルと腰痛が重なる場合は注意が必要です。 これは「馬尾症候群」など、背骨の中の神経が傷ついているサインかもしれません。 このような危険な状態(レッドフラッグ)を見逃さないために問診はとても重要です。

次に、お腹を触るなどの身体診察や、より詳しい検査を行います。 原因を正確に突き止めることで、一人ひとりに合った治療法が決まります。

検査の種類

どのような検査か?

残尿測定検査

排尿の直後に、超音波(エコー)という機械をお腹にあてます。膀胱の中に尿がどのくらい残っているかを調べる、痛みのない検査です。

尿検査

尿の中にばい菌がいないか(尿路感染症)、血が混じっていないかなどを確認します。

血液検査

腎臓の働きや、原因となりうる糖尿病がないかなどを調べます。まれですが、梅毒などの感染症が神経に影響していないかを確認することもあります。

画像検査

必要に応じて、エコーで腎臓や前立腺の状態を確認します。腰痛がある場合は、MRIで背骨や神経の状態を詳しく調べることもあります。

例えば梅毒という感染症は、感染から平均20年という長い期間を経て、 神経に影響を及ぼし、膀胱の機能障害を起こすことがあります。 血液検査は、このような隠れた原因を見つけるためにも役立ちます。

これらの問診や検査の結果を総合的に見て、診断を確定させます。 原因によって治療法は大きく異なるため、正確な診断が回復への第一歩となります。

溢流性尿失禁の治療

溢流性尿失禁の治療は、その原因を正確に突き止めることから始まります。 なぜなら、原因によって治療法がまったく異なるからです。 自己判断で対処するのではなく、まずは専門の医療機関を受診してください。 治療は主に、原因が「尿の通り道の閉塞」か「膀胱の力の低下」かで分かれます。

原因のタイプ

主な治療法

尿の通り道がふさがる場合

原因となっている病気の治療が最優先です。<br> ・薬物療法:前立腺肥大症が原因なら、薬で尿道を広げたり、前立腺を小さくしたりします。<br> ・手術:薬で効果が不十分な場合や、物理的な詰まりを取り除く必要がある場合に行います。

尿を押し出す力が弱い場合

膀胱に残った尿を出し切ることが目標です。<br> ・間欠的自己導尿:清潔な細い管を使い、自分で尿を出す方法です。膀胱が伸びきるのを防ぎ、腎臓を守ります。<br> ・排尿の工夫:排尿後に少し時間をおき、もう一度いきむ「二段排尿」などを試します。

治療の大きな目的は、膀胱に尿がたまりすぎる状態を防ぐことです。 この状態を放置すると、腎臓の機能が悪化したり、尿路感染症を繰り返したりします。 特に、膀胱の力が弱い場合は「間欠的自己導尿」が基本の治療となります。 これは、患者さん自身が清潔な管(カテーテル)を使い、定期的に尿を出す方法です。

この方法は、膀胱の機能を守り、将来的な合併症を防ぐために非常に重要です。 慣れるまでは少し難しく感じるかもしれませんが、専門のスタッフが丁寧に指導します。 長期的な治療では、身体的なケアとあわせて、心理的なサポートも大切です。 治療への不安や生活上の困りごとについて、遠慮なく医師に相談してください。