新生児壊死性腸炎
生まれてきたばかりの小さな命。特に予定日よりも早く、体重1,500g未満で生まれた赤ちゃんのご家族は、日々のわずかな変化にも心を配られていることでしょう。その中で特に注意が必要な病気の一つが、腸の組織が傷んでしまう「新生児壊死性腸炎」です。
NICUで治療を受ける赤ちゃんの約1〜8%にみられるこの病気は、最近、ウイルス感染があると発症リスクが約3.8倍にも高まることが信頼性の高い研究で報告されました。
この記事では、赤ちゃんの命を守るためにご家族が知っておくべき「お腹の張り」や「血便」といった危険なサインから、最新の治療法までを詳しく解説します。正しい知識が、早期発見と適切な治療につながります。
新生児壊死性腸炎の概要
新生児壊死性腸炎は、赤ちゃんの腸に炎症が起き、組織が傷んでしまう(壊死する)ことがある病気です。特に、予定日よりも早く、体が小さく生まれてきた赤ちゃんで、まだ腸が未熟な場合に起こりやすいことが知られています。
新生児集中治療室(NICU)で治療を受ける赤ちゃんの約1〜8%にみられ、その多くは出生時の体重が1,500g未満の赤ちゃんです。この病気は、腸の壁が未熟なことや、腸への血液の流れが悪くなることなどが関係していると考えられています。
それに加え、最近ではウイルス感染も発症の危険性を高めることがわかってきました。複数の研究をまとめて分析したメタアナリシスという信頼性の高い研究では、ウイルス感染がある場合、新生児壊死性腸炎を発症するリスクが約3.8倍に高まると報告されています。
新生児壊死性腸炎のリスクを高める可能性のあるウイルス
- ロタウイルス
- サイトメガロウイルス
- ノロウイルス
- アストロウイルス
治療は、多くの場合お薬などで行いますが、病状が進んで腸に穴が開いてしまった場合などには手術が必要になることもあります。どのような場合に手術が必要になるかの判断は、炎症の度合いを示す血液検査の数値や、敗血症という重い感染症を合併した場合など、いくつかの危険因子をもとに行われます。
新生児壊死性腸炎の種類
新生児壊死性腸炎は、病気の進み具合によって大きく3つの段階(ステージ)に分けられます。
このステージ分類は、赤ちゃんの状態を正確に知るための大切な「ものさし」です。 医師はこれをもとに、今どんな治療が必要かを判断します。
ステージⅠ(疑いの時期)
病気のはじまりの段階で、「いつもと少し違うな?」というサインが見られます。 症状がはっきりしないため、注意深い観察が必要です。
- ミルクの飲みが悪い いつもより飲む量が減ったり、時間がかかったりします。
- 胃の中にミルクが残る 消化がうまくいかず、次のミルクの時間になっても胃に残っています。
- お腹が張る 腸の動きが悪くなり、ガスがたまってお腹が膨らみます。
- 元気がない、体温が安定しない ぐったりしていたり、体温が上がったり下がったりします。
- 便にわずかに血が混じる(便潜血) 目で見ただけではわかりませんが、検査をすると便に血が混じっています。
ステージⅡ(確実な時期)
病気が進み、新生児壊死性腸炎であることがはっきりしてくる段階です。 ステージⅠの症状に加えて、次のようなサインがあらわれます。
- 目で見てわかる血便が出る おむつに赤い血が付着しているのがわかります。
- お腹の張りがさらに強くなる お腹がさらにパンパンになり、触ると硬く感じることがあります。
- レントゲン検査での異常 腸の壁の中にガスが見つかることがあります。 これは腸の組織が傷んでいることを示す重要なサインです。
ステージⅢ(重症になった時期)
病気がさらに悪化し、命に関わることもある危険な段階です。 腸の組織が死んでしまう「壊死」が進み、腸に穴が開く「腸穿孔(ちょうせんこう)」を起こす危険があります。
- ショック状態になる 血圧が下がり、ぐったりして体の反応がとても鈍くなります。
- 腹膜炎(ふくまくえん)を起こす 腸に穴が開くと、お腹の中に便が漏れ出てしまい、 お腹全体にひどい感染症が広がります。
- 呼吸の状態が悪くなる お腹の張りが強くなることで肺が圧迫されたり、 全身の状態が悪化したりして、呼吸が苦しくなります。
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ステージ |
主な状態 |
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Ⅰ期(疑い) |
症状がはっきりせず、病気が疑われる初期段階です。 |
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Ⅱ期(確実) |
血便など特徴的な症状があらわれ、診断が確実になる段階です。 |
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Ⅲ期(重症) |
全身の状態が悪化し、緊急の治療が必要になる危険な段階です。 |
このようにステージによって赤ちゃんの状態は大きく異なります。 そのため、わずかな変化も見逃さず、早い段階で適切な治療を始めることが非常に重要です。
新生児壊死性腸炎の原因
新生児壊死性腸炎のはっきりとした原因は、まだ全てがわかっていません。 一つの原因だけで起こるのではなく、いくつかの要因が複雑に絡み合って発症すると考えられています。
特に、赤ちゃんの腸がまだ十分に発達していない「未熟性」が、病気の最も大きな土台にあると考えられています。 その上で、以下のような危険因子(リスク因子)が重なると、発症しやすくなります。
- 赤ちゃんの体の状態
- 早産や低出生体重(特に1,500g未満)であることや、生まれつき心臓に病気がある場合などです。
- 出産時のトラブル
- 生まれる前後にお腹の中で苦しくなり(仮死)、腸への血液の流れが一時的に悪くなった場合です。
- 腸内環境の要因
- 母乳に比べて人工ミルクでの栄養や、腸内細菌のバランスが乱れることなどが挙げられます。
そして最近、ウイルス感染も発症の危険性を高める重要な要因であることがわかってきました。 複数の研究結果を科学的に分析した「メタアナリシス」という信頼性の高い報告があります。 その報告によると、ウイルスに感染した赤ちゃんは、そうでない赤ちゃんと比べて新生児壊死性腸炎になる危険性が約3.8倍も高まることが示されています。
これらの要因が重なることで、赤ちゃんの未熟な腸の壁がダメージを受けやすくなり、新生児壊死性腸炎が引き起こされると考えられています。
新生児壊死性腸炎の症状
赤ちゃんは「お腹が痛い」などと自分で伝えることができません。 そのため、周りの大人が「いつもと違う」という小さなサインに気づいてあげることが、病気の早期発見に繋がります。
新生児壊死性腸炎の症状は、まずお腹の不調としてあらわれ、病気が進むと全身の状態に影響が広がっていきます。
お腹にあらわれるサイン
特に注意して見ていただきたいのは、お腹のサインです。 腸の炎症や動きの悪化が原因で、次のような変化がみられます。
- お腹がパンパンに張る 腸の動きが悪くなり、消化しきれないミルクやガスがたまることで起こります。
- ミルクの飲みが悪くなる・吐いてしまう 胃の中に飲んだミルクが残ったり、吐き戻したりします。 緑色や黄色の液体(胆汁)を吐く場合は、腸の動きが止まっている可能性があり、特に注意が必要です。
- 血が混じった便が出る おむつに赤い血が付いているのが目で見てわかります。 これは腸の壁が傷ついていることを示す、とても大切なサインです。
全身にあらわれるサイン
病気が進行すると、お腹だけでなく全身にサインがあらわれます。 これらは、腸で起きた炎症が体全体に影響を及ぼしている危険なサインです。
- 元気がない、ぐったりしている
- 体温が上がったり下がったりと、不安定になる
- 呼吸が浅くなったり、一時的に止まったりする(無呼吸発作)
もし、赤ちゃんに次のような様子が見られたら、すぐに医師や看護師に伝えてください。 一つだけでなく、いくつかのサインが同時に見られることもあります。
【危険なサインのチェックリスト】
- お腹がいつもよりパンパンに張っている
- ミルクを欲しがらない、飲んでも吐いてしまう
- おむつに血液が混じった便が出ている
- 顔色が悪く、ぐったりして元気がない
- 呼吸の様子がおかしい(浅い、止まる)
赤ちゃんの状態は急に変わることもあります。 ささいなことでも「おかしいな」と感じたら、ためらわずに相談することが、赤ちゃんの命を守るために非常に重要です。
新生児壊死性腸炎の検査・診断
新生児壊死性腸炎の診断は、赤ちゃんの症状の観察に加えて、いくつかの検査結果を総合的にみて慎重に行われます。
中心となるのは、お腹の中の状態を画像で確認する検査と、体全体の健康状態を調べる血液検査です。
画像検査
お腹の中の状態を詳しく調べるために、X線(レントゲン)検査や超音波(エコー)検査を行います。
- 腹部X線(レントゲン)検査 診断の基本となる最も重要な検査です。 病気の進行度によって、写真に写る様子が変わります。
- 初期: 腸の動きが悪くなり、ガスがたまって膨らんでいる様子がみられます。
- 進行期: 腸の壁の中にガスが入り込む「腸管壁内気腫像」という、 この病気に特徴的なサインが見えることがあります。
- 重症期: 腸に穴が開くと、お腹の中に漏れ出たガスが写ります。 これは緊急手術が必要になる可能性を示す、非常に危険なサインです。
- 腹部超音波(エコー)検査 X線検査を補う目的で行われることがあります。 腸の壁の厚さや血液の流れ、ガスの状態などをより詳しく観察できます。
血液検査
画像検査とあわせて血液検査を行い、炎症の強さや全身の状態を把握します。
- 炎症反応の確認 CRPという数値で、体の中でどのくらいの炎症が起きているかを確認します。 研究報告によると、このCRPの数値が高い場合は、 手術が必要になる可能性が高まることがわかっています。
- 血液の成分の確認 病気が進行すると、血を固める働きのある血小板の数が減ることがあります。
- 体のバランスの確認 体が酸性に傾いていないか(代謝性アシドーシス)などを調べ、 全身の状態が悪化していないかを確認します。
私たちはこれらの検査結果をパズルのピースのように組み合わせ、病気の重さを見きわめて、赤ちゃんにとって最適な治療法を決定していきます。
新生igo壊死性腸炎の治療
新生児壊死性腸炎の治療は、まず腸を休ませて回復を促すことが基本です。 多くの場合、手術をしない「内科的治療」を行いますが、病状によっては「外科的治療」が必要になります。
内科的治療(お薬や点滴での治療)
ほとんどの赤ちゃん(約75%以上)は、この内科的治療で回復を目指します。 炎症を起こした腸への負担をできるだけなくすことが目的です。
- 腸の安静 ミルクや母乳を一時的にお休みして、腸を完全に休ませます。
- 点滴での栄養補給 口から栄養がとれない間は、点滴で水分や栄養を補います。
- お腹の張りを和らげる 鼻から細いチューブを胃に入れ、たまったガスや液体を外に出します。
- 抗菌薬(抗生物質)の投与 腸の壁から細菌が体の中に入るのを防ぎ、感染を抑えます。
外科的治療(手術による治療)
内科的治療で改善しない場合や、腸に穴が開いてしまった(腸穿孔)場合には手術が必要です。 手術では、傷んでしまった腸の部分を取り除き、元気な腸をつなぎ合わせます。
どのような場合に手術が必要になるかの判断は、非常に慎重に行われます。 信頼性の高い複数の研究を分析した報告では、手術が必要になる危険なサインとして、以下の点が挙げられています。
- 炎症が強い(血液検査のCRPという数値が高い)
- 敗血症(血液の中に細菌が入り全身に感染が広がる)
- 血液が固まりにくい状態になっている
- 予定日よりかなり早く生まれている
- 腸からの栄養吸収ができていない
- 血液中のナトリウムの値が低い
私たちはこれらの客観的なデータと赤ちゃんの全身の状態をあわせ、豊富な経験をもとに、赤ちゃんにとって最適な手術のタイミングを慎重に見極めています。










